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緊張からなのか、それともいろいろなことを考えすぎたからなのかは解らないが、なんだか頭が痛くなってきた。普段はここまで頭を働かせることはないからなあ。久しぶりにフル回転させた反動がここにきて来たようだ。
腕の中でなんとか身動ぐと力を緩めてくれたので、片手で額を押さえて小さな息を吐く。原因を取り除くのは極めて難しいよなあ、これは。どうしたものか。うんうん唸ると、首筋から冷たい感触がしてきた。「ん、っ……、冷たっ!」と気がついて、すぐに手を払ったのは反射的にである。あと、躯が跳ねたのも。驚いたんだからな、こっちは!
「いきなりなにするんだよ!」
「抱きしめている間にも思いましたが、少し熱いようですよ?」
「あー、そうなのか? まあ、ちょっと頭が痛いけど……」
いまの自分では、熱があるのか平温なのかが解らないから首を傾げる他ない。お前の体温が低いからそう感じるのではないのかとか、悩ます誰かさんの所為でとかは口には出さなかったが、よい選択だったであろう。言ったら収拾がつかなくなりそうだし。なんと言ってもしつこいんだよ、この男は。引き剥がすように腕を突き出すが、離れる気配はまるで無いんだからな。一ミリもない。コイツは本当に人を困らせるのが巧いようだ。腹立つぅ! なんでそんなに人の嫌がることをしてくるの?
「やっぱりお兄熱あるんだよ!」
「っひゃっ!?」
ギリギリ奥歯を噛みしめていると、なぜだか背後からも勢いよく抱きつかれてしまいましてね、思わず変な声が漏れたわ。里真は「お兄かわいい~!」となぜかテンションが高くなっているようだが、なんでだよ。どこにテンションが高くなる要素があったよ? あと、かわいくない。オレはかわいくない。かっこよくもないけど、かわいいは違う。絶対に違う。
オレ自身は病気で亡くなった母さん譲りの女顔――言い換えれば童顔が凄まじくコンプレックスを刺激してくるのだが、それ以外は凡人そのものなのだ。秀でたものは無く、妹のように明るく元気でもない。といっても、根暗ではないけどな。ちょっとかっこいい奴が気に入らないだけだから。モテている奴に歯軋りするだけ。だけどそんなのは誰だって持つ感情だろう。オレだけ特別ではない。
かわいくないからと冷たく返すと、里真からは「冷たい! お兄は冷たい!」と機嫌を損ねる声がする。というか、泣き真似だなこれは。えーんえーんと嘘が丸わかりの様子で泣いているはずだ。後ろにいるから正確な姿形は解らないが。正面のなつめはやり取りをただ見ているだけたったのだが、にこにこしていた。恐ろしいぐらいににこにこしている。なんなの、怖すぎるんですが。
「そういうところがかわいいんですよね、セトさんは」
「蒸し返さないでくれますかね!?」
なんで蒸し返したよ、お前ぇ! だからかわいくないと言ってるんだよ、オレは! その言葉は聞きたくないってな! 解らないのかその耳は! イヤーカフで故障したのか!?
湧いた怒りに任せてぐいぐい両耳を引っ張るが、くそアイドルは「はは。痛いですよ、セトさん」と棒読みで言ってのけた。棒読みで! 痛がりもしないのが気に入らない。なんだよコイツ、笑顔で言いやがって!
「気が済んだのなら――、今度は私の番ですよね?」
細長く美しい指ががっしりと両手首を掴んだ瞬間に血の気が引いたのが解る。にっこりと笑んだ顔は――妖しい色しか見えなかった。やばい、逃げないとと考えたのはすぐだが、そのまま腕を引かれてパイプベッドへと押しつけられてしまう。高い音を上げたベッドは、それでもふたり分の体重をどうにか受け止めてくれたようだ。
「おとなしく寝ていてください。倒れられでもしたら、どうしていいのか解らないので」
「なんだって?」
ならお前、なんで組み敷いているんだという話だろう。暴れようとするのだが、長い手足に阻まれて巧くいかない。くそっと忌々しげに吐き出した声に返るのは、「暴れると熱が上がりますよ?」と諭すような言葉だった。お前に言われなくとも解っているし、疲れるしかないかと諦めて躯の力を抜くと、額同士が合わさる。いきなり。なんの前触れもなく。
「――へ?」
「上書きですよ」
「は?」
「セトさんに触れていいのは私だけですから」
「え、許容範囲狭くないですか?」
彼女ではなく、妹なんですが? え、なに、家族もダメなの? まあ、突き詰めると義理だからアウト判定ですか?
「セトさんの家族であっても、気に入らないものは気に入らないので」
「あ、はい」
ここで逆らってもいいことはないのだと、されるがままになったのだが、いい匂いの正体はなんなんだろうなあと頭の片隅で考えていた。香水だろうな、これは。甘いような甘くないような、なんだか不思議な香りがするんだよな。あ、されるがままといっても、頬擦りされただけですから、変な勘違いはしないでくださいね?
妹の前であれやこれやそれらをされてしまえば、オレも妹も心が死ぬしかないので。本人はくそアイドルではあるが、さすがにそこまではしないらしい。そこだけは褒めてやろう。そこだけは。
腕の中でなんとか身動ぐと力を緩めてくれたので、片手で額を押さえて小さな息を吐く。原因を取り除くのは極めて難しいよなあ、これは。どうしたものか。うんうん唸ると、首筋から冷たい感触がしてきた。「ん、っ……、冷たっ!」と気がついて、すぐに手を払ったのは反射的にである。あと、躯が跳ねたのも。驚いたんだからな、こっちは!
「いきなりなにするんだよ!」
「抱きしめている間にも思いましたが、少し熱いようですよ?」
「あー、そうなのか? まあ、ちょっと頭が痛いけど……」
いまの自分では、熱があるのか平温なのかが解らないから首を傾げる他ない。お前の体温が低いからそう感じるのではないのかとか、悩ます誰かさんの所為でとかは口には出さなかったが、よい選択だったであろう。言ったら収拾がつかなくなりそうだし。なんと言ってもしつこいんだよ、この男は。引き剥がすように腕を突き出すが、離れる気配はまるで無いんだからな。一ミリもない。コイツは本当に人を困らせるのが巧いようだ。腹立つぅ! なんでそんなに人の嫌がることをしてくるの?
「やっぱりお兄熱あるんだよ!」
「っひゃっ!?」
ギリギリ奥歯を噛みしめていると、なぜだか背後からも勢いよく抱きつかれてしまいましてね、思わず変な声が漏れたわ。里真は「お兄かわいい~!」となぜかテンションが高くなっているようだが、なんでだよ。どこにテンションが高くなる要素があったよ? あと、かわいくない。オレはかわいくない。かっこよくもないけど、かわいいは違う。絶対に違う。
オレ自身は病気で亡くなった母さん譲りの女顔――言い換えれば童顔が凄まじくコンプレックスを刺激してくるのだが、それ以外は凡人そのものなのだ。秀でたものは無く、妹のように明るく元気でもない。といっても、根暗ではないけどな。ちょっとかっこいい奴が気に入らないだけだから。モテている奴に歯軋りするだけ。だけどそんなのは誰だって持つ感情だろう。オレだけ特別ではない。
かわいくないからと冷たく返すと、里真からは「冷たい! お兄は冷たい!」と機嫌を損ねる声がする。というか、泣き真似だなこれは。えーんえーんと嘘が丸わかりの様子で泣いているはずだ。後ろにいるから正確な姿形は解らないが。正面のなつめはやり取りをただ見ているだけたったのだが、にこにこしていた。恐ろしいぐらいににこにこしている。なんなの、怖すぎるんですが。
「そういうところがかわいいんですよね、セトさんは」
「蒸し返さないでくれますかね!?」
なんで蒸し返したよ、お前ぇ! だからかわいくないと言ってるんだよ、オレは! その言葉は聞きたくないってな! 解らないのかその耳は! イヤーカフで故障したのか!?
湧いた怒りに任せてぐいぐい両耳を引っ張るが、くそアイドルは「はは。痛いですよ、セトさん」と棒読みで言ってのけた。棒読みで! 痛がりもしないのが気に入らない。なんだよコイツ、笑顔で言いやがって!
「気が済んだのなら――、今度は私の番ですよね?」
細長く美しい指ががっしりと両手首を掴んだ瞬間に血の気が引いたのが解る。にっこりと笑んだ顔は――妖しい色しか見えなかった。やばい、逃げないとと考えたのはすぐだが、そのまま腕を引かれてパイプベッドへと押しつけられてしまう。高い音を上げたベッドは、それでもふたり分の体重をどうにか受け止めてくれたようだ。
「おとなしく寝ていてください。倒れられでもしたら、どうしていいのか解らないので」
「なんだって?」
ならお前、なんで組み敷いているんだという話だろう。暴れようとするのだが、長い手足に阻まれて巧くいかない。くそっと忌々しげに吐き出した声に返るのは、「暴れると熱が上がりますよ?」と諭すような言葉だった。お前に言われなくとも解っているし、疲れるしかないかと諦めて躯の力を抜くと、額同士が合わさる。いきなり。なんの前触れもなく。
「――へ?」
「上書きですよ」
「は?」
「セトさんに触れていいのは私だけですから」
「え、許容範囲狭くないですか?」
彼女ではなく、妹なんですが? え、なに、家族もダメなの? まあ、突き詰めると義理だからアウト判定ですか?
「セトさんの家族であっても、気に入らないものは気に入らないので」
「あ、はい」
ここで逆らってもいいことはないのだと、されるがままになったのだが、いい匂いの正体はなんなんだろうなあと頭の片隅で考えていた。香水だろうな、これは。甘いような甘くないような、なんだか不思議な香りがするんだよな。あ、されるがままといっても、頬擦りされただけですから、変な勘違いはしないでくださいね?
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