9 / 18
008
しおりを挟む
頬擦りをされること何分だろうか。時間は謎だが、大変上機嫌な笑みを浮かべながら離れていったのは理解出来た。いまや幸せそうな雰囲気がもの凄いです。キラキラしてやがるよ、キラキラと。ちらちら覗う里真でさえも、なんだかにやにやしている。いや、よく見るとにやにやではなく、によによしているぞ。あー、イケメン成分を手に入れたというわけか。顔はいいしな、なつめは。なにやらオレだけがいたたまれないというわけらしい。
テキパキと本当に寝かす準備を整えるなつめに従ったまま布団に入り直すと、ぽふぽふと前髪ごと軽くオレの額を叩きながら「おやすみなさい」とひとことだけつけ加えてきた。数秒の間、優しげなその声が鼓膜を支配する。優しすぎだろと内心慌てたのはそれだけではなく、額にキスされるかと思ったからだ。そうではなかったわけたが。……いや、なにも全然期待してないけど。逆に変なことをされなくてよかったと思うよ、心から。そう、心からな。
「妹に変なことをしたら怒るぞ」
「私は一途なので、そういう問題は起きません」
「嘘つけ」
そういうことを言うようなモテる奴はな、だいたいそういう問題を起こしてるんだよ。モテるから。モテてしかたがないから! いくら自衛したってな、相手が来てしまうからなあ! 羨ましいことで!
だからな、くそアイドルなつめよ、妹に変なことをしてみろ。絶対に許さんからな!
妹を守る思いを確固たるものにすると同時に、襲う眠気に瞼が下がりつつある。最後の抵抗だとして、いいかお前、マジで妹に手を出すなよ? と視線で訴えると、なつめは苦笑した。「信用がありませんね」と肩を竦めながら。そうであってもかっこいいのはアイドルだからか。顔がよい奴はなにをしていても様になるから嫌だよ。自分では一生なれないのだと突きつけられるだけなのだから。
――持って生まれたものだとは解っていても、嫉妬の炎は消えやしない。何度も何度も何度も悔しい思いをしたから。好きな子が違う人間を好きだと解った時のあの悔しさや悲しさや虚しさは、体験してみたいと解りっこないだろう。
◆ ◆ ◆
「ぁ……」
掠れた声を出すと、手のひらが額に触れる。冷たさが気持ちよく、もっとと味わうように擦り寄せるようにすると、「かわいいです」と聞こえてきた。くすくす笑いも一緒に。――あ、笑ってるんだと考えたところで、微睡みから覚醒する。が、オレはいまなにをした!? と固まるのもすぐだった。思考も躯も同時に。
なに甘えてるんだよ、オレ。相手は変態吸血鬼でくそアイドルだぞ!? 危険極まりない男なんだぞ!? 甘える相手は選ばないとさあ! 落ち着け落ち着け。ひーふー息を吸ったり吐いたりしている中で「なにをし始めたのかは解りかねますが、熱は下がったようですね。よかったです」と安堵したような声も届く。
そうやって優しくするのはやめろ! そう叫びたいのに、声は出せずじまいだ。正確にいえば、「……っ」と言い淀むだけになる。起き抜けすぐだからか、喉が渇いているようだ。そんなオレを見かねたのかなんなのか、なつめは手を離して「飲み物持ってきますね」と背中を見せた。
なにもかもがスマートすぎるだろ。やっぱり看病に慣れているな、コイツは。きっとオレ以外にも優しく看病しては惚れさせてきたんだろう。解るんだぞ、オレには。人誑しはオレの方ではなく、なつめの方だろうが。性格は悪いけど、それを帳消しに出来るぐらいにはアイドルだし俳優だし、かっこいい。なんなら甘やかしてくれるしな。見逃すにはもったいない人物だと言えよう。吸血鬼を除いて。セクハラ三昧なところがマイナスに振り切っていたりするが、そこだってプラスにする人がいるかも解らない。
オレにも過度すぎるセクハラをしてくるんだから、女の子だったらどんなことをされることか。なつめのことだから、出会って数秒でホテルに直行かもしれない。そこを考えてしまうと、女の子に近づかせるわけにはいかないだろう。なによりなつめは、ストレス発散で挿入以外はしてくる人間だし。
部屋に差し込む赤い光とスマホで見た時間でいまが夕方だと理解したが、結構寝ていたみたいだ。まあ、少々寝不足気味だったしな。どうにも寝かせてくれない奴がいるし。すぐ側に。
どうぞと差し出されたコップの中身を一気に煽ると、決意を新たに決めた。コイツに女の子を近づけさせてはいけないと。見た目的にモテなくなるわけではないだろうが、少しでも被害を減らさなければ!
「オレは決めたぞ」
「なにをですか?」
「お前を女の子に近づけさせないから」
「そうですか。頑張ってほしいですね」
なつめはオレの言葉ににこりと笑みを溢したのだが、棒読み感が凄いのが腹立つわ。さっきからなんなんだよお前、棒読みが巧すぎるだろ! あと絶対に信じてないよな!?
いまからオレは危険な吸血鬼から女の子を守る英雄になるんだよ! なってやりますよ!
そう気合を入れ直したオレはといえば、くそアイドルに頭を撫で回されていた。なんだか敗北感が凄まじいからやめてくださいますか!?
テキパキと本当に寝かす準備を整えるなつめに従ったまま布団に入り直すと、ぽふぽふと前髪ごと軽くオレの額を叩きながら「おやすみなさい」とひとことだけつけ加えてきた。数秒の間、優しげなその声が鼓膜を支配する。優しすぎだろと内心慌てたのはそれだけではなく、額にキスされるかと思ったからだ。そうではなかったわけたが。……いや、なにも全然期待してないけど。逆に変なことをされなくてよかったと思うよ、心から。そう、心からな。
「妹に変なことをしたら怒るぞ」
「私は一途なので、そういう問題は起きません」
「嘘つけ」
そういうことを言うようなモテる奴はな、だいたいそういう問題を起こしてるんだよ。モテるから。モテてしかたがないから! いくら自衛したってな、相手が来てしまうからなあ! 羨ましいことで!
だからな、くそアイドルなつめよ、妹に変なことをしてみろ。絶対に許さんからな!
妹を守る思いを確固たるものにすると同時に、襲う眠気に瞼が下がりつつある。最後の抵抗だとして、いいかお前、マジで妹に手を出すなよ? と視線で訴えると、なつめは苦笑した。「信用がありませんね」と肩を竦めながら。そうであってもかっこいいのはアイドルだからか。顔がよい奴はなにをしていても様になるから嫌だよ。自分では一生なれないのだと突きつけられるだけなのだから。
――持って生まれたものだとは解っていても、嫉妬の炎は消えやしない。何度も何度も何度も悔しい思いをしたから。好きな子が違う人間を好きだと解った時のあの悔しさや悲しさや虚しさは、体験してみたいと解りっこないだろう。
◆ ◆ ◆
「ぁ……」
掠れた声を出すと、手のひらが額に触れる。冷たさが気持ちよく、もっとと味わうように擦り寄せるようにすると、「かわいいです」と聞こえてきた。くすくす笑いも一緒に。――あ、笑ってるんだと考えたところで、微睡みから覚醒する。が、オレはいまなにをした!? と固まるのもすぐだった。思考も躯も同時に。
なに甘えてるんだよ、オレ。相手は変態吸血鬼でくそアイドルだぞ!? 危険極まりない男なんだぞ!? 甘える相手は選ばないとさあ! 落ち着け落ち着け。ひーふー息を吸ったり吐いたりしている中で「なにをし始めたのかは解りかねますが、熱は下がったようですね。よかったです」と安堵したような声も届く。
そうやって優しくするのはやめろ! そう叫びたいのに、声は出せずじまいだ。正確にいえば、「……っ」と言い淀むだけになる。起き抜けすぐだからか、喉が渇いているようだ。そんなオレを見かねたのかなんなのか、なつめは手を離して「飲み物持ってきますね」と背中を見せた。
なにもかもがスマートすぎるだろ。やっぱり看病に慣れているな、コイツは。きっとオレ以外にも優しく看病しては惚れさせてきたんだろう。解るんだぞ、オレには。人誑しはオレの方ではなく、なつめの方だろうが。性格は悪いけど、それを帳消しに出来るぐらいにはアイドルだし俳優だし、かっこいい。なんなら甘やかしてくれるしな。見逃すにはもったいない人物だと言えよう。吸血鬼を除いて。セクハラ三昧なところがマイナスに振り切っていたりするが、そこだってプラスにする人がいるかも解らない。
オレにも過度すぎるセクハラをしてくるんだから、女の子だったらどんなことをされることか。なつめのことだから、出会って数秒でホテルに直行かもしれない。そこを考えてしまうと、女の子に近づかせるわけにはいかないだろう。なによりなつめは、ストレス発散で挿入以外はしてくる人間だし。
部屋に差し込む赤い光とスマホで見た時間でいまが夕方だと理解したが、結構寝ていたみたいだ。まあ、少々寝不足気味だったしな。どうにも寝かせてくれない奴がいるし。すぐ側に。
どうぞと差し出されたコップの中身を一気に煽ると、決意を新たに決めた。コイツに女の子を近づけさせてはいけないと。見た目的にモテなくなるわけではないだろうが、少しでも被害を減らさなければ!
「オレは決めたぞ」
「なにをですか?」
「お前を女の子に近づけさせないから」
「そうですか。頑張ってほしいですね」
なつめはオレの言葉ににこりと笑みを溢したのだが、棒読み感が凄いのが腹立つわ。さっきからなんなんだよお前、棒読みが巧すぎるだろ! あと絶対に信じてないよな!?
いまからオレは危険な吸血鬼から女の子を守る英雄になるんだよ! なってやりますよ!
そう気合を入れ直したオレはといえば、くそアイドルに頭を撫で回されていた。なんだか敗北感が凄まじいからやめてくださいますか!?
2
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる