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落ち着いたところで、疑惑を解決するべきだと行動に移す。こういうのは早ければ早い方がいいだろうとして。まずは丸テーブルを挟んで向かい合うこと五秒前ぐらいだ。わけが解らないといった顔をしている美形に右手を差し出すと、なぜか唇を寄せられた。がっちりと手首を固定されて。
「変なことをしてくるんじゃない!」
「そうなんですか? セトさんが手を差し出してきたので、キスをしてほしいのかと思いました」
なにしてくれるんだ! ふぎゃあー! と慌てて引き剥がすと、とんでもない言葉が返ってくる。コイツはいつもそんなことを思っていたのか! と新たな事実に思考が停止しかけるがしかし、ここで止まってはいけない。反撃しなければ調子に乗るであろうから。危険は排除だ、排除。
「なんでそうなるんだ!」
「いつも誘ってくるので」
覚えはない! と叫ぶと、くそアイドルは目を瞬かせる。「無自覚とは恐ろしいですねえ」と感嘆とした声も聞こえてきたのだが、え、なんなの。いままでオレが本気で煽っていたと思ってたの? 眼科に行けよ、眼科に。――いや違う、言いたいことはそれではなくてですね。
これ以上くそアイドルのペースに乗れば、言いたいことは言えないままだ。目の前の男はそれを狙ってやっているのかも解らないが、オレはもう乗らないからな。緩く頭を振ると、くそアイドルを見つめ直して言わなければならないことを吐き出した。もう一度右手を出しながら。ずいずいオラオラと。
「合鍵だよ! 合鍵返せ! いますぐ早く迅速に返せ!」
「なにを言っているのか解りませんね。合鍵ではなく特技ですから」
「犯罪! それ犯罪だからな!?」
「セトさんを見守る必要がありますし、ね」
さらりと言うのだが、いったいなにから守る必要があるというのか。一応、お前の変態行動に対しての自衛はしているからな。抵抗という名の自衛は。全然役に立ってないけども。
「面倒だけどチェーンもかけておくか」
「無駄ですけど?」
小さな声に返された言葉と笑みが怖い。なんなんだよ、本当に。地獄耳やめろ。
「怖いことを言うんじゃねえよ、くそアイドルが!」
「褒め言葉をありがとうございます」
「どこも褒めてないから!」
即座につっこむと、くそアイドルなつめは身を乗り出して唇を塞いでくる。どういうことからそういう気持ちになったんだよ、お前は。
「かわいいです」
上機嫌な声を聞きつつも、オレはようやく気がついた。コイツにはなにを言っても意味がないのだと。なんだその柔らかな笑みは! あとやっぱり、身長差が悔しいです。
八つ当たりを込めて胸板を叩くのだが、にこにこしたままだった。ああダメだ、勝てない。ふたたびがっしりと掴まれた手首にそう悟ってしまう。あっさりと。それはもうはっきりと。
「煽っていないと言いながら煽るのは、どういう原理なんですかね?」
「煽ってない」
「嘘を吐くのがお上手で」
「嘘じゃないって! 待て待て待て待って! オレ寝起きだからさ!」
「いまさら気にしませんよ」
「気にしろ、マジで気にしろ」
女の子に近づけさせないとと誓ったはいいのだが、迫られるとどうしようもないのは恋愛経験がなさすぎるからだろうか。――いや、待てよ?
――迫られるのがダメなら、迫るのがよくね?
美しい顔を瞳に映しながらも、そんな結論に達してしまう。は、はは。いいかもな。オレだけ慌てるのは気に入らないし。
そうと決まれば首に腕を絡めてやり、こちらから唇を塞いでやる。丸くなる瞳が一瞬見えたが、そこからはなにも言えなくなった。くそアイドルはくそアイドルなんだが、手加減をされていることを身を持って理解してしまいましたわ。
引き剥がそうにも震えて無理だ。これはいままでにないキスなのだから。顎に手を添えられ、隙間なくぴったりと重なる唇。つまり、深くを求めるような、息もさせてもらえないやつ。舌を追いかけるだけで精一杯だ。
熱い――。躯の奥が熱を持ちすぎている。頭も茹だり、絡める舌もいままでになく忙しない。
唇が離れると同時に躯が浮いて、ベッドへと運ばれていく。その間にもはひゅはひゅと乱れすぎた息が聞こえなくなるのは、何度もキスをされているからだ。
「にゃ、にゃにをぉ……」
「誘いに乗らない男ではないので」
「ひっ、ぃ!? にゃ、ちゅめぇ!」
のしかかってくる男に対して本能で危険を感じてしまう。出来たことは顔を背けることだけだ。なぜなら、逃さないようにとがっちり躯を挟まれていたから、逃げるに逃げられなかった。息は乱れたままだし、舌が巧く動かないから舌っ足らずにしかならないが、目が本気なのは解る。見たことがないほどに本気の色しかない。
「誘ってきたのはセトさんですよ? なにを怯えているのか解りませんね」
素早く上着を捲り上げ、首に通してくる行動力が怖い。晒された細い躯に口づけ、舌を這わしてくる男の本気が恐ろしい。
「や、ぃ、ゃ、だぁ」
泣きじゃくりながら嫌々と頭を振ると、少しだけだが距離が空いた。困ったような顔が滲んだ視界にあるであろう。
「セトさんは私をどうしたいんですか?」
「ど、う、って……?」
鼻を啜りながら、意味が解らないと言いたげに瞬きを繰り返すと、目尻に残っていた涙が頬を伝うのが解った。伸ばされた両腕が両方の目尻を拭う。仕方がないとでも言うかのように。
「変なことをしてくるんじゃない!」
「そうなんですか? セトさんが手を差し出してきたので、キスをしてほしいのかと思いました」
なにしてくれるんだ! ふぎゃあー! と慌てて引き剥がすと、とんでもない言葉が返ってくる。コイツはいつもそんなことを思っていたのか! と新たな事実に思考が停止しかけるがしかし、ここで止まってはいけない。反撃しなければ調子に乗るであろうから。危険は排除だ、排除。
「なんでそうなるんだ!」
「いつも誘ってくるので」
覚えはない! と叫ぶと、くそアイドルは目を瞬かせる。「無自覚とは恐ろしいですねえ」と感嘆とした声も聞こえてきたのだが、え、なんなの。いままでオレが本気で煽っていたと思ってたの? 眼科に行けよ、眼科に。――いや違う、言いたいことはそれではなくてですね。
これ以上くそアイドルのペースに乗れば、言いたいことは言えないままだ。目の前の男はそれを狙ってやっているのかも解らないが、オレはもう乗らないからな。緩く頭を振ると、くそアイドルを見つめ直して言わなければならないことを吐き出した。もう一度右手を出しながら。ずいずいオラオラと。
「合鍵だよ! 合鍵返せ! いますぐ早く迅速に返せ!」
「なにを言っているのか解りませんね。合鍵ではなく特技ですから」
「犯罪! それ犯罪だからな!?」
「セトさんを見守る必要がありますし、ね」
さらりと言うのだが、いったいなにから守る必要があるというのか。一応、お前の変態行動に対しての自衛はしているからな。抵抗という名の自衛は。全然役に立ってないけども。
「面倒だけどチェーンもかけておくか」
「無駄ですけど?」
小さな声に返された言葉と笑みが怖い。なんなんだよ、本当に。地獄耳やめろ。
「怖いことを言うんじゃねえよ、くそアイドルが!」
「褒め言葉をありがとうございます」
「どこも褒めてないから!」
即座につっこむと、くそアイドルなつめは身を乗り出して唇を塞いでくる。どういうことからそういう気持ちになったんだよ、お前は。
「かわいいです」
上機嫌な声を聞きつつも、オレはようやく気がついた。コイツにはなにを言っても意味がないのだと。なんだその柔らかな笑みは! あとやっぱり、身長差が悔しいです。
八つ当たりを込めて胸板を叩くのだが、にこにこしたままだった。ああダメだ、勝てない。ふたたびがっしりと掴まれた手首にそう悟ってしまう。あっさりと。それはもうはっきりと。
「煽っていないと言いながら煽るのは、どういう原理なんですかね?」
「煽ってない」
「嘘を吐くのがお上手で」
「嘘じゃないって! 待て待て待て待って! オレ寝起きだからさ!」
「いまさら気にしませんよ」
「気にしろ、マジで気にしろ」
女の子に近づけさせないとと誓ったはいいのだが、迫られるとどうしようもないのは恋愛経験がなさすぎるからだろうか。――いや、待てよ?
――迫られるのがダメなら、迫るのがよくね?
美しい顔を瞳に映しながらも、そんな結論に達してしまう。は、はは。いいかもな。オレだけ慌てるのは気に入らないし。
そうと決まれば首に腕を絡めてやり、こちらから唇を塞いでやる。丸くなる瞳が一瞬見えたが、そこからはなにも言えなくなった。くそアイドルはくそアイドルなんだが、手加減をされていることを身を持って理解してしまいましたわ。
引き剥がそうにも震えて無理だ。これはいままでにないキスなのだから。顎に手を添えられ、隙間なくぴったりと重なる唇。つまり、深くを求めるような、息もさせてもらえないやつ。舌を追いかけるだけで精一杯だ。
熱い――。躯の奥が熱を持ちすぎている。頭も茹だり、絡める舌もいままでになく忙しない。
唇が離れると同時に躯が浮いて、ベッドへと運ばれていく。その間にもはひゅはひゅと乱れすぎた息が聞こえなくなるのは、何度もキスをされているからだ。
「にゃ、にゃにをぉ……」
「誘いに乗らない男ではないので」
「ひっ、ぃ!? にゃ、ちゅめぇ!」
のしかかってくる男に対して本能で危険を感じてしまう。出来たことは顔を背けることだけだ。なぜなら、逃さないようにとがっちり躯を挟まれていたから、逃げるに逃げられなかった。息は乱れたままだし、舌が巧く動かないから舌っ足らずにしかならないが、目が本気なのは解る。見たことがないほどに本気の色しかない。
「誘ってきたのはセトさんですよ? なにを怯えているのか解りませんね」
素早く上着を捲り上げ、首に通してくる行動力が怖い。晒された細い躯に口づけ、舌を這わしてくる男の本気が恐ろしい。
「や、ぃ、ゃ、だぁ」
泣きじゃくりながら嫌々と頭を振ると、少しだけだが距離が空いた。困ったような顔が滲んだ視界にあるであろう。
「セトさんは私をどうしたいんですか?」
「ど、う、って……?」
鼻を啜りながら、意味が解らないと言いたげに瞬きを繰り返すと、目尻に残っていた涙が頬を伝うのが解った。伸ばされた両腕が両方の目尻を拭う。仕方がないとでも言うかのように。
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