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部屋を出る前には、忘れ物がないかの確認をしましたよ。当然だろう。できるだけ時間を稼がなければならなかったんだからな。しかし、いくら頭を働かせてもいい考えが浮かぶことはなく、夜の散歩が終わっただけである。夕日が沈みつつも闇に飲まれていく空はとても幻想的ではあったのだが、感動のかの字もない。なんにもなかった。考えに考えていたわけだし。いやまあ、毎日見ているわけだから、これといった感情は湧きにくいんだけどもね。すみませんね、情緒がなくて。
手を繋がれることには不満しかなかったのだが、街灯が少な目の道を歩くのはまあまあ危ないからしかたがない。夜には極力出歩くなとも言われていたしな。いまだにオレだけがくどくど言われているんだが、本当になんなんだろうな……。
マンションの一室に入るのにも手を引かれたままなのだから、なつめの甲斐甲斐しさは相当だと思う。のろのろと後に続くしかなかったのだが、後ろ姿しか解らなくとも機嫌がよさげたのは見て取れた。手洗いうがいの間にも鼻唄が聞こえてくるのではないのかというほどだ。重いよ、重すぎて怖いよ。
怯えるしかない入浴時にはいつもどおり抱きしめられたのだが、他にはなにもなかったのには泣いたよね。嬉し泣きだよ、これは。自分で洗える喜びは凄かった。まあ、ね。安寧は崩れるのが早かったわけですがね。布団に入ったら即座に抱きまくらにされました。現在進行系でございますー。笑えねえよ。冗談じゃない。とは思っても、引き剥がせないからこのままだけどな。
「セトさん」
「なんだよ?」
「寂しかったです」
「土日ぐらいは堪えろ」
「もう堪えられそうにもないので、ずっと傍にいてください」
「断る」
「どうしてですか?」
「自分の胸に聞いてくれ。オレは寝る」
いかにしてこの焦りというか心音がバレないかを誰か教えてくれやしないだろうか。マジでお願いしますわ。
熱い顔を逸しつつ背中を向けると、くすくすと笑う気配がする。うるせえよ。オレだってどうしたらいいのか解らないんだぞ!? どうしてくれやがるんだ。ひとつ解ることはといえば、躯から先にどうにかされたからだろうか、心が追いついていないと考えるのが自然だろう。けれども、オレは専門家ではないので、どうにもならないわけだ。あ゛ー、マジで困る!
頭を抱えたいが、そんなことをしても問題は解決しない。落ち着くにはどうしたらいいのかと考えた結果は、なんとも幼稚なものだった。
「そのままでいいから、変なことはするなよ」
ちらとなつめを窺いながらの言葉は奴にどう届いたのかは解らないが、腹に回る腕の力が増したような気がする。考える間にも温もりがこう、なんか、いいなあと思ってしまったもんだから、もう末期かもしれない。
「セトさん、それはフリにしか聞こえませんよ?」
「変なことしたら殴るからな! ――ひ、ぅっ!?」
うなじを舐め上げられたような感触がしたかと思えば、首筋辺りから肌を吸う音が響いてくる。
「おまっ、お前っ、身長差にものを言わすのはやめろぉ!」
「なにを言いますか。これはよく眠れるようにというまじないですよ」
「屁理屈ばっかだな!」
声を漏らすまいと口を押さえる前に叫ぶと、「ええ、まあ」となんでもないような口調が返ってきた。そのままされるがまだったのだが、それでも瞼が重くなってきたのだから、なつめが言うように本当にまじないだったのだろう。え、なに、摩訶不思議な能力持ちなの? そりゃあ、吸血鬼なんだからなにかの能力はあるんだろうが、呪術的なものは勘弁してほしい。オレは日々を平穏にいきたいんで。
手を繋がれることには不満しかなかったのだが、街灯が少な目の道を歩くのはまあまあ危ないからしかたがない。夜には極力出歩くなとも言われていたしな。いまだにオレだけがくどくど言われているんだが、本当になんなんだろうな……。
マンションの一室に入るのにも手を引かれたままなのだから、なつめの甲斐甲斐しさは相当だと思う。のろのろと後に続くしかなかったのだが、後ろ姿しか解らなくとも機嫌がよさげたのは見て取れた。手洗いうがいの間にも鼻唄が聞こえてくるのではないのかというほどだ。重いよ、重すぎて怖いよ。
怯えるしかない入浴時にはいつもどおり抱きしめられたのだが、他にはなにもなかったのには泣いたよね。嬉し泣きだよ、これは。自分で洗える喜びは凄かった。まあ、ね。安寧は崩れるのが早かったわけですがね。布団に入ったら即座に抱きまくらにされました。現在進行系でございますー。笑えねえよ。冗談じゃない。とは思っても、引き剥がせないからこのままだけどな。
「セトさん」
「なんだよ?」
「寂しかったです」
「土日ぐらいは堪えろ」
「もう堪えられそうにもないので、ずっと傍にいてください」
「断る」
「どうしてですか?」
「自分の胸に聞いてくれ。オレは寝る」
いかにしてこの焦りというか心音がバレないかを誰か教えてくれやしないだろうか。マジでお願いしますわ。
熱い顔を逸しつつ背中を向けると、くすくすと笑う気配がする。うるせえよ。オレだってどうしたらいいのか解らないんだぞ!? どうしてくれやがるんだ。ひとつ解ることはといえば、躯から先にどうにかされたからだろうか、心が追いついていないと考えるのが自然だろう。けれども、オレは専門家ではないので、どうにもならないわけだ。あ゛ー、マジで困る!
頭を抱えたいが、そんなことをしても問題は解決しない。落ち着くにはどうしたらいいのかと考えた結果は、なんとも幼稚なものだった。
「そのままでいいから、変なことはするなよ」
ちらとなつめを窺いながらの言葉は奴にどう届いたのかは解らないが、腹に回る腕の力が増したような気がする。考える間にも温もりがこう、なんか、いいなあと思ってしまったもんだから、もう末期かもしれない。
「セトさん、それはフリにしか聞こえませんよ?」
「変なことしたら殴るからな! ――ひ、ぅっ!?」
うなじを舐め上げられたような感触がしたかと思えば、首筋辺りから肌を吸う音が響いてくる。
「おまっ、お前っ、身長差にものを言わすのはやめろぉ!」
「なにを言いますか。これはよく眠れるようにというまじないですよ」
「屁理屈ばっかだな!」
声を漏らすまいと口を押さえる前に叫ぶと、「ええ、まあ」となんでもないような口調が返ってきた。そのままされるがまだったのだが、それでも瞼が重くなってきたのだから、なつめが言うように本当にまじないだったのだろう。え、なに、摩訶不思議な能力持ちなの? そりゃあ、吸血鬼なんだからなにかの能力はあるんだろうが、呪術的なものは勘弁してほしい。オレは日々を平穏にいきたいんで。
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