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3.父の教え
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甲高い音を鳴らして、イアンの木剣が弾かれる。
その反動でイアンは尻餅をついてしまった。
「筋はいいが、まだまだだな」
イアンの前で父であるモーリスが歯を見せて笑う。
鍛え上げられた肉体に隙のない立ち姿。
できる人間が見れば、強者であることはすぐに分かるだろう。
それもそのはず。
モーリスはエッジタウンの守備隊長なのだ。
これまで幾度となく野盗やモンスターを撃退し、エッジタウンを守ってきた。
その戦い振りは近隣の街でも有名となっている。
おそらくエッジタウン周辺にはモーリスに勝てる者はいないだろう。
モーリスがいる限り、街の平和は安泰だといってもいい。
そのモーリスとこうして鍛錬を行うのがイアンの朝の日課となっている。
「父さんに勝てる気がしない…」
「はっはっは。俺から一本取ろうなど十年早いぞ」
「息子相手に少しは手加減するつもりはないの?」
「何を言っている?全力でやらなければ訓練にならないだろ?」
モーリスは本当に不思議そうな表情を浮かべた。
モーリスの訓練には手加減という概念がない。
相手が老若男女誰であろうと、手を抜くことは一切しないのだ。
幸か不幸か、その訓練によりイアンの剣の腕はメキメキと上がっている。
しかし、モーリスとの差は依然として大きいのも事実だ。
「さあ、続きをやるぞ。剣を拾うんだ」
「…分かったよ。次こそは一本取らせてもらうから」
「おう。その意気だ」
イアンは剣を手に取り、再びモーリスと対峙した。
モーリスは剣を肩に載せ、自然体でイアンを待ち受ける。
一見すると棒立ちだが、イアンはなかなか攻め込むことができない。
なぜなら、どんな剣撃もすべて対応される未来しか見えないのだ。
それが分かっていても、イアンは距離を詰め、モーリスに打ち込む。
勢いを付けた下段からの振り上げはあっさり防がれる。
すかさず横薙ぎに切り替えるが、軽くいなされる。
そして、上段からの振り下ろしも止められた。
「どうした?さっきよりも動きが悪いぞ」
「うるさい!これでもくらえ!」
イアンは魔法を発動し、小さな火球をモーリスに放つ。
モーリスは目の前に現れた火球に体をのけぞらせ、火球を避ける。
イアンはその千載一遇のチャンスに、刺突を繰り出した。
だが、その程度で一本取れるほど、モーリスは甘くない。
崩れた体勢にもかかわらず、イアンの刺突を剣ごと薙ぎ払った。
「なっ!?」
剣を飛ばされたイアンが動きを止めた一瞬で、モーリスはイアンの首筋に剣を当てる。
イアンは手を挙げ、降参の意を示す。
不意打ちの魔法で確実に隙はできたはずだ。
それでもなお反撃されたことに、イアンは父の化け物具合を再認識した。
「…おい、今のは魔法か?」
モーリスの表情は信じられないと語っていた。
まさか九歳の息子が魔法を使えると思っていなかったのだろう。
モーリスの問いかけにイアンは素直に肯定した。
「誰に習った?」
「マーサ姉ちゃんだよ。俺が教えてほしいって頼んだんだ」
「そうか…」
モーリスは短く呟くと、イアンの肩に手を置いた。
そして、嬉しそうな笑みを浮かべ、イアンと向き合う。
「イアン、すごいじゃないか!俺の息子が魔法を使えるなんて思わなかったぞ!」
予想外の好反応にイアンは逆に困惑させられた。
剣一筋のモーリスは魔法に対してよい印象を持っていないものだと思っていたのだ。
「父さんはその…俺が魔法を使うことに反対はしないの?」
「反対?なぜだ?」
「魔法よりも剣の腕を磨けとか言われると思ってたから…」
「戦う手段が剣であるか魔法であるかの違いだろ?俺は戦えるならば、どちらであろうが問題ない」
戦闘狂ぶりが垣間見える回答であるが、モーリスはあっさり魔法を肯定した。
イアンは拍子抜けしつつも、反対されなかったことに安堵する。
「ただし、俺の訓練では魔法の使用を禁止する」
「え、どうして?」
「どういった意図かは分からないが、お前は剣と魔法を習得しようとしているな?だが、未熟な状態で同時に使おうとするな。下手をすれば、両方とも中途半端になる。まず、剣は剣、魔法は魔法できっちり身につけろ」
モーリスの言葉は確かに納得できるものだった。
魔法騎士を目指すイアンとしては、中途半端ということはあってはならない。
「分かった。父さんには魔法を使わないでも勝てるようになるよ」
「言ってくれるな。その言葉を忘れるなよ。じゃあ、続きをやるぞ」
モーリスは剣を握り直した。
イアンもそれに応えるよう、剣を拾い構える。
「ちょっと、あんたたち!もうごはんだよ!」
いざ訓練を再開しようとした時、威勢のいい声により中断を余儀なくさせられた。
声の主はイアンの母のカミラだ。
美人であるが、気の強さはモーリスにも負けていない。
カミラは窓から上半身を乗り出して、二人に向かって叫んでいた。
「カミラ!今いいところなんだ!」
「訓練バカも大概にしてちょうだい!朝ごはんが冷めちゃうよ!」
「だが…!」
「つべこべ言わずさっさとしな!」
それだけ言い放ち、カミラは家に引っ込んだ。
モーリスは家とイアンを交互に見て、少し悩む素振りを見せる。
だが、すぐに剣を下げ、肩をすくめる。
「…悪いが、訓練の続きはまた明日にするぞ」
「うん、分かった…」
野盗を震えさせる守備隊長であっても妻には敵わないようだ。
モーリスはとぼとぼと家に戻り、イアンもその背中を追いかけるのであった。
その反動でイアンは尻餅をついてしまった。
「筋はいいが、まだまだだな」
イアンの前で父であるモーリスが歯を見せて笑う。
鍛え上げられた肉体に隙のない立ち姿。
できる人間が見れば、強者であることはすぐに分かるだろう。
それもそのはず。
モーリスはエッジタウンの守備隊長なのだ。
これまで幾度となく野盗やモンスターを撃退し、エッジタウンを守ってきた。
その戦い振りは近隣の街でも有名となっている。
おそらくエッジタウン周辺にはモーリスに勝てる者はいないだろう。
モーリスがいる限り、街の平和は安泰だといってもいい。
そのモーリスとこうして鍛錬を行うのがイアンの朝の日課となっている。
「父さんに勝てる気がしない…」
「はっはっは。俺から一本取ろうなど十年早いぞ」
「息子相手に少しは手加減するつもりはないの?」
「何を言っている?全力でやらなければ訓練にならないだろ?」
モーリスは本当に不思議そうな表情を浮かべた。
モーリスの訓練には手加減という概念がない。
相手が老若男女誰であろうと、手を抜くことは一切しないのだ。
幸か不幸か、その訓練によりイアンの剣の腕はメキメキと上がっている。
しかし、モーリスとの差は依然として大きいのも事実だ。
「さあ、続きをやるぞ。剣を拾うんだ」
「…分かったよ。次こそは一本取らせてもらうから」
「おう。その意気だ」
イアンは剣を手に取り、再びモーリスと対峙した。
モーリスは剣を肩に載せ、自然体でイアンを待ち受ける。
一見すると棒立ちだが、イアンはなかなか攻め込むことができない。
なぜなら、どんな剣撃もすべて対応される未来しか見えないのだ。
それが分かっていても、イアンは距離を詰め、モーリスに打ち込む。
勢いを付けた下段からの振り上げはあっさり防がれる。
すかさず横薙ぎに切り替えるが、軽くいなされる。
そして、上段からの振り下ろしも止められた。
「どうした?さっきよりも動きが悪いぞ」
「うるさい!これでもくらえ!」
イアンは魔法を発動し、小さな火球をモーリスに放つ。
モーリスは目の前に現れた火球に体をのけぞらせ、火球を避ける。
イアンはその千載一遇のチャンスに、刺突を繰り出した。
だが、その程度で一本取れるほど、モーリスは甘くない。
崩れた体勢にもかかわらず、イアンの刺突を剣ごと薙ぎ払った。
「なっ!?」
剣を飛ばされたイアンが動きを止めた一瞬で、モーリスはイアンの首筋に剣を当てる。
イアンは手を挙げ、降参の意を示す。
不意打ちの魔法で確実に隙はできたはずだ。
それでもなお反撃されたことに、イアンは父の化け物具合を再認識した。
「…おい、今のは魔法か?」
モーリスの表情は信じられないと語っていた。
まさか九歳の息子が魔法を使えると思っていなかったのだろう。
モーリスの問いかけにイアンは素直に肯定した。
「誰に習った?」
「マーサ姉ちゃんだよ。俺が教えてほしいって頼んだんだ」
「そうか…」
モーリスは短く呟くと、イアンの肩に手を置いた。
そして、嬉しそうな笑みを浮かべ、イアンと向き合う。
「イアン、すごいじゃないか!俺の息子が魔法を使えるなんて思わなかったぞ!」
予想外の好反応にイアンは逆に困惑させられた。
剣一筋のモーリスは魔法に対してよい印象を持っていないものだと思っていたのだ。
「父さんはその…俺が魔法を使うことに反対はしないの?」
「反対?なぜだ?」
「魔法よりも剣の腕を磨けとか言われると思ってたから…」
「戦う手段が剣であるか魔法であるかの違いだろ?俺は戦えるならば、どちらであろうが問題ない」
戦闘狂ぶりが垣間見える回答であるが、モーリスはあっさり魔法を肯定した。
イアンは拍子抜けしつつも、反対されなかったことに安堵する。
「ただし、俺の訓練では魔法の使用を禁止する」
「え、どうして?」
「どういった意図かは分からないが、お前は剣と魔法を習得しようとしているな?だが、未熟な状態で同時に使おうとするな。下手をすれば、両方とも中途半端になる。まず、剣は剣、魔法は魔法できっちり身につけろ」
モーリスの言葉は確かに納得できるものだった。
魔法騎士を目指すイアンとしては、中途半端ということはあってはならない。
「分かった。父さんには魔法を使わないでも勝てるようになるよ」
「言ってくれるな。その言葉を忘れるなよ。じゃあ、続きをやるぞ」
モーリスは剣を握り直した。
イアンもそれに応えるよう、剣を拾い構える。
「ちょっと、あんたたち!もうごはんだよ!」
いざ訓練を再開しようとした時、威勢のいい声により中断を余儀なくさせられた。
声の主はイアンの母のカミラだ。
美人であるが、気の強さはモーリスにも負けていない。
カミラは窓から上半身を乗り出して、二人に向かって叫んでいた。
「カミラ!今いいところなんだ!」
「訓練バカも大概にしてちょうだい!朝ごはんが冷めちゃうよ!」
「だが…!」
「つべこべ言わずさっさとしな!」
それだけ言い放ち、カミラは家に引っ込んだ。
モーリスは家とイアンを交互に見て、少し悩む素振りを見せる。
だが、すぐに剣を下げ、肩をすくめる。
「…悪いが、訓練の続きはまた明日にするぞ」
「うん、分かった…」
野盗を震えさせる守備隊長であっても妻には敵わないようだ。
モーリスはとぼとぼと家に戻り、イアンもその背中を追いかけるのであった。
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