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2.イアンとマーサ
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門兵のベックは城壁に寄りかかり、のんびりと煙草をふかしていた。
すると、大通りの先から走ってくるイアンの姿に気付く。
門に近付いてきたイアンにベックが手を振った。
「坊主、今日も薬師の嬢ちゃんの所か?」
「そうだよ!今日は大事な用事があるんだ!」
「そうか。閉門の時間には帰ってこいよ」
「分かった!」
ベックに手を振り返し、イアンはそのまま門の外に駆けていく。
しばらく道なりに進むと、街道沿いに森が見えた。
(この切り株を曲がってと…)
イアンは道を外れ、森の中へと入っていく。
通り慣れた獣道を走り抜けた先に、一軒の小屋が建っていた。
イアンは小屋の前で止まると、少し息を整え、ドアをノックする。
「マーサ姉ちゃん!遊びに来たよ!」
大声で小屋の住人に呼びかけると、数秒ほどして、ドアが開いた。
「いらっしゃい、イアン。今日も来てくれたのね。どうぞ入って」
「おじゃまします」
優しい声でマーサはイアンを中に招き入れる。
「ここまで走ってきたの?疲れてない?」
「このくらいへっちゃらだよ。父さんに鍛えられてるからね。それに今日は魔法を教えてもらう約束だったから、いつもより急いで来たんだ」
「そうなの。でも、まずはお茶にしましょ。ちょうどクッキーが焼き上がったところなの」
イアンを椅子に座らせて、マーサはオーブンからクッキーを取り出す。
クッキーの甘い香りがイアンの鼻にも届き、口の中に唾が溢れる。
マーサは紅茶を用意すると、クッキーと一緒にイアンの前に置いた。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
イアンがクッキーを一口かじると、ほどよい甘みが口の中に広がった。
普段甘い菓子など食べることがないため、より美味しく感じられる。
「おいしいよ、このクッキー。さすがマーサ姉ちゃんだね」
「うふふ、ありがとう」
「母さんはこういうのを作ってくれないからなあ」
「こら、そんなこと言わないの。お菓子は作らないかもしれないけど、イアンのお母さんはイアンを大切に育ててくれているでしょ?」
「まあ、そうだけど…」
イアンも母親に大切にされていることはなんとなく分かる。
ただ、マーサと比較するとイアンにも思うところはあるのだ。
イアンはそんな感情を払うように、残りのクッキーを食べ、紅茶を飲み干す。
「ごちそうさま。じゃあ、魔法を教えてよ」
「ええ、いいわよ。でも、私はあんまり強力な魔法はできないけどいいの?」
「うん、とにかく魔法を使えるようになりたいんだ」
「そう…イアンはどうして魔法が使いたいと思ったの?」
マーサの質問に、イアンは開きかけた口を閉じて俯く。
ただ、すぐに顔を上げマーサを見た。
「…マーサ姉ちゃんだけに言うけど、俺は魔導騎士になりたいんだ」
「魔導騎士に?」
マーサは驚いたように目を見開く。
魔導騎士は剣と魔法の技を併せ持ち、その実力はただの騎士や魔導師などでは足元にも及ばない。
まさに一騎当千、最強と謳われる存在である。
ただ、その道は過酷を極め、類い稀なる才能を持った上でさらに努力を積み重ねようとも、魔導騎士となれる可能性はほぼ零だ。
それゆえに、生半可な覚悟では魔導騎士を目指すと口にすることすら憚られるのだ。
「魔導騎士になったら、たくさん活躍して、“英雄”の称号をもらうんだ。だから、剣術は父さんにもう習ってるよ。あとは魔法だけど、うちの街には魔法を使える人がいないから、マーサ姉ちゃんに教えてもらいたいんだ」
イアンはマーサの目をじっと見つめる。
その目に宿る確かな覚悟をマーサは感じ取る。
「…分かったわ。私でよければ、イアンの夢のために協力してあげる」
「ありがとう!マーサ姉ちゃん!」
イアンは満面の笑顔でマーサの手を掴み、ブンブンと振る。
その表情を見たマーサも思わず顔を綻ばせた。
イアンの興奮が収まったところで、マーサは石盤を持ってきて、イアンに魔法について教え始める。
「じゃあ、まずは魔法を使う前に、魔力というものについて知っておく必要があるわ」
「魔力って何?」
「魔力は私たちの体内に存在するエネルギーよ。誰でも持っているものだけど、それを操れる人はそう多くないわ」
「どうして魔力を持っているのに操れないの?」
「それはね、自分の中にある魔力の流れが分からないからよ。この魔力の流れが分からない限り、魔法を使うことはできないの」
「そうなんだ。どうやったら魔力の流れが分かるようになるの?」
「やり方は教えてあげるわ。目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をして」
イアンは言われた通り、目を閉じ、静かに深呼吸を始める。
「深呼吸を繰り返して、全身の力を抜いて。それから自分の中に意識を向けるの」
イアンは体の力を抜くように、何度も深呼吸を行い、意識を体の中に向けようとする。
(…呼吸の方法が独特ね。どこで覚えたのかしら?)
イアンの呼吸の様子にマーサは違和感を覚えた。
一方で、イアンは周囲の音が消えるくらいに集中を高めていく。
そして、十分程経った頃、イアン自身の中の流れをわずかに感じた。
「…マーサ姉ちゃん、体の中に何か流れてるかも」
「えっ、もう感じたの?」
「うん、これが魔力かな?」
「そ、そうね。じゃあ、その流れをお腹の辺りに集めるイメージはできる?」
「分かった」
マーサは魔力可視の魔法を用いて、イアンの魔力の流れを観察する。
それを見た瞬間、マーサは自分の目を疑った。
イアンの全身に広がっていた魔力は、確かに腹の方向へと流れていたのだ。
多少の個人差はあるものの、魔力認識に一週間、魔力操作に一月というのが魔導師の常識だ。
それをこの短時間でイアンはやってのけたのだ。
(この子、天才だわ…)
そんな感想がマーサの頭に浮かび、マーサの背筋に冷たい汗が流れた。
「マーサ姉ちゃん、どうかな?」
「ええ、よくできているわ。じゃあ、簡単な魔法を試してみる?」
「うん、やる!」
イアンは元気よく返事をする。
その無邪気な笑顔にマーサは少し安心した。
すると、大通りの先から走ってくるイアンの姿に気付く。
門に近付いてきたイアンにベックが手を振った。
「坊主、今日も薬師の嬢ちゃんの所か?」
「そうだよ!今日は大事な用事があるんだ!」
「そうか。閉門の時間には帰ってこいよ」
「分かった!」
ベックに手を振り返し、イアンはそのまま門の外に駆けていく。
しばらく道なりに進むと、街道沿いに森が見えた。
(この切り株を曲がってと…)
イアンは道を外れ、森の中へと入っていく。
通り慣れた獣道を走り抜けた先に、一軒の小屋が建っていた。
イアンは小屋の前で止まると、少し息を整え、ドアをノックする。
「マーサ姉ちゃん!遊びに来たよ!」
大声で小屋の住人に呼びかけると、数秒ほどして、ドアが開いた。
「いらっしゃい、イアン。今日も来てくれたのね。どうぞ入って」
「おじゃまします」
優しい声でマーサはイアンを中に招き入れる。
「ここまで走ってきたの?疲れてない?」
「このくらいへっちゃらだよ。父さんに鍛えられてるからね。それに今日は魔法を教えてもらう約束だったから、いつもより急いで来たんだ」
「そうなの。でも、まずはお茶にしましょ。ちょうどクッキーが焼き上がったところなの」
イアンを椅子に座らせて、マーサはオーブンからクッキーを取り出す。
クッキーの甘い香りがイアンの鼻にも届き、口の中に唾が溢れる。
マーサは紅茶を用意すると、クッキーと一緒にイアンの前に置いた。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
イアンがクッキーを一口かじると、ほどよい甘みが口の中に広がった。
普段甘い菓子など食べることがないため、より美味しく感じられる。
「おいしいよ、このクッキー。さすがマーサ姉ちゃんだね」
「うふふ、ありがとう」
「母さんはこういうのを作ってくれないからなあ」
「こら、そんなこと言わないの。お菓子は作らないかもしれないけど、イアンのお母さんはイアンを大切に育ててくれているでしょ?」
「まあ、そうだけど…」
イアンも母親に大切にされていることはなんとなく分かる。
ただ、マーサと比較するとイアンにも思うところはあるのだ。
イアンはそんな感情を払うように、残りのクッキーを食べ、紅茶を飲み干す。
「ごちそうさま。じゃあ、魔法を教えてよ」
「ええ、いいわよ。でも、私はあんまり強力な魔法はできないけどいいの?」
「うん、とにかく魔法を使えるようになりたいんだ」
「そう…イアンはどうして魔法が使いたいと思ったの?」
マーサの質問に、イアンは開きかけた口を閉じて俯く。
ただ、すぐに顔を上げマーサを見た。
「…マーサ姉ちゃんだけに言うけど、俺は魔導騎士になりたいんだ」
「魔導騎士に?」
マーサは驚いたように目を見開く。
魔導騎士は剣と魔法の技を併せ持ち、その実力はただの騎士や魔導師などでは足元にも及ばない。
まさに一騎当千、最強と謳われる存在である。
ただ、その道は過酷を極め、類い稀なる才能を持った上でさらに努力を積み重ねようとも、魔導騎士となれる可能性はほぼ零だ。
それゆえに、生半可な覚悟では魔導騎士を目指すと口にすることすら憚られるのだ。
「魔導騎士になったら、たくさん活躍して、“英雄”の称号をもらうんだ。だから、剣術は父さんにもう習ってるよ。あとは魔法だけど、うちの街には魔法を使える人がいないから、マーサ姉ちゃんに教えてもらいたいんだ」
イアンはマーサの目をじっと見つめる。
その目に宿る確かな覚悟をマーサは感じ取る。
「…分かったわ。私でよければ、イアンの夢のために協力してあげる」
「ありがとう!マーサ姉ちゃん!」
イアンは満面の笑顔でマーサの手を掴み、ブンブンと振る。
その表情を見たマーサも思わず顔を綻ばせた。
イアンの興奮が収まったところで、マーサは石盤を持ってきて、イアンに魔法について教え始める。
「じゃあ、まずは魔法を使う前に、魔力というものについて知っておく必要があるわ」
「魔力って何?」
「魔力は私たちの体内に存在するエネルギーよ。誰でも持っているものだけど、それを操れる人はそう多くないわ」
「どうして魔力を持っているのに操れないの?」
「それはね、自分の中にある魔力の流れが分からないからよ。この魔力の流れが分からない限り、魔法を使うことはできないの」
「そうなんだ。どうやったら魔力の流れが分かるようになるの?」
「やり方は教えてあげるわ。目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をして」
イアンは言われた通り、目を閉じ、静かに深呼吸を始める。
「深呼吸を繰り返して、全身の力を抜いて。それから自分の中に意識を向けるの」
イアンは体の力を抜くように、何度も深呼吸を行い、意識を体の中に向けようとする。
(…呼吸の方法が独特ね。どこで覚えたのかしら?)
イアンの呼吸の様子にマーサは違和感を覚えた。
一方で、イアンは周囲の音が消えるくらいに集中を高めていく。
そして、十分程経った頃、イアン自身の中の流れをわずかに感じた。
「…マーサ姉ちゃん、体の中に何か流れてるかも」
「えっ、もう感じたの?」
「うん、これが魔力かな?」
「そ、そうね。じゃあ、その流れをお腹の辺りに集めるイメージはできる?」
「分かった」
マーサは魔力可視の魔法を用いて、イアンの魔力の流れを観察する。
それを見た瞬間、マーサは自分の目を疑った。
イアンの全身に広がっていた魔力は、確かに腹の方向へと流れていたのだ。
多少の個人差はあるものの、魔力認識に一週間、魔力操作に一月というのが魔導師の常識だ。
それをこの短時間でイアンはやってのけたのだ。
(この子、天才だわ…)
そんな感想がマーサの頭に浮かび、マーサの背筋に冷たい汗が流れた。
「マーサ姉ちゃん、どうかな?」
「ええ、よくできているわ。じゃあ、簡単な魔法を試してみる?」
「うん、やる!」
イアンは元気よく返事をする。
その無邪気な笑顔にマーサは少し安心した。
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