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22.セシリア
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最初に彼の存在を知ったのは職員室で聞いた会話でした。
『ギルバート先生~。イアン君はほんとに魔法のセンスがいいですよね~』
『お前が他人を褒めるとは珍しいな。だが、イアンは魔法だけじゃない。剣の腕もかなりのものだぞ。あれは鍛えれば鍛えるほど伸びる奴だ』
『ふふふ。お気に入りなんですね~。入学審査で先生が彼を推したのも理解できます~』
それを耳にした瞬間、わたくしの中で嫉妬の炎が燃え上がりました。
ギルバート先生は王室騎士団の元副団長であり、数々のすばらしい功績を打ち立てた武人。
そして、わたくしの憧れの御方でもありました。
しかし、ギルバート先生はわたくしではなく、別の生徒に目をかけている。
その事実をわたくしは認められず、すぐにイアンが何者であるかを調べました。
有力貴族の子女はある程度把握していましたが、イアンという名は聞いたことがありませんでした。
いったいどこの貴族かと調査した結果、なんと彼は貴族ですらなく平民だったのです。
さらには、ギルバート先生が担任であるクラスに所属し、放課後には直接指導を受けているというではないですか。
公爵令嬢であるわたくしを差し置いて、ギルバート先生を独占するなんて、とても許容できませんでした。
いてもたってもいられず、わたくしはイアンへ決闘を申し込みに行きました。
しかし、初めて会った彼はわたくしにまったく興味がなかったのか、わたくしの顔も名前も知らないと言い放ちました。
それだけでも憤慨ものでしたが、さらに信じられないことに彼は決闘を断ったのです。
貴族ならば挑まれた決闘は絶対に受けなければなりません。
まあ、彼は平民なのでそんな義務はありませんが、その時のわたくしは頭に血が上っていたのか、つい罵詈雑言を彼に向かって浴びせてしまいました。
その時は何とか決闘を取り付けることができた安堵感で気が付きませんでしたが、公爵令嬢として褒められた振る舞いではなかったと思います。
決闘することになった以上、わたくしは必ず勝たなければなりませんでした。
ただ、ベレスフォード公爵家の息女として幼い頃より修練を積んできたわたくしは、同年代の相手に負けるはずがないと高を括っていました。
実際、決闘が始まればイアンはわたくしの槍を捌くのに手一杯であり、わたくしが優勢であったことに間違いはありません。
ですが、わたくしの攻撃を受けて倒れた後、イアンの纏う雰囲気が豹変したのです。
わたくしはその姿にこれまで感じたことのない恐怖を覚えました。
そして、考える間もなく、腕の骨を折られ無様に敗北していたのです。
しかし、わたくし自身も驚いたのですが、決闘に敗れたという事実はあっさりと受け入れられました。
イアンとは和解し、ギルバート先生との特訓に参加できることになったので、結果としては良かったのかもしれません。
特訓の際にイアンと手合わせすることも増え、次第にイアンという人間を理解するようになりました。
彼は貴族に対しても遠慮しません。
正直、不敬だと思うような言動も多々あります。
まあ、あくまで学園の方針に従っているだけらしく、よく一緒に居るレイも特に気にしていないようなので、わたくしも何も言いませんが…
ただ、彼の訓練に取り組む姿勢は見習わなくてはなりません。
イアンは決して訓練に手を抜くことなく、実に愚直に努力を積んでいます。
そして、ギルバート先生だけでなく、わたくしたちの助言や指摘を素直に受け入れ改善する度量もあります。
彼の成長の速さは著しく、わたくしも気を抜けばあっという間に置いていかれそうなほどです。
それでも手合わせの感覚からして、わたくしとイアンの実力は拮抗していると、どこか楽観的な考えがありました。
野外演習において、わたくしは初めてモンスターと戦うことになりました。
しかし、わたくしはモンスターどころか、野生動物すら狩ったこともありません。
お父様に狩りに連れて行ってほしいとお願いしたことは何度かあるのですが、その度にわたくしのことが心配だからとやんわりと断られてしまい、学園に入るまで一度も狩りに行けませんでした。
ただ、その代わりに、模擬戦ではありますが、戦闘の経験は数え切れないほど積んできました。
だから、わたくしの槍はモンスターにも通用するはず、まして低級モンスター相手に遅れを取ることはない。
そんな漠然とした自信がありました。
しかし、それは甘い考えだったかもしれません。
そう思ったのは、ゴブリンと初めて対峙した時。
わたくしは確実にゴブリンを殺すつもりで槍を突き出しました。
ですが、攻撃を当てる瞬間、どういう訳か手が震えてしまったのです。
心臓を狙った槍は外れ、ゴブリンを一撃で倒すことができませんでした。
立て直そうとしましたが、思わぬゴブリンの反撃にわたくしの頭は真っ白になってしまいました。
その一瞬、死というものが頭をよぎったのは今でもはっきりと覚えています。
攻撃を受ける直前、ゴブリンはイアンにより倒されたので、わたくしは怪我を負うことはありませんでした。
ただ、剣で貫かれたゴブリンの死体を見る彼の目は冷たく静か。
その目を見た瞬間、わたくしは理解しました。
イアンはためらわず敵を屠れることを。
イアンの剣には一切の迷いがないことを。
そして、わたくしとイアンとの間には高く厚い壁があることを。
さらに冒険者のダンからの厳しい言葉。
まさかわたくしが仲間を危険に晒していたとは思いもしませんでした。
それらの事柄は、わたくしのプライドを粉々に砕きました。
これまで重ねてきた鍛錬はいったい何だったのかと。
強くなったと自惚れていただけで、実は弱いままだったのではないかと。
わたくしには人々を守る騎士となる資格がないのではないかと。
わたくしは自問自答を繰り返し、誰の言葉も受け入れられませんでした。
そのままだと一生立ち直れなかったかもしれません。
しかし、わたくしを失意の底から引き上げたのもイアンでした。
彼は言いました。
わたくしを“強い”と。
その一言がわたくしにとってどれ程救いとなったかは計り知れません。
わたくしは決して強くありません。
まだまだ弱く、脆い人間です。
だからこそ、わたくしは研鑚を怠ることはないでしょう。
彼の認める“強い”わたくしでいられるように。
『ギルバート先生~。イアン君はほんとに魔法のセンスがいいですよね~』
『お前が他人を褒めるとは珍しいな。だが、イアンは魔法だけじゃない。剣の腕もかなりのものだぞ。あれは鍛えれば鍛えるほど伸びる奴だ』
『ふふふ。お気に入りなんですね~。入学審査で先生が彼を推したのも理解できます~』
それを耳にした瞬間、わたくしの中で嫉妬の炎が燃え上がりました。
ギルバート先生は王室騎士団の元副団長であり、数々のすばらしい功績を打ち立てた武人。
そして、わたくしの憧れの御方でもありました。
しかし、ギルバート先生はわたくしではなく、別の生徒に目をかけている。
その事実をわたくしは認められず、すぐにイアンが何者であるかを調べました。
有力貴族の子女はある程度把握していましたが、イアンという名は聞いたことがありませんでした。
いったいどこの貴族かと調査した結果、なんと彼は貴族ですらなく平民だったのです。
さらには、ギルバート先生が担任であるクラスに所属し、放課後には直接指導を受けているというではないですか。
公爵令嬢であるわたくしを差し置いて、ギルバート先生を独占するなんて、とても許容できませんでした。
いてもたってもいられず、わたくしはイアンへ決闘を申し込みに行きました。
しかし、初めて会った彼はわたくしにまったく興味がなかったのか、わたくしの顔も名前も知らないと言い放ちました。
それだけでも憤慨ものでしたが、さらに信じられないことに彼は決闘を断ったのです。
貴族ならば挑まれた決闘は絶対に受けなければなりません。
まあ、彼は平民なのでそんな義務はありませんが、その時のわたくしは頭に血が上っていたのか、つい罵詈雑言を彼に向かって浴びせてしまいました。
その時は何とか決闘を取り付けることができた安堵感で気が付きませんでしたが、公爵令嬢として褒められた振る舞いではなかったと思います。
決闘することになった以上、わたくしは必ず勝たなければなりませんでした。
ただ、ベレスフォード公爵家の息女として幼い頃より修練を積んできたわたくしは、同年代の相手に負けるはずがないと高を括っていました。
実際、決闘が始まればイアンはわたくしの槍を捌くのに手一杯であり、わたくしが優勢であったことに間違いはありません。
ですが、わたくしの攻撃を受けて倒れた後、イアンの纏う雰囲気が豹変したのです。
わたくしはその姿にこれまで感じたことのない恐怖を覚えました。
そして、考える間もなく、腕の骨を折られ無様に敗北していたのです。
しかし、わたくし自身も驚いたのですが、決闘に敗れたという事実はあっさりと受け入れられました。
イアンとは和解し、ギルバート先生との特訓に参加できることになったので、結果としては良かったのかもしれません。
特訓の際にイアンと手合わせすることも増え、次第にイアンという人間を理解するようになりました。
彼は貴族に対しても遠慮しません。
正直、不敬だと思うような言動も多々あります。
まあ、あくまで学園の方針に従っているだけらしく、よく一緒に居るレイも特に気にしていないようなので、わたくしも何も言いませんが…
ただ、彼の訓練に取り組む姿勢は見習わなくてはなりません。
イアンは決して訓練に手を抜くことなく、実に愚直に努力を積んでいます。
そして、ギルバート先生だけでなく、わたくしたちの助言や指摘を素直に受け入れ改善する度量もあります。
彼の成長の速さは著しく、わたくしも気を抜けばあっという間に置いていかれそうなほどです。
それでも手合わせの感覚からして、わたくしとイアンの実力は拮抗していると、どこか楽観的な考えがありました。
野外演習において、わたくしは初めてモンスターと戦うことになりました。
しかし、わたくしはモンスターどころか、野生動物すら狩ったこともありません。
お父様に狩りに連れて行ってほしいとお願いしたことは何度かあるのですが、その度にわたくしのことが心配だからとやんわりと断られてしまい、学園に入るまで一度も狩りに行けませんでした。
ただ、その代わりに、模擬戦ではありますが、戦闘の経験は数え切れないほど積んできました。
だから、わたくしの槍はモンスターにも通用するはず、まして低級モンスター相手に遅れを取ることはない。
そんな漠然とした自信がありました。
しかし、それは甘い考えだったかもしれません。
そう思ったのは、ゴブリンと初めて対峙した時。
わたくしは確実にゴブリンを殺すつもりで槍を突き出しました。
ですが、攻撃を当てる瞬間、どういう訳か手が震えてしまったのです。
心臓を狙った槍は外れ、ゴブリンを一撃で倒すことができませんでした。
立て直そうとしましたが、思わぬゴブリンの反撃にわたくしの頭は真っ白になってしまいました。
その一瞬、死というものが頭をよぎったのは今でもはっきりと覚えています。
攻撃を受ける直前、ゴブリンはイアンにより倒されたので、わたくしは怪我を負うことはありませんでした。
ただ、剣で貫かれたゴブリンの死体を見る彼の目は冷たく静か。
その目を見た瞬間、わたくしは理解しました。
イアンはためらわず敵を屠れることを。
イアンの剣には一切の迷いがないことを。
そして、わたくしとイアンとの間には高く厚い壁があることを。
さらに冒険者のダンからの厳しい言葉。
まさかわたくしが仲間を危険に晒していたとは思いもしませんでした。
それらの事柄は、わたくしのプライドを粉々に砕きました。
これまで重ねてきた鍛錬はいったい何だったのかと。
強くなったと自惚れていただけで、実は弱いままだったのではないかと。
わたくしには人々を守る騎士となる資格がないのではないかと。
わたくしは自問自答を繰り返し、誰の言葉も受け入れられませんでした。
そのままだと一生立ち直れなかったかもしれません。
しかし、わたくしを失意の底から引き上げたのもイアンでした。
彼は言いました。
わたくしを“強い”と。
その一言がわたくしにとってどれ程救いとなったかは計り知れません。
わたくしは決して強くありません。
まだまだ弱く、脆い人間です。
だからこそ、わたくしは研鑚を怠ることはないでしょう。
彼の認める“強い”わたくしでいられるように。
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