魂の抗戦

様出 久鮎

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21.野外演習③

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野営地のテント前で、イアンとレイは装備の手入れをして時間を潰していた。
二人の間でほとんど会話はなく、周囲の静けさが余計に際立つ。
少し重い空気の中、オルガがテントから出てきた。
「オルガ嬢、セシリア嬢の様子はどうだい?」
レイの問いかけに対し、オルガは首を横に振る。
オルガの表情から察するに、セシリアが立ち直るまでにもうしばらくかかることが察せられた。
イアンが空を見上げると、まだ日は高い位置にある。
本来この時間帯は演習中のはずなのだが、イアンたちは野営地に戻ってきていた。
というのも、ゴブリンとの交戦後、ダンが撤退の判断を下したからだ。
当然、セシリアは真っ先に撤退に反対した。
ただ、詰め寄るセシリアに向かってダンは冷たく言い放ったのだ。
「お前は仲間を殺すつもりか?」と。
ナイフのように鋭い言葉はセシリアの心を深く抉ったに違いない。
セシリアは槍を落とし、その場に呆然と立ち尽くした。
魂の抜けたようなセシリアの手をオルガが引き、どうにか撤退はできた。
だが、野営地に帰るなり、セシリアはテントの隅に膝を抱えて動かなくなってしまったのだった。
そんなセシリアを元気づけようと、先程までオルガがいろいろと試みていたようだが何も改善しなかったらしい。
オルガで無理ならば、イアンやレイが何をしようと無駄だろう。
「おや?もう帰ってきた班がいるんだね」
ため息を吐きたくなる状況に現れたのは魔法医のリビーだった。
リビーはオルガの横に座り、イアンたちにしゃべりかける。
「どうしたの?どこか怪我でもした?」
「いえ、怪我はないのですが…」
「じゃあ、なんでここにいるの?まだ二時間も経ってないよ?」
リビーの質問にレイがこれまでの経緯をかいつまんで話した。
「なるほど、事情は分かったよ。しかし、そのダンっていう冒険者もストレートに言うよね。もう少しオブラートに包めばいいのに」
「先生はダンさんの発言を否定しないんですね」
「まあ、理解はできるからね」
「もしよければダンさんの意図を教えていただけませんか?」
「んー、そうだね…」
レイのお願いに、リビーは頭をかいて少し悩む素振りを見せる。
「こういうのは自分で気付くべきなんだろうけど、このまま放っておくのは良くないだろうから特別ね。まず、どうしてセシリア君だけに“仲間を殺す”なんて言われたと思う?」
「ゴブリンを倒せなかったからでしょうか?」
「じゃあ、なんで倒せなかったの?」
「それは狙いを外したからで…」
「必中の距離まで近付いていたのに外したの?それに外したとしても、もう一回攻撃すればいいだけじゃない?」
「えっと…」
リビーの質問責めにレイは言葉を詰まらせる。
「…殺すのを躊躇した」
「イアン君、正解!セシリア君はモンスターといえども、命を奪うことをためらったわけだ」
「でも、それがどう仲間を殺すことに繋がるのでしょうか?」
「考えてご覧よ。背中を預ける仲間が取りこぼした敵に背後から襲われる。恐怖以外の何ものでもないよね」
「・・・確かに、想像するとゾッとしますね」
「だろう?だからこその”仲間を殺す”発言だね。自分がやらなくちゃ味方が死ぬんだ。戦場に立つならばそのくらいの覚悟は必要だよ」
「なるほど…」
レイは神妙な面持ちでリビーの言葉を飲み込もうとしていた。
「あの、先生は魔法医になる以前は何をしていたか聞いてもいいですか?」
「えー、秘密」
リビーはイアンの問いかけに薄く笑みを浮かべ、タバコを吸い始めた。
「そうそう。一応言っておくけど、さっきの話は君たち一年生に求めるにはハードルが高いと私は思う。この演習に参加しているほとんどが戦闘訓練をしていても、殺しの経験なんてないだろうし」
「僕もそうですね。でも、イアンやオルガ嬢はゴブリンを仕留めていましたよ」
「オルガ君は経験があるんじゃない?エルフは森の管理の一環として害獣駆除もするんでしょ?」
リビーの話にオルガは肯定の意を示した。
確かにオルガの動きは慣れている感じだったとイアンは思い出す。
「で、イアン君だけど…君、モンスターとの戦闘経験は?」
「モンスターとはないですね」
「初めてでゴブリン二体、それも首を刎ねて、心臓を一突きって…殺しの才能でもあるんじゃない?」
「先生、さすがに言って良いことと悪いことがあります」
「ごめん、ごめん。うっかり口が滑ったよ」
まったく悪びれない様子でリビーは謝罪を口にする。
「しかし、決闘の時といい、イアン君はほんと興味深いよ。また今度、君とゆっくり話がしたいね。あ、ついでに身体も調べさせてほしいな」
「身体を調べられるのは嫌ですが、話くらいなら問題ないです」
「オーケー。じゃあ、また声をかけるよ。さて、私はそろそろ行こうかな。彼女も少し元気になったようだしね」
テントに目を向けると、セシリアがいつの間にかテントから出てきていた。
その目元は泣いていたせいか、少し腫れている。
「セシリア嬢、気分はどうだい?」
「あまり優れませんが、先程よりはマシになりましたわ」
すると、セシリアは深く頭を下げた。
「わたくしのせいで皆さんにご迷惑をかけました。申し訳ありません」
セシリアの謝罪にイアンたちは顔を見合わせる。
「セシリア嬢が謝ることじゃないよ。さっきの話でもあったけど、僕たちはまだ経験不足なんだ。だから、頭を上げてくれないかな?」
「ですが、わたくしが貴方たちを危険に晒すような愚行を犯したことに違いありません。リビー先生のおっしゃる通り、わたくしには覚悟が足りませんでしたわ」
それからセシリアは蕩々と反省の言葉を述べ続け、頑なに頭を上げようとしなかった。
その様子にレイとオルガが困惑する一方、イアンはセシリアに近付くと、胸倉を掴んで無理矢理その身体を起こす。
「いい加減にしろ。お前の反省会に付き合うのはもううんざりだ」
「ですが、わたくしは…」
「お前はこの程度で折れるのか?強いセシリア・ベレスフォードはどこにいったんだ?」
イアンの言葉にセシリアはハッとしたように目を見開く。
「で、演習を続ける気はあるのか?ないのか?」
「…当然あるに決まっています!ベレスフォードの名に懸けて、次こそは必ず仕留めてみせますわ!」
「分かった。それなら、ダンさんを探しに行こう。まだ、その辺りにいるはずだ」
イアンたちは急いで演習の支度を整え、ダンを探しに動き始める。
リビーはその姿を微笑ましく眺めるのだった。
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