流星のクオバディス

三島幸一

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ベターシンク・上原優一は夜明けを行く

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「優一、光の剣を抜け」
 デズワットの声と同時に赤いメガガイストが腰に番えていた剣を抜き白磁のメガガイストへ向けた。
「私は軍人だ。如何なる手を以てしても君を捕らえなければならない。しかし丸腰の相手に斬りかかるほど落ちぶれてはいない」
「いいのか?」
「私とて『空気』は読むさ」
「そいつはどうも」
 高潔な男だ。だがデスワットを称える一方で優一に別の思考が起きる。
 余裕だな。それだけ俺とお前に差があるのか。
 無意識に唇を噛んだ。
 クオバディスは大腿のウエポンラックを開いて素早く短剣を抜くと切っ先が伸びて光の剣に変わる。
 ルーキス・エクテンド。伸びゆく光。クオバディスの高い出力と優一の優れたボルの力が合わさることで初めて生まれる必殺剣。淡く光る紫の刃は一太刀でメガガイストの装甲はおろか体を形作るボルそのものさへ寸断する。
 両者が構えを取る。相対する白と赤。これから始まろうとする戦いを前に静けさが辺りを満たす。
「優一……」
 クオバディスに守られる形で後ろにいるシオンが祈るように手を握りしめた。
 勝てるだろうか。相手は帝国の中でも指折りのメーンアストラルであることを優一は知っているのだろうか。
 だが、知っていようと知っていなかろうとこの場を切り抜けるにはデズワットを倒す他ない。それを出来るのは優一しかいないのだ。
「では」帝国のメガガイスト・シエルラが僅かにただ前に倒れる。「始めようか」
 そう言い終えた時には既にデズワットの駆るシエルラは動いていた。目標に向かって一気に加速をかけて距離を詰める。メガガイストの爆発的なスピードは湖を切り裂き、高波が上げた。
 優一は反射的に操縦桿を前に突き出した。
 上とか下とか右や左、攻撃の軌道を読む余裕は全くない。クオバディスは光の剣を前に出してシエルラの剣を受け止める。二つの巨大な鎧が激突すると爆発が起きたような音が森を騒がせた。
 優一は操縦席から振り落とされないように体を力の限り固くした。
 これがメガガイストのパワーなのかよ。そりゃ戦争も変わる。
 どれだけ速く動いても砲撃の雨を捌く機動をしても揺れを感じないはずのコクピットで初めて激しい振動に襲われればそうもなる。
 首の後ろがチリチリとした。優一はおもむろにパーカーのジッパーを降ろした。体が熱い。
 シエルラの操縦席でデズワットは笑っていた。一撃で仕留めようとしたにも関わらず対応した敵であり友である男の力に喜びを隠せない。
 クオバディスは受け止めた剣を押し返すように大きく払う。横薙ぎからそのまま上段に振りかぶり袈裟斬りへ。しかしシエルラは素早く後ろへと飛んだ。光の剣は虚しく空を斬る。
「伸びろ!」
 ここだ、と信じて優一は叫ぶ。クオバディスが光の剣を突き出すとボルの刃がシエルラに向かって一気に伸びていく。
 迫り来る切っ先を凝視しながらデズワットは静かに操縦桿をレールの上を滑らせる。シエルラが流れるように全身を横に捻ると紫色に光る刀身が真横を過ぎていく。デズワットはそのまま上昇をかけた。
 クオバディスは空中のメガガイストを墜とそうと更に光を伸ばして、鞭のようになった光の剣を振った。夜空に無数のボルの光が軌跡を描く。しかしデズワットの卓越した操縦を忠実に行うメガガイスト・シエルラにはかすりもしない。
 優一は焦っていた。苛立ちがつのる。舌打ち。
 この距離から攻撃し続ければデズワットは攻撃できない。だから振りまくってやる。当たれば勝ちなんだ。だから当たれ。いいから当たれよ。
 視界にシエルラだけを捉えて、一切を見逃さない程に凝視していた。
「優一、そのように闇雲な攻撃をしても当たるデズワットではありませんよ」
 シオンにはクオバディスの攻撃がひどく単調に見えた。あれでは光の剣を伸ばそうと届きはしない。
 メーンアストラルの心を映す様にクオバディスが荒っぽく力任せにルーキス・エクステンドを持つ腕を大きく後ろに引いた。
 刀身を構成するボルの光が地面を引き裂き、森の方にまで伸びた。
 瞬間、シオンは悲鳴をあげた。衝撃におもわず倒れこむと近くの地面がパックリと傷のように開いている。
 背筋に冷たいものが流れた。もう少しでボルの光に呑まれて死んでいた。
 光の鞭がシエルラに飛来するがやはり当たらない。
 クオバディスの腕が動くたびにルーキス・エクステンドは森を引き裂き、凄惨な爪痕を残す。
 だが優一はそれに気づかない。周りを気にする余裕はなくデズワットしか見ていなかった。
「届けえええっ!!」
 怨嗟の混じる声で優一が吠えた。クオバディスはルーキス・エクステンドを振りかぶって光を伸ばす。
 シエルラは切っ先を引きつけると右に避けた。
 追いかけてやる!
 苛立ちから生まれた優一の怒りと意地が執念となって攻撃が生まれ変わった。
 それまで鞭のようにしなっていた刀身の先がまるで意思のあるように大きく右にうねり、赤いメガガイストの後を追った。デズワットは更に回避運動をとるが、光の剣は伸びて伸び続けて執拗に追い回す。
「この光の剣――いや、蛇は優一が操っているのか!」
 紫色の光蛇は赤い鎧を追いかけ続ける。どれだけ獲物が多彩な機動をしても体を伸ばして追い縋る。けして逃げることは叶わない。
 喰らいつけ。
 やがて優一の執念が届こうとした。蛇の牙が赤い幽霊の背中に突き立てられようとする。
 だが直後に優一は知る。デズワット・ロウという男の実力を。
 それまで逃げに徹していたシエルラは突如として反転、同時に剣閃を煌めかせてルーキス・エクステンドを打ち払った。激しい剣戟を叩きつけられた光の蛇の頭が悶えるように震えて地面に倒れ込んだ。
「そんな……」
 勝負が決まったと確信したシオンも驚愕した。
 だが現実としてシエルラは傷一つなく宙に浮かんでいる。
「いつかは届く」デズワットは荒い息をつきながら肩に自分の顎を擦りつけて滴る汗を拭った「ならば『いつか』に合わせて防御をすればいい、それだけの話だ。機を見て応じれば光の蛇だろうとただの速い突きだ」
「…………」
 優一は言葉を失う。クオバディスの両手がダラリと下がった。
「そして、ひとつ忠告しておく。不用意にその剣を振ると君の戦う理由が無くなるぞ」
 ハッとなって優一は周囲を見渡した。ルーキス・エクステンドを無茶苦茶に振るったせいであちこちの地面や森には無数の傷跡が残っていた。えぐれて茶色い土が剥き出しになった地面やなぎ倒された木々に、そしてクオバディスの足元で倒れているシオンを見て、愕然とした。
 俺は何をやっているんだ……
 自分のしてしまったことをまざまざと見せつけられて激しく嫌悪する。
「君は私と真っ当に剣の勝負をするしかない」
 それが真実だとでも言うように天上からデズワットの声が降ってくる。
 ルーキス・エクステンドを伸ばして戦えば周囲に被害が出る。なによりシオンを殺してしまうかもしれない。なら光を伸ばさないで普通の剣として扱って戦うしかない。
 上空に飛んで使えばと思考が起きるがデズワットが許すとは思えない。むしろ下に降りられて地上を、シオンを盾に取られるだけだ。
 そして普通の剣の状態で真っ当に戦ってデズワットに勝てるとは思えなかった。最初の一撃を防いだのはほとんどまぐれのようなものだ。
 つまり俺には無理なのか。
 自分が詰められていることを理解すると無力感で目の前が真っ暗になりそうになる。体が鉛を括られているみたいに重く感じる。沈み込む。
「上原優一!」
 すると突然、自分を呼ぶ声が聞こえた。
 顔を上げると正面には立ち上がったシオンが見えた。
 シオンはクオバディスを通して、優一を見ていた。シオンの目には強い光が宿り、強い風に吹かれても折れない花のように凛としている。
「デズワット・ロウのメーンアストラルとしての実力があなたより上回っているのは事実!」
 ああ、だろうな。そんなことは分かってるんだんよ。で、どうしろと。勝てない相手にどうすればいい。いけると思った光の蛇もダメだった。
 優一は心の中で毒づいた。
「ですが、それだけです!」
「…………は?」
 感情をコントロールできず思わず口から出てしまった。
 この姫様は何を言っているんだ。相手が自分より強い『だけ』ってそれは決定的だろ。
「実力だけで結果が決まるのならば世界に勝敗など存在しません。やるまでもなく分かってしまうということになります」
「そりゃ……そうだけどさ」
 シオンが勝負は常に格上が勝つとは限らないと言いたいのは分かる。スポーツの世界では自分の持ち味を活かしたり、相手の穴を突いたりしたことでジャイアントキリングが起きるのはけして珍しくない。
 だが自分にそれを起こせるかと聞かれたら自信はない。
 優一の迷いを敏感に察したシオンが檄を飛ばした。
「考えなさい、優一! 私はまだあなたが負けたと思っていない!」
 シオンの言葉を聞いて瞬間、優一の中で暗闇が晴れていくような気がした。先程までドロドロとした負の感情が漂う汚泥の中にいたはずなのに今は違う。はっきりと違う。
 しぼみかけた優一の心に再び闘志が湧いてくる。
「分かったよ」
 そこまで発破かけられたら応えない訳にはいかないよな。美少女に応援されて……単純だな、俺。
 でも不思議と悪い気持ちではなかった。笑ってしまう。笑える余裕が生まれた。
 優一はパーカーのジッパーで開いた前を持つと軽く揺すって乱れを直した。
「俺はまだ負けていない。シオンがそう思ってくれるから」
 シオンが自分の戦う理由で良かった。
 操縦桿を軽く動かす。クオバディスが剣を構えた。
 そうだ。お前も傷なんてひとつも負ってなくて動けるんだ。攻撃が当たらない『だけ』で、デズワットが強い『だけ』で俺ひとりが勝手にイラついて諦めてた。反省だ。ごめんな。
 クオバディスはルーキス・エクステンドを普通の剣と同じ長さにして飛び立つと、メガガイスト・シエルラに勇敢に立ち向かっていく。
 戦意を取り戻した優一のクオバディスが迫り来るのを見下ろしながらデズワットは失望混じりのため息をついた。呆れていた。
 優一、分かっているのか。今の君は自分がさも万軍の味方を得たような気分だろうが現実は何も変わっていない。あの売女の言葉でちょっとその気になっているだけだ。すぐに後悔するぞ。
 デズワットが操縦桿を倒して優一を迎えうった。
 淡い光の剣と鍛え上げられた鋼の剣が音を立ててぶつかる。
 デズワットが顔を歪めた。
 太い柱を金属の棒で力いっぱい叩いたように手が痺れる。さっきの打ち合いとはまるで違っていた。
 だがデズワットは動じずに素早く操縦桿を動かして、シエルラに自分の描く動作を再現させる。帝国のメガガイストは切り結んだ状態から素早く剣を引いて、流れるように白いメガガイストの脇腹に必殺の一撃を叩き込もうとする。
 しかしこれは決まらなかった。クオバディスが光の剣でシエルラの剣をガッチリと受け止めている。見事な防御。クオバディスがシエルラの剣を弾くようにして振り上げて切り込んでくる。
 マズい。受け止められん。
 シエルラが回避する。紫の閃光がデズワットの視界を横切った。
 追撃が来ると思ったデズワットはすかさず警戒して正面に映る映像に目をやる。
 白い足。
 デズワットが認識するとほぼ同時にシエルラのコクピットが大きく揺れていた。呻き声が漏れる。優一はクオバディスの光剣を使わせず、あろうことか蹴りを入れてきた。
「まるで素人のような」
「そうだよ! 今日、初めて乗ったばかりでこれが二回目の素人だよ!」
 だが初めて当てた。これは優一にとって自信になり勢いづかせる。
 ここを攻撃すればデズワットはこう動くかもしれない。じゃあここは、あそこはどうだ、と積極的に攻撃を仕掛けていく。
 メーンアストラルである優一の思考を読み取りながらクオバディスのアストラルコアが動作として全身のボルの流れを制御して実行する。時にはアストラルコアの方から攻撃のパターンを優一に転写していた。
 白い鎧と赤い鎧が何度も剣をぶつけあう。
 考えろ、優一。大学の一般教養のコマでも新堂先生が言ってただろ。自分で調べて、自分で選んで、自分で考えて、そうやってレポートを書くんだ、って。大学に行く本当のメリットは大卒っていう肩書きじゃない。考える力を養えることだ、って。そういう力が社会に出た時に求められるって。とにかく考えろ。デズワットのシエルラに一撃を入れる方法を。
 激しい剣戟の中で優一は必死に勝ち筋を探った。デズワットの剣は恐ろしく速く鋭い。いくらクオバディスの性能が優れているからといって正面から押し切ることは出来ない。
 自分は優位には立っていない。まったくの劣勢。覆すには――
 考えがまとまらない内にシエルラが剣を振る。優一の反応が一瞬遅れた。
 光の剣で受け止めようとするが中途半端な防御は意味をなさない。空中でクオバディスの体勢が崩れる。
 シエルラの攻撃がもう一度くる。炸裂した横殴りの剣がクオバディスの胸部装甲を直撃した途端、激しい火花が夜の空を照らした。クオバディスは地上に墜落した。
 優一は全身をいまだかつて経験したことのない激痛が襲った。呼吸ができない。体にバラバラになりそうになる。地面に力いっぱい叩きつけてグシャグシャになった卵のイメージが頭の中を満たす。
 言葉が出ずに酸欠で喘ぐように漏れた声しか出ない。涙も出てくる。意識が彼方に飛びそうになった。
 それでも優一の脳は、優一に意識の消失という安らぎを与えてくれなかった。
 首が痛くなる程に歯を食いしばって、目をつぶって濡れる視界を晴らす。
 覆すには――
 優一はなんとか操縦桿を動かしてクオバディスを立たせる。クオバディスは光の剣を杖にしながら重苦しそうに体を起こした。しかし既にクオバディスの眼前にはシエルラが降りており剣を処刑人のように突きつけている。
「優一、もう一度聞くぞ。帝国へ来い」
 最後の勧告だった。
「一度、決めたことを、あっさり、翻すなんて……」
 優一は途切れ途切れになりながらも続ける。
「俺はイヤだな」
「残念だ」
 デズワットが操縦桿が押し込む。一部の狂いもなく鋼鉄の剣が正確にクオバディスの胸へと振り下ろされる。いかにクオバディスといえども今度の衝撃は耐えられない。中の優一は凄まじい衝撃で全身の骨が悲惨なことになるだろう。
 優一は眼前に迫る破壊の一撃を見ていた。シエルラの猛剣が届こうとする、その瞬間だった。
『Quo Vadis?』
 目の前に文字が現れる。
「俺を連れて行けクオバディス! やつの元へ!」
 答える同時に突然、クオバディスの足元で地面が大きく爆ぜた。朦々とした土煙の中から紫色の光が勢いよく飛び出す。
「ルーキス・エクステンド……スムース!」
 優一がそう呼んだ光の蛇は瞬く間に剣を握るシエルラの腕に喰らいついた。一瞬、時間が止まったようにシエルラの両腕が宙に浮かぶとやがて肘から地面に落ちた。ルーキス・エクステンドのボルの刃がメガガイストの腕を切断した結果だった。デズワットは無くなったメガガイストの腕から先を凝視した後にクオバディスを見た。
「いつからだ?」
「何が」
「私をペテンにかけたことだ」
「お前にぶっ飛ばされて地面に叩きつけられた時だよ。意表を突くにはこれしかないかなって」
「光の剣を杖のようにして立ち上がったのは演出だな。自分が手負いだと目立たせる為であると同時に不意打ちを悟らせないための」
「デズワットは俺に御執心だからな。地面に埋まっている光の剣よりも如何にもズタボロですって感じの俺のほうが気になるだろ?」
 体勢を立て直すだけならわざわざ四肢を使って起き上がろうとしなくても浮遊すればいいはずだが優一はあえて剣を支えにして起き上がるという人間的な動きをクオバディスに実行させた。後は地中に伸ばした光の蛇でタイミングを見計らって攻撃する。デズワットはそれに引っかかってしまった。
「どうする?」
「何がだ」今度はデズワットが返した。
「シエルラの両手、武器は使えない。それでもまだ俺を捕らえるつもりか?」
「無理だな。君の力を甘くみていた私の慢心だ」
 そして、それを引き出したのは――
 デズワットは眼下に映る紫の髪の罪人に目をやる。私は二人の力を甘くみた。ならば敗北は当然か。
 両腕を失ったメガガイストが宙に浮かぶ。
「優一! こうなってしまっては私は事の次第を伝えなければならん。帝国に招き入れるはずの君が反乱軍に加勢する。この意味、分かるな」
「ああ……たぶんね」
「では、またいつか」
「敗者はさっさと去りなさい! ベーッ!」
 シオンはシエルラに向かって舌を出して、中指を立ててみせる。
「うわ……お姫様がそれやるのかよ」少し引く優一。
「?」意味が分からないデズワット。
 やがて赤いシエルラが飛び去っていく。優一はシエルラがボル・シーアの中に消えていくのも見届けると愛機の胸部装甲を開いて外へ顔を出した。
「よくぞデズワットを退けました。上原優一、礼を言います」
 優一の姿をみたシオンは笑顔をみせながら頭を下げた。
 その優雅な所作に優一は小さく息を漏らした。頑張った甲斐があったな。
「ありがと。なあ、シオンさん」
「はい」
「あのハンドサインはミスティさんから?」
「相手を侮蔑するときに使うものだと。相手は帝国のデズワット・ロウです。あれくらいはしても良いでしょう」
「まあ、ほどほどにな。とりあえずこれから何処に行けばいい?」
「ここから東へ行くとテクタ領に陣をおいている反乱軍の拠点があります。そこへ行きましょう」
「分かった。クオバディスの手に乗ってください」
 優一が操縦席に戻り、操縦桿を前に滑らせる。クオバディスは腰をかがめて、シオンの前に両手を差し伸べる。シオンがメガガイストの両掌に移ると続けて優一が乗ってきたガドローも飛び乗った。
「こいつ、連れて行っても?」
「ガドローは背を預けた者に忠実です。これも縁でしょう。。優一、よい友人を得ましたね」
 シオンがガドローの肌を撫でるのを見ると優一はクオバディスの胸部装甲を閉じた。そして問いかけられる。
『Quo Vadis?』
 分かってるだろ。
 優一は口に出すことなく行き先を愛機に告げる。
 白磁のメガガイストはゆっくりと浮かび、シエルラの飛び去った方とは逆を飛んで行く。
 紫天海ボル・シーアが色づいてくる。夜明けになろうとした。
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