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第一章
21 決死の覚悟
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ギルドを出たあたしは、仕入れた情報と出来上がった協力体制を早く話してあげたくて、寄り道もせずまっすぐ宿に向かった。
これなら引きずってでもランディも連れていけばよかったわねぇ。彼が持っている情報もあるはずだし、そうすればもっと色々わかったかもしれないもの。
「レイ様、おかえりなさいませ」
「ただいま。鍵をくださいな」
「はい、こちらをどうぞ」
「ありがとう」
受付でいつもにこやかに対応してくれるこの彼。さっき女装姿のランディを連れて出入りしたとき、ストールにかけた魔法のおかげで全く気付かなかったみたいで、おかげで安心して宿から出られたのよね。
ランディも、行きは自分の姿に打ちひしがれていてそんなことは気にも留めていなかったし、帰りは帰りで『部屋にいるはずの猫が何故か外から戻ってきた』という謎現象を起すのはまずいと説得して、そのままの姿で受付はスルーできたんだけど……。
やっぱり無断で人を連れ込むなんて気が引けるのよねぇ。いちいち猫姿で出入りさせるのも着替えが手間だし(なにしろ全裸)かと言って、今はランディの素性を誰かに知られるのは避けたいところ。
仕方ないわね。後で猫ランディを連れ出して、人ランディで戻って同室にしてもらいましょう。
さて、ランディはまだ拗ねてるかしらね?
結構時間かかったから、寝ちゃってるかもしれないわね。
「ただいまぁ」
「お帰り。随分遅かったな」
「ごめんなさいね。退屈だったでしょ」
「いや、さっきまで寝てた」
「ふふっやっぱり」
ランディは窓際のカウチでごろ寝してみたい。窓を開け放って、寒くなかったのかしら。
はぁ、でもよかったわ。寝て起きて気分もリセットしたみたいで、さっきみたいな拗ね拗ねモードじゃなくなってる。
じゃあ早速話をしましょうかと、カウチの側に椅子を持って向かおうとしたら、ランディのおなかからギュウウウウ、と盛大な音が聞こえた。
「あははっ! ちょっとやだすんごい音ねぇ。お昼あんなに食べたじゃないの」
「……成長期だからな」
「そうなの!? もう十分立派なのにどんだけ育つ気よ!」
「獣人は死ぬまで成長期だぞ」
「へえぇそうなんだ、凄いわねぇ。でもそう言われてみると確かに、あのジギーさんの育ちっぷりを見れば納得だわね」
「ジギー? 野牛族のジギーか?」
「あら知ってる? やっぱり有名な方なのねぇ。実は昨日今日たまたま見かけたんだけど、物凄い大柄な人でビックリしたわよ」
「あれは別格だ。種族が種族だし、俺はあそこまでは育たない」
「そうなのね、そういうこともまだ全然知らないから、面白いわぁ」
種族によって体格や得意分野も違うんですって。ジギーさんは野牛と言うだけあって本当に凄かったのよねぇ……。
ランディがあそこまで育たなくてよかったわ。さすがにちょっと圧が強すぎるもの。
やだ想像しちゃった。無理無理ダメよ!! そのままのあなたでいてちょうだい!!
「っふ、ははははっ、レイって結構単純だなぁ」
「なぁにいきなり」
「死ぬまで成長期とか、そんなの嘘に決まってるだろ」
「……は!?」
なんですって! いきなり笑いだしたと思ったら嘘、嘘って。
えぇぇ!? やっだぁかんわいい~っ!!
「さっき騙した仕返しだ」
「んまぁ!」
ちょっとなぁに今のイタズラな笑顔!
もうそれだけでかわいい仕返しだって全然許せちゃうわねっ!!
はぁ、ランディの言う通り、あたしって本当チョロくて単純よねぇ……。
まぁ今に限っては満更でもないんだけどね。
「ふふ、あんたほんっとかわいいわねぇ」
「かわいいなんて歳じゃないぞ」
「いくつなの?」
「26だ」
「わっか! はあぁ~いいわねぇ……」
「そういうレイはいくつなんだ?」
「んふ? オンナに年齢を聞くなんて野暮な坊やねぇ」
そんなの企業秘密に決まってるじゃないの。
ダメよそんな顔したって、これだけはダメったらダメ!
「そんなことより、先にごはんにしましょうか。外に出たかったからちょうどいいわ。そろそろ屋台も代わる頃でしょうし」
「……もうあの格好はしないからな」
「ふふっ、わかってるわよ。マントだけあたしのを使ってちょうだいね」
「わかった」
「あ、そうそう、出るときは猫姿でお願いね。帰りは人姿で、宿泊手続きをしましょ」
「俺もここに泊まっていいのか?」
「もちろんよ」
さぁ行くわよ、と猫姿のランディを連れてまずは路地裏でお着替え。神様装備のマントを渡してフードを被せれば、耳も隠せてちょうどいいわね。
ネイビーの厚手の生地に銀糸の刺繍が入った、あたしお気に入りの素敵なマントもよく似合うわぁ。
尻尾は背中に添わせてインナーの中へ仕舞わせる。窮屈かもしれないけれど、今だけだから我慢してね。
今度はさっきの隠蔽より弱めの魔法をかけて、人から見えるようにしたの。でないとあたしひとりで喋ってるヤバい奴だと思われちゃうからね!
もしかしたらもっとマシな魔法の使い方があるのかもしれないけれど、ダメねぇ経験不足だわ。隠そう隠そうとばかりしちゃうから、隠蔽系ばかり思い浮かぶの。
あれだけの魔法を覚えたんですもの、もっと多彩な使い方ができると思うのよね。
……今度婆さんに聞いてみましょうか。
「似合うのはいいんだけど、なんかどこぞのお忍び王子様みたいねぇ」
「……嬉しくない」
「ふふっ、こんな素敵な子とデートできるなんて役得だわ。さ、行きましょ」
そして夕暮れの中、出始めの夕食屋台であたしは軽めに、ランディはがっつり食べておなかを満たし、夜食用にもいくつか見繕って、宿へ戻って追加の宿泊手続きをした。
ランディが何泊になるかまだわからないと告げたら、支払いはチェックアウト時でいいって言ってもらえたの。
これってやっぱりギルドの口添えのおかげよね? 普通ないわよね? 本当ありがたいわぁ。
「さて、話さなきゃいけないことがたーっくさんあるのよ」
「そうだな。……俺も話すことと、それからレイに聞きたいことが山のようにある」
「でしょうねぇ。じゃああたしから、まずはひとつ嬉しいお知らせよ」
今日ギルドで偶然居合わせた、傷を負った四ツ星のおふたりのことから話し始める。
そのうちひとりはジギーさんで、ランディと似た刃物傷、しかもかなりの深手を負っていて、あたしが魔法で治したことも。
「レイの魔法は本当にどうなってるんだ? ふたり一気に治癒とか絶対おかしい」
「あーっと、それも後でちゃんと話すわ。それでね、ふたりを治した見返りを渡すって呼ばれて、冒険者ギルドのギルマスさんと色々お話をしたの。それで、今後ギルドに力を貸してもらえることになったのよ」
「ギルドの力? それが見返りか?」
「えぇそうよ。ジギーさんを襲ったのも、もしかしたら例の獣人狩りじゃないかって話になってね。まぁまだ推測なんだけど、本人が目覚めたら会わせてくれるっていうし、あんたの話とも擦り合わせればもっと色々わかりそうじゃない?」
「……それ、もしかして俺のためか?」
あら察しのいいこと。でも気にしないでいいのよ。あたしにはもうひとつ別の目的があるんだし。ついでよついで。
あんたに恩を着せようだなんて思ってないわ。
「ギルマスさんもランディの話を聞きたがっていたから、明日は一緒に行きましょ?」
「あぁ、わかった。ありがとう、レイ」
「ついでだからいいのよ。彼らには口外禁止の呪いもかけてあるから、安心してね」
「呪い!? そんなことまで出来るのか!?」
「やぁね言葉の綾よ。さすがに呪いなんかは……」
ない。ないわよ。
使い方によってはそうかもしれないけど使わなければ呪いじゃないわ!
んもうショタ神様ったら、どうしてこんな禁呪まであの本に書いちゃったのよ……。
「あたしの魔法はね、メルネ婆さん経由で教えてもらったものなのよ。こっちの世界の『普通』を知る前に『普通じゃない』やり方で身に付けたから、ちょっとおかしいのかもしれないけれど」
「いや、ちょっとどころかかなりおかしいぞ?」
「不可抗力よ」
そしてあたしは、この世界へ来ることになった経緯から神様のこと、落ち人探しや素材探しをしていて、メルネ婆さんに出会ったのは偶然だったけど、ここにも神様が関わっていたことまで全部話したわ。
魔力量や遠投なんかはあたしにも理由がわからないと言ったら、出会い頭の裏拳の威力を切々と訴えられちゃったわ。
相当痛かったみたい。ごめんなさいね。
ランディは話に驚きつつも、時々相槌をうったり軽く疑問を挟んだりしながら、最後までちゃんと話を聞いてくれた。
「これでもう話してないことはないかしらね」
「いや、まだある」
「えっ? なぁに?」
「歳」
「海に投げ捨てるわよあんた……」
「ははっ、冗談だ。しかしそうか、レイにそんな秘密があったなんてな」
「隠すつもりはなかったわよ。タイミングがなかったじゃない。あたしは飲んでたし、あんたは逃げちゃうし」
ねぇ? と見遣るとさっと目を反らしやがったわ。
まったくもう、かわいいんだから。
「落ち人は強い『ギフト』持ちが多い、だからレイもそれが理由なんだと思ってた」
「婆さんが言うには、あたしのそれはかなり特殊みたいだけどね」
「【真眼】だったか」
「えぇ。これのおかげで今朝あんたの居場所もわかったのよ」
「なら……、いや」
「姪っ子ちゃんの行方が知りたい?」
「…………あぁ」
ランディはまた苦しそうに顔を顰めてしまった。
だけどやっぱりあたしには、その方法がわからない。
力になってあげたいのに、それを出来る力があるはずなのに出来ないなんて。
「ごめんね」
「謝らないでくれ。レイが悪いんじゃない」
「明日、また婆さんのとこにも行きましょう。あたしもせっかくこんな『ギフト』があるのに、あんたの力になってやれないのが歯痒いのよ」
「そんなことない。偶然出会っただけの俺にこんなにしてくれて、本当に感謝してるんだ」
「そう? ならいいけど」
「どうしてここまでしてくれるんだ? レイには何のメリットもないのに」
「ふふ、バカねぇ。あたしは常にイイ男の味方なのよ?」
メリットもなにも、したいからしてるだけよ。
せっかく出会ったんですもの。袖振り合うも多生の縁って言うじゃない?
「な、なぁ……レイ」
「なぁに?」
「俺そ、その……そ、……添い寝、する、か?」
「んふっ!? あはははははっ!」
決死の覚悟を決めましたみたいな顔でなぁにを言い出すかと思えばこの子ったらもう!
バッカねぇ、本当おバカ。
「笑うな……」
「んふふ、したいならそっちからいらっしゃい?」
あたしは今ので大満足だわ。
んもうランディの複雑そうな顔ったら! 本当にもう、かわいくてたまんないわ。
これなら引きずってでもランディも連れていけばよかったわねぇ。彼が持っている情報もあるはずだし、そうすればもっと色々わかったかもしれないもの。
「レイ様、おかえりなさいませ」
「ただいま。鍵をくださいな」
「はい、こちらをどうぞ」
「ありがとう」
受付でいつもにこやかに対応してくれるこの彼。さっき女装姿のランディを連れて出入りしたとき、ストールにかけた魔法のおかげで全く気付かなかったみたいで、おかげで安心して宿から出られたのよね。
ランディも、行きは自分の姿に打ちひしがれていてそんなことは気にも留めていなかったし、帰りは帰りで『部屋にいるはずの猫が何故か外から戻ってきた』という謎現象を起すのはまずいと説得して、そのままの姿で受付はスルーできたんだけど……。
やっぱり無断で人を連れ込むなんて気が引けるのよねぇ。いちいち猫姿で出入りさせるのも着替えが手間だし(なにしろ全裸)かと言って、今はランディの素性を誰かに知られるのは避けたいところ。
仕方ないわね。後で猫ランディを連れ出して、人ランディで戻って同室にしてもらいましょう。
さて、ランディはまだ拗ねてるかしらね?
結構時間かかったから、寝ちゃってるかもしれないわね。
「ただいまぁ」
「お帰り。随分遅かったな」
「ごめんなさいね。退屈だったでしょ」
「いや、さっきまで寝てた」
「ふふっやっぱり」
ランディは窓際のカウチでごろ寝してみたい。窓を開け放って、寒くなかったのかしら。
はぁ、でもよかったわ。寝て起きて気分もリセットしたみたいで、さっきみたいな拗ね拗ねモードじゃなくなってる。
じゃあ早速話をしましょうかと、カウチの側に椅子を持って向かおうとしたら、ランディのおなかからギュウウウウ、と盛大な音が聞こえた。
「あははっ! ちょっとやだすんごい音ねぇ。お昼あんなに食べたじゃないの」
「……成長期だからな」
「そうなの!? もう十分立派なのにどんだけ育つ気よ!」
「獣人は死ぬまで成長期だぞ」
「へえぇそうなんだ、凄いわねぇ。でもそう言われてみると確かに、あのジギーさんの育ちっぷりを見れば納得だわね」
「ジギー? 野牛族のジギーか?」
「あら知ってる? やっぱり有名な方なのねぇ。実は昨日今日たまたま見かけたんだけど、物凄い大柄な人でビックリしたわよ」
「あれは別格だ。種族が種族だし、俺はあそこまでは育たない」
「そうなのね、そういうこともまだ全然知らないから、面白いわぁ」
種族によって体格や得意分野も違うんですって。ジギーさんは野牛と言うだけあって本当に凄かったのよねぇ……。
ランディがあそこまで育たなくてよかったわ。さすがにちょっと圧が強すぎるもの。
やだ想像しちゃった。無理無理ダメよ!! そのままのあなたでいてちょうだい!!
「っふ、ははははっ、レイって結構単純だなぁ」
「なぁにいきなり」
「死ぬまで成長期とか、そんなの嘘に決まってるだろ」
「……は!?」
なんですって! いきなり笑いだしたと思ったら嘘、嘘って。
えぇぇ!? やっだぁかんわいい~っ!!
「さっき騙した仕返しだ」
「んまぁ!」
ちょっとなぁに今のイタズラな笑顔!
もうそれだけでかわいい仕返しだって全然許せちゃうわねっ!!
はぁ、ランディの言う通り、あたしって本当チョロくて単純よねぇ……。
まぁ今に限っては満更でもないんだけどね。
「ふふ、あんたほんっとかわいいわねぇ」
「かわいいなんて歳じゃないぞ」
「いくつなの?」
「26だ」
「わっか! はあぁ~いいわねぇ……」
「そういうレイはいくつなんだ?」
「んふ? オンナに年齢を聞くなんて野暮な坊やねぇ」
そんなの企業秘密に決まってるじゃないの。
ダメよそんな顔したって、これだけはダメったらダメ!
「そんなことより、先にごはんにしましょうか。外に出たかったからちょうどいいわ。そろそろ屋台も代わる頃でしょうし」
「……もうあの格好はしないからな」
「ふふっ、わかってるわよ。マントだけあたしのを使ってちょうだいね」
「わかった」
「あ、そうそう、出るときは猫姿でお願いね。帰りは人姿で、宿泊手続きをしましょ」
「俺もここに泊まっていいのか?」
「もちろんよ」
さぁ行くわよ、と猫姿のランディを連れてまずは路地裏でお着替え。神様装備のマントを渡してフードを被せれば、耳も隠せてちょうどいいわね。
ネイビーの厚手の生地に銀糸の刺繍が入った、あたしお気に入りの素敵なマントもよく似合うわぁ。
尻尾は背中に添わせてインナーの中へ仕舞わせる。窮屈かもしれないけれど、今だけだから我慢してね。
今度はさっきの隠蔽より弱めの魔法をかけて、人から見えるようにしたの。でないとあたしひとりで喋ってるヤバい奴だと思われちゃうからね!
もしかしたらもっとマシな魔法の使い方があるのかもしれないけれど、ダメねぇ経験不足だわ。隠そう隠そうとばかりしちゃうから、隠蔽系ばかり思い浮かぶの。
あれだけの魔法を覚えたんですもの、もっと多彩な使い方ができると思うのよね。
……今度婆さんに聞いてみましょうか。
「似合うのはいいんだけど、なんかどこぞのお忍び王子様みたいねぇ」
「……嬉しくない」
「ふふっ、こんな素敵な子とデートできるなんて役得だわ。さ、行きましょ」
そして夕暮れの中、出始めの夕食屋台であたしは軽めに、ランディはがっつり食べておなかを満たし、夜食用にもいくつか見繕って、宿へ戻って追加の宿泊手続きをした。
ランディが何泊になるかまだわからないと告げたら、支払いはチェックアウト時でいいって言ってもらえたの。
これってやっぱりギルドの口添えのおかげよね? 普通ないわよね? 本当ありがたいわぁ。
「さて、話さなきゃいけないことがたーっくさんあるのよ」
「そうだな。……俺も話すことと、それからレイに聞きたいことが山のようにある」
「でしょうねぇ。じゃああたしから、まずはひとつ嬉しいお知らせよ」
今日ギルドで偶然居合わせた、傷を負った四ツ星のおふたりのことから話し始める。
そのうちひとりはジギーさんで、ランディと似た刃物傷、しかもかなりの深手を負っていて、あたしが魔法で治したことも。
「レイの魔法は本当にどうなってるんだ? ふたり一気に治癒とか絶対おかしい」
「あーっと、それも後でちゃんと話すわ。それでね、ふたりを治した見返りを渡すって呼ばれて、冒険者ギルドのギルマスさんと色々お話をしたの。それで、今後ギルドに力を貸してもらえることになったのよ」
「ギルドの力? それが見返りか?」
「えぇそうよ。ジギーさんを襲ったのも、もしかしたら例の獣人狩りじゃないかって話になってね。まぁまだ推測なんだけど、本人が目覚めたら会わせてくれるっていうし、あんたの話とも擦り合わせればもっと色々わかりそうじゃない?」
「……それ、もしかして俺のためか?」
あら察しのいいこと。でも気にしないでいいのよ。あたしにはもうひとつ別の目的があるんだし。ついでよついで。
あんたに恩を着せようだなんて思ってないわ。
「ギルマスさんもランディの話を聞きたがっていたから、明日は一緒に行きましょ?」
「あぁ、わかった。ありがとう、レイ」
「ついでだからいいのよ。彼らには口外禁止の呪いもかけてあるから、安心してね」
「呪い!? そんなことまで出来るのか!?」
「やぁね言葉の綾よ。さすがに呪いなんかは……」
ない。ないわよ。
使い方によってはそうかもしれないけど使わなければ呪いじゃないわ!
んもうショタ神様ったら、どうしてこんな禁呪まであの本に書いちゃったのよ……。
「あたしの魔法はね、メルネ婆さん経由で教えてもらったものなのよ。こっちの世界の『普通』を知る前に『普通じゃない』やり方で身に付けたから、ちょっとおかしいのかもしれないけれど」
「いや、ちょっとどころかかなりおかしいぞ?」
「不可抗力よ」
そしてあたしは、この世界へ来ることになった経緯から神様のこと、落ち人探しや素材探しをしていて、メルネ婆さんに出会ったのは偶然だったけど、ここにも神様が関わっていたことまで全部話したわ。
魔力量や遠投なんかはあたしにも理由がわからないと言ったら、出会い頭の裏拳の威力を切々と訴えられちゃったわ。
相当痛かったみたい。ごめんなさいね。
ランディは話に驚きつつも、時々相槌をうったり軽く疑問を挟んだりしながら、最後までちゃんと話を聞いてくれた。
「これでもう話してないことはないかしらね」
「いや、まだある」
「えっ? なぁに?」
「歳」
「海に投げ捨てるわよあんた……」
「ははっ、冗談だ。しかしそうか、レイにそんな秘密があったなんてな」
「隠すつもりはなかったわよ。タイミングがなかったじゃない。あたしは飲んでたし、あんたは逃げちゃうし」
ねぇ? と見遣るとさっと目を反らしやがったわ。
まったくもう、かわいいんだから。
「落ち人は強い『ギフト』持ちが多い、だからレイもそれが理由なんだと思ってた」
「婆さんが言うには、あたしのそれはかなり特殊みたいだけどね」
「【真眼】だったか」
「えぇ。これのおかげで今朝あんたの居場所もわかったのよ」
「なら……、いや」
「姪っ子ちゃんの行方が知りたい?」
「…………あぁ」
ランディはまた苦しそうに顔を顰めてしまった。
だけどやっぱりあたしには、その方法がわからない。
力になってあげたいのに、それを出来る力があるはずなのに出来ないなんて。
「ごめんね」
「謝らないでくれ。レイが悪いんじゃない」
「明日、また婆さんのとこにも行きましょう。あたしもせっかくこんな『ギフト』があるのに、あんたの力になってやれないのが歯痒いのよ」
「そんなことない。偶然出会っただけの俺にこんなにしてくれて、本当に感謝してるんだ」
「そう? ならいいけど」
「どうしてここまでしてくれるんだ? レイには何のメリットもないのに」
「ふふ、バカねぇ。あたしは常にイイ男の味方なのよ?」
メリットもなにも、したいからしてるだけよ。
せっかく出会ったんですもの。袖振り合うも多生の縁って言うじゃない?
「な、なぁ……レイ」
「なぁに?」
「俺そ、その……そ、……添い寝、する、か?」
「んふっ!? あはははははっ!」
決死の覚悟を決めましたみたいな顔でなぁにを言い出すかと思えばこの子ったらもう!
バッカねぇ、本当おバカ。
「笑うな……」
「んふふ、したいならそっちからいらっしゃい?」
あたしは今ので大満足だわ。
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