34 / 47
第一章
23 目覚めた四ツ星
しおりを挟む
碌でなし凄腕魔女、もといメルネ婆さんをもってしても、ランディの姪っ子ちゃんが今現在どこにいるのかはわからなかったみたいで、恐らくはかなりの隠蔽効果がある魔道具でも使われているんだろうと、珍しく歯噛みして語った。
そしてそれはつまり、既に愛好家の手に渡ってしまっている可能性が高いということを示している。
「そんな、婆さんにもわからないなんて」
「お前さんならできるかも知れんがね、ただ、やっちまうと明日起きられるかは保証できんよ」
「それだけ精神力を削られるってこと……?」
「ヒヒッ、そうさ。その拐い屋なり密売屋なりを取っ捕まえて聞き出した方が確実さね」
悔しいけれど、確かに婆さんの言う通りだわ。
せっかく【眼】の使い方が広がったのにまた役に立てないなんてと、そう思う気持ちも確かにある。
でもランディの気持ちを思えば、今はそんなことに気をとられている場合じゃないのよ。
「ランディ、ギルドに行きましょう」
「……あぁ」
「色々ありがとね婆さん、今度うちの神様からたっぷり兎の脚いただいてくるから!」
「ヒヒヒッそんなにゃいらんよ。あぁ、ついでにこいつも持っていきな」
そう言ってメルネ婆さんが渡してきた袋には、どこか見覚えのある石が編み込まれた革の輪っかが数本。
ええと、これってもしかして、あのときの数珠じゃない?
「なぁにこれ?」
「お前さんはちっとも人の言うことを聞かんな。無意識にでも使えるよう常に視てろと言ったろうに」
「え、あぁ、ごめんなさい。まだ慣れなくてつい」
「はン、ほれほれ行った行った。図体でかいのがふたりもいたら狭っ苦しくてしょうがないよ」
「ちょっ、いきなりなんなのよもう!」
ぺしぺしお尻を叩かれながら屋敷を追い出されたあたし達は、なんだかよくわからないままとりあえずギルドへと向かい始めた。
歩きながら、渡された袋の中から編まれた革紐を一本取り出して視て、あたしは思わず吹き出してしまった。
「ほんっと素直じゃない婆さんねぇ」
「何だったんだ、それ」
「話具よ」
あのとき一粒一粒入念にチェックしてたかと思えば、まさか数珠をバラしてこんな使い方をするなんてね。
魔力の通りがいい石を選んで、そこに魔術が込められていたの。
目の前でこれを視られるのが照れ臭かったのかしら。やぁねぇ婆さんのツンデレなんてどこにも需要ないわよ。
「思ったよりいい人、なんだな?」
「ふふっ、捻くれてるけどねぇ」
これはありがたく使わせてもらうわね、婆さん。
あたし達ふたりと、それからギルマスとティルに渡してもまだ何本かある。
チャスラオ製の通信具の使用を控えたい今、これは本当に助かるわ。ていうか、あのときの話を聞いてたってのがまた怖いんだけどねぇ。
「念話も出来そうねぇこれ。はいランディ、一本取って」
「どれでもいいのか?」
「えぇ、石が違うだけでどれも一緒よ」
「なら……これがいい」
そう言ってランディが選んだのは、瑪瑙かしら? 深い赤と茶色の縞が入った石の付いたものだった。
「それにする? こっちの紫色のやつなんかも似合いそうじゃない」
「いや、これがいい」
「そう? 赤が好きなの?」
「レイの色だろ」
「んま!」
やっだもうなんてこと言うのこの子ったら!
深い意味なんてなさそうにケロッとした顔しちゃって憎たらしいわね!
「レイが帰ってしまっても、これがあれば心強い」
「んもぉ~あんたほんっとかわいいわねぇ!」
「ぶっ、ちょっ、レイ!」
もう思わずランディを抱き締めてぐりぐりすりすりしちゃったわよ。
なんて嬉しいこと言ってくれるのかしら。泣いちゃいそうになったじゃないの!
「今日入れてあと三日よ。できる限りのことはするから、頑張りましょうね!」
「あぁ、頼りにしてる」
お互い腕に話具を着けて、再びギルドまでの道を歩き出す。
なんだか顔がにやけちゃうわ。ほんとにもう、あたしそういうの弱いんだからやめてちょうだい。
「あ、レイ!」
「ティル、今日はこっちなの?」
冒険者ギルドに着くと、ちょうど中からティルが顔を出したところだった。
普段は総合ギルドに詰めているはずなのに、どうしたのかしら?
「ちょうどギルマスに遣いを頼まれたところだ。入れ違いにならなくてよかった」
「あたしに用事?」
「おう、今朝ナイルとジギーが目を覚ましたんだ」
「まぁそう! よかったわぁ」
「んで、ふたりともレイと話がしたいって」
「いいの? お体に障らない?」
「本人達がいいって言ってんだからいいだろ。ギルマスもいるし」
「そう、じゃあお邪魔するわ。おふたりは今どちらに?」
「流石に起きたばっかだからまだ治療所だ」
「わかったわ。あ、そうだわティル、こちらが昨日お話ししたランディよ」
「あぁ、大猫族の。俺は狐族のティルだ。よろしくな」
「ランディーニだ。よろしく」
明るい赤茶の狐ティルと黒猫のランディが軽く握手を交わして微笑んだ。
んん~ふたり並んだ絵面の素晴しさったらないわねぇ~
「レイ、レイ。顔がひどい」
「うるさいわよティル、もうちょっとそうしてなさいな」
「いいから行くぞ」
「あんもう」
そしてティルに連れられて昨日も訪れた治療所に入ると、奥に並んだベッドに腰かける大柄なふたりと、その前にギルマスが座って話をしているところだった。
なにやら深刻そうな顔をしているけれど、何かわかったのかしら。
「早かったなティル」
「ちょうどレイが来てくれたんで」
「そうか。早速だがレイ、こいつらが話をしたいそうだ」
「えぇ」
「ナイルだ」
「俺はジギーだ」
「はじめまして。レイと申します」
ふたりから握手を求められ、それぞれと交わす。ゴツくて分厚くて、力強い手をしてるわねぇ。
間近で起き上がってる姿を見ると、やっぱりこのふたりの存在感は物凄い。
そこにギルマスまで加わって、割と広い治療所のはずなのにやけに狭く感じちゃうわ。
「あんたが俺達を助けてくれたんだってな」
「感謝する。何か礼をさせてくれるか」
「いえそんな。もうギルドから報酬もいただいてますし」
「それじゃ俺達の気が済まない。何か出来ることはあるか?」
「そうだぞ。命を救ってもらっておいて何も返さないなどありえん」
左右からぐいっと顔を寄せられて、思わず仰け反って一歩後ずさってしまったわ。
圧! 圧がすごいから! なんかここだけ空気薄くなってない!?
「えぇと……じゃあ、昨日のお話を聞かせてくださいません?」
「それは構わないが」
「あぁレイ、あの件はまだこいつらには話してない」
「あらそうだったの。じゃあ彼のこともまだよね。先に紹介するわ、大猫族のランディよ」
「ランディ? ランディーニ!? やっぱお前か!」
「ジギー、知り合いか?」
「昔ちょっとな」
え、そうなの!? 昨日知ってる風ではあったけど、まさか知り合いだったなんて。
ジギーさんはしげしげとランディの顔を覗きこみ、逆にランディはすすすと斜め下を向いてしまった。
あら? どうしちゃったのよ?
「でっかくなったなぁラン坊!」
「……それやめろ」
「わはは! いっちょ前になりやがって、ほらこっち来い」
「いいってばうわっ、大人しく寝てろよ!」
「わはははは!」
あらあらまぁまぁ随分仲良しさんだこと。
ジギーさんてばランディの首根っこ捕まえてぐりぐりかわいがってらっしゃるわ。
やぁだランディ子供みたいな顔しちゃって!
「角! 痛い!」
「うはは! いやぁラン坊にこんなとこで会えるなんてなぁ! おっちゃん嬉しいぞ!」
「離せってもう! あんたも相変わらずだな!」
どうやら、昔ジギーさんが旅の冒険者だった頃にランディのいる国を訪れたことがあって、そこで知り合ったらしいわ。
逞しく強いジギーさんに憧れたランディは彼に懐き、冒険者のいろはや武器の扱い方なんかを教わったそうなの。
ジギーさんもランディを気に入ってしばらくその町に留まり、近所の子供達も一緒によく稽古をつけていたんですって。
「いやぁ懐かしい」
「そんな繋がりがあったのねぇ。いいお話じゃない。なんでそんな顔してんのよあんた」
「……別に」
「連れてってやんなかったから拗ねてんだよ」
「ジギー!!」
「わはははは!」
なんだか豪快な方ねぇジギーさん。ナイルさんは苦笑いしてるし、いつもこうなのかしらね。
このふたりはそれぞれソロの冒険者だけど、たまに強い魔獣の討伐依頼があると、一緒に受けて旅に出たりするんですって。
今回はその旅から帰ってきたところで、帰還途中で見かけた怪しい連中──恐らく例の拐い屋が、町でも不審な動きをしているのを見かけ、追っていたところを返り討ちにあってしまったんだそう。
「不覚だった。ありゃ相当な魔術師が仲間にいる」
「魔術師? 剣士ではなくか」
「あぁ。どんな魔法かはわからんが、魔力を吸いとられて動きを封じられちまったんだ」
「連中、外でも中でもコソコソしていてな、最初はただのゴロつきかと思ったんだが」
「拐い屋、か」
「……ランディを探していたのかもしれないわね」
「多分な」
「ラン坊、何かあったのか」
「……実は」
ここでランディが、今の状況を詳しく話して聞かせた。姪が拐われこの国へ来たことと、探りを深めたところで、似た手段でランディも襲われたこと。
そしてあたしも、婆さんのおかげで拐い屋と密売屋のアジトは掴めたことを話した。
「もうわかったのか!?」
「凄ぇ……さすが裏通りの魔女……」
「これがその地図よ」
「マジか……島のどれかにいることまでは掴んでいたが、どの島かまではわからなかったんだが」
「いくつかの島を転々としているらしいけど、今回はこの島だそうよ」
「こっちの丸は?」
「それは拐い屋のアジト」
「……おいおいマジか」
北のレジナステーラ大陸はロキシタリア大陸の北東にあって、ロキシタリア大陸西部で拐った子供を大陸南部のここで受け渡し、魔族の国デノメアラを大きく迂回した海路でレジナステーラまで運ばれる。
その手法はわかっていても、アジトやルートの特定が出来ずに国も梃子摺っていると、ギルマスは教えてくれた。
「でかしたレイ!」
「ラン坊も、よく頑張ったな」
「俺達も協力する。やられっぱなしじゃ男が廃る」
こうして心強い味方がまた増えて、あたし達は連中を追い詰める計画を立て始めた。
見てらっしゃい、絶対姪っ子ちゃんは返してもらいますからね!
そしてそれはつまり、既に愛好家の手に渡ってしまっている可能性が高いということを示している。
「そんな、婆さんにもわからないなんて」
「お前さんならできるかも知れんがね、ただ、やっちまうと明日起きられるかは保証できんよ」
「それだけ精神力を削られるってこと……?」
「ヒヒッ、そうさ。その拐い屋なり密売屋なりを取っ捕まえて聞き出した方が確実さね」
悔しいけれど、確かに婆さんの言う通りだわ。
せっかく【眼】の使い方が広がったのにまた役に立てないなんてと、そう思う気持ちも確かにある。
でもランディの気持ちを思えば、今はそんなことに気をとられている場合じゃないのよ。
「ランディ、ギルドに行きましょう」
「……あぁ」
「色々ありがとね婆さん、今度うちの神様からたっぷり兎の脚いただいてくるから!」
「ヒヒヒッそんなにゃいらんよ。あぁ、ついでにこいつも持っていきな」
そう言ってメルネ婆さんが渡してきた袋には、どこか見覚えのある石が編み込まれた革の輪っかが数本。
ええと、これってもしかして、あのときの数珠じゃない?
「なぁにこれ?」
「お前さんはちっとも人の言うことを聞かんな。無意識にでも使えるよう常に視てろと言ったろうに」
「え、あぁ、ごめんなさい。まだ慣れなくてつい」
「はン、ほれほれ行った行った。図体でかいのがふたりもいたら狭っ苦しくてしょうがないよ」
「ちょっ、いきなりなんなのよもう!」
ぺしぺしお尻を叩かれながら屋敷を追い出されたあたし達は、なんだかよくわからないままとりあえずギルドへと向かい始めた。
歩きながら、渡された袋の中から編まれた革紐を一本取り出して視て、あたしは思わず吹き出してしまった。
「ほんっと素直じゃない婆さんねぇ」
「何だったんだ、それ」
「話具よ」
あのとき一粒一粒入念にチェックしてたかと思えば、まさか数珠をバラしてこんな使い方をするなんてね。
魔力の通りがいい石を選んで、そこに魔術が込められていたの。
目の前でこれを視られるのが照れ臭かったのかしら。やぁねぇ婆さんのツンデレなんてどこにも需要ないわよ。
「思ったよりいい人、なんだな?」
「ふふっ、捻くれてるけどねぇ」
これはありがたく使わせてもらうわね、婆さん。
あたし達ふたりと、それからギルマスとティルに渡してもまだ何本かある。
チャスラオ製の通信具の使用を控えたい今、これは本当に助かるわ。ていうか、あのときの話を聞いてたってのがまた怖いんだけどねぇ。
「念話も出来そうねぇこれ。はいランディ、一本取って」
「どれでもいいのか?」
「えぇ、石が違うだけでどれも一緒よ」
「なら……これがいい」
そう言ってランディが選んだのは、瑪瑙かしら? 深い赤と茶色の縞が入った石の付いたものだった。
「それにする? こっちの紫色のやつなんかも似合いそうじゃない」
「いや、これがいい」
「そう? 赤が好きなの?」
「レイの色だろ」
「んま!」
やっだもうなんてこと言うのこの子ったら!
深い意味なんてなさそうにケロッとした顔しちゃって憎たらしいわね!
「レイが帰ってしまっても、これがあれば心強い」
「んもぉ~あんたほんっとかわいいわねぇ!」
「ぶっ、ちょっ、レイ!」
もう思わずランディを抱き締めてぐりぐりすりすりしちゃったわよ。
なんて嬉しいこと言ってくれるのかしら。泣いちゃいそうになったじゃないの!
「今日入れてあと三日よ。できる限りのことはするから、頑張りましょうね!」
「あぁ、頼りにしてる」
お互い腕に話具を着けて、再びギルドまでの道を歩き出す。
なんだか顔がにやけちゃうわ。ほんとにもう、あたしそういうの弱いんだからやめてちょうだい。
「あ、レイ!」
「ティル、今日はこっちなの?」
冒険者ギルドに着くと、ちょうど中からティルが顔を出したところだった。
普段は総合ギルドに詰めているはずなのに、どうしたのかしら?
「ちょうどギルマスに遣いを頼まれたところだ。入れ違いにならなくてよかった」
「あたしに用事?」
「おう、今朝ナイルとジギーが目を覚ましたんだ」
「まぁそう! よかったわぁ」
「んで、ふたりともレイと話がしたいって」
「いいの? お体に障らない?」
「本人達がいいって言ってんだからいいだろ。ギルマスもいるし」
「そう、じゃあお邪魔するわ。おふたりは今どちらに?」
「流石に起きたばっかだからまだ治療所だ」
「わかったわ。あ、そうだわティル、こちらが昨日お話ししたランディよ」
「あぁ、大猫族の。俺は狐族のティルだ。よろしくな」
「ランディーニだ。よろしく」
明るい赤茶の狐ティルと黒猫のランディが軽く握手を交わして微笑んだ。
んん~ふたり並んだ絵面の素晴しさったらないわねぇ~
「レイ、レイ。顔がひどい」
「うるさいわよティル、もうちょっとそうしてなさいな」
「いいから行くぞ」
「あんもう」
そしてティルに連れられて昨日も訪れた治療所に入ると、奥に並んだベッドに腰かける大柄なふたりと、その前にギルマスが座って話をしているところだった。
なにやら深刻そうな顔をしているけれど、何かわかったのかしら。
「早かったなティル」
「ちょうどレイが来てくれたんで」
「そうか。早速だがレイ、こいつらが話をしたいそうだ」
「えぇ」
「ナイルだ」
「俺はジギーだ」
「はじめまして。レイと申します」
ふたりから握手を求められ、それぞれと交わす。ゴツくて分厚くて、力強い手をしてるわねぇ。
間近で起き上がってる姿を見ると、やっぱりこのふたりの存在感は物凄い。
そこにギルマスまで加わって、割と広い治療所のはずなのにやけに狭く感じちゃうわ。
「あんたが俺達を助けてくれたんだってな」
「感謝する。何か礼をさせてくれるか」
「いえそんな。もうギルドから報酬もいただいてますし」
「それじゃ俺達の気が済まない。何か出来ることはあるか?」
「そうだぞ。命を救ってもらっておいて何も返さないなどありえん」
左右からぐいっと顔を寄せられて、思わず仰け反って一歩後ずさってしまったわ。
圧! 圧がすごいから! なんかここだけ空気薄くなってない!?
「えぇと……じゃあ、昨日のお話を聞かせてくださいません?」
「それは構わないが」
「あぁレイ、あの件はまだこいつらには話してない」
「あらそうだったの。じゃあ彼のこともまだよね。先に紹介するわ、大猫族のランディよ」
「ランディ? ランディーニ!? やっぱお前か!」
「ジギー、知り合いか?」
「昔ちょっとな」
え、そうなの!? 昨日知ってる風ではあったけど、まさか知り合いだったなんて。
ジギーさんはしげしげとランディの顔を覗きこみ、逆にランディはすすすと斜め下を向いてしまった。
あら? どうしちゃったのよ?
「でっかくなったなぁラン坊!」
「……それやめろ」
「わはは! いっちょ前になりやがって、ほらこっち来い」
「いいってばうわっ、大人しく寝てろよ!」
「わはははは!」
あらあらまぁまぁ随分仲良しさんだこと。
ジギーさんてばランディの首根っこ捕まえてぐりぐりかわいがってらっしゃるわ。
やぁだランディ子供みたいな顔しちゃって!
「角! 痛い!」
「うはは! いやぁラン坊にこんなとこで会えるなんてなぁ! おっちゃん嬉しいぞ!」
「離せってもう! あんたも相変わらずだな!」
どうやら、昔ジギーさんが旅の冒険者だった頃にランディのいる国を訪れたことがあって、そこで知り合ったらしいわ。
逞しく強いジギーさんに憧れたランディは彼に懐き、冒険者のいろはや武器の扱い方なんかを教わったそうなの。
ジギーさんもランディを気に入ってしばらくその町に留まり、近所の子供達も一緒によく稽古をつけていたんですって。
「いやぁ懐かしい」
「そんな繋がりがあったのねぇ。いいお話じゃない。なんでそんな顔してんのよあんた」
「……別に」
「連れてってやんなかったから拗ねてんだよ」
「ジギー!!」
「わはははは!」
なんだか豪快な方ねぇジギーさん。ナイルさんは苦笑いしてるし、いつもこうなのかしらね。
このふたりはそれぞれソロの冒険者だけど、たまに強い魔獣の討伐依頼があると、一緒に受けて旅に出たりするんですって。
今回はその旅から帰ってきたところで、帰還途中で見かけた怪しい連中──恐らく例の拐い屋が、町でも不審な動きをしているのを見かけ、追っていたところを返り討ちにあってしまったんだそう。
「不覚だった。ありゃ相当な魔術師が仲間にいる」
「魔術師? 剣士ではなくか」
「あぁ。どんな魔法かはわからんが、魔力を吸いとられて動きを封じられちまったんだ」
「連中、外でも中でもコソコソしていてな、最初はただのゴロつきかと思ったんだが」
「拐い屋、か」
「……ランディを探していたのかもしれないわね」
「多分な」
「ラン坊、何かあったのか」
「……実は」
ここでランディが、今の状況を詳しく話して聞かせた。姪が拐われこの国へ来たことと、探りを深めたところで、似た手段でランディも襲われたこと。
そしてあたしも、婆さんのおかげで拐い屋と密売屋のアジトは掴めたことを話した。
「もうわかったのか!?」
「凄ぇ……さすが裏通りの魔女……」
「これがその地図よ」
「マジか……島のどれかにいることまでは掴んでいたが、どの島かまではわからなかったんだが」
「いくつかの島を転々としているらしいけど、今回はこの島だそうよ」
「こっちの丸は?」
「それは拐い屋のアジト」
「……おいおいマジか」
北のレジナステーラ大陸はロキシタリア大陸の北東にあって、ロキシタリア大陸西部で拐った子供を大陸南部のここで受け渡し、魔族の国デノメアラを大きく迂回した海路でレジナステーラまで運ばれる。
その手法はわかっていても、アジトやルートの特定が出来ずに国も梃子摺っていると、ギルマスは教えてくれた。
「でかしたレイ!」
「ラン坊も、よく頑張ったな」
「俺達も協力する。やられっぱなしじゃ男が廃る」
こうして心強い味方がまた増えて、あたし達は連中を追い詰める計画を立て始めた。
見てらっしゃい、絶対姪っ子ちゃんは返してもらいますからね!
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる