44 / 47
第一章
33 切なる願い
しおりを挟む
スッと目の前に現れたあたしを見て、ランディは尻尾をびん! と逆立てた。
あらいやぁねどうしたのかしら? 鬼でも見たみたいな顔しちゃって。
にっこり笑ってみせても、彼のその表情はまるで変わらなかった。
「…………殺したのか?」
「あははっ! バぁカおっしゃい。あたしに人殺しなんて出来るわけないでしょ?」
「だが、」
ランディは次の言葉を呑み込み、目を伏せた。
ふふ、大丈夫よ。本当に殺してなんかいないもの。
「……さっきの、レイの気配は尋常じゃなかった。……何をしてきたんだ?」
「別にぃ? もう二度とおイタの出来ない綺麗な身体にして差し上げただけよ」
そう、物理的にね。
鍛冶神様にいただいた剣をこんな風に使うだなんて罰当たりもいいところだけれど、あたしは一切躊躇も、後悔もしていない。
血痕も傷跡もナニもかも全部綺麗に消してきたから、目が覚めたらきっと大騒ぎでしょうね。
うふふ。そのザマを見届けられないのがとぉっても残念だわぁ~
「……っ!」
具体的には何も言ってないわよ?
あの腐れオネェが何をしたのかも、この子達が何をされたのかも、あたしが何をしてきたのかも。
でもきっとナニかを想像しちゃったんでしょうね。ランディは足の間に尻尾を挟んで、きゅうっと縮こまってしまった。
わっかるわぁ~、あたしだって御免だもの。
──だからこそやってやったんだけどね。
「俺、絶対、レイに逆らわない」
「うふふ。心配しなくてもあんたにそんなことしないわよ」
だってあんたはあんなことが出来るような人じゃないでしょう?
それにあたしだって、自分があんなことをしでかして、しかもこんなに平静でいられるのが信じられないのよ。
相当キたってことよねぇ……。
出来るって、怖い。
「そ、それより早く帰りましょう」
「……あぁ」
「ねぇそうだわ、あっちに戻る前にランディの国へ行かない?」
「それは、願ってもないことだが」
「んふ、早くニーネちゃんを帰してあげたいでしょう?」
ランディの腕に抱かれて眠るニーネちゃんは、まだ猫姿のまま。輪を外しても戻らないのはさっきオクトで助けた子達と同じ、奪われた魔力が戻っていないから。
あたしが魔力を与えてあげればいいんだけどそうしていないのは、もうひとりの子が男の子だから。
人に戻したら裸になっちゃうんだもの。だから今はまだその姿でいてちょうだいね。
そっとふたりの頭を撫でて、ランディにも眠ってもらう。そしてショタ神様に再び喚んでもらって、神域へと向かった。
「おかえりレイ、思い切ったことをしたねぇ」
「えぇと、はい……やっちゃったわ」
人の世に干渉しないとはいえ、無抵抗の人間にあんなことしちゃったのは咎められるかしらと少し不安だったけれど、ショタ神様はニコニコと笑うばかりで、あたしを責めはしなかった。
それどころか、ちょっと面白がっている節さえあるでしょう。あんた慈悲の心とかないわけ?
「だって、あんな方法で制裁を加えるだなんて私には思い付かないよ。それに私はこの銀河を統べる存在だ。人の子の行いにどうこうは言わないさ」
「そういうもんなの?」
「そうだよ。人の世は人のもの。見守りはするけれど、裁いたりなんかは私の仕事ではないよ」
多少の手助けはするけどね、と付け加え、ショタ神様はあたしの傍らで眠る三人を柔らかい表情で見下ろした。
さっきはあんな風に言っていたくせに、その瞳には慈悲の色が窺える。
あたしはぎゅっと手を握りしめ、ショタ神様に向き直った。
「……ねぇ、お願いしたいことがあるの」
「なんだい?」
「この子達があの屋敷にいた間の記憶を、消してあげて欲しいの」
しゃがんでニーネちゃんと狼の子の頭をふわふわと撫でるショタ神様の横に並んで、あたしは膝を付き、指を揃えて頭を下げた。
こんな風に神様に頼るのは行き過ぎかもしれない。そもそもランディにも本人にも確認していない、あたしの我が儘。
だけどどうしても、この子達をそのまま帰すだなんて、したくなかった。
「どうしてだい?」
「この子達、売られた先でひどい目に遭っているのよ。なかったことにはならないけれど、せめて忘れさせてあげたくて」
自己満足よね。エゴの押し付けだって自分でも思うわ。
けどこんなに幼いうちにあんなことがあっただなんて、覚えて引きずる必要なんてないでしょう?
「されたことは消えなくても、本人がそれを覚えてさえいなければ、この先の人生に影響は少ないんじゃないかと思うのよ」
「そうだろうね」
「出すぎた真似だとは思うわ。あなたに頼るべきことじゃないっていうのもわかってる。けど、どうかお願い。この子達の未来を守ってあげて」
深々と頭を下げて、あたしは必死に願った。
どうしてこんなに必死になるのか自分でもよくわからないけれど、とにかく守ってあげたかった。
同じオネェが仕出かした罪をどうにかしてやりたいっていう気持ちも、あったかもしれない。
「あたしじゃ完全に記憶なんて消せないのよ。もし代償が必要ならなんだって差し出すわ」
「レイがそこまでする必要があるのかい? 君に責任があるわけでもないのに」
「それは、そうだけど……」
「彼の身内だからかい? その子とたまたま一緒にいたからかい? 他に捕らわれた子だって大勢いるんだろう?」
スパスパと突き刺さる言葉に、下げた頭がもっと下がる。
やっぱりダメよねぇ。思い上がりも甚だしいわ。
言えば何でも聞いてくれるだなんて、心のどこかで思ってたもの。
「私の力を頼りに動かれても困るよ」
「……はい。ごめんなさい」
あたしは完全にぺしゃんこになってしまった。
例えダメでも、ここまで言われるとは思わなかったのよ。甘えていた証拠ね。改めないと……
──ピピッ
不意にどこかで聞き覚えのある、そしてこんなところで鳴るはずもない『電子音』が聞こえて、あたしは目を見開いた。
恐る恐る顔を上げてみる。とんでもなく嫌な予感がしてたまらないんですけど!?
「……ちょっと」
「くっ、ふふっ、ふふふふっ」
そこには、手にあたしのスマホを持ち、撮って出しの『動画』を見ながら笑いをこらえるヤツの姿があった。
「……てめぇ」
「ふふふふっ、これは永久保存しなくてはね」
「何してくれちゃってんの!? てか消して!? 今すぐ消しなさいよ!!」
「あはは、ダメだよレイ。だって君が言ったんじゃないか。『代償』に何でも差し出すって」
「だからってこれぇ!?」
やっぱりこいつ本当に心底マジでガチで碌でもないわね!?
神様だなんて大嘘でしょう!! この悪魔!! 人でなし!! ニコニコ腹黒野郎!!
「ほら、あまり騒ぐと彼らが起きてしまうよ?」
「……っ、この」
「可愛らしい寝顔じゃないか。起こしてしまったら可哀想だ」
一体誰のせいだと思ってんのよ!
もぉやぁ~だぁ~……その慈悲のひと欠片だけでもあたしに使ってちょうだい?
土下座までしたのに何なのよこの仕打ち!!
「これでダメって言ったら怒るからね!?」
「ふふ、もちろん言わないさ。実はね、レイがそう言い出すような気はしていたんだ」
「ふぅん? それでからかってやろうと思ってたってわけ? 相変わらずご趣味のよろしいこと」
「だってこのカメラとやらにはここの者は写らないんだ。せっかくだから使ってみたくて」
「あぁそうですか」
ふんだ、いいわよ別に。それどうせあたしのスマホだし、返してもらったら消してやるんだから。
それよりほら! やってくれるんならさっさとやっちゃってよもう!
「はいはい。仕方がないね」
「何『やれやれ』みたいな顔してんのよ!」
……結局甘えることになってしまったけれど、これくらいは別に構わないよと言ってもらえたわ。
あとはランディの国へ送り届けてもらえば今夜の騒動はひとまず終了ね。
「けど、ずーっと何かを忘れているような気がするのよねぇ……」
「どうしたんだい?」
拐い屋は押さえた。密売屋も来ていた連中は捕まえたし、ニーネちゃんも無事保護できた。
買い手のクズもお仕置きしたし……婆さんはいいとして、後はもうないはずよね?
何かしらこの胸のつかえ。
「それ以外のことじゃないかな」
「え、どういうこと?」
「自称勇者」
「……あっ!!」
そうだ、それよ! すっかり忘れてたわ!!
そもそも今回の旅の目的はそれだったじゃない!
「ご、ごめんなさい……すっかり忘れてたわ」
「まぁ今は捕まっているみたいだから、かの女神も休養を取れているし、いいんだけどね」
「ああぁそれもあったわ……どうしましょう、警備隊にケンカ売っちゃったのよねぇ」
「おやおや」
仕方ないわ。いざとなったら転移で忍び込んで連れ出しちゃいましょう。
ここに直接飛んできちゃえばいいわよね。警備隊長に責任が行っちゃうかもしれないけど、それこそ構うもんですか!
「そうね、ノットに戻ったらすぐにでも会って来るわ」
「うん、任せたよ」
「わかったわ。じゃあごめんなさい、シュライルンの王都の、ランディの親友の……えぇと、なんていう方だったかしら!?」
え、待って待ってどうしましょう!? 名前をど忘れしちゃったわ!!
妹さんは確かジーナさんで、旦那さんはえーとえーと……えーっと。
「思い出せないぃ~っ!!」
「ふふ、そう焦らずとも。今あちらは夜中だし、なんなら宿へ戻るかい?」
「ダメよ」
うん? と首を傾げるショタ神様に、不安に思っていたことをぽつぽつと話した。
ショタ神様の力を疑いはしないけれど、もしもニーネちゃん達が、心の奥底で『オネェ』という存在に対して恐怖感や嫌悪感を残していたとしたら。
深層心理ってやつはなかなか手強いものなのよ。この子達にフラッシュバックが起きないとも限らないでしょう?
オネェは他にもいるでしょうけど、解放された直後なのに、そんな思いをさせたくはないのよ。
「だから、この子達には会わないでおきたいの」
「君のせいじゃないのに、優しいねレイは」
「違うわ。怖がらせて、あたしまで傷つくのが嫌なだけ。ただの自己保身よ」
そうよ。小さい子に目の前で泣き叫ばれるのって結構キツいのよ。
だからそのニヤニヤした目をやめなさいったら!
「そういうことにしておいてあげるよ。場所は彼から読んだから、シュライルンへ送ろう」
「色々ありがとう主神様。頼まれたこと、まだ何も出来てなくてごめんなさい」
「私も楽しませてもらっているから、気にしないでいいよ」
「そうよねぇ、スマホも随分と使いこなしてるみたいだし」
「ふふふ。シュライルンから戻るときもここへ来るだろう? 鍛冶のも呼んでおこうか」
「本当!? やだ嬉しい~っあたし頑張る!!」
そうと決まればさっさと済ませちゃうわよ!
嬉しさのあまりスマホを奪い返すのも忘れ、あたしはまた見知らぬ土地へと飛ばされていった。
あらいやぁねどうしたのかしら? 鬼でも見たみたいな顔しちゃって。
にっこり笑ってみせても、彼のその表情はまるで変わらなかった。
「…………殺したのか?」
「あははっ! バぁカおっしゃい。あたしに人殺しなんて出来るわけないでしょ?」
「だが、」
ランディは次の言葉を呑み込み、目を伏せた。
ふふ、大丈夫よ。本当に殺してなんかいないもの。
「……さっきの、レイの気配は尋常じゃなかった。……何をしてきたんだ?」
「別にぃ? もう二度とおイタの出来ない綺麗な身体にして差し上げただけよ」
そう、物理的にね。
鍛冶神様にいただいた剣をこんな風に使うだなんて罰当たりもいいところだけれど、あたしは一切躊躇も、後悔もしていない。
血痕も傷跡もナニもかも全部綺麗に消してきたから、目が覚めたらきっと大騒ぎでしょうね。
うふふ。そのザマを見届けられないのがとぉっても残念だわぁ~
「……っ!」
具体的には何も言ってないわよ?
あの腐れオネェが何をしたのかも、この子達が何をされたのかも、あたしが何をしてきたのかも。
でもきっとナニかを想像しちゃったんでしょうね。ランディは足の間に尻尾を挟んで、きゅうっと縮こまってしまった。
わっかるわぁ~、あたしだって御免だもの。
──だからこそやってやったんだけどね。
「俺、絶対、レイに逆らわない」
「うふふ。心配しなくてもあんたにそんなことしないわよ」
だってあんたはあんなことが出来るような人じゃないでしょう?
それにあたしだって、自分があんなことをしでかして、しかもこんなに平静でいられるのが信じられないのよ。
相当キたってことよねぇ……。
出来るって、怖い。
「そ、それより早く帰りましょう」
「……あぁ」
「ねぇそうだわ、あっちに戻る前にランディの国へ行かない?」
「それは、願ってもないことだが」
「んふ、早くニーネちゃんを帰してあげたいでしょう?」
ランディの腕に抱かれて眠るニーネちゃんは、まだ猫姿のまま。輪を外しても戻らないのはさっきオクトで助けた子達と同じ、奪われた魔力が戻っていないから。
あたしが魔力を与えてあげればいいんだけどそうしていないのは、もうひとりの子が男の子だから。
人に戻したら裸になっちゃうんだもの。だから今はまだその姿でいてちょうだいね。
そっとふたりの頭を撫でて、ランディにも眠ってもらう。そしてショタ神様に再び喚んでもらって、神域へと向かった。
「おかえりレイ、思い切ったことをしたねぇ」
「えぇと、はい……やっちゃったわ」
人の世に干渉しないとはいえ、無抵抗の人間にあんなことしちゃったのは咎められるかしらと少し不安だったけれど、ショタ神様はニコニコと笑うばかりで、あたしを責めはしなかった。
それどころか、ちょっと面白がっている節さえあるでしょう。あんた慈悲の心とかないわけ?
「だって、あんな方法で制裁を加えるだなんて私には思い付かないよ。それに私はこの銀河を統べる存在だ。人の子の行いにどうこうは言わないさ」
「そういうもんなの?」
「そうだよ。人の世は人のもの。見守りはするけれど、裁いたりなんかは私の仕事ではないよ」
多少の手助けはするけどね、と付け加え、ショタ神様はあたしの傍らで眠る三人を柔らかい表情で見下ろした。
さっきはあんな風に言っていたくせに、その瞳には慈悲の色が窺える。
あたしはぎゅっと手を握りしめ、ショタ神様に向き直った。
「……ねぇ、お願いしたいことがあるの」
「なんだい?」
「この子達があの屋敷にいた間の記憶を、消してあげて欲しいの」
しゃがんでニーネちゃんと狼の子の頭をふわふわと撫でるショタ神様の横に並んで、あたしは膝を付き、指を揃えて頭を下げた。
こんな風に神様に頼るのは行き過ぎかもしれない。そもそもランディにも本人にも確認していない、あたしの我が儘。
だけどどうしても、この子達をそのまま帰すだなんて、したくなかった。
「どうしてだい?」
「この子達、売られた先でひどい目に遭っているのよ。なかったことにはならないけれど、せめて忘れさせてあげたくて」
自己満足よね。エゴの押し付けだって自分でも思うわ。
けどこんなに幼いうちにあんなことがあっただなんて、覚えて引きずる必要なんてないでしょう?
「されたことは消えなくても、本人がそれを覚えてさえいなければ、この先の人生に影響は少ないんじゃないかと思うのよ」
「そうだろうね」
「出すぎた真似だとは思うわ。あなたに頼るべきことじゃないっていうのもわかってる。けど、どうかお願い。この子達の未来を守ってあげて」
深々と頭を下げて、あたしは必死に願った。
どうしてこんなに必死になるのか自分でもよくわからないけれど、とにかく守ってあげたかった。
同じオネェが仕出かした罪をどうにかしてやりたいっていう気持ちも、あったかもしれない。
「あたしじゃ完全に記憶なんて消せないのよ。もし代償が必要ならなんだって差し出すわ」
「レイがそこまでする必要があるのかい? 君に責任があるわけでもないのに」
「それは、そうだけど……」
「彼の身内だからかい? その子とたまたま一緒にいたからかい? 他に捕らわれた子だって大勢いるんだろう?」
スパスパと突き刺さる言葉に、下げた頭がもっと下がる。
やっぱりダメよねぇ。思い上がりも甚だしいわ。
言えば何でも聞いてくれるだなんて、心のどこかで思ってたもの。
「私の力を頼りに動かれても困るよ」
「……はい。ごめんなさい」
あたしは完全にぺしゃんこになってしまった。
例えダメでも、ここまで言われるとは思わなかったのよ。甘えていた証拠ね。改めないと……
──ピピッ
不意にどこかで聞き覚えのある、そしてこんなところで鳴るはずもない『電子音』が聞こえて、あたしは目を見開いた。
恐る恐る顔を上げてみる。とんでもなく嫌な予感がしてたまらないんですけど!?
「……ちょっと」
「くっ、ふふっ、ふふふふっ」
そこには、手にあたしのスマホを持ち、撮って出しの『動画』を見ながら笑いをこらえるヤツの姿があった。
「……てめぇ」
「ふふふふっ、これは永久保存しなくてはね」
「何してくれちゃってんの!? てか消して!? 今すぐ消しなさいよ!!」
「あはは、ダメだよレイ。だって君が言ったんじゃないか。『代償』に何でも差し出すって」
「だからってこれぇ!?」
やっぱりこいつ本当に心底マジでガチで碌でもないわね!?
神様だなんて大嘘でしょう!! この悪魔!! 人でなし!! ニコニコ腹黒野郎!!
「ほら、あまり騒ぐと彼らが起きてしまうよ?」
「……っ、この」
「可愛らしい寝顔じゃないか。起こしてしまったら可哀想だ」
一体誰のせいだと思ってんのよ!
もぉやぁ~だぁ~……その慈悲のひと欠片だけでもあたしに使ってちょうだい?
土下座までしたのに何なのよこの仕打ち!!
「これでダメって言ったら怒るからね!?」
「ふふ、もちろん言わないさ。実はね、レイがそう言い出すような気はしていたんだ」
「ふぅん? それでからかってやろうと思ってたってわけ? 相変わらずご趣味のよろしいこと」
「だってこのカメラとやらにはここの者は写らないんだ。せっかくだから使ってみたくて」
「あぁそうですか」
ふんだ、いいわよ別に。それどうせあたしのスマホだし、返してもらったら消してやるんだから。
それよりほら! やってくれるんならさっさとやっちゃってよもう!
「はいはい。仕方がないね」
「何『やれやれ』みたいな顔してんのよ!」
……結局甘えることになってしまったけれど、これくらいは別に構わないよと言ってもらえたわ。
あとはランディの国へ送り届けてもらえば今夜の騒動はひとまず終了ね。
「けど、ずーっと何かを忘れているような気がするのよねぇ……」
「どうしたんだい?」
拐い屋は押さえた。密売屋も来ていた連中は捕まえたし、ニーネちゃんも無事保護できた。
買い手のクズもお仕置きしたし……婆さんはいいとして、後はもうないはずよね?
何かしらこの胸のつかえ。
「それ以外のことじゃないかな」
「え、どういうこと?」
「自称勇者」
「……あっ!!」
そうだ、それよ! すっかり忘れてたわ!!
そもそも今回の旅の目的はそれだったじゃない!
「ご、ごめんなさい……すっかり忘れてたわ」
「まぁ今は捕まっているみたいだから、かの女神も休養を取れているし、いいんだけどね」
「ああぁそれもあったわ……どうしましょう、警備隊にケンカ売っちゃったのよねぇ」
「おやおや」
仕方ないわ。いざとなったら転移で忍び込んで連れ出しちゃいましょう。
ここに直接飛んできちゃえばいいわよね。警備隊長に責任が行っちゃうかもしれないけど、それこそ構うもんですか!
「そうね、ノットに戻ったらすぐにでも会って来るわ」
「うん、任せたよ」
「わかったわ。じゃあごめんなさい、シュライルンの王都の、ランディの親友の……えぇと、なんていう方だったかしら!?」
え、待って待ってどうしましょう!? 名前をど忘れしちゃったわ!!
妹さんは確かジーナさんで、旦那さんはえーとえーと……えーっと。
「思い出せないぃ~っ!!」
「ふふ、そう焦らずとも。今あちらは夜中だし、なんなら宿へ戻るかい?」
「ダメよ」
うん? と首を傾げるショタ神様に、不安に思っていたことをぽつぽつと話した。
ショタ神様の力を疑いはしないけれど、もしもニーネちゃん達が、心の奥底で『オネェ』という存在に対して恐怖感や嫌悪感を残していたとしたら。
深層心理ってやつはなかなか手強いものなのよ。この子達にフラッシュバックが起きないとも限らないでしょう?
オネェは他にもいるでしょうけど、解放された直後なのに、そんな思いをさせたくはないのよ。
「だから、この子達には会わないでおきたいの」
「君のせいじゃないのに、優しいねレイは」
「違うわ。怖がらせて、あたしまで傷つくのが嫌なだけ。ただの自己保身よ」
そうよ。小さい子に目の前で泣き叫ばれるのって結構キツいのよ。
だからそのニヤニヤした目をやめなさいったら!
「そういうことにしておいてあげるよ。場所は彼から読んだから、シュライルンへ送ろう」
「色々ありがとう主神様。頼まれたこと、まだ何も出来てなくてごめんなさい」
「私も楽しませてもらっているから、気にしないでいいよ」
「そうよねぇ、スマホも随分と使いこなしてるみたいだし」
「ふふふ。シュライルンから戻るときもここへ来るだろう? 鍛冶のも呼んでおこうか」
「本当!? やだ嬉しい~っあたし頑張る!!」
そうと決まればさっさと済ませちゃうわよ!
嬉しさのあまりスマホを奪い返すのも忘れ、あたしはまた見知らぬ土地へと飛ばされていった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる