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第一章
32 怒れるオネェ
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ショタ神様のお力を借り、セヘルシアの北半球に広く長く横たわるレジナステーラ大陸の北西部にあたる、ネブロビルという国へとあたし達は降り立った。
地図で見ると、さっきまでいたロキシタリア大陸からは右上あたり、セヘルシアという星の直径約四分の一くらいの距離を移動してきたことになる。
そりゃあこんな距離、あたしひとりの力でどうにかなるようなものじゃなかったわよねぇ……。
「じゃあなレイ、あたしゃ行くよ」
「どこ行くのよ?」
「ヒヒッ、野暮用さね」
「自由ねぇ……帰りはどうすんの?」
「別々で構わんだろ。用があればエルトに声をかけな」
「あ、ちょっと!」
止める間もなく、婆さんはするりと闇に消えてしまった。ほんと何しに来たのかしら……。
まぁ今はそれどころじゃないわね。ランディを起こして早くニーネちゃんを迎えに行かなくちゃ!
「ランディ、着いたわよ、起きて」
「……っ!?」
ランディにかけた魔法を解くと、彼はビクッと身を竦めてキョロキョロと辺りを窺った。
最後の記憶は婆さんの屋敷の中だものね。目を開けたら屋外で真っ暗だから驚いちゃったかしら。
「ここは?」
「ニーネちゃんを買ったクソ野郎の屋敷の裏よ」
「……マジか」
マジマジ、大マジよ。ほんとびっくりだわ。
ランディが密売屋から聞き出した『ネブロビル国タラスイアという都市の、チャレート伯爵家の次男が住む別邸』という情報だけで、ショタ神様はここに真っ直ぐ送ってくださった。
そりゃあね、別の銀河にあるあたしの店でさえ座標指定できるんだもの。自分のとこなんか全然余裕らしいわよ。理解できないけれど。ググールマップでも搭載してるのかしらね?
「ここにニーネが……!」
「待ってね、ちゃんとここにいるか視てみるわ。着いたばかりだからまだ何もしてないのよ」
「頼む」
幸運なことに、ニーネちゃんの取引は間に奴隷商や裏ギルドを挟まず直接売買をしたらしく、密売屋からすんなりここを聞き出すことが出来たの。
お得意様ってことらしいけれど、そうなると他にも同じように売られて来た子がいる可能性があるのよね。
祈るように屋敷を見つめるランディに頷き返して、あたしは屋敷を【真眼】で探る。
ニーネちゃんの猫姿は彼と同じ黒く長い毛並みで、今もその姿でここに囚われているはず。
「二階の左手奥、かしら。……あっ」
「どうした!? ニーネの身に何かあったのか!?」
「違うそうじゃないわ。彼女は無事よ、ちゃんといた。ただ、ニーネちゃんの他にもいたのよ」
思った通りだったわ。部屋の隅で身を寄せあった獣姿の子供がふたり、この屋敷にいるのが視えた。
それを聞いて悲痛な表情を浮かべたランディは、少し悩む素振りを見せたあと、キッと屋敷を睨み付けて拳を固めた。けれどすぐ、力なくその拳を下ろしてしまう。
何を考えているのか丸わかりねぇ。ほら、言ってごらんなさい?
そっと目で促すと、ランディは躊躇いがちに、ゆっくりと口を開いた。
「……レイ、俺は、その子も助けたい」
「えぇ」
「助けたとして、俺じゃ何もしてやれないかもしれない。だがどうしても置いては行けない。……頼ってばかりだが、力を貸してくれないか」
「ふふっ、もちろんよ。ちゃんと連れて帰ってあげましょう」
「……いいのか?」
「えぇ。ここにはもうひとり獣人の子がいたわ。その子の前からニーネちゃんだけ連れ出して、そのまま置いて帰るだなんて残酷なこと出来るわけないじゃないの」
あたしにだって、何がしてあげられるかなんてわからないわよ。ギルドに預けるくらいのことしかしてやれないかもしれない。
でも置いて帰るなんて選択肢はハナからないわ。
こんな所で罪のない子供がクズの玩具にされているだなんて許せないもの!
「ありがとう、レイ」
「いいのよ。それに元々あんたは『組織を潰して拐われた子達を助けたい』って言ってたじゃない」
「あぁ……だが、それがどれだけ困難なことか、今回の件でよくわかった」
「ふふ、まずは出来るところからコツコツよ。今頃オクトじゃ拐い屋のアジトを警備隊が押さえてくれているはずだから、これでひとつは潰せたじゃない」
密売屋も、捕らえた後で色々聞き出せば組織の詳細や取引相手なんかが判明するでしょうし、奴らの使う輪の『場所を辿れる』という機能を使えば、売られてしまった子達の行き先もわかるはず。
獣人狩りに関わる組織はこいつらだけじゃなくて他にもいるはすだけれど、それでもひとつ潰せたことは事実だわ。
「俺の力じゃないけどな」
「ふふっおバカねぇ。あんたがきっかけで成せたことじゃないの。あたしと会ったのも、ジギーさんに再会したことも全部、あんたがあの町まで拐い屋を追いかけて来たからでしょう?」
「……あぁ」
「ね? あんたが自分で運を引き寄せたのよ。ほら今から乗り込むんだから、シャキッとなさい!」
「うわっ!?」
ばしっと背中を叩いてやると、ランディは屋敷を囲む塀の植え込みに頭から突っ込んでしまった。
えぇ!? そんなに力入れたかしら!?
「やだごめんランディ! 大丈夫!?」
「いや、俺も気を抜いてた」
「怪我はない?」
「大丈夫だ」
「ほんとごめんねぇ……力加減をつい忘れちゃって」
「ははっ、実はさっき頭を叩かれたときも首がもげそうだった」
「うっそぉ~ごめんなさいあたしったら……」
「冗談だ。俺だって伊達に『純血者』じゃない、このくらいはどうってことないさ」
「やだカッコいい」
ふふっと笑い合って、お互い気合いを入れ直す。
と言っても、隠蔽と転移でサクッと終わらせちゃうつもりよ。正面突破なんてそれこそ無理だもの。
あとはそうね、どうせだから件の次男坊とやらにも少しお灸を据えておきたいところだわ。
「どうするんだ?」
「んーと、そうねぇ……二度と獣人の子を買おうだなんて思えなくしてやりたいわね」
「そんなこと出来るのか?」
「また婆さん頼りになっちゃうけどね。そうだわエルト、出てらっしゃい」
しゅたっ! といつものポーズで現れたエルトを撫でてから肩に乗せる。さぁ、ひとまず二階のニーネちゃんがいる部屋へと行きましょう!
ランディの手を取って、スヌードの隠蔽を確認してからあたしは魔法を発動した。
「ニーネ!」
「ランディ落ち着いて。見えてないし聞こえてないから」
「……そうだった」
部屋に入るなりニーネちゃんに駆け寄るランディの首根っこを捕まえて、どうどうと落ち着かせる。
でも良かったわ。見たところ怪我もないし食事もきちんと貰えているみたい。
と言っても『餌』扱いっぽいけれどね。床に置かれた水桶と二枚の深皿がそれを物語っているわ。
やっぱりクソ野郎には制裁が必要みたいね! 腹立たしいったら!
「もうひとりは犬の獣人かしら?」
「いや、狼族だろう」
「狼!? うわぁ初めて見たわぁ……」
ニーネちゃんを守るように腕を回し、寄り添って静かに眠るシルバーグレーと黒の毛並みの大きな狼は、とてもとても美しかった。
そっと近寄るとその子はスンスンと鼻をヒクつかせ、薄く目を開けた。けどあたし達の姿は見えていないから、首を持ち上げて警戒するように辺りを見回した。
「やっばい、起きちゃった」
「匂いで気付かれたか。どうする?」
「眠らせちゃいましょう。騒がれても困るもの」
再び夢の世界へと旅立ってもらい、ほっと息をつく。
いい子ね。ニーネちゃんに回された腕は一切動いていなかったわ。
さぁ、急いで連れ出しちゃいましょう。
「……ダメだ、首輪が外れない」
「これにも魔法がかけられてるわね。待って、今外すわ」
逃げられないようにするためなのか、尻尾の輪だけでも十分なのに首輪にまで隷属と固定の魔法がかかっていた。
そしてそれを視たとき頭に触れたからか、ニーネちゃんの見ている夢が少し視えてしまった。
──なんなの。この子達が何をしたの。
どんな神経してたらこんな酷いことが出来るって言うのよ!!
「……ランディ、一旦この子達を連れて外へ出るわよ」
「あぁわかっ……レイ!?」
「ふざっけんじゃねぇ……ブッ潰してやるわ!!」
屋敷から遠く離れた城壁近くの林の中へランディとエルト、そして眠ったままのふたりを置いて結界を張り、あたしはひとりクソ野郎の屋敷へと乗り込んだ。
許せない。年端も行かない男の子に無理矢理あんなこと……!!
人として、いいえオネェとして、下衆野郎はこの手で処してくれるわ!!
そう、あの子の夢でわかったの。
あのふたりをここに閉じ込めているクズは、あたしと同じ、オネェだった。
そして最低のペド野郎だった。
隷属の首輪をさせていた理由がこれよ。尻尾の輪をわざわざ外して人の姿に戻し、逆らえないあの子の体を無理矢理暴いたのよ!!
ニーネちゃんの目の前で!!!!
「呑気に眠っちゃってまぁ」
あたしは薄いピンク色の天蓋付きベッドで眠る、名前も知らない腐れオネェの顔を覗きこんだ。
幸せそうねぇ、いい夢でも見てるのかしら?
うふふ、そんな顔して眠れるのも今日で最後とも知らずに、可哀想だこと。
「婆さんに頼るまでもないわね。んふふ、死ぬより辛い目に合わせてやるから」
深く深く、痛みすら感じないほど深い眠りへ突き落とし、魔法の鞄から鍛冶神様にいただいた剣をすらりと抜き取る。
一瞬で終わるわ。痛みも、……人生もね。
「じゃあね。一生魔物にでも掘られてなさい」
全ての痕跡を綺麗に消し去り、あたしはその部屋から音もなく立ち去った。
~*~*~*~*~
ネブロビルの位置を、レジナステーラ大陸の「東端」から「西端」へと変更しました。
合わせて30、31話も修正済みです。
地図で見ると、さっきまでいたロキシタリア大陸からは右上あたり、セヘルシアという星の直径約四分の一くらいの距離を移動してきたことになる。
そりゃあこんな距離、あたしひとりの力でどうにかなるようなものじゃなかったわよねぇ……。
「じゃあなレイ、あたしゃ行くよ」
「どこ行くのよ?」
「ヒヒッ、野暮用さね」
「自由ねぇ……帰りはどうすんの?」
「別々で構わんだろ。用があればエルトに声をかけな」
「あ、ちょっと!」
止める間もなく、婆さんはするりと闇に消えてしまった。ほんと何しに来たのかしら……。
まぁ今はそれどころじゃないわね。ランディを起こして早くニーネちゃんを迎えに行かなくちゃ!
「ランディ、着いたわよ、起きて」
「……っ!?」
ランディにかけた魔法を解くと、彼はビクッと身を竦めてキョロキョロと辺りを窺った。
最後の記憶は婆さんの屋敷の中だものね。目を開けたら屋外で真っ暗だから驚いちゃったかしら。
「ここは?」
「ニーネちゃんを買ったクソ野郎の屋敷の裏よ」
「……マジか」
マジマジ、大マジよ。ほんとびっくりだわ。
ランディが密売屋から聞き出した『ネブロビル国タラスイアという都市の、チャレート伯爵家の次男が住む別邸』という情報だけで、ショタ神様はここに真っ直ぐ送ってくださった。
そりゃあね、別の銀河にあるあたしの店でさえ座標指定できるんだもの。自分のとこなんか全然余裕らしいわよ。理解できないけれど。ググールマップでも搭載してるのかしらね?
「ここにニーネが……!」
「待ってね、ちゃんとここにいるか視てみるわ。着いたばかりだからまだ何もしてないのよ」
「頼む」
幸運なことに、ニーネちゃんの取引は間に奴隷商や裏ギルドを挟まず直接売買をしたらしく、密売屋からすんなりここを聞き出すことが出来たの。
お得意様ってことらしいけれど、そうなると他にも同じように売られて来た子がいる可能性があるのよね。
祈るように屋敷を見つめるランディに頷き返して、あたしは屋敷を【真眼】で探る。
ニーネちゃんの猫姿は彼と同じ黒く長い毛並みで、今もその姿でここに囚われているはず。
「二階の左手奥、かしら。……あっ」
「どうした!? ニーネの身に何かあったのか!?」
「違うそうじゃないわ。彼女は無事よ、ちゃんといた。ただ、ニーネちゃんの他にもいたのよ」
思った通りだったわ。部屋の隅で身を寄せあった獣姿の子供がふたり、この屋敷にいるのが視えた。
それを聞いて悲痛な表情を浮かべたランディは、少し悩む素振りを見せたあと、キッと屋敷を睨み付けて拳を固めた。けれどすぐ、力なくその拳を下ろしてしまう。
何を考えているのか丸わかりねぇ。ほら、言ってごらんなさい?
そっと目で促すと、ランディは躊躇いがちに、ゆっくりと口を開いた。
「……レイ、俺は、その子も助けたい」
「えぇ」
「助けたとして、俺じゃ何もしてやれないかもしれない。だがどうしても置いては行けない。……頼ってばかりだが、力を貸してくれないか」
「ふふっ、もちろんよ。ちゃんと連れて帰ってあげましょう」
「……いいのか?」
「えぇ。ここにはもうひとり獣人の子がいたわ。その子の前からニーネちゃんだけ連れ出して、そのまま置いて帰るだなんて残酷なこと出来るわけないじゃないの」
あたしにだって、何がしてあげられるかなんてわからないわよ。ギルドに預けるくらいのことしかしてやれないかもしれない。
でも置いて帰るなんて選択肢はハナからないわ。
こんな所で罪のない子供がクズの玩具にされているだなんて許せないもの!
「ありがとう、レイ」
「いいのよ。それに元々あんたは『組織を潰して拐われた子達を助けたい』って言ってたじゃない」
「あぁ……だが、それがどれだけ困難なことか、今回の件でよくわかった」
「ふふ、まずは出来るところからコツコツよ。今頃オクトじゃ拐い屋のアジトを警備隊が押さえてくれているはずだから、これでひとつは潰せたじゃない」
密売屋も、捕らえた後で色々聞き出せば組織の詳細や取引相手なんかが判明するでしょうし、奴らの使う輪の『場所を辿れる』という機能を使えば、売られてしまった子達の行き先もわかるはず。
獣人狩りに関わる組織はこいつらだけじゃなくて他にもいるはすだけれど、それでもひとつ潰せたことは事実だわ。
「俺の力じゃないけどな」
「ふふっおバカねぇ。あんたがきっかけで成せたことじゃないの。あたしと会ったのも、ジギーさんに再会したことも全部、あんたがあの町まで拐い屋を追いかけて来たからでしょう?」
「……あぁ」
「ね? あんたが自分で運を引き寄せたのよ。ほら今から乗り込むんだから、シャキッとなさい!」
「うわっ!?」
ばしっと背中を叩いてやると、ランディは屋敷を囲む塀の植え込みに頭から突っ込んでしまった。
えぇ!? そんなに力入れたかしら!?
「やだごめんランディ! 大丈夫!?」
「いや、俺も気を抜いてた」
「怪我はない?」
「大丈夫だ」
「ほんとごめんねぇ……力加減をつい忘れちゃって」
「ははっ、実はさっき頭を叩かれたときも首がもげそうだった」
「うっそぉ~ごめんなさいあたしったら……」
「冗談だ。俺だって伊達に『純血者』じゃない、このくらいはどうってことないさ」
「やだカッコいい」
ふふっと笑い合って、お互い気合いを入れ直す。
と言っても、隠蔽と転移でサクッと終わらせちゃうつもりよ。正面突破なんてそれこそ無理だもの。
あとはそうね、どうせだから件の次男坊とやらにも少しお灸を据えておきたいところだわ。
「どうするんだ?」
「んーと、そうねぇ……二度と獣人の子を買おうだなんて思えなくしてやりたいわね」
「そんなこと出来るのか?」
「また婆さん頼りになっちゃうけどね。そうだわエルト、出てらっしゃい」
しゅたっ! といつものポーズで現れたエルトを撫でてから肩に乗せる。さぁ、ひとまず二階のニーネちゃんがいる部屋へと行きましょう!
ランディの手を取って、スヌードの隠蔽を確認してからあたしは魔法を発動した。
「ニーネ!」
「ランディ落ち着いて。見えてないし聞こえてないから」
「……そうだった」
部屋に入るなりニーネちゃんに駆け寄るランディの首根っこを捕まえて、どうどうと落ち着かせる。
でも良かったわ。見たところ怪我もないし食事もきちんと貰えているみたい。
と言っても『餌』扱いっぽいけれどね。床に置かれた水桶と二枚の深皿がそれを物語っているわ。
やっぱりクソ野郎には制裁が必要みたいね! 腹立たしいったら!
「もうひとりは犬の獣人かしら?」
「いや、狼族だろう」
「狼!? うわぁ初めて見たわぁ……」
ニーネちゃんを守るように腕を回し、寄り添って静かに眠るシルバーグレーと黒の毛並みの大きな狼は、とてもとても美しかった。
そっと近寄るとその子はスンスンと鼻をヒクつかせ、薄く目を開けた。けどあたし達の姿は見えていないから、首を持ち上げて警戒するように辺りを見回した。
「やっばい、起きちゃった」
「匂いで気付かれたか。どうする?」
「眠らせちゃいましょう。騒がれても困るもの」
再び夢の世界へと旅立ってもらい、ほっと息をつく。
いい子ね。ニーネちゃんに回された腕は一切動いていなかったわ。
さぁ、急いで連れ出しちゃいましょう。
「……ダメだ、首輪が外れない」
「これにも魔法がかけられてるわね。待って、今外すわ」
逃げられないようにするためなのか、尻尾の輪だけでも十分なのに首輪にまで隷属と固定の魔法がかかっていた。
そしてそれを視たとき頭に触れたからか、ニーネちゃんの見ている夢が少し視えてしまった。
──なんなの。この子達が何をしたの。
どんな神経してたらこんな酷いことが出来るって言うのよ!!
「……ランディ、一旦この子達を連れて外へ出るわよ」
「あぁわかっ……レイ!?」
「ふざっけんじゃねぇ……ブッ潰してやるわ!!」
屋敷から遠く離れた城壁近くの林の中へランディとエルト、そして眠ったままのふたりを置いて結界を張り、あたしはひとりクソ野郎の屋敷へと乗り込んだ。
許せない。年端も行かない男の子に無理矢理あんなこと……!!
人として、いいえオネェとして、下衆野郎はこの手で処してくれるわ!!
そう、あの子の夢でわかったの。
あのふたりをここに閉じ込めているクズは、あたしと同じ、オネェだった。
そして最低のペド野郎だった。
隷属の首輪をさせていた理由がこれよ。尻尾の輪をわざわざ外して人の姿に戻し、逆らえないあの子の体を無理矢理暴いたのよ!!
ニーネちゃんの目の前で!!!!
「呑気に眠っちゃってまぁ」
あたしは薄いピンク色の天蓋付きベッドで眠る、名前も知らない腐れオネェの顔を覗きこんだ。
幸せそうねぇ、いい夢でも見てるのかしら?
うふふ、そんな顔して眠れるのも今日で最後とも知らずに、可哀想だこと。
「婆さんに頼るまでもないわね。んふふ、死ぬより辛い目に合わせてやるから」
深く深く、痛みすら感じないほど深い眠りへ突き落とし、魔法の鞄から鍛冶神様にいただいた剣をすらりと抜き取る。
一瞬で終わるわ。痛みも、……人生もね。
「じゃあね。一生魔物にでも掘られてなさい」
全ての痕跡を綺麗に消し去り、あたしはその部屋から音もなく立ち去った。
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