強気なネコは甘く囚われる

ミヅハ

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いつまでも

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「真尋、これそっち持ってけ」
「あいよー」
 卒業式を終え無事元鞘(?)に戻った俺と廉は、まず最初に親父さんに挨拶をしに行った。
 初めて会った時と違い穏やかな顔をした親父さんが出迎えてくれて、労いと謝罪を口にした後、その場で廉を後継者から外す念書を作成して、次の親族会議で発表する事を約束してくれた。
 俺はまたしてもお礼を言われてしまったけど、自分で決めた事だからとそれは受け入れなかった。
 これから先も、ずっと廉といる事を選んだのは自分だ。その為に二年間関わり合えなかったとしても、それを選んだのも自分だから。
 逆に親父さんに感謝したくてそう言うと、物凄く驚いた顔をした後、廉にそっくりな優しい笑顔を向けてくれて思わずドキッとしてしまった。それに目敏く気付いた廉に責められはしたけど、上目遣いでもして「廉に似てたから」って言やぁコロッと機嫌良くなるからホントチョロい。
 そんな廉は、後継者からは外れたけど一応会社で雇ってくれるらしい。息子だからと特別扱いはしないって言われてたから、一般的なサラリーマンになるんじゃねぇかな。

 それから、廉が住んでたタワマンからは引っ越す事になった。
 親父さん曰く、そこまでして安寧の道を蹴ったのだから、自分たちの力だけで生活するのが当然ではないか、という事らしい。うん、全くもってその通り。
 だから俺たちは新しい部屋を探して、現在引越し作業の真っ最中だ。
 二人だし、そんなに広さはいらないから1LDKのオートロック付きマンションを選んだ。オートロックにしたのは廉の心配性が発動したからなんだけど…アイツ、なんで男の俺が簡単に襲われると思ってんだろうか。
 ちなみに廉の奴、小さい頃から資産運用を実践勉強させられてたらしく、貯金がえげつないほどあった。見せて貰った時ぶっ倒れなかった俺を褒めて貰いたいくらいだ。引越し資金だけそこから出して貰って、後は老後の為にも取っておこうなって約束はした。実際使うかわ分かんねぇけど。
 俺もバイト始めなきゃだし、これからやる事は山ほどある。

 運んだダンボールを開けて中身を見ているとスマホがピコンと音を立てた。見ると、引越しおめでとうの文面とスタンプが倖人から送られてきてて心がほっこりする。
 それに返事をした時ふと表示された時計を見て目を瞬いた。いつの間にこんなに時間経ってたのか。
「廉、そろそろお昼だけどどうする?」
「もうそんな時間か……気分転換に食いに行くか」
「ここら辺何かあったっけ?」
「足あるし、食いてぇもんあんなら連れてく」
「んー、そうだなー。今の気分は……パスタ!」
「んじゃ、あそこだな」
 廉は基本的に俺を優先する。どんだけ捻くれたものの言い方をしてもそれを一度受け止めた上で俺の話を聞いてくれるから、最近の俺はずっと廉に素直になれてる。
 あの寝惚けて甘えん坊になる俺もほとんど出なくなった。たぶん、廉が一番傍にいてめちゃくちゃ甘やかしてくれるからじゃねぇかなって思うんだけど…実際のところは分からない。
 ただ本当に、たまーに出た時なんかは朝からサカられたりするけど、それはもう受け入れる事にしてる。仕方ないしな。
「真尋」
「ん?」
 使い慣れたボディバッグにスマホと財布を入れて玄関で靴を履いていると、後ろにいた廉に呼ばれて振り返る。目が合った瞬間にはキスされててちょっと驚いた。
「何?」
「したくなった」
 したくなったからってそんなサラッと行動に移すとか……こういうとこ、ホントずるいと思うんだよ。
 悔しくてムッとした俺は、靴を履くために少し屈んだ廉の首に腕を回し自分から口付けた。
「…俺もしたくなった」
「…………飯食いに行くのナシ」
「え! それはやなんだけど!」
「誘ったのお前だろ? 責任取って貰わねぇとな」
「誘ってないし! 今のはどっちかと言うとお返し……え、嘘だろ、本当に行かねぇの?」
「俺がお前を食った後に元気なら連れてってやるよ」
「それ絶対無理な言い方!」
 せっかく準備万端だったのにボディバッグを頭から抜かれて担ぎ上げられた俺は、靴も脱がされて寝室に運ばれる。
 寝る場所確保のためにベッドだけは先に整えたのがアダになったか。
 こういう事で俺の意見を聞いてくれないのは、俺も期待してるって分かってるからなんだよな…。
「……手加減しろよ」
「善処はする」
 ああ、この返し方は足腰立たなくなるまでされるやつだ。
 でもそんな廉も好きなんだから結局許すんだよ、俺。
「好きだよ、廉」
「可愛い事言うな、抱き潰されてぇのか」
「本当の事だし」
「…ったく……俺も好きだよ、真尋」
「知ってる」
 二年分にはまだまだ足りない。
 ベッドに降ろされた俺は覆い被さってくる廉の頬に触れ目を閉じた。


──────────


〈side 廉〉

 目の前で俺の恋人と母と妹が楽しそうに話している。
 それは別にいい、いいんだが……いい加減返して欲しい。あの二人に真尋が取られてからかれこれ一時間は経ってるんだが?
 今日は天気がいいからテラスに行こうと妹―香織に言われて行ったまでは良かったのだが、ついて早々真尋を奪われ、俺は一人違うテーブルでコーヒーを飲むハメになって……真尋不足で倒れそう…。
「よぉ、廉。久しぶりだな」
 額を押さえて溜め息をついていると声をかけられ振り向く。家族ぐるみで付き合いのある従兄弟の克巳かつみが片手を上げて歩いて来ていた。
「克巳? 何でお前ここに?」
「親父から土産持ってけって言われてな、これそっちで食ってくれ」
「ああ、わざわざ悪いな」
 克巳の家族は良く旅行に行くらしく、そのたびに土産を買って来てくれる。差し出された紙袋を受け取り饅頭か団子かと予想していると克巳の気配が離れた事に気付いた。
 怪訝に思って顔を上げると真尋へと近付く背中が見える。ヤバい、真尋は見た目だけなら克巳のドタイプなんだ。
「克…」
「めっちゃ美人な子いんだけど。誰? 香織の友達?」
「克巳くん、来てたんだ。あのね、真尋くんはお兄ちゃんの…」
「真尋ちゃんってーの? 俺克巳。近くで見ると本当綺麗だな」
 自分の容姿に注目される事を殊更に嫌う真尋は、特に男からの賛辞には嫌悪感すら抱く。小さい頃から変態野郎共に目を付けられてたせいでそこらへんトラウマレベルで引き摺ってんだよな。
 眉間に皺を寄せて厳しい顔をする真尋に、ふと出会った当初を思い出し懐かしい気持ちになった。
(俺もあんな顔されてたなぁ……)
 今じゃ怒った時でさえあんな顔しねぇのに。
「真尋ちゃんって地毛? 綺麗な黒髪だね」
「気安く名前呼ぶな、ちゃん付けすんな、触んな」
 克巳の指が一度も染めた事のない真尋の髪に触れようとし、本人の手で払われる。パシンと小気味良い音がして部屋がシーンとなった。
 ああ、うん、そういう子だから、その子。
 克巳が引き攣った顔で払われた手を摩る。
「ず、随分気が強いんだなぁ」
「ふん。俺に触っていいのは一人だけなんだよ。あっち行け」
「へぇ…一途なんだ。俺そういう子好きだな」
「…っ、だから触んなって…!」
「真尋」
 敵意剥き出しなのに引かねぇ克巳もすげぇけど、本当アイツも物怖じしないな。っつか、人のもんにちょっかい出してんじゃねぇよ。
 いい加減腹が立ってた俺は克巳を押し退けて真尋の名前を呼ぶ。
 猫が毛を逆立てて威嚇するかの如く克巳を睨んでいた真尋は、俺に気付くなり表情を変えて手を伸ばし俺の服を掴んできた。
「廉」
「そろそろ帰るか」
「ん」
 落ち着かせるように頬を撫でると緩んだ顔で手に擦り寄ってくるのが堪らない。完全に同棲を初めてから、真尋は俺に対して素直に甘えてくるようになった。
 猫がデレるとヤバいって、こういう事なんだろうな。
「あれ、えーっと?」
「もう、克巳くん。真尋くんはお兄ちゃんの恋人だよ」
「は? こ、恋人?」
「そういう事だ。見かけても二度と近付くなよ」
 親戚である以上完全に関わりを断つ事は出来ない為そう釘を刺すと、克巳はマジかよとでも言いたげな顔で頷いた。聞き分けが良くて助かる。
 椅子から立ち上がった真尋は、克巳は無視で母と香織に挨拶をし俺の手を握った。見上げて微笑まれ危うくキスしそうになったがどうにか耐える。
「じゃあ帰るな。親父によろしく」
「ええ。二人とも気を付けて帰ってね」
「またね、真尋くん、お兄ちゃん」
 ヒラヒラと手を振りテラスと後にすると真尋が俺の腕に身を寄せて来た。
「アイツむかつく」
「気持ちは分かるけど、俺の従兄弟だからな」
「次会った時同じことしたらぶん殴っていいか?」
「やめとけ。後が面倒だ」
 コイツならやりかねないと首を振り、視線を動かして誰もいない事を確認すると身を屈めて真尋へと口付けた。驚いて目を瞬く間にもう一度キスをして舌で柔らかな唇を舐めてから離れる。
「お、おま…っ」
「さ、行くぞー」
「……!」
 人前や人が通るかもしれない場所ではまだ恥ずかしいらしく、赤くなった真尋が怒鳴る前にとさっさと歩き出す。何か言いたそうな真尋は、しかし諦めたのか俺の背中を殴るだけに留めたらしい。
 俺は小さく笑って頭を抱き寄せると、真尋が好きな言葉を口にした。
「帰ろうな、〝俺たちの家〟に」
「……うん!」



 お前にとって始まりは最悪だったのかもしれない。俺の身勝手でお前を傷付けて苦しめた事も本当は分かってた。
 それでも、口が悪くて意地っ張りで生意気で、そのくせ素直で真っ直ぐでお人好しなお前が手放せなかったんだ。
 この腕の中にお前を抱き締められる今がどれほど幸せか、お前は知らないだろうな。
 俺はもう、何があってもお前を離さない。
 真尋が好きなこの腕の中で、いつまでも甘やかして愛してやる。
 俺に囚われた事が、人生で一番の幸せだったと思えるように。
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