二度目の恋は蕩けるほどに甘い

ミヅハ

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【最終話】二度目の恋は蕩けるほどの幸せ

 オレの朝はまず、玲さんの腕から抜け出す事から始まる。
 寝てるはずなのにいつもガッチリ抱き締められてて、ちょっとでも気付かれようものならすぐに戻されるから、毎朝どれだけ静かに抜けられるかの勝負でもあった。
 休日はほぼオレの方が遅いけど、時々オレの方が早く起きたとしても抜ける途中で玲さんが目を覚ませば、そのまま始まる事もあるからな。
 玲さんアラサーなのに元気過ぎる。
 そんなこんなで無事に抜けられたら、顔を洗って歯を磨いて朝ご飯の準備をするんだ。それが今のオレの当たり前。

「おはよう、天音」
「おはようございます、玲さん」

 そうこうしているうちに玲さんも起きてきて、キッチンに立つオレの頬に口付けてから洗面所に向かう。
 その間に出来上がった朝食をテーブルに並べ、コーヒーを運んだところで玲さんが戻ってきて、オレの腰を抱き今度は唇を重ねてきた。

「ん」

 数回啄んだあと離れ、ふっと微笑んだ玲さんは椅子に座りコーヒーを啜る。
 それを見て少しだけ熱を持った頬に触れたオレは、向かいへと腰を下ろし甘めに淹れたカフェオレを1口飲んだ。
 ちょっとした疑問なんだけど、同棲してるカップルって毎日こんなにキスしてるんだろうか。うちだと朝だけでも、少なくともほっぺた合わせたら3回は確実にしてるんだけど。

「あ、そうだ。天音、今日は少し帰りが遅くなりそう。取引先との会食だから、夕飯も大丈夫」
「分かりました」

 4月に入り、オレは内定を貰った会社に就職。玲さんは将生さんのサポート付きで社長に就任し、毎日忙しそうにしてる。
 ちょっと前に雑誌に新社長紹介みたいなインタビューが載ったんだけど、その反響は出版社の想像以上で、増版して過去最高の売上になったとか何とか。まぁ若いしこの見た目だから納得なんですけどね。
 ついでに言えばオレも買った。読む用と保存用と切り抜き用で。
 一ノ瀬って大手だし、もしかしたらまた雑誌に載るかもしれないってこっそりスクラップブックも作った。ミーハーだとは思うけど、彼氏の事なんだからそれくらいしてもいいだろ。
 見つかっても、玲さんなら苦笑するくらいで怒らないだろうし。
 そういえば、その雑誌を読んだ智弘がめちゃくちゃ驚いてたな。一ノ瀬って、ありきたりではないけどまぁある名前だし、まさか一ノ瀬だとは思ってなかったみたいだからどういう事だって。どういう事も何も、雑誌にあったままなんだけどな。

「あ、マズい! 今日早めに行かなきゃいけないんだった!」
「送ろうか?」
「大丈夫です。帰って来たら片付けるので、お皿は流しに置いておいてください」
「時間あるからやっておくよ」
「ありがとうございます!」

 時間を見て慌てて立ち上がり、仕事に行く準備をしながら言えば穏やかな声が返ってくる。
 バッグを下げて玄関まで行き、靴を履いて振り向くと玲さんがいてオレの髪を梳くように撫でた。普段はオレが見送る側だから、こういう時はちょっとだけ照れ臭い。

「気を付けてね。何かあったら、すぐに連絡するんだよ」
「はい。玲さんも、車の運転、気を付けてくださいね」
「今のところ、無事故無違反だから大丈夫。行ってらっしゃい」
「行ってきます」

 腰を屈めた玲さんと行ってらっしゃいのキスをして、オレは玄関を開けて外へと出た。
 今日はいい天気だ。しっかり働いて、夜は玲さんとイチャイチャしようっと。


 土日が休みのオレは、日曜日だけ玲さんと休みが被ってる。玲さんはたまに呼び出される事もあるけど、基本的には一日中一緒で、家でのんびりしたりデートに出かけたりしてた。
 だからか大人のイチャイチャをするのは自然と前日の土曜日が多くて、それこそ帰って来てお風呂に入らないままとかもある。
 付き合ってきた期間もそれなりに経ったし、そういう事も数え切れないくらいしてるけど、何だかんだで誘ってくれるのはいつも玲さんだ。オレからはほとんどなくて、それが最近の悩みだったりする。
 だからオレは決めたんだ。今日こそは自分から誘うって。
 あの日からずーっと温めてた、〝アレ〟を実践するんだ。
 でもとりあえず、万が一にも時を考えて、夕飯とお風呂の準備はしておかないと。
 夕飯作りを終える頃には、玲さんが帰って来るまで20分を切ってた。
 今から帰るよメッセージも来てたからオレは玄関で待つ事にする。絶対帰って来てくれるって分かってるから、こうして待ってるのも楽しいんだ。
 どんな反応するかなって想像してたら、不意に玄関の鍵が開く音がした。扉が引かれ、スーツ姿の玲さんが現れる。
 オレがいる事に気付いて玲さんがふわりと微笑んだ。

「ただいま、天音」
「おかえりなさい、玲さん」

 すぐに抱き締められ、玲さんはオレの頭に頬擦りしてから離れる。
 バッグをオレに渡し、リビングに行くべく玲さんがオレを追い抜いたんだけど、オレは追いかける事なくその背中に呼びかけた。

「玲さん」
「ん?」
「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも⋯⋯オレにします?」

 恥ずかしいけど、振り向いてくれた玲さんにそう問いかければ、玲さんは数回目を瞬いたあとにこっと笑ってオレを抱き上げた。

「もちろん、天音で」

 良かった、選んで貰えた。
 ホッとすると同時に嬉しくもなったオレは、玲さんの首へと腕を回し弧を描く唇へと口付ける。
 仕事から帰ってきたばかりなのに、オレが望めばすぐにこうして応えてくれる玲さんに想いが溢れた。

「玲さん、大好きです」
「俺も大好きだよ。⋯愛してる、天音」

 優しくて甘い声が耳朶を震わせ、オレは玲さんの首に腕を回して抱き着いた。
 積極的になるって決めたから、今日はオレが頑張ってみよう。


 たくさんの偶然が重なって、オレは玲さんと出会えた。
 好きなんて、オレにとっては辛くて苦しいものでしかなかったのに、今じゃこんなにも幸せなものだって思える。
 全部、玲さんが教えてくれたんだ。
 この先を、オレはずっとこの人と歩んでいく。
 楽しい事も嬉しい事も、悲しい事も苦しい事も、全部同じ熱量で感じながら。

 初恋が実らなくて良かったって言ったら、玲さんは笑ってくれるかな。




FIN.

✧• ──────────────────────────•✧ 

【二度目の恋は蕩けるほどに甘い】、これにて本編完結でございます!

とにかく受を溺愛する攻が書きたくて、玲には最初から最後まで天音に激甘でいて貰いました(笑)

作中ちょこちょこ出ていましたが、玲は基本他人には冷たいです。
どうでもいいと思ってるので、不必要だと思ったらあっさり切り捨てます。鬼です(笑)
でも天音にはとことん優しくて、何においても可能な限り優先する重い男でもあります🤭
そんな攻が大好物です🍀

少しでも糖度高! って思っていただけたら最高にハッピー✨

本編は終わりましたが、明日からは番外編をいくつか更新しますので、そちらも読んでいただけると嬉しいです😊
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