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怪しい人影
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去年と違い、賑やかで楽しいクリスマスパーティが始まった。
ジュースで乾杯して、定番のチキンやオードブル、大きなクリスマスケーキをみんなで食べたあと、トランプで遊んだりゲームをしたりと凄く楽しく過ごした。
ボードゲームとか初めてしたけどなかなかに難しくて⋯苦戦してたせいでテンポを崩しちゃったのは悪かったな。
ちなみに僕が作ったロールキャベツはほとんど斗希くんが食べました。
「陽依さん、座ってていいよ?」
「そうそう。俺たちが招いた側だし」
「ありがとう。でも片付けはみんなでした方が早いから、パパっとやっちゃおう」
もうすぐ終了時間がくるとの事で、テーブルに置きっぱなしだった空の容器や出たゴミを纏めてたら、キッチンの方で作業していた子たちが申し訳なさそうに言ってきた。
それに首を振って返し新しいゴミ袋を出してると、不意に手が重ねられ握られる。
周りの子が「あ!」と声を上げる間に顔が近付いて、キラキラした目で見られ僕は思わずたじろんだ。
「ほんっと、斗希にはもったいないくらい素敵な人だ。おまけに可愛いし⋯⋯俺、陽依さんなら男でも⋯」
「死にてぇのか、てめぇ」
「ひっ!」
どんどんアップになる顔に身を引いてたらドスの効いた低い声が聞こえ、ビクッと肩を跳ね上げたその子は勢い良く僕の手を離す。
トイレに行ってた斗希くんが戻ってきたみたいで、射抜かれそうなくらい鋭い視線で睨み付けてた。
「気安く触りやがって」
「いやぁ⋯つい」
「つい?」
「⋯ごめんなさい」
「次やったらぶっ飛ばす」
「⋯⋯はい」
傍から聞いたら一触即発のようにも見えるけど、仲が良いからこそ斗希くんのこういう物言いも受け入れられてるのか、他の子はやれやれって感じで肩を竦めてた。
斗希くんは僕が持っていたゴミ袋を取り上げると、一緒に集めてた1人に渡して僕の手を引きソファの方へと移動させ座らせる。斗希くんも隣に腰を下ろし、肩に回ってきた腕に抱き寄せられ軽く口付けられた。
「⋯っ、と、斗希くん⋯」
「外、雪降ってんぞ」
「え、ほんと?」
友達の前でって眉尻を下げたら、斗希くんがチラリと窓の方へと視線を向ける。つられて同じ方を向いたけどカーテンが引かれてるから外は見えなくて、立ち上がった僕は窓に近付いて細く開いた。
外では斗希くんが言ったように雪がチラチラと降っている。
「外出てもいい?」
「ん」
「俺らも片付け終わったら出るよ」
雪が降っているだけで嬉しくなり振り向いて聞くと斗希くんは頷いて立ち上がり、いそいそとコートを着た僕にマフラーを巻いてくれたあと自分も防寒具を身に着け荷物と一緒に玄関へと向かう。
実家の方では雪が降るのは当たり前なんだけど、やっぱりテンションは上がるものだ。
靴を履いて扉を開けたら、一気に冷気が吹き付けてきた。
「さむ⋯っ」
「結構降ってんな」
「このまま降り続けたら積もりそうだね」
「そうなったら引き篭るか」
「雪だるま作ろうよ」
「⋯めんど」
そうは言いつつも、本当に僕が作ろうとしたら付き合ってくれるのはこの数ヶ月で分かってる。
最近は僕のしたい事を、仕方ないなって感じで受け入れてくれるんだよね。
「⋯あれ、誰かいるんだけど」
「え、どこ?」
「あそこ。電柱のとこ」
玄関前で空を見上げてたら、帰り支度をして出てきた友達が怪訝そうな声を上げた。
みんなで指差された場所を見ると、確かに電柱の明かりの下に誰かがいて身体半分でこっちを見てる。腰から下が広がってるから、スカートを履いた女の子⋯かな。
でも顔までは見えなくて、目を凝らしてたらいきなり斗希くんが舌打ちした。
「陽依、そいつらの後ろに行ってろ」
「え? あ、うん」
「何、どうしたよ、斗希」
苛立ちを含んだ斗希くんにみんなが何かを察して僕を背中に隠してくれる。
嫌な予感がする⋯というか、何となく分かってしまった。あそこにはきっと、あの黒髪の女の子がいるんだろう。
でもまさか、ここまで追い掛けて来てるなんて⋯。
「あいつが近付いて来たら、陽依連れてここから離れろ」
「それはいいんだけど、説明くらいはしてくれないか?」
「あそこにいる人、斗希の知り合い?」
斗希くんは視線を逸らす事なくみんなに話すけど、何がなにやらなみんなは困惑してる。それでも何かあればすぐ動けるように目配せしてて、そんな友達に斗希くんは簡潔に「ストーカー」と答えた。
ギョッとして誰かが「マジか」って呟き、纏う空気がヒリついたものに変わる。
しばらく睨み合う形になってたけど、電信柱にいた子は不意に踵を返すと厚底特有の重たいヒールの音を鳴らしながら雪が降る中去って行った。
「⋯⋯帰ってった⋯?」
「ってか、ついにストーカーにまで追われるようになったか」
「口は悪いし愛想もないのにな」
「所詮は顔か」
暗闇の向こうに消えた頃、ふっとみんなの気が緩んで普段通りになる。
もし声をかけられたらどうなってたんだろうって考えてたら、ふわりとムスクの香りがして頬に暖かい手が触れた。
見上げると斗希くんが目の前にいて、険しい顔のまま溜め息をつく。
「大丈夫か」
「うん。⋯あの子、駅とかで斗希くんを見つけて、ここまで着いて来たのかな⋯」
「かもな」
「⋯⋯ずっと待ってた⋯?」
「たぶん」
だとしたら、相当寒かったんじゃ⋯。
あとをつけられて、待たれてた事は怖いけど、女の子がこんな時間に1人であそこにいたのは少し心配になってしまう。
⋯あの子からすれば、心配なんて僕にはされたくないだろうけど。
手を伸ばして斗希くんの服を掴んだら、片手で抱き寄せられ頭のてっぺんに唇が押し当てられた。
「ちょっとでも周りでおかしいと思った事があったら言えよ」
「うん」
「⋯⋯⋯」
それはつまり、僕の事も斗希くんとの関係も、あの子に知られたかもしれないって事だよね。ここに来る時ずっと手を繋いでたし。
ストーカーって初めて見たし、自分はされた事なくて分からないから不安だけど、斗希くんが辛い思いをしたり危ない目に遭ったりしなければって思う。
どうにかして解決出来たらいいな。その為に、僕も多少なりとも力になれたらいいんだけど。
ジュースで乾杯して、定番のチキンやオードブル、大きなクリスマスケーキをみんなで食べたあと、トランプで遊んだりゲームをしたりと凄く楽しく過ごした。
ボードゲームとか初めてしたけどなかなかに難しくて⋯苦戦してたせいでテンポを崩しちゃったのは悪かったな。
ちなみに僕が作ったロールキャベツはほとんど斗希くんが食べました。
「陽依さん、座ってていいよ?」
「そうそう。俺たちが招いた側だし」
「ありがとう。でも片付けはみんなでした方が早いから、パパっとやっちゃおう」
もうすぐ終了時間がくるとの事で、テーブルに置きっぱなしだった空の容器や出たゴミを纏めてたら、キッチンの方で作業していた子たちが申し訳なさそうに言ってきた。
それに首を振って返し新しいゴミ袋を出してると、不意に手が重ねられ握られる。
周りの子が「あ!」と声を上げる間に顔が近付いて、キラキラした目で見られ僕は思わずたじろんだ。
「ほんっと、斗希にはもったいないくらい素敵な人だ。おまけに可愛いし⋯⋯俺、陽依さんなら男でも⋯」
「死にてぇのか、てめぇ」
「ひっ!」
どんどんアップになる顔に身を引いてたらドスの効いた低い声が聞こえ、ビクッと肩を跳ね上げたその子は勢い良く僕の手を離す。
トイレに行ってた斗希くんが戻ってきたみたいで、射抜かれそうなくらい鋭い視線で睨み付けてた。
「気安く触りやがって」
「いやぁ⋯つい」
「つい?」
「⋯ごめんなさい」
「次やったらぶっ飛ばす」
「⋯⋯はい」
傍から聞いたら一触即発のようにも見えるけど、仲が良いからこそ斗希くんのこういう物言いも受け入れられてるのか、他の子はやれやれって感じで肩を竦めてた。
斗希くんは僕が持っていたゴミ袋を取り上げると、一緒に集めてた1人に渡して僕の手を引きソファの方へと移動させ座らせる。斗希くんも隣に腰を下ろし、肩に回ってきた腕に抱き寄せられ軽く口付けられた。
「⋯っ、と、斗希くん⋯」
「外、雪降ってんぞ」
「え、ほんと?」
友達の前でって眉尻を下げたら、斗希くんがチラリと窓の方へと視線を向ける。つられて同じ方を向いたけどカーテンが引かれてるから外は見えなくて、立ち上がった僕は窓に近付いて細く開いた。
外では斗希くんが言ったように雪がチラチラと降っている。
「外出てもいい?」
「ん」
「俺らも片付け終わったら出るよ」
雪が降っているだけで嬉しくなり振り向いて聞くと斗希くんは頷いて立ち上がり、いそいそとコートを着た僕にマフラーを巻いてくれたあと自分も防寒具を身に着け荷物と一緒に玄関へと向かう。
実家の方では雪が降るのは当たり前なんだけど、やっぱりテンションは上がるものだ。
靴を履いて扉を開けたら、一気に冷気が吹き付けてきた。
「さむ⋯っ」
「結構降ってんな」
「このまま降り続けたら積もりそうだね」
「そうなったら引き篭るか」
「雪だるま作ろうよ」
「⋯めんど」
そうは言いつつも、本当に僕が作ろうとしたら付き合ってくれるのはこの数ヶ月で分かってる。
最近は僕のしたい事を、仕方ないなって感じで受け入れてくれるんだよね。
「⋯あれ、誰かいるんだけど」
「え、どこ?」
「あそこ。電柱のとこ」
玄関前で空を見上げてたら、帰り支度をして出てきた友達が怪訝そうな声を上げた。
みんなで指差された場所を見ると、確かに電柱の明かりの下に誰かがいて身体半分でこっちを見てる。腰から下が広がってるから、スカートを履いた女の子⋯かな。
でも顔までは見えなくて、目を凝らしてたらいきなり斗希くんが舌打ちした。
「陽依、そいつらの後ろに行ってろ」
「え? あ、うん」
「何、どうしたよ、斗希」
苛立ちを含んだ斗希くんにみんなが何かを察して僕を背中に隠してくれる。
嫌な予感がする⋯というか、何となく分かってしまった。あそこにはきっと、あの黒髪の女の子がいるんだろう。
でもまさか、ここまで追い掛けて来てるなんて⋯。
「あいつが近付いて来たら、陽依連れてここから離れろ」
「それはいいんだけど、説明くらいはしてくれないか?」
「あそこにいる人、斗希の知り合い?」
斗希くんは視線を逸らす事なくみんなに話すけど、何がなにやらなみんなは困惑してる。それでも何かあればすぐ動けるように目配せしてて、そんな友達に斗希くんは簡潔に「ストーカー」と答えた。
ギョッとして誰かが「マジか」って呟き、纏う空気がヒリついたものに変わる。
しばらく睨み合う形になってたけど、電信柱にいた子は不意に踵を返すと厚底特有の重たいヒールの音を鳴らしながら雪が降る中去って行った。
「⋯⋯帰ってった⋯?」
「ってか、ついにストーカーにまで追われるようになったか」
「口は悪いし愛想もないのにな」
「所詮は顔か」
暗闇の向こうに消えた頃、ふっとみんなの気が緩んで普段通りになる。
もし声をかけられたらどうなってたんだろうって考えてたら、ふわりとムスクの香りがして頬に暖かい手が触れた。
見上げると斗希くんが目の前にいて、険しい顔のまま溜め息をつく。
「大丈夫か」
「うん。⋯あの子、駅とかで斗希くんを見つけて、ここまで着いて来たのかな⋯」
「かもな」
「⋯⋯ずっと待ってた⋯?」
「たぶん」
だとしたら、相当寒かったんじゃ⋯。
あとをつけられて、待たれてた事は怖いけど、女の子がこんな時間に1人であそこにいたのは少し心配になってしまう。
⋯あの子からすれば、心配なんて僕にはされたくないだろうけど。
手を伸ばして斗希くんの服を掴んだら、片手で抱き寄せられ頭のてっぺんに唇が押し当てられた。
「ちょっとでも周りでおかしいと思った事があったら言えよ」
「うん」
「⋯⋯⋯」
それはつまり、僕の事も斗希くんとの関係も、あの子に知られたかもしれないって事だよね。ここに来る時ずっと手を繋いでたし。
ストーカーって初めて見たし、自分はされた事なくて分からないから不安だけど、斗希くんが辛い思いをしたり危ない目に遭ったりしなければって思う。
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