人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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得体の知れない転校生

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『本日の特別ゲストはこちら! もうすぐ二周年を迎える大大大人気アイドルグループ、【soar】のみなさんです!』
『キャー!!』
『こんばんはー!』
『こんばんは』
『…こんばんは』
『凄いですねー! スタジオが一段と湧いております!』
『こんなにたくさんの声援が頂けるなんて、有り難い事です』
『お前ら元気かー?』
『元気ー!!』
『風音、ライブじゃないんだから』
『あ、悪い。つい楽しくて』
『すみません』
『いえいえ。ここだけの話なんですけど、今回のスタジオ観覧の応募総数が過去最高だったそうで…さすがです!』

 テレビの向こうで、いつもより派手なメイクを施した司会者が興奮したように話してる。夕飯後の片付けの手を止めたオレは、手を拭きながらテレビへと近付いた。
 テレビを点けるとどこかしらのチャンネルや時間に必ず【soar】がいる。CMでも見るし、音楽番組やバラエティ番組でも見る。志摩さんや風音さんに至ってはドラマにも出てるから、本当に引っ張りだこだ。
 学校が始まって早一週間。真那とはあの日以来会えてないけど、メッセージや電話のやり取りは毎日しててそれなりに上手く過ごしてる。

「もっとちゃんと受け答えしろよなー」

 いつもと同じ、質問にもにこりともせず無感情に答える真那に、司会もお客さんも楽しそうだ。これ、真那の話し方がのんびりしてるからいいんであって、ヤンチャな口調だったら怖がられてたんだろうな。

『おいヒナ、俺以外の誰にも触らせんなよ』

 乱暴な口調で話す真那をぼんやりと想像してドキッとした。ヤバい、これはこれでありかもしれない。
 でもあの顔で〝てめぇ〟とか言ってたら王子様どころか魔王様だな。真那に〝お前〟なんて呼ばれた事すらないけど。

『そういえば、ライブ初日に合わせてニューアルバムがリリースされるそうですね。今回は何と、初回限定盤のみリハーサルの様子などを収めたDVDが付いてくるとか』
『はい。先月、ファンのみなさんにホームページでどんな特典がいいかアンケートを行ったんです。そうしたらリハーサル風景や楽屋の様子が見たいという答えが半数以上だったんで、それならこれしかないと』

 そういえばオレも答えたな、アンケート。選択式で、リハの様子、楽屋裏、撮り下ろしボイスだっけ? リハーサルに決定したんだ。

『無事に二周年を迎えられるのもファンの皆のおかげですし、俺たちも張り切ってるんですよ!』
『もちろん私も予約しました。今回はお店でも購入特典が付くんですよね』
『はい。ブロマイドが四枚付きます』

 当たり前だけどオレも予約した。ちゃんと見てなかったけど、店舗購入特典なんてあったんだ。しかもブロマイド。

『四枚とも撮り下ろしで、サンプルさえどこにも載せてないんで本当に購入した方限定の特典です』
『なので、購入して下さった方はネットには絶対上げないで下さいね』
『俺たちとの約束だぞ!』
『はーい!』
『いいお返事』
『キャー!!』
『ってか、真那、起きてるか?』
『起きてるよ』
『ならちょっとは喋れ』
『二人が話してくれるから』
『人任せにすな!』

 風音さん、容赦なく突っ込んでくれるから真那が黙ってても場が持つんだろうな。ドッと湧くスタジオに釣られるように笑ったオレは、少しだけテレビのボリュームを上げ止まっていた片付けを再開した。





 朝、門のところで千里や円香に会って一緒に教室に行くのもオレの日常になりつつある今日この頃、何とうちのクラスに転校生が入ってくるらしい。学期始まったばっかだけど、始業式には間に合わなかったのかな。
 ホームルームが始まり、担任が入って来て出席確認したあと、噂の転校生が呼ばれて入ってくる。
 女の子たちがザワっとして、オレも目を瞬いた。

日下部 紫苑くさかべ しおんくんだ。みんな仲良くするように」
「関西から来た日下部紫苑です。気軽にしーくんって呼んだってやー」

 おお、関西弁。にしてもイケメンだな。真那ほどじゃないけど背も高い。

「え、ちょ、カッコ良くない?」
「やば、ちょータイプ」
「ってか、どっかで見た事あるんだけど…」

 聞こうとしなくても耳に入ってくる女子たちのヒソヒソ話を受け流しつつ頬杖をついて転校生を見てたんだけど、バチッと目が合って爽やかに笑いかけられ慌てて顔を逸らす。
 何か、ピンポイントでオレに目を合わせに来なかったか?

「じゃあ日下部、後ろの空いてる席に座ってくれ」
「はーい」

 明るく返事をして歩き出した日下部は、オレの横を通り過ぎる時だけ何故か指先で机をなぞって席へと向かったんだけど…何?
 完全なる初対面のはずなのにと眉を顰めていると、ヒンヤリとした空気を感じて何事と隣を見れば、千里のどこか怒ったような顔が見えてますます困惑する。何で怒ってるんだ?
 オレは嫌な予感がしながらもとりあえずは学業専念とホームルームを始める担任へと視線を向け、背筋を正した。



「なー、自分、陽向くんやろ?」
「へ?」

 昼休み、弁当を持って後ろの席にいる円香の方へ移動しようと立ち上がった時、不意に日下部に声をかけられた。自己紹介した覚えもないのに何で名前を?
 少しだけ警戒しながら見上げると、顔を近付けて来た日下部は不躾にオレを見て器用に片眉を上げる。

「ふーん、ふっつーやなー。地味って言われへん? まぁ、顔は可愛ええ方やと思うけど…オーラないな、自分」
「は?」
三枝真那の幼馴染みなんやろ? アイツがごっつー熱上げとる言うからどんな美人かと思いきや……笑えるわ」

 何でオレと真那が幼馴染みだって…日下部紫苑なんて名前の奴、幼稚園にも小学校にも中学校にもいなかった。そもそもコイツ、関西から来たんだろ? オレも真那もここが地元だし、同校の奴以外知らないはず。
 ってか何だコイツ、ムカつくな。

「まぁでも、利用出来るもんはさせて貰わんとな」
「……」
「陽向くんに何の用?」

 纏わりつくようなねっとりとした言い方に若干の恐怖を感じて睨み付けてると、千里が間に入って来て冷たい声で問い掛けた。後ろから肩を引かれて振り返ると、円香もいて日下部を睨み付けてる。

「うわ、美人! なぁなぁ、番号交換せぇへん? 今度一緒に遊ぼうや」
「お断りよ」
「即答! 切れ味抜群やん。…君みたいな子やったら、真那の隣におってもおかしくないんやけどな」
「何を言ってるのかしら。三枝先輩の隣には陽向くんしか有り得ないわ」
「そーだそーだ。見る目ない人は引っ込んでて!」
「え、何。君もコイツの味方なん? ズルいわー。別嬪さんにばっか好かれて、ええご身分やね」

 嫌味な言い方。
 それにしても、転校生と早々に睨み合ってるこの状況って周りから見てどうなんだ? やっぱオレが悪かったりするのかな。

「日下部くーん、お昼一緒に食べようよー」
「お弁当? 購買?」
「こっちおいでー」
「誘ってくれておおきにー。もうちょい待ってなー」

 打って変わってにっこりと笑った日下部は、声をかけて来た女子に手を上げてそう返し、今度はオレを見下ろすようにして鼻で笑う。

「俺、真那の事嫌いなんよ。やから、真那が大事大事にしとる陽向くんで遊ばして貰うわ」
「遊…?」
「女の子に守られるような情けない男やし、すぐ泣いてまうかもしれんけど」
「……!」
「ま、せいぜい気張りやー」

 いちいち気に触るけど日下部の言う事は正しくて、ハッとしたオレは立ち去る日下部を冷たい目で見る千里を見て唇を噛んだ。

「陽向くん、大丈夫?」
「……うん。ごめん」
「何で謝るの? 陽向くんは悪くないでしょ?」
「また二人に守って貰った…」

 日下部の言う通り、この間のプールの時も今も、オレめちゃくちゃカッコ悪い事してる。せめてオレが二人を守れるようにならなきゃいけないのに。
 遊ぶの意味はちょっと分かんないけど、それがいい意味じゃなかったら二人まで危ない目に遭うかもしれない。自分でどうにかしないと。

「二人ともありがとう。でもオレ、自分の身は自分で守るから」
「陽向くん」
「危ないから、あんまりオレの前には立たないで欲しい」

 千里や円香が弱いって思ってる訳じゃないけど、もし二人が怪我でもしたらオレは一生後悔する。
 二人の柔らかくて小さな手を握りじっと見つめてお願いすると、眉尻を下げた千里がやれやれみたいに首を振って息を吐いた。

「分かったわ。でも、なるべくあの人には近付かないでね」
「私たちは、あの人を敵と認定しましたので」
「敵って……でも、分かった。なるべく近付かないようにします」

 心配してくれる友達がいるって凄く嬉しい。真那の為にも、二人の為にも、オレはもっと強くならないとな。
 あんな嫌味な奴に負けてたまるか!
 オレは女子と楽しそうにお弁当を食べている日下部の背中に向かってべっと舌を出した。
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