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強気なネコは甘く囚われる【完】
特別な贈り物を【クリスマスSS】
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世間では楽しいクリスマスを控えていた。
クリスマスカラーに染まった街も、計画を立てて楽しそうに話し合うカップルも、サンタからのプレゼントを心待ちにしている子供たちも、みんながみんな笑顔で過ごしてる。
だけどイブも二日後に控えた今、俺は一人暗い顔で雑貨屋を覗き込んでた。
(ヤバい、マジでヤバい。廉へのプレゼント、何にも決められてねぇ)
去年は悩みに悩んで出掛ける用のボディバッグをあげたけど、それが精一杯捻り出した物だったから本当にもう思い浮かばない。
だって廉の奴、もともとお値段的にもいい物をたくさん持ってるから下手な物あげられなくて、一緒に過ごす年を重ねる事にどんどんネタもなくなっていって、今年はもう限界だった。
世に物は溢れていれど、人の好みによるから選択肢はますます縮んでいく。
こういうのは本人に聞くのも違うし、この際だから廉に何をあげたいかじゃなくて、廉が何を欲しがっているかを考えた方がいいのかもしれない。
(廉だったら何を欲しいって言うかな⋯)
基本的に廉も物欲はないんだよな。
俺には何でも買い与えようとしてくるくせに、自分の物になると途端にどうでも良くなるのはどうかと思う。
あんなんだけど、めちゃくちゃ甘やかし体質なんだよなぁ、あいつ。
いつも俺の事考えてくれてるし。
「⋯⋯あ」
廉が喜ぶ物、分かったかも。
物凄ーく自惚れてる話ではあるんだけど、廉がよく言う「真尋がいればいい」ってのを思い出して一つだけこれならってのがある。
その名も、〝綾瀬真尋の一日を自由に出来る券〟。
何をされるかは不安ではあるけど、これが一番喜んでくれそう。
「よし、さっそく帰って作るか」
家にあるパソコンとプリンターでパパッと作成出来るはずだ。
そう決めた俺は、見るともなしに見ていた雑貨屋から目を離し、さっきよりも足取り軽く帰路へとついたのだった。
二日後、クリスマス当日。
仕事に行く廉を見送った俺は、午前だけ大学に行き帰って来てから家中をピカピカにして料理に取り掛かった。
チキン、シチュー、ガーリックトースト、生ハムサラダ、フライドポテト。それからせっかくだしと買ったお酒で乾杯するつもりだ。
よくよく考えたら家呑みってほとんどした事ないんだよな。
廉は仕事の付き合いとかでたまに飲んで帰ってくるけど、酔ってるところは見た事ない。
「よし、シチューは完成。チキンとポテトは廉が帰って来てからにするとして⋯うわ、暇になった」
張り切って早く準備を始めたせいでもうやる事がない。
廉が帰ってくるのは十九時前後だから、あと五時間は俺一人だ。
「イタズラしてやろうかな」
ニヤっと笑ってスマホを取り出した俺は、寝室に行くと廉のトレーナーを取り出して自分の服を脱ぎ着替える。暖房効いてるからこれ一枚でも寒くないしとベッドに腰掛け、裾をチラリと捲ってインカメを起動させたスマホで写真を撮った。
太腿全体じゃなく、捲った部分だけ見えるように写したから結構エロい気がする。
トーク画面に『暇』と一言打ってさっきの写真と共に送信しておいた。いつ見るかは分からないけど、帰ってきた時の反応が楽しみだ。
「⋯⋯眠くなってきたな」
五時間もあるんだからちょっとくらい昼寝しても大丈夫だろう。
もう一回着替えるのも面倒だしとそのままベッドに上がった俺は、真ん中で横になり欠伸を零す。起きたら廉が帰ってくる時間になってるといいんだけど。
ポツポツと窓に何かが当たる音が聞こえる。
気付いて目を開けたもののしばらくウトウトしていた俺は、それが何か分かった瞬間ハッとしてベッドから降りベランダに向かった。
「あー⋯⋯」
いつからなのか、結構な勢いで雨が降っていて、風が吹いている事もあり外側に干してた洗濯物が全滅してしまっていた。
しょんぼりしつつとりあえず乾いている物を取り込み、濡れた物はもう一回洗濯して乾燥機に掛けるかとハンガーごと入れてたら、後ろから手が伸びて残りを纏めて取ってくれる。驚いて振り向くと廉がいたけど、その顔はどこかムッとしてた。
「廉⋯」
「洗濯か?」
「う、うん」
「そっちも貸せ、回してくる」
「あ、ありがとう」
いつもより声が低いから怒ってるのかと思ったけど、洗濯物を受け取ると俺の頭を撫でて行ったからそういう訳ではないらしく首を傾げる。
ふと足元が寒い事に気付いて視線を下げた俺は「あ」と声を上げた。
廉のトレーナー着たまま寝たの忘れてたな。
「真尋」
さすがにこのままは良くないと元の服に着替えるべく寝室に向かおうとしたら廉に呼び止められる。
振り向くと手に持っていた紙袋を渡され俺は目を瞬いた。
「何?」
「着替えるんならこれにしろ」
「え?」
「着たらすぐに出て来い」
意味分からないけど、とりあえず着れば機嫌は良くなるのかなと頷き寝室に入る。トレーナーを脱いで、紙袋から服と思しき物を取り出すとどうやら上下のセットらしい。
でも起毛素材のわりに厚みが全然ない。
まぁ着れば分かるかとそれに腕を通した俺は自分の姿を鏡で見てワナワナと震える。
茶色の服はセパレートタイプで、上は肩紐がなくて胸だけを隠すチューブトップ、下は小さな尻尾がついたほぼ下着と変わらない丈の短いパンツ。オマケに何か動物の足みたいなグローブがついてて、俺はおおよそこんな真冬にするべきじゃない格好をしていた。
へそ出しとか、どこのギャル⋯。
めちゃくちゃ嫌だけど、出て来いって言われたから仕方なく寝室から出たら待ち構えていたのか頭に何かが着けられた。
「似合うな」
「あのさ、コスプレさせるにしたってこれはねぇだろ。何でこんな露出高いんだよ。そもそもこれ、女物だよな」
「お前があんな写真送ってこなきゃ、普通にサンタコスさせてたんだけどな」
「あ」
写真と言われて昼寝の前の行動を思い出す。そういえばイタズラする気満々でえっちめのやつ送ってたんだった。
つまりこれはアレの仕返しって事か。
言い返す言葉が見付からなくて黙り込んだ俺の腰に手を回した廉が、剥き出しの肩を撫でながらニヤリと笑う。
「このまま組み敷いても文句は言えねぇ訳だ」
「いや⋯えっと⋯」
「仕事中にアレを見て、すぐにでも帰ってお前をぐちゃぐちゃにしたいって衝動を抑えた俺の気持ちなんて、分かんねぇだろうなぁ」
「れ、廉⋯」
「ほんと、お前は俺を煽る天才だよ」
肩から頬に移動した手が撫でながら顎へと滑り上向かされる。
見下ろすような目線が気になって顎の下を擽る廉の手を握ると目が細められた。
「⋯怒ってんの?」
「いや、呆れてるだけだ」
「悪かったって。ちょっとしたイタズラ心なんだよ」
「ちょっとしたで俺の理性を試すな」
「そんな意図もなかったっつーの」
本当にただのイタズラだったのに、思った以上に廉にダメージがいって俺だってびっくりだ。ホントに性欲魔人だな、こいつ。
廉は苦笑して俺から手を離すと、また別の紙袋から赤い服を取り出して頭に着いてた物を取り、更に俺の手に嵌めてた動物の足のグローブを引き抜いた。
「ほら、バンザイ」
「?」
言われて素直に両手を上げると上から違うものが被せられる。
ストンと下まで降りて、大人しく袖を通すとどうやらサンタのワンピースらしく、さっきと比べたらめちゃくちゃ普通の服だった。
これ、女の子なら可愛いんだろうなぁ。
ヒラヒラしてるスカートを弄ってたら、今度はサンタの帽子が被せられる。
「ん、可愛い」
「⋯⋯⋯忘れてた」
「何を?」
「おかえり、廉」
自分の女みたいな顔がコンプレックスな俺は、人から容姿を褒められるのが大嫌いだ。でも廉だけは別で、こういう時とかヤってる時とか、〝可愛い〟って言われると嬉しいし胸がキュッてなる。
廉の背中に腕を回していつもの挨拶をすれば、吐息で笑った廉が俺の頭に口付けて抱き締め返してくれた。
「ただいま」
「廉が風呂入ってる間にご飯用意しとく」
「分かった」
「ちゃんとあったまって出て来いよ」
「ああ」
頬が撫でられスーツを脱ぐ為に一度寝室に行った廉が着替えを手に浴室に向かう。
それを見送ってキッチンに行き、サンタ服が汚れるのも嫌だからエプロンをしてシチューを温めつつチキンとポテトを揚げてたら、風呂から上がった廉が覗き込んできた。
「美味そう」
「だろー? 今の俺は廉より上手くなってる気ぃする」
「そうだな。毎日美味い飯食わせてくれてありがとな」
「お礼なら甘い物で」
「明日買ってくる」
こういう我儘言っても受け入れるんだもんなー。
出来上がった物をそれぞれ皿に移し、廉にも手伝って貰いながらテーブルへと運びお酒も持って行くと廉が眉を顰める。
「酒飲むのか?」
「せっかくだし」
「酔うまで飲むなよ。あとでヤんだから」
「情緒も何もねぇ事言うな」
ほんっとにこいつは⋯。
ちなみにクリスマスケーキは廉が甘い物を食べないから買ってない。俺一人だけ食べるのも寂しいし。
全部並べ終えて椅子に座ったら、どこから持って来たのかラッピングされたプレゼント袋を廉から渡された。これはクリスマスプレゼントか。
「ありがとう」
「ああ」
「じゃあ俺からはこれ」
「⋯商品券か何かか?」
「開けてからのお楽しみー」
形や厚み的には確かにそれっぽいけど、残念ながら金券ではないんだなー。
糊付けされていた封を切り、中身を取り出して目を走らせた廉が片眉を跳ね上げる。さっきから良く動くな。
「〝綾瀬真尋、一日自由に出来る券〟⋯⋯へぇ」
「今から明日のこの時間まで有効な」
「自由にって、何でもいいのか?」
「よっぽどじゃなければ」
廉が俺に痛い事や苦しい事をするはずないって信じてるから頷いたら、チケットを見て少し考えた廉は座っている俺を抱き上げると代わりにそこに腰を下ろし膝に座らせた。
目を瞬いてたらチキンを手にしてかぶりつき、そのまま俺にキスしてくる。
驚いてる間にチキンが舌で押し込まれて、油でぬるついた唇が廉の指で拭かれた。
「こういうのもありって事だよな」
「⋯⋯まぁ⋯」
「んじゃ、擦り切れるまで使わせて貰うか」
てっきりエロい事メインで使うと思ってたのに。
それよりも、もしかして俺はここで食べる事になるのだろうか。廉は下ろしてくれる気なさそうだし、何なら自分の皿をこっちに持ってきたし。
どこか楽しそうな横顔をじっと見てたら、気付いた廉がふっと笑って俺の肩を抱き寄せ唇を塞いできた。舌が入ってきて絡め取られた舌が吸われる。
こんな事されると俺もご飯どころじゃなくなるのに。
「ん⋯っ」
「⋯⋯物欲しそうな顔」
「⋯っ、し、てねぇ⋯」
「あとでたっぷり可愛がってやるから、今は我慢しろ」
「廉がしてきたんだろ⋯っ」
「はいはい」
またその返事。
ムッとして廉の頬を抓るとポテトが口元に寄せられ隙間から突っ込まれた。口の中に入ったからには食べなきゃいけないし、もそもそ咀嚼して飲み込むとまたポテトが唇に触れる。
あれ、これってもしかして食べさせたいって事か?
チケット有効だし、これが廉のしたい事ならまぁ受け入れてやるけど。
「⋯リスみたいで可愛いな」
「チキンも食いてぇんだけど」
「口移しで?」
「普通に決まってんだろ」
肉汁やら何やらが廉に持ってかれるだろうが。
思いっきり眉を顰めてるのに廉は微笑んでて、俺の要望通りにチキンを食べさせてくれる。自分なりにスパイスの分量やら考えて味付けしたけど、案外上手く出来たかな。
「真尋」
「ん?」
「メリークリスマス」
人に食べさせて貰う骨付き肉ってなかなかに食いにくくて、廉の手を掴むようにして噛みちぎっていたら柔らかな声に呼ばれる。顔を上げれば額にキスされて、吐息がかかる距離で囁かれた。
生憎とホワイトクリスマスどころか雨な今日だけど、今年も変わらず廉と過ごせて良かったな。思いがけないコスプレも大切な思い出の一部だ。
チキンを飲み込み、ウェットティッシュで口を拭いた俺は廉の首に両腕を回すと軽く口付けにっと笑った。
「メリークリスマス」
来年は雪が降る中を手を繋いで歩けるといいな。
FIN.
クリスマスカラーに染まった街も、計画を立てて楽しそうに話し合うカップルも、サンタからのプレゼントを心待ちにしている子供たちも、みんながみんな笑顔で過ごしてる。
だけどイブも二日後に控えた今、俺は一人暗い顔で雑貨屋を覗き込んでた。
(ヤバい、マジでヤバい。廉へのプレゼント、何にも決められてねぇ)
去年は悩みに悩んで出掛ける用のボディバッグをあげたけど、それが精一杯捻り出した物だったから本当にもう思い浮かばない。
だって廉の奴、もともとお値段的にもいい物をたくさん持ってるから下手な物あげられなくて、一緒に過ごす年を重ねる事にどんどんネタもなくなっていって、今年はもう限界だった。
世に物は溢れていれど、人の好みによるから選択肢はますます縮んでいく。
こういうのは本人に聞くのも違うし、この際だから廉に何をあげたいかじゃなくて、廉が何を欲しがっているかを考えた方がいいのかもしれない。
(廉だったら何を欲しいって言うかな⋯)
基本的に廉も物欲はないんだよな。
俺には何でも買い与えようとしてくるくせに、自分の物になると途端にどうでも良くなるのはどうかと思う。
あんなんだけど、めちゃくちゃ甘やかし体質なんだよなぁ、あいつ。
いつも俺の事考えてくれてるし。
「⋯⋯あ」
廉が喜ぶ物、分かったかも。
物凄ーく自惚れてる話ではあるんだけど、廉がよく言う「真尋がいればいい」ってのを思い出して一つだけこれならってのがある。
その名も、〝綾瀬真尋の一日を自由に出来る券〟。
何をされるかは不安ではあるけど、これが一番喜んでくれそう。
「よし、さっそく帰って作るか」
家にあるパソコンとプリンターでパパッと作成出来るはずだ。
そう決めた俺は、見るともなしに見ていた雑貨屋から目を離し、さっきよりも足取り軽く帰路へとついたのだった。
二日後、クリスマス当日。
仕事に行く廉を見送った俺は、午前だけ大学に行き帰って来てから家中をピカピカにして料理に取り掛かった。
チキン、シチュー、ガーリックトースト、生ハムサラダ、フライドポテト。それからせっかくだしと買ったお酒で乾杯するつもりだ。
よくよく考えたら家呑みってほとんどした事ないんだよな。
廉は仕事の付き合いとかでたまに飲んで帰ってくるけど、酔ってるところは見た事ない。
「よし、シチューは完成。チキンとポテトは廉が帰って来てからにするとして⋯うわ、暇になった」
張り切って早く準備を始めたせいでもうやる事がない。
廉が帰ってくるのは十九時前後だから、あと五時間は俺一人だ。
「イタズラしてやろうかな」
ニヤっと笑ってスマホを取り出した俺は、寝室に行くと廉のトレーナーを取り出して自分の服を脱ぎ着替える。暖房効いてるからこれ一枚でも寒くないしとベッドに腰掛け、裾をチラリと捲ってインカメを起動させたスマホで写真を撮った。
太腿全体じゃなく、捲った部分だけ見えるように写したから結構エロい気がする。
トーク画面に『暇』と一言打ってさっきの写真と共に送信しておいた。いつ見るかは分からないけど、帰ってきた時の反応が楽しみだ。
「⋯⋯眠くなってきたな」
五時間もあるんだからちょっとくらい昼寝しても大丈夫だろう。
もう一回着替えるのも面倒だしとそのままベッドに上がった俺は、真ん中で横になり欠伸を零す。起きたら廉が帰ってくる時間になってるといいんだけど。
ポツポツと窓に何かが当たる音が聞こえる。
気付いて目を開けたもののしばらくウトウトしていた俺は、それが何か分かった瞬間ハッとしてベッドから降りベランダに向かった。
「あー⋯⋯」
いつからなのか、結構な勢いで雨が降っていて、風が吹いている事もあり外側に干してた洗濯物が全滅してしまっていた。
しょんぼりしつつとりあえず乾いている物を取り込み、濡れた物はもう一回洗濯して乾燥機に掛けるかとハンガーごと入れてたら、後ろから手が伸びて残りを纏めて取ってくれる。驚いて振り向くと廉がいたけど、その顔はどこかムッとしてた。
「廉⋯」
「洗濯か?」
「う、うん」
「そっちも貸せ、回してくる」
「あ、ありがとう」
いつもより声が低いから怒ってるのかと思ったけど、洗濯物を受け取ると俺の頭を撫でて行ったからそういう訳ではないらしく首を傾げる。
ふと足元が寒い事に気付いて視線を下げた俺は「あ」と声を上げた。
廉のトレーナー着たまま寝たの忘れてたな。
「真尋」
さすがにこのままは良くないと元の服に着替えるべく寝室に向かおうとしたら廉に呼び止められる。
振り向くと手に持っていた紙袋を渡され俺は目を瞬いた。
「何?」
「着替えるんならこれにしろ」
「え?」
「着たらすぐに出て来い」
意味分からないけど、とりあえず着れば機嫌は良くなるのかなと頷き寝室に入る。トレーナーを脱いで、紙袋から服と思しき物を取り出すとどうやら上下のセットらしい。
でも起毛素材のわりに厚みが全然ない。
まぁ着れば分かるかとそれに腕を通した俺は自分の姿を鏡で見てワナワナと震える。
茶色の服はセパレートタイプで、上は肩紐がなくて胸だけを隠すチューブトップ、下は小さな尻尾がついたほぼ下着と変わらない丈の短いパンツ。オマケに何か動物の足みたいなグローブがついてて、俺はおおよそこんな真冬にするべきじゃない格好をしていた。
へそ出しとか、どこのギャル⋯。
めちゃくちゃ嫌だけど、出て来いって言われたから仕方なく寝室から出たら待ち構えていたのか頭に何かが着けられた。
「似合うな」
「あのさ、コスプレさせるにしたってこれはねぇだろ。何でこんな露出高いんだよ。そもそもこれ、女物だよな」
「お前があんな写真送ってこなきゃ、普通にサンタコスさせてたんだけどな」
「あ」
写真と言われて昼寝の前の行動を思い出す。そういえばイタズラする気満々でえっちめのやつ送ってたんだった。
つまりこれはアレの仕返しって事か。
言い返す言葉が見付からなくて黙り込んだ俺の腰に手を回した廉が、剥き出しの肩を撫でながらニヤリと笑う。
「このまま組み敷いても文句は言えねぇ訳だ」
「いや⋯えっと⋯」
「仕事中にアレを見て、すぐにでも帰ってお前をぐちゃぐちゃにしたいって衝動を抑えた俺の気持ちなんて、分かんねぇだろうなぁ」
「れ、廉⋯」
「ほんと、お前は俺を煽る天才だよ」
肩から頬に移動した手が撫でながら顎へと滑り上向かされる。
見下ろすような目線が気になって顎の下を擽る廉の手を握ると目が細められた。
「⋯怒ってんの?」
「いや、呆れてるだけだ」
「悪かったって。ちょっとしたイタズラ心なんだよ」
「ちょっとしたで俺の理性を試すな」
「そんな意図もなかったっつーの」
本当にただのイタズラだったのに、思った以上に廉にダメージがいって俺だってびっくりだ。ホントに性欲魔人だな、こいつ。
廉は苦笑して俺から手を離すと、また別の紙袋から赤い服を取り出して頭に着いてた物を取り、更に俺の手に嵌めてた動物の足のグローブを引き抜いた。
「ほら、バンザイ」
「?」
言われて素直に両手を上げると上から違うものが被せられる。
ストンと下まで降りて、大人しく袖を通すとどうやらサンタのワンピースらしく、さっきと比べたらめちゃくちゃ普通の服だった。
これ、女の子なら可愛いんだろうなぁ。
ヒラヒラしてるスカートを弄ってたら、今度はサンタの帽子が被せられる。
「ん、可愛い」
「⋯⋯⋯忘れてた」
「何を?」
「おかえり、廉」
自分の女みたいな顔がコンプレックスな俺は、人から容姿を褒められるのが大嫌いだ。でも廉だけは別で、こういう時とかヤってる時とか、〝可愛い〟って言われると嬉しいし胸がキュッてなる。
廉の背中に腕を回していつもの挨拶をすれば、吐息で笑った廉が俺の頭に口付けて抱き締め返してくれた。
「ただいま」
「廉が風呂入ってる間にご飯用意しとく」
「分かった」
「ちゃんとあったまって出て来いよ」
「ああ」
頬が撫でられスーツを脱ぐ為に一度寝室に行った廉が着替えを手に浴室に向かう。
それを見送ってキッチンに行き、サンタ服が汚れるのも嫌だからエプロンをしてシチューを温めつつチキンとポテトを揚げてたら、風呂から上がった廉が覗き込んできた。
「美味そう」
「だろー? 今の俺は廉より上手くなってる気ぃする」
「そうだな。毎日美味い飯食わせてくれてありがとな」
「お礼なら甘い物で」
「明日買ってくる」
こういう我儘言っても受け入れるんだもんなー。
出来上がった物をそれぞれ皿に移し、廉にも手伝って貰いながらテーブルへと運びお酒も持って行くと廉が眉を顰める。
「酒飲むのか?」
「せっかくだし」
「酔うまで飲むなよ。あとでヤんだから」
「情緒も何もねぇ事言うな」
ほんっとにこいつは⋯。
ちなみにクリスマスケーキは廉が甘い物を食べないから買ってない。俺一人だけ食べるのも寂しいし。
全部並べ終えて椅子に座ったら、どこから持って来たのかラッピングされたプレゼント袋を廉から渡された。これはクリスマスプレゼントか。
「ありがとう」
「ああ」
「じゃあ俺からはこれ」
「⋯商品券か何かか?」
「開けてからのお楽しみー」
形や厚み的には確かにそれっぽいけど、残念ながら金券ではないんだなー。
糊付けされていた封を切り、中身を取り出して目を走らせた廉が片眉を跳ね上げる。さっきから良く動くな。
「〝綾瀬真尋、一日自由に出来る券〟⋯⋯へぇ」
「今から明日のこの時間まで有効な」
「自由にって、何でもいいのか?」
「よっぽどじゃなければ」
廉が俺に痛い事や苦しい事をするはずないって信じてるから頷いたら、チケットを見て少し考えた廉は座っている俺を抱き上げると代わりにそこに腰を下ろし膝に座らせた。
目を瞬いてたらチキンを手にしてかぶりつき、そのまま俺にキスしてくる。
驚いてる間にチキンが舌で押し込まれて、油でぬるついた唇が廉の指で拭かれた。
「こういうのもありって事だよな」
「⋯⋯まぁ⋯」
「んじゃ、擦り切れるまで使わせて貰うか」
てっきりエロい事メインで使うと思ってたのに。
それよりも、もしかして俺はここで食べる事になるのだろうか。廉は下ろしてくれる気なさそうだし、何なら自分の皿をこっちに持ってきたし。
どこか楽しそうな横顔をじっと見てたら、気付いた廉がふっと笑って俺の肩を抱き寄せ唇を塞いできた。舌が入ってきて絡め取られた舌が吸われる。
こんな事されると俺もご飯どころじゃなくなるのに。
「ん⋯っ」
「⋯⋯物欲しそうな顔」
「⋯っ、し、てねぇ⋯」
「あとでたっぷり可愛がってやるから、今は我慢しろ」
「廉がしてきたんだろ⋯っ」
「はいはい」
またその返事。
ムッとして廉の頬を抓るとポテトが口元に寄せられ隙間から突っ込まれた。口の中に入ったからには食べなきゃいけないし、もそもそ咀嚼して飲み込むとまたポテトが唇に触れる。
あれ、これってもしかして食べさせたいって事か?
チケット有効だし、これが廉のしたい事ならまぁ受け入れてやるけど。
「⋯リスみたいで可愛いな」
「チキンも食いてぇんだけど」
「口移しで?」
「普通に決まってんだろ」
肉汁やら何やらが廉に持ってかれるだろうが。
思いっきり眉を顰めてるのに廉は微笑んでて、俺の要望通りにチキンを食べさせてくれる。自分なりにスパイスの分量やら考えて味付けしたけど、案外上手く出来たかな。
「真尋」
「ん?」
「メリークリスマス」
人に食べさせて貰う骨付き肉ってなかなかに食いにくくて、廉の手を掴むようにして噛みちぎっていたら柔らかな声に呼ばれる。顔を上げれば額にキスされて、吐息がかかる距離で囁かれた。
生憎とホワイトクリスマスどころか雨な今日だけど、今年も変わらず廉と過ごせて良かったな。思いがけないコスプレも大切な思い出の一部だ。
チキンを飲み込み、ウェットティッシュで口を拭いた俺は廉の首に両腕を回すと軽く口付けにっと笑った。
「メリークリスマス」
来年は雪が降る中を手を繋いで歩けるといいな。
FIN.
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