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おめでとう
あっという間に七月も終わり八月に入って二週目、俺の誕生日がやってきた。
昼前に配達員さんがお父さんからのプレゼントを届けてくれて、ウキウキで見た中身は使い勝手の良さそうな黒のボディバッグ。お父さんのセンスもいいなぁ。
今日から外に出る時にはこれを使おうと思ってサイズを合わせてたら、スマホが通知音を鳴らして天ヶ瀬くんだって気付いた。俺に連絡してくるのってお父さんか天ヶ瀬くんしかいないし。
それに最近は課題の事とかで細かくやり取りしてたから、お父さんよりもメッセージを送り合ってる。
『今から時間ある? 遊びに行かねぇ?』
『あるよ。どこに行くの?』
『暑いし屋内がいいよな。どこ行きたいとかあるか?』
「屋内⋯⋯」
そう言われて思い付くのは図書館とかネカフェとかだけど、友達と遊びに行くのには選ばないよね。だとしたら他にどこがあるかな。
天ヶ瀬くんが退屈にならない場所⋯⋯あ、そうだ。
『ショッピングモールとか』
『あり。三十分後に駅とかいけそ?』
『大丈夫だよ』
『んじゃ、駅中のコンビニ前な』
『うん』
天ヶ瀬くんと約束するとあっさり決まるから凄く楽だ。
たぶん天ヶ瀬くん自身もあっちがいいこっちがいいって悩むのは好きじゃないんだと思うけど、提案してくれる時も俺は嫌な事はないから俺たちって案外似た者同士だったりするのかも。
やり取りの終わったスマホを置いて、さっそくお父さんから貰ったボディバッグを使おうと今まで使っていたカバンから中身を移し、ついでに財布の中身を確認して準備を進める。
ここから駅までは十分あれば行けるから、あと五分くらいしてから出れば充分だ。
「火の元オッケー、戸締りオッケー。階段のところだけ開けて換気しておこうかな」
二階へ上がる階段の中腹にある、人も通れないくらい細い窓を少しだけ押し開けてから玄関に向かった俺は、頭に日焼け止めスプレーをかけて外へと出る。
瞬間から汗が吹き出すほどの暑さとセミの大合唱を食らってヘタりそうになりながらも、気合いを入れて待ち合わせ場所へと向かって歩き出した。
ショッピングモールも久し振りだから楽しみだ。
十分後、早めに着いた俺はコンビニでアイスを買い食べながら天ヶ瀬くんを待ってた。
外、本当に暑くて溶けそうで、我慢出来ずに買っちゃったんだよね。
「いいもん食ってんな」
「はまはへふん」
「一口くれ」
ソーダ味の棒付きアイスに齧りついた時、右から歩いてきた人が前に立ちそう言ってきた。
顔を上げると天ヶ瀬くんで、額に浮いた汗を手で拭いながら口を開けたから、下の角の方を向けて差し出すと少し顔を傾けて噛み付く。何かこのやり取りは凄く友達っぽい。
「ん、サンキュー」
「もういいの?」
「〝いいの〟って、楪のだろ。いいよ」
俺としては半分こでも良かったけど、手団扇で顔を扇ぐ天ヶ瀬くんが笑いながら首を振るから、なら溶けないうちに食べちゃおうと口いっぱいに頬張る。ちなみに俺はアイス噛める派。
最後の一口を食べ終え、ハンカチで口を拭く俺の頭を天ヶ瀬くんがポンポンってして顎をしゃくり歩き出した。
今日は少しワイルド系王子様コーデな天ヶ瀬くん。背が高くてスタイルいいから、本当に見るコーディネート全部似合ってる。
天ヶ瀬くん、オシャレさんだからなぁ。
「楪」
「うん?」
「寝癖ついてる」
「え!? ど、どこ?」
「ここ」
「うわぁ⋯最悪⋯ちゃんと鏡見たのに⋯」
「ここは見えねぇって」
後頭部の真ん中辺りを示され、触ってみると本当にぴょこんって飛び出てる。この状態でコンビニに入ってアイス食べてたなんて恥ずかしい。
これ、濡らしたら直るかな。
「じっとしてろ」
「?」
「水あるから、ちょっとやってみる」
「あ、ありがとう」
手にしていたペットボトルから指先にちょっとだけ水を垂らした天ヶ瀬くんが、俺の後ろに立ってその指で跳ねたところをちょいちょいと弄ってくれる。見れないからお任せするしかないけど、このままショッピングモールに行くのはちょっと嫌だな。
少しして「よし」と声を上げた天ヶ瀬くんが跳ねてたところを撫でた。
「これなら目立たねぇだろ」
「ありがとう」
ハンカチは口を拭いちゃったから、ティッシュを一枚抜いて渡したらどうしてかふっと笑われた。目を瞬いてたら手が差し出され、もしかしてと思いつつ自分の手を乗せると案の定繋がれる。
天ヶ瀬くんの中で、俺はすっかり鈍臭い認定されてるみたいだ。
でも、お父さんとは違うものの大きな手に包まれるのは不思議と安心出来る。
「そういやさっき気付いたけど、そのボディバッグいいな。似合ってる」
「本当? お父さんからのプレゼントなんだ」
「何か賞でも取ったのか?」
「ううん、誕生日」
賞なんて取った事ないよと笑いながらプレゼントの理由を答えたら、天ヶ瀬くんは足を止めてぽかんと口を開けて俺を凝視してきた。
「?」
「たん、じょう⋯び?」
「うん」
「え、いつ?」
「今日」
「今日!? な、何で言わねぇの?」
「え? た、誕生日って自分からは言わなくない?」
俺の認識では、誕生日っていつ? って聞かれて答えるものだと思ってたから、天ヶ瀬くんの言葉には思わず驚いてしまう。
俺の返事に何かを言おうとして口を噤んだ天ヶ瀬くんは、空いている手で額を押さえ「うーん」と唸り声を上げた。それからまた俺へと視線を戻し真剣な顔で聞いてくる。
「欲しいもんねぇ?」
「え、な、ない」
「何でもいい」
「えー⋯⋯⋯あ、じゃあ、〝おめでとう〟って言って欲しい」
「⋯それだけ?」
「うん」
それだけって言うけど、友達から誕生日におめでとうを言って貰えたのは小学生までだから、天ヶ瀬くんからその言葉を貰えるだけで充分嬉しい。
天ヶ瀬くんは納得がいかないって顔をしながらも、俺の頭に手を置くとぐりぐり撫でながら息を吐いて微笑んだ。
「誕生日おめでとう、楪」
「ありがとう」
誕生日当日に、人気者の天ヶ瀬くんからお祝いして貰えるなんて凄く贅沢だ。
にこにこな俺に仕方ないなって笑った天ヶ瀬くんが、「行くぞ」と言って俺の手を引いて歩き出した。
誰かと過ごす誕生日っていつぶりだろう。
昼前に配達員さんがお父さんからのプレゼントを届けてくれて、ウキウキで見た中身は使い勝手の良さそうな黒のボディバッグ。お父さんのセンスもいいなぁ。
今日から外に出る時にはこれを使おうと思ってサイズを合わせてたら、スマホが通知音を鳴らして天ヶ瀬くんだって気付いた。俺に連絡してくるのってお父さんか天ヶ瀬くんしかいないし。
それに最近は課題の事とかで細かくやり取りしてたから、お父さんよりもメッセージを送り合ってる。
『今から時間ある? 遊びに行かねぇ?』
『あるよ。どこに行くの?』
『暑いし屋内がいいよな。どこ行きたいとかあるか?』
「屋内⋯⋯」
そう言われて思い付くのは図書館とかネカフェとかだけど、友達と遊びに行くのには選ばないよね。だとしたら他にどこがあるかな。
天ヶ瀬くんが退屈にならない場所⋯⋯あ、そうだ。
『ショッピングモールとか』
『あり。三十分後に駅とかいけそ?』
『大丈夫だよ』
『んじゃ、駅中のコンビニ前な』
『うん』
天ヶ瀬くんと約束するとあっさり決まるから凄く楽だ。
たぶん天ヶ瀬くん自身もあっちがいいこっちがいいって悩むのは好きじゃないんだと思うけど、提案してくれる時も俺は嫌な事はないから俺たちって案外似た者同士だったりするのかも。
やり取りの終わったスマホを置いて、さっそくお父さんから貰ったボディバッグを使おうと今まで使っていたカバンから中身を移し、ついでに財布の中身を確認して準備を進める。
ここから駅までは十分あれば行けるから、あと五分くらいしてから出れば充分だ。
「火の元オッケー、戸締りオッケー。階段のところだけ開けて換気しておこうかな」
二階へ上がる階段の中腹にある、人も通れないくらい細い窓を少しだけ押し開けてから玄関に向かった俺は、頭に日焼け止めスプレーをかけて外へと出る。
瞬間から汗が吹き出すほどの暑さとセミの大合唱を食らってヘタりそうになりながらも、気合いを入れて待ち合わせ場所へと向かって歩き出した。
ショッピングモールも久し振りだから楽しみだ。
十分後、早めに着いた俺はコンビニでアイスを買い食べながら天ヶ瀬くんを待ってた。
外、本当に暑くて溶けそうで、我慢出来ずに買っちゃったんだよね。
「いいもん食ってんな」
「はまはへふん」
「一口くれ」
ソーダ味の棒付きアイスに齧りついた時、右から歩いてきた人が前に立ちそう言ってきた。
顔を上げると天ヶ瀬くんで、額に浮いた汗を手で拭いながら口を開けたから、下の角の方を向けて差し出すと少し顔を傾けて噛み付く。何かこのやり取りは凄く友達っぽい。
「ん、サンキュー」
「もういいの?」
「〝いいの〟って、楪のだろ。いいよ」
俺としては半分こでも良かったけど、手団扇で顔を扇ぐ天ヶ瀬くんが笑いながら首を振るから、なら溶けないうちに食べちゃおうと口いっぱいに頬張る。ちなみに俺はアイス噛める派。
最後の一口を食べ終え、ハンカチで口を拭く俺の頭を天ヶ瀬くんがポンポンってして顎をしゃくり歩き出した。
今日は少しワイルド系王子様コーデな天ヶ瀬くん。背が高くてスタイルいいから、本当に見るコーディネート全部似合ってる。
天ヶ瀬くん、オシャレさんだからなぁ。
「楪」
「うん?」
「寝癖ついてる」
「え!? ど、どこ?」
「ここ」
「うわぁ⋯最悪⋯ちゃんと鏡見たのに⋯」
「ここは見えねぇって」
後頭部の真ん中辺りを示され、触ってみると本当にぴょこんって飛び出てる。この状態でコンビニに入ってアイス食べてたなんて恥ずかしい。
これ、濡らしたら直るかな。
「じっとしてろ」
「?」
「水あるから、ちょっとやってみる」
「あ、ありがとう」
手にしていたペットボトルから指先にちょっとだけ水を垂らした天ヶ瀬くんが、俺の後ろに立ってその指で跳ねたところをちょいちょいと弄ってくれる。見れないからお任せするしかないけど、このままショッピングモールに行くのはちょっと嫌だな。
少しして「よし」と声を上げた天ヶ瀬くんが跳ねてたところを撫でた。
「これなら目立たねぇだろ」
「ありがとう」
ハンカチは口を拭いちゃったから、ティッシュを一枚抜いて渡したらどうしてかふっと笑われた。目を瞬いてたら手が差し出され、もしかしてと思いつつ自分の手を乗せると案の定繋がれる。
天ヶ瀬くんの中で、俺はすっかり鈍臭い認定されてるみたいだ。
でも、お父さんとは違うものの大きな手に包まれるのは不思議と安心出来る。
「そういやさっき気付いたけど、そのボディバッグいいな。似合ってる」
「本当? お父さんからのプレゼントなんだ」
「何か賞でも取ったのか?」
「ううん、誕生日」
賞なんて取った事ないよと笑いながらプレゼントの理由を答えたら、天ヶ瀬くんは足を止めてぽかんと口を開けて俺を凝視してきた。
「?」
「たん、じょう⋯び?」
「うん」
「え、いつ?」
「今日」
「今日!? な、何で言わねぇの?」
「え? た、誕生日って自分からは言わなくない?」
俺の認識では、誕生日っていつ? って聞かれて答えるものだと思ってたから、天ヶ瀬くんの言葉には思わず驚いてしまう。
俺の返事に何かを言おうとして口を噤んだ天ヶ瀬くんは、空いている手で額を押さえ「うーん」と唸り声を上げた。それからまた俺へと視線を戻し真剣な顔で聞いてくる。
「欲しいもんねぇ?」
「え、な、ない」
「何でもいい」
「えー⋯⋯⋯あ、じゃあ、〝おめでとう〟って言って欲しい」
「⋯それだけ?」
「うん」
それだけって言うけど、友達から誕生日におめでとうを言って貰えたのは小学生までだから、天ヶ瀬くんからその言葉を貰えるだけで充分嬉しい。
天ヶ瀬くんは納得がいかないって顔をしながらも、俺の頭に手を置くとぐりぐり撫でながら息を吐いて微笑んだ。
「誕生日おめでとう、楪」
「ありがとう」
誕生日当日に、人気者の天ヶ瀬くんからお祝いして貰えるなんて凄く贅沢だ。
にこにこな俺に仕方ないなって笑った天ヶ瀬くんが、「行くぞ」と言って俺の手を引いて歩き出した。
誰かと過ごす誕生日っていつぶりだろう。
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