噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

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いざ告白……?

 放課後、一度家に帰るのも面倒だからとそのまま駅前に行き、俺と周防くんはデートをする事にした。でも──。

「あー、神薙さんじゃないっスかー!」
「暇ですか? 寄って来ません?」
「ツレいるからいい」

「やだ、周防じゃん。何やってんの?」
「相変わらずいい男だわー。ねぇ、せっかくだし遊ぼうよ」
「デート中だ、邪魔すんな」

「周防さーん! 今度うちの店来てくださいねー!」
「おー」

 学校外だと友達の多い周防くんは行く先々でこうして声をかけられる。見た目が派手な人がほとんどで、俺がいるって分かると物珍しそうに見てくるからちょっと居心地悪かった。
 しかも、ちょっとでも離れるとナンパされてるし。今だって。

「ねぇねぇ、お兄さん一人?」
「ちょうど男一人足りてなくて困ってたんだ。良かったら来ない?」
「美味しい食べ物いっぱいあるよー」

 俺がトイレから戻って来たらセクシーなお姉さんたちに声かけられてた。みんな綺麗で、カッコイイ周防くんと並んでも全然見劣りしないどころか絵になる。
 チラリとお店のガラスに映る自分を見て、その貧相さと野暮ったさに唇を噛んだ。
 こんな俺があの中に割って入るなんて、烏滸がまし過ぎる。

「興味ねぇよ。……湊!」
「!」

 メッセージでも送ろうかとスマホを出そうとした時、冷たくあしらった周防くんがこっちまで来てくれた。周防くん越しにお姉さんたちが肩を竦めて去って行くのが見える。

「そんなとこ突っ立って、変な奴に声かけられたらどうすんだ」
「ご、ごめ……」
「俺こそごめんな。色んな奴が話し掛けてきて嫌だったよな」
「え? そ、そんな事…」
「湊と一緒にいる時によそ見なんてしないから」

 梳くように髪を撫でて、真っ直ぐに目を見てそんな風に言ってくれる周防くんに俺は何を返せるんだろう。俺ばっかり嬉しいと幸せを貰ってる。

「どっか行きたいとこある?」
「特には…」
「ホントに? あるんなら遠慮しないで言いな?」
「ほ、ほんとにない。周防くんと一緒ならどこでも楽しいし…」

 実際、周防くんと遊びに行くと楽しい思いしかしない。周防くんはこうして俺に聞いて俺がしたいようにさせてくれるから、薫と出掛けてる時より自分に素直になれてる。
 そう思って言ったら、眉を顰めた周防くんに両頬を挟まれた。

「だから、何でそう可愛い事言うんだお前は」
「ご、ごへんらはいごめんなさい…?」

 怒られてる(?)意味は分からないけどほぼ反射的に謝ると、溜め息をついた周防くんにぎゅーっと抱き締められ戸惑う。
 な、何で俺は周防くんの腕の中にいるの?

「このまま連れて帰りてー…」
「え?」

 ポツリと何かを呟かれたから目を瞬いて顔を上げたら、微笑んで俺を見下ろす周防くんがいて首を傾げる。
 何を言ったかは残念ながら聞き取れなかった。

「じゃ、せっかくだし映画でも見るか。今なら神作って言われてるホラー映画やってるし」
「え!」

 ホラーは正直苦手よりも嫌いの方が強くて、思わぬ提案にいつもより大きな声が出てしまい慌てて口を押さえる。
 それに意地悪く笑った周防くんは俺の頭を撫でると手を取って歩き出した。

「ウソだよ。湊はどんな映画が好きなんだ?」
「……ファンタジーとか、アニメとか…」
「ならこっちにするか。今流行りの異世界転生ものらしい」
「うん」

 ほら、こうして俺に合わせてくれる。ホントに優しいなぁ。
 でももし周防くんがホラー好きで映画館で見たいって言うなら、怖いけど…物凄く怖いけど頑張って一緒に見る気持ちはあるんだよ。
 ……百歩譲ってくれるなら、サブスクで許して欲しいけど。



 映画を見たあと、ちょうど夕飯時になり、薫と話してたお店とは違うファミレスでご飯を食べた俺たちは二人で俺の家に向かって歩いてたんだけど、周防くんがちょっと寄り道しようって言って森林公園に入って行った。
 この公園は自然に囲まれていて、中心に池があり周りにちょっとした遊歩道が作られていてデートスポットとしても有名だ。だからイチャイチャしてるカップルの姿もチラホラあって目のやり場に困る。
 周防くんは気にしないのか突っ切ってくけど、歩調は俺に合わせてくれてて手もずっと繋いでくれてた。

 でも俺の頭の中はいつ言おう、どうやって切り出そうって事でいっぱいで周防くんの声も聞こえてなかったらしく、足を止めた周防くんの背中に思いっきりぶつかってしまった。

「ぶっ……いたた…ご、こめんね、大丈夫…」
「何か、心ここにあらずだな」
「え? あ…ごめ…」
「謝らなくていい。……つまんないとかじゃないんだろ?」
「それは絶対ない」
「ん、ならいいよ」

 考え過ぎて一緒にいる周防くんの事蔑ろにしてた。こんな風に周防くんを不安にさせるくらいなら切り出し方とか言い方とかもうどうでもいい。
 男は度胸。気持ちを伝える事が一番大事だ。
 俺は覚悟を決めて繋いでいる手をぎゅっと握ると、大きく息を吸い込んで口を開いた。 

「あ、あの、周防くん。俺、周防くんに言いたい事が…っ」
「あー、周防だー」
「え?」

 けれど言葉途中で間延びした声に遮られたと思ったら、綺麗な女の人が周防くんの腕に抱き着いて来て…それから数人の男の人と女の人も来て、あっという間に周防くんの周りに人だかりが出来る。
 明らかに人見知りな俺とは違う空気を纏う人たちに困惑してると、周防くんが腕に密着してる女の人を振り払った。

「何だよ、お前らか。っつか、くっつくなっつってんだろ」
「えー、ひどーい。エミのおっぱい好きでしょー?」
「好きな訳ねぇだろ」
「周防、ちょうど良かった。今からうち来ねぇ? 焼肉パーティすんぞ」
「いい肉たんまり買ってきた」
「もう飯食ったし、行かねぇ」

 どう見ても大学生とか大人な人たちに周防くんは普段通り話してて、同じ制服を着てるのに何だか違う人に見える。周防くんって本当に交友関係が広いんだ。

「最近断ってばっかだったんだから、今日こそは付き合え」
「年上の言う事は絶対だぞ」
「だから行かねぇって。……悪い、湊。さっき何か言いかけてたよな」

 声をかける事も立ち去る事も出来ずに俯いてると周防くんに呼ばれてハッとする。でも見えたのは周りの人達の訝しげな顔で、俺はまた顔を伏せてしまった。

「みな……」
「え、何、周防の友達?」
「意外。こういう子とも連むんだ?」
「系統全然違うじゃん」
「何か地味だな。お前、虐めてんじゃないだろうな」
「誰が虐めるか」

 前も学校でそんな風に見られてたけど、そんなに俺と周防くんが一緒にいるのっておかしい、のかな。
 口の中が乾いて喉の奥がぎゅってなる。

「とにかく、俺は今からこの子を…」
「こ、ここで大丈夫!」
「何言って…家までまだあるだろ?」
「だ、大丈夫。一人で帰れるから、周防くんはその人たちと一緒に行って。たまには友達とも遊ばないと」
「いや、一人は危ないから……」
「じゃ、じゃあ、また学校で…!」
「湊!」

 頭を下げ勢い良く踵を返し走り出す。周防くんが追い掛けて来たらすぐ捕まるだろうけど、あの人たちに引き止められてるのか周防くんは追っては来なかった。
 しばらく走って住宅街に差し掛かった頃、速度を落としてゆっくりとした歩きに変えて息を整える。
 結局好きって言えなかった。

「俺、何やってんだろ……」

 こういう時、薫なら遠慮なくあの輪の中に入って行けたんだろうな。むしろ仲良くなり過ぎて焼肉パーティ行ってたかも。
 薫は自分が女の子だっていう自覚が少ないから、弟としても心配になるくらい強気で突っ込んで行く。それに助けられた部分はあれど、もう少しお淑やかにはなって欲しい。
 そんな事を思いながら歩きつつ時間を確認するためスマホをポケットから出すと、周防くんからの着信がたくさん入ってて驚いた。消音にしたままだったから気付かなかったんだ。
 掛け直した方がいいのかな。
 履歴を上下にスクロールして悩んでいると、メッセージが来て思わずタップしてしまった。

『湊、今どこにいる? ちゃんと家に帰れたんならいいけど、何か一言でもいいから返事して』
「……」

 ほとんど逃げたようなものだから怒ってもいいのに、周防くんは俺の心配しかしてない。返事を打とうとして人差し指を画面に当てたら、タイミング良く着信画面に変わり通話ボタンを押してた。
 慌てて耳に当てると少しだけ息の荒い周防くんの声が聞こえてきて……あのあと追い掛けて来てくれてたんだ。

『湊…!』
「…周防くん。あの、ごめんなさい…俺…」
『今どこ?』
「あ、もうすぐ家に着く」
『そっか、ならいい。…良かった』

 電話越しにも安堵してるのが分かるくらい声が柔らかくなった。あの人たちと一緒に行っても良かったのに、俺の為に走ってくれた周防くんにどうしようもない気持ちが溢れる。

「周防くん…」
『ん?』
「……好き…」
『え?』
「俺…周防くんが好き…」

 好きだって思ったら勝手に口から零れ出てた。少しして自分が何を言ったのか気付いて口を押さえる。
 一気に顔に熱が集中したのが分かった。

「あ、あの、今、俺…」
『湊、門限は?』
「は、八時…」
『あと一時間か…近くにコンビニあったよな? すぐ行くから、そこで待ってて』
「え? で、でも…」
『いい子だから』

 その言い方はズルい。俺、最近気付いたんだけど、周防くんがたまに口にする「いい子」って言葉凄く好きみたいで、言われると素直に言う事を聞いてしまう。
 少し躊躇いがちに「分かった」と返事をして、通話が終了したスマホを握ってしばらく呆然としてた。
 言っちゃった。しかもよく分からないタイミングで。

「あ、コンビニ」

 通り過ぎてたけど戻るのに五分もかからないから、俺は急いで来た道を戻りコンビニへと向かった。
 心配させちゃうから、周防くんよりも先に待ってないと。
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