噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

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ほんの少し不安になる話

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 翌朝。
 昨日は嬉しさと緊張と次の日のドキドキでなかなか眠れなかったものの、どうにか早く起きて準備を済ませて周防くんを待ってた俺は時間になっても来ない事に首を傾げた。
 遅れる連絡もないし、メッセージを送っても既読にならない。
 何かあったのかなと心配していたら、十五分ほど過ぎたところで電話がかかってきた。

「も、もしもし?」
『ごめん、湊。寝坊した』
「え?」

 寝起き特有の掠れた声に今まさに起きたんだなっていうのが分かる。
 周防くんはたぶん朝が苦手な人だ。学校でも授業中は寝てるし、起きてても眠そうにしてるから、朝から登校してるのって凄く頑張ってるんだと思う。

『何か、寝て起きたら夢だったとか有り得そうでなかなか寝れなくて…寝れたのも朝方で……』
「お昼からにする?」
『……や、いい。今から準備して向かうから、もうちょい待ってて』
「でも眠いなら…」
『早く会いたい』

 まだ眠くてふわふわした話し方だったのに、そこだけハッキリ言われて顔が赤くなる。いつも真っ直ぐに言葉をぶつけてくれる周防くんだけど、昨日から破壊力が増してて俺の心臓が持たない。

『一時間もしないと思うから』
「…うん。じゃあ待ってる」
『ん』

 通話を終え腰掛けていたベッドに寝転ぶ。デート自体は初めてじゃないのに、初めてのデートの時よりドキドキしてる自分がいた。
 それにしても周防くん、夢じゃないよって言ったのに不安だったんだ。ほっぺた、もう少し強めに抓った方が良かったのかな。

「あと一時間近く」

 今日は薫も部活に行ってるし、お父さんもお母さんも仕事に出てる。
    リビングの出窓からなら周防くんが来ても分かるかもと、スマホとボディバックを掴んだ俺は一階へと駆け降りた。


 出窓のカーテンの隙間から門のところをじっと見てると、ポケットに手を入れた周防くんが歩いてくるのが見えた。でも、なぜかインターホンを押そうとした手を下ろして代わりにスマホを出すと何かを操作し始める。
 少しして俺のスマホが震え周防くんからの到着連絡が届き思わず笑みが浮かんだ。
 いつでも出られるようにはしてたからそのまま玄関に向かい靴を履いて外に出たら周防くんは欠伸を零してた。

「お、おはよう、周防くん」
「……はよ」

 少しだけ緊張しながら挨拶すると、やっぱり眠そうな声で返してくれて手招きされる。玄関を施錠し、首を傾げて門を出たらふわっと抱き締められた。

「…夢じゃなくて良かった」

 小さく聞こえた言葉に周防くんの気持ちが込められていて、目を伏せた俺は目の前の肩へ頬を擦り寄せる。ちゃんと現実だよっていうように。

「そんじゃ行くか」
「うん」

 腕が離れ髪を撫でた手が俺の手を当然のように握る。前から思ってたけど、周防くんは人前でも男同士でこういう事するの気にならないみたい。
 別に俺も嫌じゃないけど、周防くんが人目を引くからどうしたって見られるのは仕方なくて、ヒソヒソされてるのを見ると、やっぱり隣にいるのが俺みたいなのはダメなのかなって思ってしまう。
 薫といる時だって似てるのは背丈と体格だけねって言われるし。

「ちょうど昼時だし、先に飯食うか」
「うん」
「そのあとどこ行きたいとかある?」

 放課後デートする時も周防くんはまずこうして聞いてくれるのに、俺はいつも「特に」としか答えられなくて申し訳なく思う。デートスポットなんて知らないし、世の中の恋人が普段どこに行ってるかも分からないから……周防くんの為にも、俺はいろいろ勉強しないといけない。
 眉尻を下げて首を振ると、周防くんは分かってたと言わんばかりに微笑み俺の髪に口付けた。

「じゃあ今日はいろんな店行ってみるか」
「買い物?」
「欲しいもんあったら買うって感じ」

 欲しいもの、と言われてすぐには思い浮かばないけど、昨日も言ったように周防くんと一緒ならどこでも楽しいから、ただの散歩だとしても俺は喜んでついて行く。
 周防くんに何食べたいか聞かれたから、思い切ってホットケーキって言ったら優しく笑って頷いてくれた。



 周防くんといると自分がどんどん我儘になっていく気がする。
 自分でも甘やかされてるって分かるくらい、周防くんは俺の言葉を聞いて「じゃあそうしよう」って言ってくれるから。
 不思議だよね。今までは薫の意見を優先する事が当たり前だったのに、周防くんはむしろ優先させてくれない。それに言葉にしなくても、俺が少しでも興味を惹かれて見てると気付いてさり気なく寄ってくれる。
 悠介を好きだった時とは全然違う感情がたくさん溢れて止まらない。
 もっと笑った顔が見たい、名前を呼んで欲しい、触れて欲しい。この時間がずっと続けばいいのにってこんなに思ったの、初めてだ。



「ゲ、神薙…」
「あ?」

 少し休憩しようとコーヒーショップでコーヒーとカフェオレを買った俺たちは繁華街から外れた場所にある公園に来ていた。
 ベンチを探して歩いてると後ろから声がして、周防くんが怪訝そうに振り向く。そこには、いつだったか周防くんに挑んではボコボコにされてたヒョロ男とツンツン男がいて顔を引き攣らせてた。
 しばらくお互いの視線が合ってたけど、先に周防くんがふいっと逸らして俺の背中を押す。でも二人は落ち着かないのか、また「神薙!」とさっきよりも乱暴に呼んできた。

「お前、最近大人しいから、色んな奴が仕返しの機会伺ってんぞ」
「そいつの事も噂になってる。てめーの弱点だっつって」
「……は?」
「言っとくけど、俺たちは何もしてねぇからな。お前がそいつといるとこ何回も見られてんだよ」

 不穏な言葉に心配になって周防くんを見上げると、俺には向けた事のない怖い顔で二人を見てて、舌打ちをしたあと俺の耳を塞いで何かを話し始めた。

「てめぇらが何のつもりで忠告してくれてんのかは知らねぇけど、コイツに手ぇ出そうとした時点で同類だからな。どいつもこいつも、弱ぇくせに腐った頭だけは働きやがる。湊になにかするつもりなら容赦しねぇ」
「……」
「仲間いんなら言っとけよ。死にたくなきゃおかしな真似すんなって」

 パッと手が離れ一気に色んな音が入ってくる。目の前にいる二人は青褪めて黙り込んでるけど、周防くんは何を言ったんだろう。
 視線をウロウロさせてたら不意に手が握られて反転させられた。

「あれ、え、周防くん?」
「行こ」
「いいの?」
「いいよ、話は終わったから」

 まだ何か言いたそうにはしてたけど、それ以上は俺が言うのも違う気がして二人を振り返り軽く頭を下げる。驚いた顔してたけど、見なかった事にして遅れていた一歩を早足で縮めた。
 何となく話し掛けにくい雰囲気にどうしたらいいか分からなくなる。
 しばらく無言で歩き、ベンチを見付けたから繋いだ手を引くと立ち止まって俺を見下ろした周防くんは長く息を吐いて肩に頭を乗せてきた。

「?」
「……別に自分がして来た事を正当化するつもりはないけど、元はと言えばあっちが仕掛けてきた事なのに何でこうなるんだろうな。湊は何の関係もないのに…」
「…周防くん…」
「絶対手出しさせないから」
「……」

 もしかして、さっきあの二人が言ってた仕返しがどうとかって話? 手出しさせないって…俺も何かされるかもって事?
 それってつまり、俺の存在が周防くんに負担を掛けてるって事じゃ…。

「俺、周防くんのお荷物になってる…?」
「そんな訳ないだろ。むしろ湊は俺の支えだよ」

 腰に腕が回され抱き締められる。周防くんの声が元気がない気がして少し身を引いて頬に触れると顔を上げて至近距離で目が合った。

「俺、喧嘩とかは出来ないけど…何かあったら頑張って逃げるから。…周防くんの迷惑にならないようにする」
「迷惑なんて思わないって。目が届かなくなんのは正直心配だけど、人の多いとこに行くなら逃げんのは一つの手として考えとく」

 額が合わさってさっきよりも明るくなった表情にホッとする。思ったよりもスベスベした頬を撫でていると、周防くんがクスリと笑った。

「?」
「キスしてくれんのかと思った」
「え!?」
「はは、冗談だよ」

 周防くんの言葉に顔が一気に熱くなる。自分からキスなんて、そんなの恥ずかしすぎて出来ない。
 慌てて顔を引いた俺に声を出して笑った周防くんは、真っ赤になってるだろう俺の目蓋や頬に口付けもう一度抱き締めてくれた。



 デートを終えて家まで送ってくれた周防くんとはやっぱり離れ難くて、昨日みたいに門前でぐずぐずしてたら、気付いた薫に無理やり引き剥がされて家の中に入れられてしまった。
 何するんだって怒ったら、あんなところでイチャつく方が悪いって言われて頬を抓られて……薫のバーカ。月曜日の朝、起こしてやらないからな。
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