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誰よりもいい男
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「あの人、恋人いんの?」
あのあと、無事兄さんの連絡先をゲットした高鷺は帰ろうとする俺と啓介を引っ張ってファーストフード店に入り、兄さんの名前やら誕生日やらで質問責めにしたあと頬杖をついてそう聞いてきた。
もしかして兄さんの連絡先を聞いたのってそういう事?
高鷺の奢り(と言う名の情報代)であるセットのポテトを食べながら俺は首を振る。
「今はいない」
「好きな人とかも?」
「いないんじゃないか?」
「千晃の事だけ考えてる感じだよね」
「自分の事も大事にして欲しいよ」
俺にしてきた事への罪滅ぼしなのかもしれないけど、原因も理由もちゃんと教えて貰ったんだから少しは自分を省みていいのに。
高鷺は頬杖をつくと、ストローを咥え「ふーん」と零した。
「⋯⋯本気、なのか?」
「たぶん?」
「たぶんって⋯」
「でも、一目惚れなのは分かる。それに、誰かの事こうやって知りてぇって思うの初めてだからな」
「高鷺を信用してない訳じゃないけど⋯」
今の俺は兄さんが好きだから、生半可な気持ちなら絶対許さないって思ってる。ちゃんと本気で大事にしてくれる人じゃないと認めたくないし。
⋯兄さんも、元彼とか啓介に対してこんな気持ちだったのかも。
「にしても大学生か⋯あんま会える機会なさそうだな」
「まぁ、今は特にバタついてるし⋯⋯あ、そうだ。高鷺を見込んでお願いしたい事があるんだけど」
「お願いしたい事?」
「兄さんを、守ってあげて欲しい」
「⋯⋯ん?」
いや、そりゃ端折ればそういう反応になるか。
俺はどこまで話せばいいか悩んで、とりあえず細かい部分は伏せる事にした。
「実は兄さん、今親とギスギスしてて⋯⋯一人暮らししてるんだけど、父さんが捜し出して無理やり連れ戻そうとしてるらしいんだ。だから、もし兄さんが変な人に絡まれてたりしたら助けてあげて欲しい」
「それ、傍にいるか鉢合わせるかしねぇと無理じゃね?」
「う、うん。それに兄さんの事だから助けを呼ぶとかもしないだろうし⋯⋯なんならちょこちょこ連絡して気にかけてくれるだけでもいいから」
啓介ならともかく、その場面に遭遇したとしても俺が間に入ると事態は悪化しかしない。でも高鷺なら、そこに居合わせたとしても父さんに対抗出来る。
今まで浮いた話の一つも聞いた事ない高鷺が自ら行動したんだ、それなりに本気なのは間違いないだろうし。
不意に口元にナゲットが寄せられ、目を瞬きつつも食べたら頭をポンポンと撫でられる。
「良く分かんねぇけど、まぁいいよ。連絡は毎日するつもりだし、絶対俺のもんにするし」
「そ、そっか⋯」
あれ? 思ったより本気度高そうだぞ?
ポテトを数本持ち口に入れた高鷺は、スマホを取り出すと少し操作してまたポケットに入れ今度はハンバーガーにかぶりついた。
セットで頼んだけど、俺はもうポテトと飲み物で腹いっぱいになってる。
「啓介、ハンバーガーやる」
「半分も食べられない?」
「ん」
「じゃあ貰うね」
「ちーはずいぶん少食だな」
ようやっとポテトを食べ終わり、飲み物も飲み切って息を吐いた俺は、単品でハンバーガーを三つプラスした高鷺にそう言われ眉を顰める。
「自分と比べてるなら、高鷺が大食いなだけだからな」
啓介でさえポテトをLサイズにアップしてナゲットを追加したくらいなのに。
ふとカバンに入れていたスマホが単調な音楽を鳴らし始めた。次第に大きくなるから慌てて止めて時間を確認すると、もうバイトに行く時間になってて驚く。
学校出てから二時間は余裕があったはずなのに。
「ごめん、バイトの時間あるから先に出るな」
「あ、待って千晃。送るから」
「まだ食べ終わってないだろ」
「一人にならないでってお兄さんから言われたでしょ。これは持ち帰るから大丈夫」
そういえばそうだった。高鷺の言動が衝撃的で忘れてた。
啓介がハンバーガーを食べ切り、俺が渡した分はカバンに入れて飲み物のカップを手に立ち上がる。俺のトレーと自分のトレーを重ねてゴミを捨てると、高鷺を見て申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんね、高鷺。俺も行くよ」
「これ食ったら俺も出るし、気にすんな」
「じゃあまた春休み明けに」
「おー」
軽く手を振って高鷺と別れ、俺と啓介は並んで駅へと向かう。
それにしても、俺も兄さんも何も悪い事してないのにどうしてこんなビクビクして生活しなきゃいけないんだ。
啓介にだって迷惑かかるし、最悪、戸崎家を巻き込む事になる。
いつまでだっていていいよって言ってくれたけど、やっぱり兄さんのところに戻った方がいいのかな。
「帰りは何時頃になりそう?」
「上がりが八時だから、それくらい」
「俺が着くまで、お店から出ないでね」
始まる前は一緒に行くのが当たり前になってたから気にも留めてなかったけど⋯そうだよな。心配性の啓介が、父さんが捜してるって聞いてじっとしてる訳ないんだよな。
お世話になるようになって、バイトで帰りが遅くなる日も迎えに行くって聞かなかったし。その時は何とか宥めたけど、今回は聞いてくれないだろう。
「ごめんな、面倒かけて」
「千晃が謝るような事じゃないよ」
「でも、わざわざ夜に出てきて貰うの悪い⋯」
「俺が行かなくて、千晃に何かあったら俺は一生後悔する。これは俺の我儘だから、悪いとか申し訳ないとか思わなくていいんだよ」
「⋯啓介⋯」
一度家に帰って寛いだあとに外に出るなんて、絶対絶対ぜーったい面倒なはずなのに、啓介はいつもそうする理由が自分にあるって言ってくれる。
こんな優しくていい彼氏、世界中のどこを捜してもいないよ。
俺は周りにさっと視線を移して誰も見ていない事を確認すると、すぐ傍にある建物と建物の間の細い路地に啓介を引っ張り込み抱き着いた。
「ありがと⋯」
「俺は千晃が一番大切だから、千晃が無事ならそれでいい」
「⋯啓介」
「うん?」
本当に、俺にはもったいないくらいいい男だ。
腕を伸ばして啓介の背中に回した俺は、そのまま肩へと頬を寄せて目を閉じる。
本当に、どうしようもなく啓介が好きだって、改めて思った日だった。
あのあと、無事兄さんの連絡先をゲットした高鷺は帰ろうとする俺と啓介を引っ張ってファーストフード店に入り、兄さんの名前やら誕生日やらで質問責めにしたあと頬杖をついてそう聞いてきた。
もしかして兄さんの連絡先を聞いたのってそういう事?
高鷺の奢り(と言う名の情報代)であるセットのポテトを食べながら俺は首を振る。
「今はいない」
「好きな人とかも?」
「いないんじゃないか?」
「千晃の事だけ考えてる感じだよね」
「自分の事も大事にして欲しいよ」
俺にしてきた事への罪滅ぼしなのかもしれないけど、原因も理由もちゃんと教えて貰ったんだから少しは自分を省みていいのに。
高鷺は頬杖をつくと、ストローを咥え「ふーん」と零した。
「⋯⋯本気、なのか?」
「たぶん?」
「たぶんって⋯」
「でも、一目惚れなのは分かる。それに、誰かの事こうやって知りてぇって思うの初めてだからな」
「高鷺を信用してない訳じゃないけど⋯」
今の俺は兄さんが好きだから、生半可な気持ちなら絶対許さないって思ってる。ちゃんと本気で大事にしてくれる人じゃないと認めたくないし。
⋯兄さんも、元彼とか啓介に対してこんな気持ちだったのかも。
「にしても大学生か⋯あんま会える機会なさそうだな」
「まぁ、今は特にバタついてるし⋯⋯あ、そうだ。高鷺を見込んでお願いしたい事があるんだけど」
「お願いしたい事?」
「兄さんを、守ってあげて欲しい」
「⋯⋯ん?」
いや、そりゃ端折ればそういう反応になるか。
俺はどこまで話せばいいか悩んで、とりあえず細かい部分は伏せる事にした。
「実は兄さん、今親とギスギスしてて⋯⋯一人暮らししてるんだけど、父さんが捜し出して無理やり連れ戻そうとしてるらしいんだ。だから、もし兄さんが変な人に絡まれてたりしたら助けてあげて欲しい」
「それ、傍にいるか鉢合わせるかしねぇと無理じゃね?」
「う、うん。それに兄さんの事だから助けを呼ぶとかもしないだろうし⋯⋯なんならちょこちょこ連絡して気にかけてくれるだけでもいいから」
啓介ならともかく、その場面に遭遇したとしても俺が間に入ると事態は悪化しかしない。でも高鷺なら、そこに居合わせたとしても父さんに対抗出来る。
今まで浮いた話の一つも聞いた事ない高鷺が自ら行動したんだ、それなりに本気なのは間違いないだろうし。
不意に口元にナゲットが寄せられ、目を瞬きつつも食べたら頭をポンポンと撫でられる。
「良く分かんねぇけど、まぁいいよ。連絡は毎日するつもりだし、絶対俺のもんにするし」
「そ、そっか⋯」
あれ? 思ったより本気度高そうだぞ?
ポテトを数本持ち口に入れた高鷺は、スマホを取り出すと少し操作してまたポケットに入れ今度はハンバーガーにかぶりついた。
セットで頼んだけど、俺はもうポテトと飲み物で腹いっぱいになってる。
「啓介、ハンバーガーやる」
「半分も食べられない?」
「ん」
「じゃあ貰うね」
「ちーはずいぶん少食だな」
ようやっとポテトを食べ終わり、飲み物も飲み切って息を吐いた俺は、単品でハンバーガーを三つプラスした高鷺にそう言われ眉を顰める。
「自分と比べてるなら、高鷺が大食いなだけだからな」
啓介でさえポテトをLサイズにアップしてナゲットを追加したくらいなのに。
ふとカバンに入れていたスマホが単調な音楽を鳴らし始めた。次第に大きくなるから慌てて止めて時間を確認すると、もうバイトに行く時間になってて驚く。
学校出てから二時間は余裕があったはずなのに。
「ごめん、バイトの時間あるから先に出るな」
「あ、待って千晃。送るから」
「まだ食べ終わってないだろ」
「一人にならないでってお兄さんから言われたでしょ。これは持ち帰るから大丈夫」
そういえばそうだった。高鷺の言動が衝撃的で忘れてた。
啓介がハンバーガーを食べ切り、俺が渡した分はカバンに入れて飲み物のカップを手に立ち上がる。俺のトレーと自分のトレーを重ねてゴミを捨てると、高鷺を見て申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんね、高鷺。俺も行くよ」
「これ食ったら俺も出るし、気にすんな」
「じゃあまた春休み明けに」
「おー」
軽く手を振って高鷺と別れ、俺と啓介は並んで駅へと向かう。
それにしても、俺も兄さんも何も悪い事してないのにどうしてこんなビクビクして生活しなきゃいけないんだ。
啓介にだって迷惑かかるし、最悪、戸崎家を巻き込む事になる。
いつまでだっていていいよって言ってくれたけど、やっぱり兄さんのところに戻った方がいいのかな。
「帰りは何時頃になりそう?」
「上がりが八時だから、それくらい」
「俺が着くまで、お店から出ないでね」
始まる前は一緒に行くのが当たり前になってたから気にも留めてなかったけど⋯そうだよな。心配性の啓介が、父さんが捜してるって聞いてじっとしてる訳ないんだよな。
お世話になるようになって、バイトで帰りが遅くなる日も迎えに行くって聞かなかったし。その時は何とか宥めたけど、今回は聞いてくれないだろう。
「ごめんな、面倒かけて」
「千晃が謝るような事じゃないよ」
「でも、わざわざ夜に出てきて貰うの悪い⋯」
「俺が行かなくて、千晃に何かあったら俺は一生後悔する。これは俺の我儘だから、悪いとか申し訳ないとか思わなくていいんだよ」
「⋯啓介⋯」
一度家に帰って寛いだあとに外に出るなんて、絶対絶対ぜーったい面倒なはずなのに、啓介はいつもそうする理由が自分にあるって言ってくれる。
こんな優しくていい彼氏、世界中のどこを捜してもいないよ。
俺は周りにさっと視線を移して誰も見ていない事を確認すると、すぐ傍にある建物と建物の間の細い路地に啓介を引っ張り込み抱き着いた。
「ありがと⋯」
「俺は千晃が一番大切だから、千晃が無事ならそれでいい」
「⋯啓介」
「うん?」
本当に、俺にはもったいないくらいいい男だ。
腕を伸ばして啓介の背中に回した俺は、そのまま肩へと頬を寄せて目を閉じる。
本当に、どうしようもなく啓介が好きだって、改めて思った日だった。
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