隠した想いのその先に

ミヅハ

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願うこと

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 父さんの件があって、啓介が傍にいてくれる事の有り難みを強く感じるようになった俺は、反面一人でいる兄さんが心細い思いをしてるんじゃないかって心配になってた。
 高鷺にお願いしたものの、関係値なんてない上に年も違うから会う機会なんてそれこそないだろうし⋯兄さんが友達と一緒にいてくれるならまだ安心は出来るんだけど。
 っていうか、そうしたら高鷺はどうやって兄さんと親しくなってくつもりなんだ? 
 俺が思い込んでた頃の兄さんならすぐ靡くだろうなとは思うけど、今の兄さんは恋愛してる暇はないって感じだしアプローチも難しそう。
 ほとんど表情変わんないし感情も出ないし背も高くて圧があるけど、良い奴だから報われては欲しいな。

「うーん⋯」
「どうしたの、千晃」

 啓介のベッドにうつ伏せで寝転がりスマホを眺めながら唸る俺に、ベッドに凭れて座ってた啓介がすぐに反応する。
 俺は起き上がり、後ろから抱き着くようにしてスマホの画面を見せた。説明するよりこっちの方が早いからな。

「兄さんが悩んでる」
「〝高鷺くんってどんな人〟⋯?」

 そのあとにも、〝電話もメッセージも毎日来る〟とか〝会いたいって言われる〟とか続いてて、なかなかに積極的らしい。
 普段はローテンションで何にも興味ありませんって感じなのに、いざ関心を持つとグイグイいくの高鷺っぽいと言えばぽいけどな。それに、俺の為に自分を犠牲にしようとしてる兄さんには、それくらい強気で来てくれる人の方がいいのかもしれないし。
 兄さんが自分を顧みないなら、代わりに大切にしてくれる人がいればいい。

「接点がない分、どうにかして距離を縮めたいんだろうね」
「兄さん、春休みの間はバイト三昧らしいからなぁ」
「あー、それじゃあ会ったりは難しいのか」
「高鷺は数分でもいいから会いたいみたいだけど」

 実は高鷺からもちょこちょこメッセージは来てて、兄さんの好きな物とか好みのタイプとか普段何してるとか聞かれるんだよな。
 でも最近になってやっもまともに兄弟として接する事が出来るようになった俺には答えようがなくて、面倒だけど兄さんに聞いて返事するようにしてた。
 もういっそ、高鷺が直接聞いてくれた方が早いのに。

「千晃的には、高鷺はどうなの?」
「いいとは思ってる。案外一途そうだし、浮気もしなさそう」
「確かに。何となく俺と同じ匂いがするんだよね」
「匂い?」
「独占欲が強くて、嫉妬深い」

 それを自覚してるのってどうかと思うけど、恋人は興味ないしいらないって言ってた高鷺がこんだけアプローチしてるんだもんな。
 俺のものにする発言もそうだけど、確かに啓介と同じかもしれない。
 こいつは和葉さんにすらヤキモチ妬くし。

「それくらい想ってくれるならいいよ。本気で大事にしてくれるならいい」
「⋯兄弟だねぇ」
「ん?」

 返事はあとにしようと画面を消してスマホを置き、身体を起こしてベッドに座ったら啓介が腰を上げて端に座り直した。
 首を傾げる俺の頬に触れ、微笑んだ啓介の顔が近付き軽く唇が触れ合う。

「高鷺なら大丈夫だよ。ああ見えてめちゃくちゃ良い奴だし」
「それは確かに」

 見た目は完全に不良だけど、中身は面倒見が良くて気のいい兄ちゃんだからな。
 クスリと笑って頷くと啓介の腕が伸びて抱き締められる。手を上げて背中を軽く叩いたら、首筋に口付けられて押し倒された。
 見下ろされ目を瞬いてたら、啓介の手が裾から入ってきて腹を撫でられる。

「⋯すんの?」
「うん。いい?」
「いいけど⋯窓は閉めて欲しいかも」
「そうだね、声聞こえちゃうかもしれないもんね」
「俺の意思じゃないし⋯」

 誰のせいで声が出ると思ってるんだ。
 楽しそうな啓介にムッとして返す俺の額にキスして立ち上がり、風を通す為に開けていた窓を閉めた啓介が再び多い被さってくる。
 少し前から思い始めてたんだけど、啓介の性欲って人より強いのかもしれない。
 家に俺たち以外いない時はほぼ百パーセントの確率で誘われる。別に嫌じゃないから俺も受け入れるけど、ちょっとは我慢というものを覚えさせないといけないかも。
 じゃないと俺の身が持たない気がする。


 春休みの期間は短くて、残すところあと五日となった。
 兄さんから貰った参考書やノートでの予習復習をかかす事なく、啓介とのんびり過ごしてたある日、兄さんから話があると呼び出された。
 高鷺の事かななんて待ち合わせしたカフェにのほほんと向かった俺は、先に待っていた兄さんの深刻な顔にただならぬ気配を感じ気を引き締める。
 向かいに座り、店員さんにアイスラテを注文して兄さんが話し始めるのを待った。

「⋯⋯千晃は、父さんと母さんは好き?」

 俺が座ってから少しして、兄さんが俯いたままそう聞いてきた。
 まさかの質問に軽く驚いたけど、俺には凄く答えにくいもので口を開くのも躊躇う。

「⋯⋯それを⋯聞かれても⋯」
「じゃあこの先、あの人たちとの関係をどうしていきたい?」
「⋯俺は、二人にとっていらない存在だから⋯二人からしてももう、関わらない方がいいんじゃないかとは⋯思ってる⋯」
「そうだね。僕も、あの人たちには千晃に関わって欲しくないって思ってるよ。これ以上、千晃に傷付いて欲しくない」

 俺が兄さんの本心を知ってから、兄さんの両親に対する態度がどんどん硬化していってる気がする。嫌悪感を隠さなくなったっていうか⋯兄さん、もしかして俺に嫌われるように行動し始めた時にはそうだったのかな。

「兄さんは、父さんと母さんの事⋯」
「嫌いだよ。自分を棚上げする訳じゃないけど、千晃に対しての言動は畜生にも劣ると思ってる。親どころか人として最低だよ。⋯僕含めてね」
「⋯⋯兄さんがしてた事ってあの二人とは違うんじゃないか? そりゃ腹が立ったり悲しかったりはしたけど、全部俺を思ってだろ? 父さんと母さんは、俺が嫌いだから⋯」
「恨んではくれた?」
「⋯元彼の⋯時は⋯」

 あの時が一番ショックだったし、俺が色んな事を完全に諦めた日ではあったけど、それ以降はそのおかげか兄さんの発言にもあまり反応しなくなってた。
 理由を聞いて改めて考えたら、兄さんと両親の俺への接し方って全然違ったし。

「ごめんね。でも、もう二度とそんな事しないから」
「うん。⋯⋯あの、さ⋯」
「ん?」
「⋯俺は兄さんとこうして話せるの⋯嬉しいよ」
「千晃⋯」

 単純かもしれないけど、両親の期待を一身に背負って、俺にヘイトが向かない為に敢えて嘘までついてた兄さんの事を嫌うとか恨むとか、そういう気持ちにはもうなれない。
 それに、こうして〝家族〟として話せるのは俺の願いでもあったし。
 そう言って俺が控えめに笑うと、兄さんは眉尻を下げたあと泣きそうな顔をしながらも微笑んだ。
 俺は兄さんにも、幸せになって欲しいよ。
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