怖がりな少年は時計塔の怪物に溺愛される

ミヅハ

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教えて

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 その日の夜、夕飯もお風呂も点呼も自習も終えた俺は、ベッドの中で翔吾が寝るのをひたすら待ってた。
 就寝時間から一時間くらいしてそっとベッドから抜け出す。
 こっそり翔吾の様子を見たらしっかり寝息を立ててたから、俺はパジャマの上から上着を羽織って部屋を出た。
 見付からないように慎重に寮を出て時計塔に向かう。

 あんなに怖かった道なのに、先輩に会えるってだけで何も気にならなくなるから不思議だ。俺の頭の中が先輩でいっぱいになれば怖いものなんかなくなる。
 旧校舎の雰囲気は相変わらず怖いんだけどな。

 時計塔の扉を開けて中に入り、螺旋階段をひたすら上がる。
 初めてここを上がってからまだ一年も経ってないのに、先輩とは長い間ずっと一緒にいた気がするのは毎日会ってたからかな。昼休みは会えなかったけど、今日である事には変わりないからやっぱ毎日会ってる。
 ここまで走って来たから息が上がってて、俺は足を踏み外さないよう下を向いて上がってたんだけど、もうすぐ最上階ってところで抱き上げられて驚いた。
 胸のとこに顔を埋めてるのは紛れもなく理人先輩で、胸がきゅってなった俺は先輩の頭を抱き締める。

「理人せんぱ……んっ」

 先輩の白っぽい金色の髪に頬擦りしてたらパッと先輩が顔を上げて俺にキスしてきた。すぐに舌が入ってきて俺の舌と絡まり合う。

「ん、ふ…っ……ンン…!」

 いつもよりちょっとだけ乱暴に口の中を舐め回されて舌を吸われて、それだけでヘトヘトになった俺は唇が離れるとすぐにくたっと先輩に寄り掛かる。
 俺の頭や額にキスしながら歩き出した先輩は、いつも座る窓の出っ張りに腰を下ろすと必然的に膝に座る形になった俺の唇をまた塞いできた。
 先輩、さっきから何も喋ってない。

「…っ……は、んぅ…っ……せ、んぱ…」

 話をしたいのに全然離してくれないし、俺は息が出来なくて苦しくて頭がクラクラして来た。というか、先輩は何で平気なんだ? どうやって呼吸してんの? 
 このままじゃ窒息死すると思った俺は無理やり唇の間に手を差し込み手の甲で自分の口を隠した。
 大きく息を吸う俺に先輩はやっと気付いてくれたのか背中を優しく撫でてくれる。

「ごめんね深月、大丈夫?」
「……っ、俺、は…息をするのが、下手、です……」
「うん、知ってる」
「知ってて、これは、ひどい……」
「ごめんね」

 酸欠で涙目な上、話も途切れ途切れな俺に困ったように笑う姿を見ていつもの先輩だとホッする。
 どうにか呼吸も落ち着いてきた頃、先輩がぎゅっと抱き締めてきた。

「今日来なかったから、本当に羽々音の言う通り別れるつもりなのかと思った」
「……ごめん、なさい……」
「深月が変わらず俺を好きでいてくれてるの、匂いで分かるからもう心配してないよ」
「……」
「羽々音の事は聞いた。俺と別れないと、俺が吸血鬼だって事をバラすって言われたって」
「う、ん……」

 実際今日バラされそうになったし、俺が先輩と一緒にいる事を選んだら弓塚は容赦なく言うって分かったから怖かった。
 昼休みの事を思い出して先輩の服をぎゅっと握ると小さな声で「ごめんね」って言われて目を瞬く。

「俺が吸血鬼だって知れたら、俺と一緒にいる深月まで傷付く事になるかもしれない」
「俺は別にいいんだって。当事者の先輩の方が絶対辛いんだから」
「深月に泣いて欲しくない」
「泣かないよ」

 先輩が笑っててくれるならそれでいい。
 そこに俺がいなくても、先輩の秘密が守れるならそれで。

「本当に? こうして傍にいられなくても、名前を呼んであげられなくても、触れ合えなくても泣かない?」
「泣かない」

 あの時間がなくても、先輩が傷付いて悲しい思いをしないなら俺は……。

「嘘つき」
「……っ……」
「素直で純粋で、何も知らない深月をしたのは俺なんだから、離れるのは無理なんだよ。もちろん俺だって無理。深月の事はもうどうやっても手放せない」
「…せん、ぱい……俺……」
「……自分からバラしてもいいんだけど、深月の事だけが気掛かりで踏ん切りつかないんだよね」
「……俺の事はいいんだってば…っ」
「そんな訳にはいかないよ」

 先輩の事なのに、何で俺の事ばっか気にするんだよ。
 バレたら学校追い出されたり、どこかに連れて行かれて実験されるかもしれないのに。
 俺は、先輩が知らない誰かに、どう頑張っても会えない場所に連れて行かれるのが一番怖い。

「深月は、羽々音の記憶を消す事には反対なんだよね?」
「……うん。だって弓塚は血は繋がってなくても先輩の親戚だし、小さい頃から知ってるんだろ? 好きな気持ちだけ消すって言っても、身内に噛み付くなんて先輩の気持ち的にも嫌だろうし…………それに」
「それに?」
「先輩には何があっても、もう俺以外の血飲んで欲しくない」
「……深月」

 大きな手で俺の頭を撫でながらしばらく黙り込ん先輩は、息を吐いて俺の額に自分の額をくっつけて微笑んだ。

「羽々音の事は俺がどうにかするから、少し待ってくれる?」
「……うん」
「大丈夫、離れたりしないから」
「先輩……」

 間近で見る先輩の綺麗な笑顔にドキドキしてるとそのままチュッてされて、指先が項を擽るように撫でるから思わず首を竦めた。

「それにしても……パジャマ姿の深月は新鮮だね。モコモコで可愛い」
「寮から出た時ちょっと寒かった」
「ここも暖かくはないけど、大丈夫?」
「先輩とくっついてるから平気」

 俺のパジャマ、ボア生地で暖かいは暖かいんだけど、ちょっと体温調節が難しくて今は少し暑いくらいだ。
 もそもそ動いて上着を脱ぐと先輩が汚れない場所に置いてくれた。
 先輩やっぱり優しい、好きだなぁ。

『ちょっといいかい?』
「!?」
「コハク?」

 鈴の音が聞こえたと思った瞬間コハクの声がしてビクってなった。先輩もなんでコハクがいるのか分からず首を傾げてる。

「どうしたの? 何かあった?」
『いや、あまりにも焦れったいから言いに来たんだよ。番殿、若様にして欲しい事があったんじゃないのかい?』
「して欲しい事?」
「…………あ! や、えっと、あれはもういいって言うか……内緒って言ったじゃん」
『この際だから聞いて貰うといい。我らも、若様の悶々とした気持ちにはいい加減辟易していたんだ』

 悶々? 良く分からなくて先輩を見上げると、何でか赤くなって難しい顔をしてる。

『若様のためにも、ぜひ言ってあげておくれ』

 それだけ言うと、コハクは一声鳴いてあっさりと消えていった。結局何をしに来たんだろうか。
 先輩は手で目を隠して何かブツブツ言ってたけど、外してふーって長く息を吐いたあと眉尻を下げて笑う。

「それで、俺にして欲しい事って何?」
「……笑わない?」
「笑わないよ」
「…………先輩と会えなくなるって思った時、先輩が怪物だったら頭から食べて貰えたかもって……言ったのをコハクに聞かれてて……」
「うん」
「そしたら、食べて欲しいなら、先輩に言ったら痛くないよう丁寧に食べてくれるよって…」
「…………コハク……」

 ああ、また先輩の眉間にシワが。これ以上は言わない方がいいかなと思っていると、腰に手が当てられて引き寄せられた。

「その食べるって、意味分かってる?」
「ううん……」
「じゃあこの話はおしまい。意味が分かったら、また言ってくれる?」
「……先輩が教えてよ」
「…………」
「コハク言ってた、先輩のためにも言ってあげてって。俺が意味を知れば、先輩は嬉しいんだろ?」

 先輩は俺より色んな事を知ってて、俺は人より知らない事が多い。先輩にも友達にも、聞いても教えて貰えない時があるのって俺のせいだろ? 俺がバカだから。
 俺はじっと先輩の目を見て答えを待つ。
 いつもは先輩が話を終わらせようとしてたら受け入れてたけど、今回ばかりは絶対引かない。
 もう一度、今度は先輩の腕を掴んでから俺は同じ事を言った。

「食べるって、どういう意味?」
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