怖がりな少年は時計塔の怪物に溺愛される

ミヅハ

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ムカついてきた

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 先輩が学校にも来なくなって一週間とちょっと。コウくんは「大丈夫ですぞ」としか言わないし、コハクは姿も見せてくれなくて、さすがにおかしいと思った俺は昼ご飯を食べたあと平井を空き教室に連れて行った。
 ガシッと平井の両肩を掴んで問い掛ける。

「平井! 理人先輩は何してるんだ!?」
「ちょ、み、深月、揺すらないで…っ、気持ち悪くなる…!」
「あ、ごめん」
「…うぇ……食べた物出るかと思った……」

 眉を顰めて口元を押さえる平井にもう一回謝り椅子に座るように促してたあと、俺も椅子を向かいに持って来て腰を下ろした。
 落ち着いたのを見計らって口を開く。

「それで、先輩は? コウくんは元気とは教えてくれるけど、何してるかは教えてくれないんだ。コハクは全然来てくれないし」
「んー……正直言うと、俺も分かんないんだよね。影とはいえ若様に危険がないなら教えて貰えないし。でも、コウモリもネコも若様に命令されてたら何も言えないから、もしかしたらそうしてるのかも」
「何で?」
「そこまではちょっと……」

 コウくんが何も言わなくてコハクが来ないのは、先輩が俺に言わないように命令してるから?
 何で? 俺、スマホも持ってないし寮にも行けないから、教室にも空き教室にも来なくて二匹にも聞けないなら、先輩が何してるかも分かんないのに。
 もしかして……俺の事嫌いになった?

「……え、深月?」
「俺、理人先輩に嫌われたのか? 仕方なかったとはいえ、バラしちゃったから……」
「いや、あの様子から見てさすがにそれはないと思う」
「……じゃあ何で教えてくれないんだ? 今までは聞けば何でも答えてくれてのに……言ってくれないって事は、あの二匹は言うなって先輩から命令されてるって事だろ? 嫌われた以外何があるんだよ」
「それは…えっと……」

 口篭る平井に俺はますます悲しくなる。ほら、何も言えないじゃん。
 俺は浮かんだ涙が零れないように袖で拭って唇を噛んだ。

「……若様がどうして深月に何も知らせないようにしてるかは分からないけどさ、あの人が深月を嫌いになる事は絶対にないよ。これは断言出来る」
「……」
「番だからじゃないよ? 深月だからこそ、若様はあそこまで好きになったんだと思うし……だから泣くなよ」

 基本的に俺は本人の口から聞いたことしか信じないし、本人の事は本人から聞きたい。でも、先輩に会えない以上本心なんて分かんないから、嫌われたなんて思いたくない俺は平井の言葉に頷いた。
 鼻を啜った時、廊下の向こうからバタバタと慌ただしい足音が近付いてる事に気付く。何だと見ていると空き教室の扉が勢い良く開かれて、息を切らしたタケが驚いた顔で俺を見た。

「深月…! お前、知ってたか…!?」
「な、何を…?」
「櫻川先輩の事だよ!」
「理人先輩の事?」

 何か、嫌な予感がする。タケの様子からただ事じゃないって分かった俺は怖くてぎゅっとジャケットの裾を掴んだ。

「櫻川先輩、寮を出たって」
「……え……」
「ちょ、タケ、それ本当?」
「二年の学年主任が教頭と話してたから確かだよ。…その様子じゃ二人共知らなかったんだな」

 理人先輩が寮を出た? 俺に何も言わずに?
 何で? だって、ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃん。
 春休みデートしようって。一緒に住もうって言った時、喜んでくれたのに……俺以外の血、飲みたくないって言ったのに。

「…っ……」
「深月……」
「…好きじゃなくなったんなら、言って欲しかった……黙っていなくなるとか……ひどいよ……理人先輩……っ」

 保健室で言われた事、嘘だったとは思いたくない。でも、こうやって何も教えて貰えなくて、寮を出た事もタケから聞かされて、信じたいのに信じられなくなる。
 ……もしかしてあの時の「ごめんね」って、この事だったのか?
 何も言わない事にごめん? いなくなる事にごめん?
 分かんない。何も分かんないよ、先輩。

「……っ…あーもう! コウモリ! いるんだろ!」
「!?」
「平井?」
「若様に何を命令されたのかは知らないけど、深月をこんなに泣かせるなんて何考えてんだ! 大体、若様も若様だ! 深月が好きで好きで仕方がないくせに、何でこんな事出来るんだよ!」

 いきなり叫び出した平井に俺もタケも驚いて目を見開く。
 少しして、霧が集まって形になるとコウくんが姿を現した。視界の端でタケがギョッとしたのが分かる。

『影の分際で無礼ぞ』
「お小言はあとでいくらでも聞くよ。ねぇ、若様はどこにいるの?」
『それは答えられぬ』
「若様の大事な大事な番がこんなに泣いてるのに?」
『……そう、言い付けられておる』
「いくら深月が若様の事好きでも、悲しい事ばかりされるなら嫌いになるかもしれないね」

 嫌いには、ならないと思うけど……でも今口を開いたら、コウくんに詰め寄っちゃいそうで俺は今必死に閉じてる。
 平井は睨むようにコウくんを見てて、タケはコウモリが喋った事に呆然としてたけど、慌てて中に入って扉を閉めてくれた。

「若様はどうして寮を出たの? 本当に深月の事が嫌いになったのか?」
『それは断じてない! 番殿、若様が番殿を嫌うなど、絶対にありませぬからな!』
「……ぅ、ん…」
「出て行った理由も話せない?」
『…………』

 しばらく黙り込んだコウくんは小さく息を吐くと『番殿のためだ』と教えてくれた。
 ……俺のため?

「……え?」
『若様が人ならざる者と知られた以上この学舎での生活は困難。加えて共におられる番殿が、ご自分のせいでご学友をなくされるのではないかと不安になられて……離れる選択をなされたのだ』
「…………」
「何というか……極端すぎるだろ」
「深月が大切なのは分かるけどさぁ……そのせいでこんな状態なのに、何考えてんだ、若様は」
『番殿はご学友が大事であろう? そんなご学友から心ない言葉を投げ掛けられたらお辛いだろうと……お傍にいなければ、番殿は吸血鬼とは無関係だったと分かるのではないか、そう仰っておられた』
「無関係……」

 俺と先輩は恋人だったんじゃないのか? 無関係って何?
 大体、あの場で俺が先輩に血を飲ませるところをばっちり見られてるんだから今更じゃないのか?
 確かに俺は吸血鬼でも怪物でもないけど、先輩の事分かった上で、ちゃんと自分の意思で一緒にいるのに、その言い草はないだろ。

 ……あ、だんだんムカついてきた。

「コウくんは、先輩がどこにいるか知ってて、先輩と話が出来るんだよな?」
『……我らは眷属ですので…』
「じゃあ先輩に、俺は怒ってるって伝えて」
「深月?」
「約束破った事も、俺の気持ち勝手に決め付けて離れた事も、コウくんやコハクに命令した事も、すっごく怒ってるって」

 先輩が周りから怪物だ化け物だって攻撃されるなら、本当に俺は攫って逃げるつもりだった。それくらいの覚悟で血を飲ませたのに、無関係って何だよ。
 先輩の事、受け入れてくれた人だっているのに。
 俺の目が据わってる事に気付いたのか、コウくんが焦ったように羽根をパタパタする。平井もタケも口を開けてポカンとしてた。

「先輩がどこにいるか言えないなら、安全な場所にいるかどうかだけでも教えて」
『わ、若様にとって最も安全な場所におられます……』
「……平井」
「はい!」
「何で敬語……まぁいいや、先輩にとって最も安全な場所ってどこ?」
「え? そりゃ、やっぱりご実家じゃないか? 分家に手出し出来る奴はいないし……なるほど。深月、意外に頭良いね」

 俺はただ単に先輩が危ない場所にいないか心配だっただけだけど、それが糸口になってホッとした。っつか、意外には余計だ。
 まぁこれで先輩の居場所は分かったから、あとは俺が叱りに行けばいいだけ。コウくんにとってはこれが俺に伝えられる精一杯だと思う。

「ありがとう、コウくん」
『………番殿、若様を宜しくお願い致します』
「うん」

 コウくんの姿がぼやけて霧に代わり散っていく。
 扉の傍にずっと立ってたタケが大きく息を吐いた。

「いや、何かすげぇもん見たわ。貴重な体験」
「ホントに変わってるな、タケは。普通は怖がるよ」
「俺のダチにに吸血鬼がいるんだから、何があったって多少の事には動じねぇよ」
「タケはいい男だね」
「だろ?」

 さっきまでの雰囲気とは打って変わってほのぼのした会話をする二人に笑った俺は、平井に先輩の実家の住所をメモって貰い春休みに行く事を決意した。

 もう一回会って、ちゃんと話をしないと。
 俺はじっとしてるのは性にあわないからな、逃げるつもりなら取っ捕まえて背中にでもしがみついてやる。
 待ってろよ、理人先輩。
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