怖がりな少年は時計塔の怪物に溺愛される

ミヅハ

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理人先輩は……?

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 翌日、学校に行くといつもとは雰囲気が違っていた。俺を見る目もちょっと訝しんでるというか、変な物を見るようなあんまり良いとは言えない目。
 昨日の話、広まってるみたいだ。
 先輩は大丈夫かな。この視線の中登校するのは結構キツイし、なんなら休んでてもおかしくない。
 でも最近は、先輩に何かしらあったらコウくんが教えてくれてたから、何も知らされてないって事は来てると思うんだけど。

「おはよう、深月」
「平井……おはよう」
「見事にヒソヒソされてるね」
「こんなに居心地悪いの初めてだ」
「そうだね」

 あの場で先輩はハッキリと自分と平井が怪物だって答えてたから、平井に対する目がすごく冷たい。
 何も怖くないって事をアピールするために平井の手を握って引っ張ると、少しだけ驚いた顔をしたあと小さく「ありがとう」って言ってた。


 教室に入るのは少しだけ怖い。
 今まで仲良くしてた友達にまであんな目で見られたら、逃げ出すかもしんないし。

「俺たちは何も悪い事してないんだから、堂々としていればいいんだよ」
「俺よりも平井だろ」
「大丈夫だって。ほら、ドア開けて開けて」

 本当に大丈夫なのか?
 眉を顰めながらも勢い良く開けると、さっきまで賑やかだった教室の中が一瞬にして静かになる。
 やっぱりって思ってると、真ん中の一番後ろの席に座っていたタケが立ち上がり近付いてきた。

「はよー。何でそこで固まってんの?」
「……へ?」
「おはよう、タケ」
「おはよ。何か大変な事になってんな、お前」
「知ってて話し掛けてくれるんだ?」

 いつも通りの口調とトーンで挨拶してくるタケに拍子抜けしていると、普通に平井にも声をかけてて目を瞬く。
 タケはチラリと教室を見ると軽く肩を竦めた。

「お前とは小学生からの付き合いだからな。良い奴だって知ってるし、怪物だなんだって言われてもそれが何? って感じ」
「タケは変わってるな~」
「で? どこがどう怪物なんだよ。お前じゃん」
「……牙だけが伸びるだけの吸血鬼のなりそこない」
「ん、聞いても良く分かんねぇな」
「そこがタケの良いところだよね」

 そ、それでいいのか? え、狼狽えてる俺がおかしい?
 ポカンとしてるとニッと笑ったタケにわしわしと頭を撫でられた。

「あんま気にしない方がいいぞ。クラスの奴ら、大半は半信半疑だし、俺と同じでだから? って奴多いし」

 うちのクラスの奴らってそんなにおおらかだった? だって怪物ってちゃんと聞いたんだろ?
 そう思ってタケの背中越しにクラスメイトを見ると、いつも平井と一緒にいる奴らがにこにこと手を振ってた。

「櫻川先輩の事だってさ、深月がめちゃくちゃ好きになってんだから、悪い人じゃないんだろってくらいの認識なんだよな。学年違うし話した事はないけど、深月を見る目がすげぇ優しいってのは知ってるし」
「タケ……」
「先輩も平井と同じなのか?」
「あ、うん。吸血鬼」
「深月は知ってたんだろ?」
「うん、好きになる前から知ってた」
「怖がりの深月が知ってた上で好きになったんなら、やっぱ良い人なんだろうな」
「理人先輩はものすごく優しい人だぞ」

 あんなに優しい人他にいないんじゃないかってくらい優しい。話し方も、俺に触る手も、表情も。全部全部優しい。

「とにかく、このクラスでお前らを悪く言う奴いねぇから。もしいたら俺がぶっ飛ばしてやる。だからいつも通りでいろよ」
「ありがとう、タケ」
「ありがとう」

 俺と平井の安心した顔を見て笑ったタケは、俺たちの間に入って二人の肩をガシッと掴むと一緒に教室に入ってくれた。
 やっぱりみんな大好きだ。みんなと友達で良かった。

 先輩のクラスにも、タケみたいにそれが何って受け入れてくれる人がいるといいな。





 昼休み。空き教室に向かった俺は、いつもだったら先にいるはずの先輩がいなくて、扉を開けた瞬間「あれ?」と声を上げた。
 先輩が遅れるなんて数えるくらいしかなくて、とりあえず俺は中に入って椅子に座り待ってみる。
 だけどいくら待っても来なくて、お腹が空いて背中とくっつきそうな俺は先輩のクラスに向かう事にした。


 昨日の事もあって誰に声かけていいかも分からなくてウロウロしていると肩をトントンと叩かれた。振り向くと、いつも真っ先にお菓子をくれる浅葱あさぎ先輩が微笑んで立ってる。

「もしかして、櫻川に会いに来た?」
「うん」
「ごめんな、今日はアイツ休みみたいで」
「え? そ、そうなんだ……知らなかった」

 あれ、何でコウくんもコハクも教えてくれなかったんだ?
 二匹っぽくない行動に戸惑っていると、浅葱先輩は声を小さくして聞いてきた。

「昨日の話って本当?」
「……理人先輩が怪物ってやつ?」
「うん。俺、アイツとは二年連続同じクラスなんだけど、そんな素振り見た事ないからさ。正直信じられないっていうか……」
「…………」

 これ、俺が話していいんだろうか。俺が話した事で友達じゃなくなったりしないか?
 どうしようかともごもごしてると、しゃがんだ浅葱先輩に見上げられる。

「俺はその場にいた訳じゃないから見た奴らの気持ちは分かんないだけどさ、昨日まで友達だったのに手の平返すってどうよって思って。そりゃ見た目とかが明らかに人じゃないっていうなら理解も出来るけど、そういう部分ってないんだろ?」
「…うん…」

 目は金色になるし牙は伸びるけど、肌の色が変わったり腕が変形したりとかはないからとりあえず頷いておく。

「二年近く友達として過ごして来て、アイツがめちゃくちゃ穏やかで優しいのも知ってるから……怖いとか全然分かんねぇ」
「………………」
「アイツ、どこが人と違うの?」
「……少しでも人の血を飲まないと、死んじゃう」
「血? それだけ?」

 それだけ。言われてみればそれだけだ。
 ただ先輩は、初めて俺と時計塔に行った日までは誰かの血を飲んで記憶を消したりしてたみたいだから、当人にすればそれだけじゃ済まない話だけど……そうだよな、それがなければ〝それだけ〟なんだよな。
 先輩にとって人の血は生きて行く上で必要なものだし、今は俺がいるから先輩が他の誰かから貰う必要もない。
 それじゃダメ、かな……。

「深月くんはあげたのか?」
「うん」
「怖くなかった?」
「理人先輩だから怖いとか感じなかった。むしろ俺のだけ飲んで欲しいって思ってたから」
「櫻川も相当好きなんだなって思ってたけど、深月くんもベタ惚れだね」

 その言葉に頷くと浅葱先輩はどこか楽しそうに笑って立ち上がり、教室の方を向いて肩を竦めた。

「クラスの奴らには俺が言っておくよ」
「うん、ありがとう。…なぁ、浅葱先輩。先輩だったら、理人先輩に血が欲しいって言われたらあげられる?」

 俺の質問に目を瞬いた浅葱先輩は少し考えたあと、「ちょっと無理だな」って答える。
 まぁそうだよな。友達にお前の血が飲みたいって言われてもは? ってなるよな。もし平井にそう言われても俺もあげないと思うし。

「受け入れはしたけど、その対象にはなりたくないかな」
「そっか」
「だから俺、素直に深月くんはすごいと思う」
「そうかな」
「すごいよ。……だからこそ深月くんなんだろうな。櫻川はさ、たぶんもう深月くんじゃないと駄目だと思うから、アイツの事頼むな」
「任せとけ。俺が理人先輩を幸せにするんだ」
「頼もしい。お菓子あげるから、ちょっと待っててな」
「やった、ありがとう」

 にこって笑った浅葱先輩が教室に入って行くのを見送りホッと息を吐く。理人先輩、先輩を受け入れてくれてる人いるよ。友達だって言ってくれる人いるよ。
 明日は来るよな? 来たら浅葱先輩が言ってた事教えてあげよう。
 タケが言ってくれた言葉も、俺のクラスの事も。
 そうしたら少しは怖くなくなるはず。
 でも何でコウくんもコハクも、先輩が休むって事教えてくれなかったんだろ。

「お待たせ。はい」
「ありがとー!」

 俺は浅葱先輩からお菓子を貰い手を振って自分の教室に向かった。誰かに食い物分けて貰おう。
 今日はおにぎり作れなかったけど、明日は作ってかないとな。

 でも先輩は、次の日もその次の日も、一週間経っても空き教室どころか登校する事さえなかった。
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