愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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急接近

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 人の看病なんてした事がない俺は実家住みだからもちろん料理もした事なくて、今はどうにか検索してスマホに表示させたレシピを見ながら必要な物を集めているところだった。
 米は何度か炊いた事あるから大丈夫なんだけど、問題はここからどうするかだな。

「えーっと、米と水と卵と⋯⋯だしの素ってこれか?」

 意外にも柊也の家には調理器具や調味料が揃っていて、それなりに減ってるからたぶん自炊はしてるんだろう。それも、1人用の土鍋まであるからちゃんとやってるっぽい。
 炊けたご飯を土鍋に入れ水を注ぐ。火にかけて沸騰してきたら、吹きこぼれないよう火加減を調整しながら混ぜてつつ水分を減らすんだな。
 慣れないながらに細々とつまみを弄りつつ混ぜてたら米がとろとろしてきた。だしの素を加えて混ぜ、解いた卵も流し入れて更に混ぜたら完成だ。
 レシピ通りだし、味付けも問題ないだろう。

「あちっ」

 土鍋の持ち手に軽く手が触れビクッとなる。一瞬だったから冷やすほどではないけど、持ち上げる時もうっかりそのまま触らないよう気を付けないと。

「さて、アイツが起きたら食べられるか聞いて⋯」
「⋯先輩⋯」

 蓋をして洗い物をしようかと落ちてきた袖を捲くったら、不意に弱々しい声が聞こえて俺は反射的に振り向く。開いたドアの枠に寄り掛かるようにして柊也が立ってて、フラつきながらこっちに来ようとするから慌てて駆け寄った。

「こら、何で起きてんだ」
「先輩が⋯見えなくなったから⋯」
「おかゆ作ってたんだよ。ほら、ベッド戻るぞ」

 足元の覚束ない柊也の手を引きすぐそこにあるベッドに寝かせようとしたんだけど、自分の足に躓いたのか柊也が背中にぶつかってきて俺ごと倒れ込む。自分より背の高い男の体重がのしかかり情けない声が出たけど、マットレスが柔らかかったおかげで押し潰されずに済んだ。

「お、重い⋯」
「す、すいません⋯すぐどきます⋯っ」
「いや、ゆっくりでいいから落ち着いて⋯」

 重みがなくなり、手伝おうと身体を反転させた俺は今の体勢に気付いてハッとした。
 俺の顔の横左右に柊也が手を着いて上から俺を見下ろしてる。ベッドの上だからってのもあるけど、何も言えずにいたら柊也も気付いたのか目を見瞠った。
 な、何だこの漫画みたいな展開は⋯!

「すいませ⋯っ、あの、俺そんなつもりじゃ⋯っ」
「わ、分かってる! 分かってるから落ち着けって⋯!」

 これが不可抗力なのは俺が一番よく分かってる。
 熱があるのに慌てて動こうとする柊也に頷きながら声をかけ、肘をついて上体を起こそうとしたら今度は手を滑らせまたも乗り上げられた。
 その勢いのままベッドに沈んだんだけど、眼前にイケメンのドアップがあって唇に何かが触れてる事に気付いた俺はハッとする。
 もしかしなくても俺、柊也とキスしてる?

「⋯!?」

 驚いた柊也が身を引こうとするから、俺は反射的に腕を伸ばして首へと回し少し離れた唇を追い掛けて口付ける。
 ずっとキスしたいって思ってたんだ、もっとたくさんしたい。

「⋯っ⋯せんぱ⋯うつるから⋯」
「⋯いい。うつして治せ」
「⋯先輩⋯」

 話の合間に何度も触れ合わせ、少しカサついた唇を食んでいたら頬を挟まれぐっとキスが深くなった。遠慮がちに擦り合わさっていた舌が絡め取られる。

(口の中も熱⋯)

 柊也と触れてるところが全部熱くて俺まで頭がぼんやりしてきた。
 唾液の混ざる音とか、お互いの荒い呼吸とか、耳に響く心音とかもそうだけど、絡み合う舌が気持ち良くて中心が反応しそうだ。

「ん⋯っ⋯ぅ⋯」
「先輩⋯⋯俺⋯」
「⋯ん⋯⋯ん?」

 頬にあった手が服の裾から入って来て、触ってくれるんだって思ってたらそこから動かなくなり唇が離れた。目を瞬きながら見ると柊也はへろへろになっていて、今更ながらに熱があった事を思い出す。

「しゅ、柊也! 大丈夫か!」
「世界がぐわんぐわんしてます⋯」
「ごめん! 本当にごめん!」

 あんまりにも気持ち良くて、途中からすっかり忘れてた。
 今度こそ身体を起こしてどうにか柊也をベッドへと寝かせた俺は、さっき見付けた体温計を取ると柊也の脇に挟んで待つ。少しして終了を知らせる音が鳴ったから見れば38度5分もありますます申し訳なく思った。
 事故チューで箍を外すって、欲求不満にもほどがある。

「ごめんな」
「⋯⋯どうして先輩が謝るんですか⋯」
「しんどいのにあんな事したから」

 動かすのも辛いだろうに、俺の頬を指の背で撫でて力なく微笑む柊也に心臓がきゅってなる。

「俺は嬉しかったですよ⋯ずっとしたいと思ってたから⋯」
「だったらすれば良かったのに」
「⋯先輩の気持ちが俺にないのに⋯したくなかった⋯」

 そっか。そういえば俺、ちゃんとは言ってなかったんだっけ。だから何もしてこなかったのか。俺は魅力がないんだーとか言ってた自分が恥ずかしい。
 こうなったら言うべきだと頬を擽る手を握った俺は、柊也の指先に口付け笑顔を浮かべた。

「好きだよ」
「⋯え?」
「ちゃんと、俺も好きだよ」
「⋯⋯⋯」
「だから、元気になったらもっとしような」

 予想もしていなかったのかポカンとしていた柊也は、殊更に笑みを深くして言った俺に数回瞬きをしたあと、空いている方の手で顔を覆い小さく返事をした。

「はい⋯」

 こうして俺たちは、晴れて本当の意味で恋人になった。
 ま、何をするにしても、まずは元気になって貰わないとな。



〈おまけ〉

「あ、そうだ。お前1人にするの心配だし、今日は泊まるから」
「泊まる⋯?」
「熱も高いし一応な。でも着替えないから、上だけでも貸してくれると助かる」
「先輩が俺の服を着る⋯?」

 親からの許可は降りたしと冷却シートを変えながら言えば、理解が追い付かないのか柊也は俺の言葉を反芻するだけしたあとしばらく固まってた。
 何でそんな反応されたのか、俺は今でも不思議に思ってる。
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