後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】

弓立歩

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「イリス様、孤児院の子たち、皆いい子でしたね」

「そうねケイト。でも忘れてはいけないわよ。彼らの中には過去に犯罪に手を染めていた子もいるってことを」

「でもそれは仕方なく……」

「仕方ないなんて言葉はこの世にないのよ!」

「ぴゃい!」

「罪を犯せばあんたも私も裁かれるわ。もちろんあの子たちもね。だけど私たちがあの子たちの可能性を引き出してあげれば、そんなことをさせずに済むの。あの子たちがいい子なんじゃなくて、今は悪いことをする必要がないだけよ」

「要はお嬢様が言いたいのは、生まれた後の環境が違えばあの子たちもあそこにいるような子ではないから、よく面倒を見てしっかり育ててくださいと言っているのです」

「あ、テレサさん、ありがとうございます」

「そんなこと言ってないでしょ! 私は変な噂が立たないようにしなさいって言ってんの!」

「だからそうなのでしょう?」

 何わけが分からない顔をしているんだか。そんな聖人みたいなのは教会に任せてりゃいいのよ。ただ、カレンとかが売られたりするのはそう……気に食わないからよ。

「なんにせよ。ここにいる間の用事はもう済ませたわ。明日は王都へ向かうわよ」

「ええっ!? まだ文が向こうに届いてないですけど……」

「ケイト。重要な相談事はあらかじめ安全な場所を見つけておいて、そこで情報を確認するの。そんなことをしていては相手が動く時には手遅れよ!」

 そういうとテレサに準備の進捗を聞く。現状で8割か……。

「例の代官の情報だけど、こっちの私の部屋だけじゃなく王都の宿にも届くように手配して。あいつもくそったれなら使い易そうだわ」

「お嬢様、口調が……」

「ん、おじさまに会うならちょっと遠慮しておきましょうか。あなたたちも準備しておきなさいよ。明日の昼にはここを発つわ」

「は、はい」

「エマ、すぐに今から準備しましょう」

「ドレスは準備しなくていいから。こっちですでに手配済みよ。行き帰りの服とかそういうものを中心に用意なさい!」

「何から何までありがとうございます。イリス様」

「その代わり、向こうに着いたらあなたの方が位は上なんだから、存分に働いてもらうわよ」

「ええっ!?」

「エマはこちらに来なさい。今はお嬢様が大半を肩代わりしておりますが、基本的にはあなたとケイト様が今後することになるのです。手配の流れをよくする方法と、手配漏れがないようにする方法も教えます。もちろん、移動中といえど勉強の時間です」

「そ、そんな……」

「感謝すべきよ、エマ。テレサはそんな態度だけど、私以上に経営もうまいし事務処理もかなりのものよ。きっとこの先、お兄様の手が回らないところでも処理できるようになるわ」

「分かりました! 頑張ります」

 今日は明日の準備があるので食事を取ってこれで解散だ。明日からはただただ、馬車に揺られるだけの毎日なのがちょっと憂鬱だ。

「最近は毎日馬車漬けなんておかしくない? この前まで馬車に乗るといえば、見合いか孤児院以外じゃなかったのに……」

「でも、健康的で私はいいと思いますが」

「あんたの意見なんて聞いてないわよ。お茶会だっていらないし、誰の訪問も受け付けたくないところを選んでたはずなのに、なんだかめんどくさい方向に進んでいる気がするのよね」

「それを言ってしまえば私を拾った時点ですでに……」

「ん? 何か言った」

「いいえ。活動的であってもそうでなくてもお嬢様はお嬢様ですよ。私はついていきますから」

「当たり前じゃない! あんたは私のメイドよ。この家についてるメイドじゃないのよ」

「ふふっ、そうでしたね」

 本当こいつは生意気になったわね。泣きながら後ろをついてきた頃が懐かしいわ。


 
「今日は王都へ行くけど、二人は行ったことあるの?」

「私は学園には行ってましたけど他は……」

「私は領地から出たことはありません」

「そうなのね。ケイトはなんで街に出なかったの? 別に王都まで出られれば割と好きに動けるでしょう?」

「そうなんですけど友達もいなかったですし、寮から出るのが悪い気がして……」

「本当につまんないことで悩んでたのね。そんな性格じゃなかったら友達の一人や二人できたかもしれないわよ?」

「そうでしょうか?」

「まあ、あれだけ色々言われていたお嬢様でも、在学中は何名かの方と仲は良かったですから」

「イリス様はそうでしょうけれど、私なんかが……」

「いい! どんなに嫌われてても、イメージがマイナスからでもちゃんと話をすれば分かるやつはいるわ。まあ、そんなこと言ってても、私を置いて皆は結婚しちゃってるわけだけど……」

「それは流石に無理でしょう。友人が結婚できないから待つと言っては、一生出来ない可能性がありますし」

「出来るわ!」

「まあ、今こうやってそのために動かれているから、そこは大丈夫でしょう。ですが、お嬢様の言う通りケイト様にも出会いはあったのではないかと私も思います」

「そうなのかな?」

「分かったら、今後はもっと積極的に話しなさい! そうして孤児院の新しいスポンサーを見つけるのよ! 私は時間がないから領地の中だけだったけど、教会と改めて協力関係を取れれば全国規模でも可能だと思ってるわ」

「あの子たちのような環境を世界中に……」

 ケイトは急に真剣な目になってしまった。いや、全国って国よ、国内よ。世界中何て大げさな物じゃないんだけど。

「ま、まあ、さっさと馬車を出しましょう。王都まではまだ一日あるんだから」

 こうして私たちは馬車に乗り込むと一路王都へと進んでいった。王都までは飛ばしても丸一日かかる。この領地からでは途中で一泊するのだが、中継の町がまた気取ったところなので私は好かないのだ。

「テレサ、いつも通りこの先の町は素通りよ。奥の方へ泊まるわ」

「あれ、この町がこの辺りじゃ一番大きいと聞いてましたけど、泊まらないんですか?」

「あ~、確かにこの町は観光を取っても宿泊を取っても、中継地として優れているんだけどね……」

「以前お嬢様が特待生の孤児たちとともに王都へ行ったことがありまして。そこで、この町の貴族宿に泊まる時に孤児を泊める泊めないで揉めてしまって」

「なに? 私が悪いっていうの! あの子たちだって頑張って勉強して、特待生になったってことは貴族の子息・子女と同じような扱いよ。それを身元も私が保証するのに泊めないだなんてどうかしてるわ!」

「と、このような感じで夜も近いというのに食べ物だけ近くの店で買って、無理やり門も開けさせて次の町に泊まったんです。それ以来、一切あの町では買い物もせず、通行料すら払ってません」

「通行料も払わないっていいんですか?」

「きちんと陛下からも免状が出ておりますので。宿の主ごときが我が血縁者に意見をし、その意見自体も王国の意を汲むものではないとお墨付きもいただいております」

「なので、私にとってこの町は敵地よ! 絶対にお金を落としてやんないんだから!」

「子供っぽい……」

「エマ、なんか言った?」

「いえ滅相も……」

 こうして当初の目的通り私たちは大きな町を通り過ぎ、その先の町へと泊まったのだった。




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