後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】

弓立歩

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「あ~、やっぱりこの町はいいわ。人間性がにじみ出てるっていうのかしらね。王都みたいに他人っぽさもないし、あそこみたいに商業のみ優先って感じでもなくて」

「ありがとうございます。イリス様のおかげでこちらもやっていけます」

「そんなことないわ、努力の結果よ! 今更あの町が真似することもできないしね」

「これからも精進してまいります」

 そういって一言挨拶を交わしてから貴族宿の支配人が出て行く。

「イリス様はこちらでも何か?」

「大したことないわよ? あの町に負けないように王都直前でストップして泊まってくれる客には一食サービスと、近隣の村から野菜を安定的に買い付けて野菜料理を出すようにしたぐらいよ。王都は色々な物が集まるけど、その分流通スピードは落ちるのよ。売買しながら商人たちも来るしね。だから、この町の方が安くて新鮮な料理を食べられるの。あの町の方も物流が集まりすぎて、細かいオーダーは入れられないのよ」

 私が説明してやるとテレサがそれに続く。

「お嬢様の、あの町に泊まらない以上はできるだけ利益も削り取る。という不屈の精神の賜物です」

「まあ、王都はデザートや肉類が中心のところがあるからできたことよ」

「確かに……。周りの人たちは王都のどこかの店の新作デザートや、貴族向けのステーキ店などの話しをしていました」

「そう! そこに目をつけるとは流石は私よね!」

 大きく頷きながらあの時のことを思い浮かべる。

「そのおかげで、孤児たちを届けた帰り道でここに一か月も滞在しましたけどね……」

「一か月ですか? そんな短期間で野菜の手配とかできるものなのでしょうか?」

「要はやる気よ! 負けないために頑張るの!!」

「まあ、今は結婚で絶賛負け続けているわけですが……」

「余計なことは言わないでいいわ!」

「イリス様は学園の成績も悪くはないけれど、そこまで良くもなかったと聞きましたが、こうなってくるとそれも本当なのでしょうか?」

 エマが質問を投げかけてきた。ふふっ、世を生きる厳しさを教えてあげましょう。

「それは本当よ。こういう時のやる気と勉強は違うしね。それに相手には公爵令嬢とかもいるのよ? 目をつけられたらおしまいよ」

「やっぱり公爵令嬢ともなればお相手も難しいのですか?」

「そんなわけないじゃない。きちんと教育を受けてきてるんだから」

「ではなぜ?」

「私の味方自体は少ないもの。変な噂を本気にされでもしたら一瞬で終わるわ。陛下と仲がいいといっても、つながりの強さでは公爵家には勝てないしね」

「そこで家の話しが出る自体、子爵家とは違いますね」

「エマも高位貴族を相手にするということを覚えておきなさい! あなたたちのような存在を成り上がり者といって一方的に嫌ってる人もいるわ」

「ためになります」

「まあ、今日はもう疲れたし私は寝るわね。あなたたちは明日の打ち合わせをしておきなさい。明日中に王都に着けないなんてことがあったら分かってるわよね?」

「はっ!」

 よしよし、脅しもかけたし今日はぐっすりと眠ろう。


 
「ふわぁ~。良く寝たわね。さあ、行くわよ!」

「まだ、朝食ができておりませんが……」

「あら、テレサ早いわね」

「お嬢様が起きる時間に起きていないのはメイド失格ですので。ケイト様とエマも起こしてまいります」

「そうね。この町にしばらくいたいところだけど、今はそんな暇がないのよね」

「いつか、お暇になりましたら来ましょう」

「なによそれ、私は早く隠居するの!」

「そうでしたね。それでは、二人を食堂へお連れしますので」

 そういってテレサが出て行く。私は令嬢にしては珍しく自分で朝は着替える。こればっかりは気持ちが落ち着かないというか一日の始まりの合図になってしまったのだ。さっと着替えて食堂に向かうと、やや眠そうなエマと明らかに眠そうなケイトがいた。

「あんたたちだらしないわね! 客前でその姿を見せないでよ」

「あ、はい」

 本当に分かってるのかしら。まあいいわ、今日のところはこの料理に免じて許してあげましょう。久しぶりの野菜料理だ。温野菜あり、サラダありメインも野菜とこれほど野菜尽くしになるのはこの町に居る時だけだ。

「うん! やっぱりここの料理は美味しいわ。野菜に関していえば王都より上ね」

「ありがとうございます。この宿といくつかの宿が共同で農家から買い付けできるようになり、より新鮮になりましたので……」

「それは素晴らしいわね! これからも私が来た時のためにどんどん美味しい料理を考えなさい。前に長く滞在した時は開発中ばっかりだったけれど、次はそういうことのないように!」

「はい、ご期待に沿えるよう全力で取り組んでおきます!」

 宿の主とも別れ私たちはいざ王都へ。

「さあ、美味しい料理でお腹も膨れたわよね? 一気に行くわよ!」

 進みだした馬車は何事もなく王都への道を進んでいった。


 
「ふぅ~、検問も無事に通過したし一安心ね。今日はもう午後だけど宿の手配は?」

「完了しておりますので、こちらに」

 テレサが御者に案内させて向かった宿は王都でも無名の宿だ。その割にはバカ高く割引などもない宿なのだけど……。

「よくここを抑えられたわね。貴族でも急に抑えるのは苦労したはずでしょ?」

 こういう手回しの良さがテレサにはある。ここは、密会や身を隠すのに最適で、宿泊客の数も限られているし客同士が会わないように作られているため、非常に過ごし易い良い宿なのだ。ただし、そのメンテナンス代なのか知らないけと宿泊費が高いのである。

「まあ、私というかお嬢様のつてがありますので……」

「私には覚えがないけど、そんな知り合いがいたら紹介して欲しいわね。今後も使う機会があるかもしれないし」

「相談しておきます」

 後は今後の方針だけど、まずは陛下から手紙が届くまでは何もできない。おそらく昨日の内に手紙が届いているから、今日の午後ぐらいにでもひと段落して読まれているだろう。王といえど国に仕えるもの。忙しいとおじさまは以前にも嘆いていた。前に会った時は何人かの学園での生活態度を聞かれたな。私には関係ないから王子の前ではかっこつけてますとか、下位貴族につらく当たるとか本当のことを言いまくったけど。それよりも……。

「どうせ明日の昼までこっちに文は届かないから、観光しよう!」

 名案とばかりに私が言う。

「でも、どちらへ?」

「ここは王都よ。そんな田舎者みたいに……行けば何でもある! それが王都よ」

 私は断言する。鮮度はともかく揃わないものは王都にはない。剣も鎧も服も食料も人も全てはここが中心地だ。どんな名工も店の一つは出すのが当たり前だ。

「馬車はどういたしましょう。借りましょうか?」

「……いいえ。ここはレイバン侯爵家の紋章を見せびらかしてやりましょう。ケイト!」

「はいっ!」

「明日はあなたが先頭切って歩くのよ! 新しいレイバン侯爵夫人が、私を従えて王都を歩いたという情報を王宮に流せば、それはそれでお兄様のプラスになるわ。元の爵位より新しい爵位に合わせて、年若いあなたが従わせたことになるもの」

「そ、そんな! 無理ですよ!」

「いい! これからの取引や孤児院の子たちのスポンサー集めにもなることよ! 絶対にやり遂げなさい!」

「孤児院の子たちのため……イリス様の役に立つ……。分かりました! 私やります!」

 お、おお。急にやる気を出したわね。まあ、やる気があること自体はいいからまあいいか。

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