後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】

弓立歩

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 陛下との会談も終わり、今日はもう特にやることもないので帰った後はみんな宿でゆっくりしていた。

「そうそう、あなたたち。ゆっくりするのはいいけど、キチンと帰る準備をしておきなさいよ!」

「ええっ!? だって、イリス様やテレサにもそんな動きは……」

「テレサは私付きのメイドよ? いつでも動けるように準備は万端よ。今からでも出発できるわ。それに明日貴族たちにお披露目後はすぐに領地にも知らせに行くといって帰るのよ。ゆっくりしている暇はないわ」

「そ、そんな。ケイト様、急がなくては」

「そうね」

「ああ、エマ。あなたはいちいち主に意見を聞かなくても荷物をまとめられるようになりなさい。そこまでできて一人前のメイドよ」

「はい!」

 バタバタと2人が出て行く。

「さて私たちも準備をしましょうか」

「そうですわね。主の荷物を勝手に触って必要なものをどこかへやるなど、そういったリスクを冒さないのが、優秀なメイドですから」

 こうして私たちは焦るメイドと主一組を尻目にゆっくりと準備をしたのであった。

「あら、ケイト。これ汚いんじゃない? もう少し綺麗に入れなさい」

「でも時間が……」

「優雅に大胆にできないようではだめよ。エマももっとしっかりしなさい」

「申し訳ありません」

 いやあ、二人が初々しいからちょっとからかっちゃうわね。最近ずっと言っているように私の方が本当は格下だから逆の立場なのに。

「お嬢様、そんなに言ってはいけませんよ」

「いいえ、いいんですテレサ。私みたいな田舎の令嬢はこうやって鍛えてもらわないとだめになっちゃいます」

 ちょっと、ちょっとだけだけどあの目でこう、正直にものを言われると悪いことをしている気になるわね。

「ま、まあ私も少し言い過ぎたかしら。少しずつ出来るようになればいいわ」

 この日は早めに寝ることにして明日はしっかりさせないと。貴族たちからどんな話が出るかわからないからね。流石の私でも普段から話をする機会はないからちょっと心配だわ。今日の昼のような言い返しがずっとできるなら安心なんだけど。



「う~ん、よく寝たわ。今日は王宮に行く日だし気合い入れていかないと」

「そうですね。お二人を起こしてまいります」

「ええ、頼むわ」

 寝起きに側にいることも特に疑問に思うことなく、二人を起こしに行ってもらう。正直なところ手間が省けていいのよね。

「おきました~」

「お待たせいたしました。しかし、イリス様は朝が早いのですね」

「昨日の情報で大事なものは朝一番に来るからね。この後、何もないならちょっと寝てもいいし、早めに起きるようにしているの」

「素晴らしい行いです! 私も見習います」

「でも、二度寝してるって邸のみんなに知られるっていうこともあるからいいだけじゃないけど」

「それでも、実践なさるということが素晴らしいですわ」

「それよりエマたちも早く着替えなさい。すぐに王宮へ向かうんだから」

「まだ、時間には早いのでは?」

「新しく襲名するといっても所詮子爵よ。高位貴族より遅く来て、侯爵令嬢の気分が抜けないの? とか言われるからね」

「では、準備をしませんといけませんわね。お嬢様は蒼いドレス。ケイト様は真紅のドレスですね。着付けは二人で全力で行いますので」

 こうして私たちは二人に着つけられ準備を終えた。

「後はネックレスですが、ケイト様のはこちらですわ」

「それは?」

「これは侯爵家夫人が代々つけているものよ。あなたがつけるべきものなの」

「よ、よろしいのでしょうか?」

「いいからはいっと」

 ケイトの首にネックレスをかけてやる。これで、準備万端、王宮へ向かう。お母様も見守っててよね。



「はぁ~、早く来たとは思ったけどやっぱり疲れるわ」

「さっきから挨拶ばかりですものね」

「ケイト様も私がエルマンの家に入るものだからこうして挨拶してもらってますけれど、場所が王宮でよかったですわ。これがパーティーになっていれば各家の夫人が出てきて大慌てになるところです」

「全くですね。まさかここにはテレサもエマも入れないとは」

「爵位を持たないものはここには入れません。だから爵位の一つもあげたかったんだけど……」

「感謝しておられるのですか?」

「バカなこといわないでよね。連れ回すのに一番楽でいいからよ」

「おや、レイバン侯爵令嬢久しぶりですね」

「アーダン伯爵久しぶりですわ。学園以来でしょうか?」

「ええ、あの頃から努力家と思っていましたが、まさか当主になられるとは。おめでとうございます」

「ありがとうございます。領地も近いので何かあったらお願いしますわ」

「こちらこそ痩せた土地も多いので、お聞きしたいことがあれば訪問致します。今後はよろしくお願いします」

「分かりました。すぐにでもこちらも領地を見聞いたします」

「ではまた」

「かっこいい方でしたね」

「ま、まあね。なかなかの好青年よ。ただ、器用さがなくてちょっとだけ残念なのよね」

「にしても割とフレンドリーでしたね」

「初めて学園で振られた方ですからね」

「えっ!?」

「あの頃は若かったからちょっと強めに迫ったりもしたし、それをばらさないありがたい方よ」

「そ、そうですか……」

 挨拶も一通り済んだところで、私はふぅと一息つき一旦後ろの控室へ下がる。ケイトも一緒に下がりちょっとだけメイクを直す。ここではきちんとした格好をしないとね。

「しかし、お嬢様。時間がかかりましたね。もう少し早く戻られるかと」

「本当に人が多いのよ。さて、じゃあ行ってくるわね」

「行ってらっしゃいませ」

 もう一度広間に戻って列に加わる。私は本来後ろの方でケイトが前の方だけど、今日は私の新子爵就任への祝いを兼ねているので、席は特別に前だ。

「それでは今日集まってもらった件であるが、……諸侯も知っておる通りエルマン子爵領の生産高は年々下がっている。このまま、あの領地を任せてよいものかとわしは思っておる。一先ずは近年の結果から領地の一部を切り取り再建に奮起してもらうとする。また、次代の領主にはここにいるレイバン侯爵の娘のイリスを当てようと思う」

「では陛下、エルマン子爵の息子はどうなるので?」

「うむ、イリスと婚姻関係を結ぶ。彼が当主では民がついてこぬだろう。それならば王家の血も入った彼女こそ新領主にふさわしいと思ったのだ。また、我が国でも女領主は珍しいことである。それにふさわしい名前をと思い、ここに『カーナヴォン子爵』を名乗ることを許そう。これによりエルマン子爵家は当代限りとする!」

「「はは~」」

 何事もなく貴族が皆ひれ伏した。この瞬間、私は王都ではイリス=カーナヴォン次期子爵家当主となった。それにしてもあの肥沃な土地のことで異論が出ないなんて、どれだけ嫌われてるのよ、あのおっさん。


    
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