後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】

弓立歩

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 宿に帰って昼食を取る。それからしばらくすると予想通り一通の手紙が届いた。

「中身は?」

「陛下からです。明日の朝にでも王宮に来るようにと」

「あなた達も聞いたわね。無様な姿では出られないわよ! 気合い入れていかないと」

「で、でも、王宮といっても個人的に会われるだけなんですよね?」

「そうよ。でも、その場所に行くまでには数多くの貴族令嬢や官僚たちに値踏みされるのよ。むしろ、そういう目にさらされる分、しっかりしないと。陛下に会うとなれば奥へ行くことになるわけだから」

「聞けば聞くほど侯爵家ってすごいのですね」

「まあ、伯爵家でも貧乏なところもあるしピンキリよ。うちは土地も広くはないし、経済的な意味でいえばしょぼいしね。軍事力や統率力を代々当主が持っているだけの貴族よ」

「でも、逆に経済力が大きくない家で重要視されているのはすごいのではないですか?」

「いい質問ねエマ。まあ、侯爵様も統率と掌握についてはなかなか優れていたらしいわ。自分が一切前に出ずとも勝つところは指揮官として優秀でしょうね」

「そうだったのですね」

「さあ、それよりドレスと歩く順番の打ち合わせでもしましょう。今日は目立つために先頭を歩いてもらったけど、明日は私が先頭を歩くわ。あなただと王宮の中を知らないから出来ないでしょうし。後、私は中央を外して歩くからあなたは絶対に中央を歩きなさい!」

「どうしてですか?」

「私はあくまであなたを案内する立場として先頭を歩くの。左に私が先導役として歩いて、右側をテレサ。後ろにはエマがついてもらうわ。その上であなたが中央を堂々と歩けば、貴族たちにも力関係がはっきり分かるでしょう」

「そこまでする必要があるんでしょうか?」

「大ありよ。ちょっと爵位の高い家に嫁いだからって偉そうにするなっていう馬鹿を、コテンパンにする必要があるの。あなたは私がいない時にそういうことが出来そうにないし、ここで一度態度を示してしまえば、きっと後が楽よ。交渉の時も流石は私を退けただけのことはあるって言われるようになるわよ」

「本当ですか! 私って交渉事とか絶対できないと思うので助かります」

「自慢げに言わないでよね……」

 明日の準備もあるしそれぞれが打ち合わせをする。エマとテレサは服の合わせについて。私とケイトは姿勢についてと真っ直ぐに歩く練習だ。

「いい? どんなに真っすぐ歩けても姿勢が悪いと意味はないし、逆もそうよ。きちんと歩けるようになるまで練習しなさい!」

「はい!」

 付け焼刃と分かっていても、できる限りのことはしないと。今後は私が王宮に上がるのは難しいでしょうし、テレサだってついてはいけないしね。

「さあ、さっきの姿勢のまま今度はまっすぐ歩きなさい。そうそう、これも持ちなさい。実際のドレスはこれ以上に重いわよ」

「ええっ! そんな~」

「その言葉遣いも禁止よ! シャンとしなさい」

「はいぃ」

 その日はちょっと遅くまでみんな起きて、明日のために準備が続いた。あの子たちちゃんと起きれるのかしら?


「お嬢様、朝でございます」

「ん、テレサ。昨日頑張ったからね。久しぶりに起こされたわ」

「いえ、お嬢様は素晴らしいですよ。一度のお声がけで起きられたのですから」

 後ろを見るとケイトとエマはばつが悪そうにしている。きっと、何度も起こされてようやく起きてきたのだろう。ケイトはまだ眠そうに眼をこすっている。

「仕方のない子たちね。ほら、朝食食べていくわよ」

 簡単に朝食を済ませ馬車で王宮へと向かう。この時間は働きに来る人とも出会うことになるから気が抜けない。

「本当にこんな豪華なドレスで行くんですか?」

「豪華? まあ平均的かしら」

「この生地とこの刺繍で平均的なんですね……。侯爵家ってすごいです」

「それよりも馬車を降りたらそんな感じじゃいけないわよ。よろしく頼むわよ」

「はい!」

 そのまま王宮内の馬車止め場で私が先に降りて先導し、王宮へと向かう。私のことを知っている人もいるみたいで、ちょっと驚いている様だ。まあ、私が卒業後は殆ど王都に来てないのは有名な話だからね。

「さあ、ケイト様。手をお取りになって」

「はい、よろしくイリス」

 やらせておいて何だけど様になっているのがやっぱりちょっとむかつくわね。そのまま私が先導して王宮を進んでいく。

「あら、どなたかと思えばイリス様ではないですか。今日はどのようなご用件で? 領地にこもられていると聞きましたが?」

「今日は我が家の新しい侯爵夫人様を案内中ですの。彼女が陛下に呼ばれておりますのでご理解を……」

 こんな口先だけのいけ好かない元令嬢に足止めを喰らうなんて許せないわ。さっさと通り抜けましょう。

「あら、そうですの? しかし、少しばかりであればよろしいのではなくて?」

「イリスに久しぶりに会われたのでしょう。積もる話もあるかと思いますが、侯爵家として陛下に挨拶をするのが先ですので……」

 ナイス、ケイト!

「くっ、成り上がり者が……」

「では、ケイト様。行きましょう」

 私はケイト様にだけ頭を下げて先へ進んでいく。うちの家より爵位も低いあいつなんかに下げる頭は持ち合わせていないわ。そのまま進むと騎士に止められる。彼らの仕事は今日の取次予定に私たちの来訪が入っているかどうかだ。

「ご予定ですね。……確かにレイバン侯爵令嬢様とレイバン侯爵夫人様のご訪問はうかがっています。お通りください」

 連絡も問題なく言っているようなので通った後に彼らに注意をして通り過ぎる。

「ああ、一つだけ注意しておきますが、優先されるべきはケイト様であって私ではありません。次回より呼び間違いのないように……」

「はっ、はっ!」

 よしよし、彼らは私が苛烈な性格なのを知っているから、その私がケイトの扱いに言及したことでケイトもそういう人物だと思われることだろう。

「さあ、もうすぐ到着よ」

「はい」

 そして少し歩くとそこにはなぜか、宰相様が立っていた。

「あら、宰相様お疲れ様です。今日はどうしてこちらに?」

「陛下よりあの土地を生かすための名案が出るかもしれないと聞いて来たんだ」

「まあ、名案かと言われれば、私にとっては名案ですが……」

「では私も付いていくのでよろしく」

「よ、よ、よろしくお願いします」

「緊張しちゃったか……まあ、陛下は心構えが出来てたからね」

 フリーズしたケイトをエマとテレサに運ばせて、今日の会談の場所まで連れて行かせる。

「失礼いたします」

「おお、待っておったぞイリス。久しぶりだな。お前は呼びでもせんと全く来ぬからな」

「申し訳ございません。王都にはあまりいい思い出もありませんので」

「それに関しては、親の代がつまらぬことをして苦労しているようだな。して、その後ろのものは?」

「新しく我がレイバン侯爵夫人となったケイト様ですわ。宰相様のおかげで気絶しておりますけど」

「いえ、まさかそこまでびっくりされるとは思わなかったもので……」

「お嬢様はこれまで高位貴族とは一切出会われなかったので、余計に緊張されたのでしょう」

「はっ! ここは?」

「ケイト、目が覚めた? もう陛下との会談中よ。シャンとしなさい!」

「は、はい! イリス様」

「ふむ、思ったより仲がよさそうで何よりだ」

「どこをどう見てですか?」

「いやいや、無理やりに今回の話しをさせたのかと思ったが、きちんと話し合っているようで安心した。わしもあまり過激な手段をとっては貴族の反感を買うのでな」

「その点は大丈夫だと思います。では、その話しに移りましょう」

 みんな一斉に目が真剣になる。こういう切り替えの早さが有能な人物であるところだろう。

「ではまずはエルマン子爵領についてですが、その名ですでに他国からも嫌われている状態です。まずはこれを緩和するために、私と現領主の息子の婚姻を発表し、私が当代のみ子爵家を継ぎます」

「だが、子爵家を継いだところで民衆も貴族の対応も全く変わらないでしょうし、悪化した収支は?」

「そこです宰相様。エルマン領の負債部門がありますよね。以前であれば大量の穀倉地による収入によって賄えていたところです。これを、近年の収入の低下により罰として国に没収してもらうのです。あの土地が不毛なんて情報は、よっぽど各領について知見がないと知らない情報ですから、うまくいくでしょう。収支はそれで改善させそのあと私がエルマン子爵領を継ぐ時に、国でも珍しい女性領主且つ遠縁ながら王族の血が流れていることを利用し、新しい家名に変えるのです」

「家名をか……貴族にとって家の名こそが全てだがよいのか?」

「私にとって侯爵様の行いと家名がなければ、とっくの昔に結婚できていたでしょう。ケイトやその兄も同じく、あの家名がなければもしかしたら、もっと問題は簡潔になったかもしれません。今日において家名にこだわることは不要だと思っております」

「そなたもかケイトとやら?」

「は、はい。私の領は今も生産量が減っております。活気もなく、私たち領主の家族に信頼を寄せるものもおりません。新たな家名をイリス様に頂けるのでしたらそれが一番だと思います」

「私も宰相として異論はありません。あの領地の生産の減り方はどうにかしないといけません。次に同じような凶作に見舞われた場合、食料自体が不足して各国から買い付けなければいけません」

「だが、領主はそのままになってしまうのだろう? イリスの就任までは長いのではないのか。息子にも継がせる気がないと聞いたが?」

「その話しでしたら、今は穀倉地の倉庫を置いている町に代官を置いておりますので、領主業自体を代行させて隠居してはどうかと話をしております。きちんと邸も新しいのを侯爵家で建てますし、代官もこちらの息のかかったものを派遣いたしますわ」

「それでは侯爵家から大量に資金が流入し、返済が大変になるのでは?」

「うちの侯爵様の評判は悪いですが、エルマン子爵領の評判は最悪です。資金に関してもそのエルマンとの手切れ金という形で、兄とも話がついていますので」

「まあ、そうであればよいが」

「なので、家名を新しく頂いた後には子爵家のお二人には合意の上で引退してもらいます。ただ、その先の改革に関してはちょっとだけお力を貸して頂けたらと」

「ちょっとだけか。お前のちょっとは色々だからのう。申してみよ」

「はい、王家ゆかりの商会か公爵家の商会をできれば二つほど貸して頂きたいのです」

「子爵の商会強化にか?それは流石にあからさまだろう」

「いいえ、子爵領の商会を一旦全てつぶす勢いでやって欲しいのです。その後に商会のない領地経営はやり辛いだろうからと、協力して頂いた商会の商会員を、一部こちらに寄越して貰えればと思います」

「良いのですか? 健全に経営している商会もあるでしょうに?」

「宰相様。ろくでもないところが多すぎて今から仕訳は出来ませんわ。それなら一切合切つぶしてしまえばよいのです。つぶすときの書類整理で簡単にそういうのは分かりますし」

「相変わらずイリス様の言うことは他の者とは違いますな。これなら、思っているより早いうちに持ち直せるかもしれません」

「ちなみに陛下や宰相はどのぐらいでの再建を?」

「十年から二十年を想定していた。どの貴族も乗り気でない上に肝心の領主が非協力的だからな」

「ではそのように進めていきますので、新家名をお願いします」

「発表はどうする?」

「先に王都で発表だけしてしまって、領地でサインをもらった後に執行という形でよろしいかと。別途、襲名後は手紙で各貴族へお知らせします」

「うむ。わかった」

 それで領地の話しは終わり、後は簡単なお茶会へ移行した。

「どうかしたケイト?」

「いいえ、イリス様は本当にすごい方なんだなって……」

「私ぐらいのことなら誰でも出来るわ。まあこの地位に甘んじているような輩には出来ないでしょうけどね!」

「そうだのう。努力して初めて出来るようになることばかりだからな、イリスの実績は。だがそれを考案して、やろうと思うこと自体はイリスの才能だと思っておる。実際にこの意見を想像したものはいるかもしれないが、話しを持ってきたのはイリスだけだからな」

「あらおじさま、そんなに褒めても今回のことは自分のことだからですわ」

「しかし、お前がエルマン子爵領に行くようになるとはな。この話しを聞いていなければ、王命で新しく婚約者を作ってでも反対したわ」

「そこまで陛下はお嫌いで……」

「あたりまえよ! あのつまらぬ行いのせいで被害がどれほど膨らんだか! おまけに生産量の低下で諸外国への輸出も減っておるというのに……」

「あら、そこまでは私も把握しておりませんでしたわ。すぐにでも戻せるように精進します」

「うむ、頼んだぞ」

 こうして会談は終わり、明日また貴族に新家名のお披露目をするということで今日はお開きになった。


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