妹を想いながら転生したら

弓立歩

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本編

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「炎の火球よ敵を焼け」

放たれた火球はこちらに気づいていないオークへと命中し、その皮膚を焦がし呼吸を奪う。

「いまよ!」

そう告げると先程とは別の人物がやや長めの剣を構えて向かって行く。さらに、私のすぐ横を矢が通り抜け別のオークの棍棒を持った腕へと突き刺さる。

「グァァア」

痛みで棍棒を落としたオークへと体格の良い男が槍を携えて距離を詰める。勝敗は決した。戦いが終わりさあ素材回収というところで後ろからトテトテと足音が聞こえる。

「待ってください~ティア~」

声のした方に顔を向けるとこちらを確認できたのか、ローブ姿で手にはスタッフ、背中にリュックを背負った少女が駆けてくる。まあ、彼女は足が遅いので見た目には早足程度なのだが。

「エミリー、走ると危ないからゆっくり来なさい」

彼女を気づかって言ったものの遅かったようだ。

「大丈夫だよ゛っ」

結局、後少しというところで転けてしまった。ここが街道ではなく草原であることに感謝だ。

「大丈夫?」

「いたいよ~」

「じゃあ直ぐに治癒魔法かけなさい。素材回収手伝うわよ」

「う~、わかった」

そう言うと彼女は治癒魔法を唱え始めたので、私は素材回収を行っている皆のところへ合流した。

「ごめんなさい、遅くなってしまって」

先に処理をしている仲間に声をかけ作業に加わる。とはいっても今回はオーク2体のみ。取れるものといっても牙と肉くらいだ。まあ、肉は2体でも結構な量になるので感謝感謝。

「ん、これ小さいけど魔石か?」

「カークス見せて」

カークスから石を受けとるとまじまじと見る。確かに小さいけれど魔石のようだ。しかも、オークから出たものにしては質が良すぎる。最近、この辺りで荷馬車が襲われてないか後で確認しよう。

「確かにこれ魔石みたいね。ただ、質の良い物だからオークの物ではないみたい。後で調べておくわ」

ポケットに魔石を仕舞いながら答え作業を続ける。作業中に話をして今日の狩りはここまでということになったので、後は帰るだけだ。そう思って立ち上がるとカークスから声をかけられた。

「さっきの火球もう少しどうにかならないか、牙に煤がついて売値に響きかねない」

いきなり何を言うかと思えばもっと敵を気づかいながら戦えとは。そもそもこのオーク討伐依頼も戦い方のバリエーションを増やす目的で素材回収は二の次だったはずだ。そう思うとイライラしてきた。

「お言葉ですけど、前回氷魔法使った時には肉が悪くなると言われて仕方なく、今回は苦手な火属性の下位魔法で呼吸を奪う程度に加減して放ったの。嫌なら自分で対応してもらえます?大体、素材ばかり気にして怪我や物品破損になる方が痛手でしょう」

「まあまあ二人とも落ち着いて」

先程オークに弓を放った男、キルドが割って入る。キルドのお陰で落ち着いた私はエミリーや皆と街へ帰る。帰り道に槍を使っていた男、フォルトが声をかけてきた。

「しかし、カークスも何でティアにだけ突っかかるのか」

「確かにエミリーには普通よね。まあ、会った頃はそんなでもなかったのだけれど」

「あれ~そうだったっけ?」

「エミリーは覚えてないでしょうけど、合同パーティーを組んだ初めての討伐依頼からよ多分」

確かにそれまでは特になにもなかったはずなのだ。その依頼も簡単なもので邪険にされる理由が全くわからない。昔ちょっとやっていたRPGとは違って、実は最初から敵だったとか次第に嫉妬心が積もってということではない。何より勇者パーティーでも何でもないのだから、ますます謎は深まっていく。今では全員仲良くなんて無理かなと思うように勤めている。


その後は、他愛ない話をしながら街へと進む。改めてパーティーの皆を見てみる。私の所属するパーティーは『黒龍』。大層な名前だが名付け親のキルド曰く、リーダーの髪の色とドラゴンのように強くなれればということらしい。後者はともかく、前者に至ってはなんという安直さ。まあ、後者もなれればって、願望なのかと由来を聞いたことを後悔したものだ。

リーダーはさっき私に嫌みを言ってきたカークス。黒髪に紺色の目、髪は肩ぐらい迄の美青年だ。大剣?というのかやや太めで長い剣と魔法を使う。まあ、私は魔法使ってるところ見たこと無いけど。

次は偵察兼後衛のキルド。茶色の髪で肩までとはいかないけれど短めの髪に茶色の目。弓と短剣が得意で細身で身軽、加えて顔も良い。愛想も良いので評判はカークスよりもいいようだ。そのお陰か時たま割りの良い仕事を取ってきてくれる事もある。

三人目はフォルト。グレーの髪でさっぱりとした髪型に紅い目。がっちりした体躯に似合わず割と気さくだ。ただ、長身で目付きもちょっとキツいので普段は真面目な振りをしている。この方が女性受けが良いのだそうだ。多分パーティー内では年長者だろう。

四人目はエミリー。銀髪・ツインテールで緑の目。私と同じ王立冒険者学校出身だ。父親から暴力を受けていて母親が全寮制の学校へ逃がすように入れられたのだ。治癒適性は主に水・地・光属性の適性者に多く現れるが、彼女は水・光の二属性持ちだ。火傷や精神的なものも癒すことができ、かなりレアな存在なのである。

最後は私、ティア。青い髪に青い目。髪は腰まであるけど普段はポニーテールにしている。両親は王都で雑貨屋を営んでいて、得意な魔法は風・光・闇で剣もそこそこ使えると自負している。

このパーティーに入る前はエミリーと二人パーティーだった。流石に魔法使いとヒーラーだけではやっていけず、『黒龍』に入れてもらったという訳だ。あの時は男嫌いになりかけていたエミリーの説得が大変だった。泣くは喚くはで宿から叩き出されたこともあった。懐かしい思い出だ。そんなことを考えていると街に着いた。


「黒龍の皆さんですね、無事で何よりです」

「カインさん昨日ぶりです~、これお土産~」

「ああ、今回はオーク討伐でしたか、有り難く頂きます」

門番のカインにエミリーがお土産と称してオーク肉を渡す。かわいい子に貰って頬を染めるカインだが、残念なことにただのweight調整だからそれ。エミリーは治癒と一部の魔法以外は料理しかほぼできない。それぐらい極振りなのでたまにああやって持ち物を軽くしようとするのだ。そのお陰で覚えめでたく、門の通り抜けがスムーズなのだが。

冒険者といっても玉石混淆でろくでもないものもいる。なので、抜き打ちの持ち物検査があるのだが、たまの抜き打ち検査も私たちは受けたことがない。これは間違いなくエミリーの功績だろう。

「しかし、今日がカインの日で良かった。バルガスのおっさんならエミリーが気絶するところだった」

「キルドさん、わたし何回も気絶しませんよ~」

「まあ、あの方は古参兵というか存在感が在るからな」

「エミリーも男性に慣れないといけないとはいえ、確かにあの方は私でも難易度が高いですね」

「おい、話はそこまでだ、ギルドに着いたぞ」

ギルドは今日も盛況のようだ。受付も併設の酒場も人がパタパタと動き廻っている。

「『黒龍』オーク討伐完了だ。昨日と合わせて合計6体」

「少々お待ち下さい。えーと、ギルドカード確認しました。それでは素材はいつも通りこちらで買い取りでよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。それと合計額の処理もいつも通りで頼む。」

「わかりました。では完了しましたらお呼びします。個人カードもその時にお願いします」

「では奥で待たせてもらう」

皆もカークスの後に続いて酒場の方へ向かう。これもいつも通り、キルドとフォルトがエール。カークスとエミリーと私はジュースだ。カークスは知らないが私とエミリーは酒に弱いので滅多に口にしない。

「カークス、これでいま受けてる依頼は片付いたが明日からはどうする?」

「フォルト、まだ帰って来たばかりだろう。ゆっくりしないのか?」

「でも、フォルトの言う事も一理あるわね。今回の依頼はそんなに実入りが良いものではないし、掲示板位は見ておいても良いかもね」

「お前はどうだエミリー?今日の明日で行けるか?」

「ん~、大丈夫だよ。今日もまだ平気だったし」

「そうか、ならティアの言う通り良さそうなものがあれば明日、なければ明後日以降にしよう」

「俺の意見は…」

「キルドの意見も尊重して良い依頼がなければだ。ないことを期待しておくんだな」

「『黒龍』の皆さん終わりましたよ~」

計算が終わったみたいなので、飲み物を片付けて受付へと向かう。

「依頼料が小金貨2枚、素材買い取りが小金貨4枚です。では個人カードをお願いします」

順番にカードを受付に渡す。カードはギルドカードと個人カードの二種類あり、ギルドカードはパーティーとしての情報を管理している。パーティー名や所属名簿はもちろんのこと、入脱退記録やパーティーとしての功罪などが記録されている。

個人カードは本人のステータスに加え、パーティーへの入脱退記録さらに事由、個人の功罪などが記載されている。
ただし、誰にでも見られるわけでもなく、多くの情報は個人やギルド員、各ギルド支部の専用機でのみ開示可能だ。この仕組みを考えた人物は凄いと感心したが、元々は発掘物で恐らく神代の物らしい。感心して損した気分である。

また、個人カードやギルドカードには口座管理機能もあり、多くの冒険者はこのカードに報酬をいれる。こうしておけば各国のギルド支部でお金の出し入れができるのだ。とはいえどこにでも支部があるわけではないので、ご利用は計画的に。

ちなみに『黒龍』では報酬は必ず六等分だ。遠征時の食費と武具代の一部はギルドカードから、それ以外は個人だ。
宿泊費は?と思うかもしれないが、そこは男女混合パーティー。個人部屋がいい、今日は用事があるので別でと個人の事情を勘案して以前からこうなっているんだそうだ。

私とエミリーはこのギルドに入れて本当に良かったと思う。変に色目を使ってこないし、報酬がきちんと分けられる。ヒーラーについては依頼によって怪我をしない時などはほとんど渡さないパーティーもいるという。エミリーの性格から強く言わないだろうし揉め事も減って大助かりだ。

「では、依頼完了だ。今日はここで解散とする。明日以降の予定については夕食時に話すので、宿を変える場合でも顔を見せるように」

「ティアはどうするの~」

「ちょっと調べものがあるから実家へ行ってくるわ。エミリーは?」

「買い物しながら待ってる~」

「じゃあ、噴水広場で合流しましょう。後、キルド。エミリーに付いててもらえる?」

「ああ、明日の予定も決まってないからいいよ」

「ありがとう、行ってくるわ」

そして、ギルドを後に実家へと向かう。こっそりキルドに銅貨6枚を渡して。少ないけれど護衛依頼料という事で。親しき仲にも礼儀あり、パフェのひとつでも買える位は渡さないと。エミリーは迷子になることもあり一人にしておくのは心配なのだ。かといってあまり行動に制限をかけたくないので、一番早く打ち解けたキルドに頼むのである。

「いらっしゃいませ。あら、ティア久しぶりね」

「ただいま、母さん。お婆様は?」

「いつも通り、二階にいるわ」

勝手知ったる我が家の階段を登り、二階へ上がる。

「お婆様居ますか?」

「ティア久しぶりねぇ。どうしたの慌てて」

「急でごめんなさい、この魔石を見て欲しいの」

「どれどれ、ふ~む。中々の純度だね。このサイズでもかなりの額になるだろね」

「やっぱり…実はこの魔石はオークから出てきたの」

「オークから?でもオークからは出ないね。オークとこの魔石じゃあ格が釣り合わない。きっと別に持ち主が居たんだろうねぇ」

「そうなの…ありがとうお婆様」

「用事はそれだけなのかい」

「今日はそれだけ、友達が待ってるからもう行くね」

「ああ、またいつでもおいで」

「じゃあ、母さん行ってきます。父さんとお爺様にもよろしくね」

台所にオーク肉のお土産をおきながらそう言って家を出た。目指すは噴水広場。エミリー大丈夫かな?


「ねぇ、お兄さん。妹さん疲れてるみたいだし、ここで休んで貰ってあっちへいかない?」

「いや、妹じゃないし待ち合わせているのがまだいるので」

「どうせ直ぐに来ないでしょう。少しで良いからぁ」

あ、うわぁそうか迂闊だった。噴水広場ならこうなるよね。王都一の待ち合わせスポットだもんね。今日は帰りも早かったからまだ人が多い時間だった。キルドはカッコいい上に話しかけやすいからなあ。直ぐにエミリーと合流しないと。

「あ、あのキルドさんとは…一緒に人を待ってるんです」

キルドの服の端をつかみながらエミリーが必死に女性と戦っている。私が一緒にいてと言ったから頑張っているのか、別の理由からかはてさて。

「あら、あなた妹でも何でもないんでしょ。邪魔しないで」

エミリーが服の端を持っていた手を女が払いのける。

「なにをし…」

「私の妹になにか?」

エミリーは妹ではないけれど『妹』みたいなものだ。出会った時からそう思ってきたし、今もそうだ。大事な妹に手を出す奴は許さない。

「あなたがこの子の姉?えらく似てないようだけど」

「貴方には関係ありません。用がないならさっさとどこかへ行きなさい」

ギラリと女を睨み付けると怯んで立ち去っていった。

「お姉ちゃん~」

「お~よしよし。オバサン怖かったね」

エミリーの頭を撫でながら声をかけてやる。冒険者になったとはいえまだまだ少女なのだ。温かく見守ってやらねば。

「でも、ティアと私同い年だよね?」

「エミリー、姉妹・兄妹に年齢は関係ないの。双子だってそうでしょ?」

「そっか~、そうだね。うん、わかった」

ニヤリと笑いながらキルドの方を向く。どうだ羨ましいだろうと。

「あそこは僕の見せ場じゃないかと思うんだけどな」

「甘いわね。私の目の青い内は誰にも渡さないわ…フフフ」

「目の色なんて変わらないだろうに。また、おかしな言葉仕入れてきて」

ここは前の世界と違うだけあって言い回しも通じないことが多いのよね。いくつかは仲間内で説明したけれどこういう細かいところが不便ね。

「それよりエミリー、見たいものまだある?」

「ん~もう良いかな。キルドにも案内して貰って大体見終えたから」

「そう、なら宿に帰りましょうか。キルドもありがとう」

「いえいえ、お姫様の護衛ならいつでもお受けいたします。」

「お姉ちゃんは?」

「お嬢様はご遠慮いたします。守りがいがありませんので」

「失礼な、帰りましょうかエミリー」

宿に向かって帰る私の後にトテトテとついてくるエミリーは本当に妹のようで嬉しくて悲しくて泣きそうになる。そしてなぜか、キルドもついてきてる。

「今日のお仕事は終わりよキルド?」

「気が向いたので今日は宿までと思って」

「じゃあこっち繋ご~」

そう言ってエミリーは私と繋いでない左手をキルドと繋いで帰る。ああ本当に彼らと会えて良かった。そう想いながら私たちは宿へと向かった。まだ、旅は始まったばかりだ。
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