妹を想いながら転生したら

弓立歩

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本編

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ティアが戻って来たと思ったら、その横にはハーピーの少女が掴まっていた。状況から察するにさっきの悲鳴はこのハーピーの声らしい。モンスターを討伐にきてモンスターを助けるとはどういったことだろう。頭を抱えたくなるのを抑えつつ近寄る。

「しかも、飛竜の幼体を連れてくるとはな…」

「いずれ戦うんだ。早いか遅いかの違いだし。それに幸運かもしれない。1体だけと数は分かっているからな」

つぶやいたのがフォルトには聞こえていたらしい。彼の言う事にも一理あると気持ちを切り替える。ティアがハーピーをエミリーに任せて戻ってきた。

「相手は本当に1体だけなのか」

「2体いたけど、1体は運よく仕留めたわ。でも、気を付けて。やっぱり幼体といえどうろこは堅いわ。だけど、隙間に剣を入れられれば対応も可能よ」

「流石というべきだなカークス。先行したのはよくないが、実際に対応したとあっては中々怒れないな」

「それとは別の話だ。それよりこの機会に俺たちも実際に対応してみたい。予定通り風の魔法を俺たちにかけてくれ。後は必要があれば援護のみで頼む」

「了解よ、大丈夫とは思うけど気を付けて。風よ、かの者たちに翼の加護を」

私は2人に風の補助魔法をかける。

「これで飛べると思うけど、あまり練習もしていないのだから注意して。できるだけ飛ぶより避けるときに使うといいわ」

「ギャオォォ」

とうとう飛竜との対面だ。感情が高ぶってくるのがわかる。ティアは1体仕留めたと言っていた。双子か何かだったのだろうか怒り猛っているのが判る。

「フォルト、左右に分かれる。俺が左だ」

「了解した」

飛竜の突撃に合わせて左右に分かれる。早い、そしてわざと剣先を飛竜の体と接触させてみる。

キィン

甲高い金属音とともに剣に振動が伝わる。飛竜の方はそんなことお構いなしに突っ込んで来る。確かにこれでは剣でうろこを傷つけるのは至難の業だろう。

「第2弾来る!」

考えていたらフォルトから檄が飛ぶ。旋回の速度自体はそこまでではないが、突撃を避けても都合よく攻撃する瞬間はほぼないだろう。フォルトも同じことを考えているのか、何とかすれ違いざまに一撃を入れようと少しだけ俺との距離を空ける。確かにフォルトの槍なら剣ほどギリギリでなくとも行けるかもしれない。俺は頷くと2回目の突撃に備える。

「来た、今だフォルト!」

俺はぎりぎりのところ、フォルトはそれより半歩外側で避け、過ぎ去る飛竜のしっぽの付け根部分辺りを狙って突きを繰り出す。

ギィン

鈍い金属音がして槍が弾かれる。うろこの付け根に当たったようで、わずかに狙いとずれていたようだ。

「これは至難の業だな。カークスやれそうか?」

「正直、あまり自信はないが…。こいつが幼体というならここで対応しないと成体が出てきた日には終わりだな」

「じゃあ、次は任せるぞ。都合のいいことにさっきの一撃でこっちに意識が向いたようだ。回避に専念するから頼む」

「了解した」

「グヮァオ」

「馬鹿の一つ覚えのように突撃ばかりで。これでもくらえ!」

フォルトが見事な槍さばきで地上すれすれを突撃してくる飛竜の頭を越え、ひらりと突撃をかわす。俺はその飛竜の翼と胴体の付け根部分を狙って左後ろから突きを繰り出す。

ズブッ

刺さった!そう思ったが飛竜は勢いを保ち、剣はすぐに抜けてしまった。

「これは…攻めやすいところはそれなりの成果だな」

「カークス。これは危険だが正面か上下どちらかを取って攻撃するしかなさそうだ。」

「問題はどちらがそれをやるかだが…」

「幸いこの飛竜は小さい。どちらの武器でもうろこの間を通す事さえできれば致命傷になるだろう。私が避ける方に回る」

「頼めるか?後は一時的に身を隠せるようなところだが…」

「ギャオォォ」

私は後ろから2人の戦いを見守っていた。2人が相談している間にも突撃は来る。最初の突撃の時だろうか、フォルトの鎧も少し傷がついているように見える。しかし、まだ手を出すわけにはいかない。依頼は3体から…まだ最低でも1体。その時は成体もいるかもしれないのだ。今後を考えてもこの機会に2人に経験を積んでもらわないと、この先の冒険を続けられなくなるだろう。

「フォルト。俺はあの木の上にいる。次の突撃の時に仕掛ける」

「分かった。なるべくこちらに注意が行くようにする」

俺はティアにかけてもらった風魔法の力を借り木の上に飛ぶ。なるほど確かにこれなら飛竜の上から容易に攻撃できる。後はタイミングだけだが、飛竜が突撃の動作を取った。この飛竜はよほど戦闘の経験が浅いのだろう。突撃を執拗に仕掛けることといい、先ほどからの動作の癖といい動きが非常に単調だ。このチャンスを逃すまい、そう思って剣を構えなおす。

「飛竜よ!お前の相手はこっちだ!」

槍を掲げ飛竜の注意を惹く。正面から相対すると幼体とはいえ6メートル近くある。その体躯をもって突撃してくるのだ、緊張が体に走る。この一撃をいかに躱すか。自分が避けるだけではいけない。カークスにとどめの一撃ができるように避けなければ。その時、ふと飛竜の頭が下がることに気が付いた。癖か頭を守る動作かまではわからないがあれを使えないか…。

「やるか。仲間を守るために」

再び飛竜が私に向かって突撃してくる。狙うはその頭。頭といってもまるで鋼鉄だ、槍が刺さるわけではない。私は槍の穂先を持ち手の方に持ってきて構える。

「今だ!」

「ギャオォォ」

飛竜の巨体が眼前に迫った瞬間、私は飛び上がり槍の棒先を頭へ突き出す。当然のようにそれは弾かれ衝撃が返ってくる。
その衝撃とティアにかけてもらった風の加護で飛竜と同じ方向へ跳ぶ。飛竜とすれ違ってしまっては上から狙いをつけるカークスに交錯してしまう。
飛竜と同様もしくはそれ以上の速さで一瞬同じ方向に進めば、その一瞬に合わせてくれる。

「さすがはフォルト」

まさか、槍の穂先ではなく持ち手を使うとは思わなかった。だが、突撃の瞬間を見計らっていた俺にはその一瞬で十分だ。木から飛び降りるようにして飛竜の背を狙う。

「これで終わりだ!」

剣を振り下ろし突き刺そうとする。それを本能で察したのか必死で飛竜は体を捻ろうとする。このままでは翼が直撃する―。

「くっ、あがくな」

咄嗟に空へ少し舞い上がる。ぎりぎりで翼をかわし今度こそ反転した飛竜のその腹にあるうろこの隙間へと剣を突き刺した。

「ギャアオォォォ…」

飛竜の断末魔の叫びとともに戦いは終わった。ちょうど刺さった位置は心臓のところだったらしく、その後は反撃はなかった。

「大丈夫っ!」

ティアが慌てて駆け寄ってきた。最後の翼の一撃でよほど肝が冷えたようだ。まあ、俺もあれは自分をほめたいぐらい完璧な対応だった。しかし、これが幼体というのだから、成体のなんと恐ろしいことか。他のパーティーが依頼を受けないという事も頷ける。風魔法の加護があってこれだ。一概に魔法使いといっても加護を与える補助系が得意なものとそうでいないものがいる。他人にかけることができないものもいる中、今回は本当に助けられた。

「大丈夫だ、目立った傷は俺にはない」

「フォルトは?」

「私の方も大丈夫です。多少鎧は傷んだみたいですが。さすが飛竜ですね、接触した場合に鎧の方が傷つくとは」

「ん、それよりお前の方こそその左手は何だ?」

「ああ、これ?あの子が掴まっているときに爪でギュっとされちゃったみたいなの。大したことないわ」

「すぐにエミリーに見てもらった方がいい。跡が残るよ」

「先に治療を受けなかったのか?」

「飛竜の相手をする方が重要よ。片手があれば魔法は使えるわ。それにそんなこと気にしてくれる暇があるなら、飛竜が突撃してくるとき少しは後ろも気を付けてもらえる?」

「「あっ」」

珍しく俺とフォルトの声が重なる。二人とも飛竜と遭遇戦になったことに緊張していたのだろう。確かにフォーメーションでは2人が前衛、
ティアは中衛で様子を見ながら魔法で攻撃・補助・回避となっていた。飛竜の行動・生態をつかむことに必死で、後ろまで十分注意できなかった。

「すまん」

「すまない」

異口同音に謝るがそんな俺たちをしり目に彼女は微笑んだ。

「これで次からは緊張しないで済むわね。さあ、みんなのところへ戻りましょう。他の飛竜と出会う前にね」

「おいおい、連戦はさすがにきつい。だが、そうだなすぐ合流しよう」

戦闘のさなか巻き込まないように少し上で戦っていたため、すぐにみんなと合流するため私たちは坂を駆け降りる。


ティアと呼ばれたわたしを助けてくれた女性が男2人とともに飛竜と戦いに向かってすぐ、ローブを着た少女が話しかけてきた。

「ケガ大丈夫?痛くない?」

「痛いけど大丈夫。村にはやられちゃった人もいるから…」

うつむいてそういうと彼女は治癒魔法をかけてくれた。

「ごめんなさい…。今、治すから。水の精霊よ、かの者の傷を癒し賜え」

彼女が魔法を唱えると傷が癒えていくのがわかる。しかも、すごく早く治っている。高名な魔法使いなのだろうか?

「あ、ありがとう」

「どういたしましてだよ~」

「しかし、ティアもハーピーを助けるとはね」

軽装の男の人が話してくる。結構警戒されているようだ。わたしはモンスターらしいので当たり前だろうけど。でも、どうこうしようという気はないらしい。わたしを助けてくれたティアを信用しているようだ。

「さすがはティアだよね。種族を超えて助けるなんて」

「普通は問題ごとなんて抱えないものだけど」

「それはそうだけど、ちょっと安心したかな~」

「安心した?」

「わたしたちは冒険者の養成学校出身だからね。学校にいるときは結構まじめな子かなっていう子も、卒業してパーティーに入るとね、変わっちゃっている子も多いの。やっぱり、生きてくためだし分かるんだけど、ちょっと寂しいかなって。でも、ティアはきっと助けたかったんじゃなくて動いちゃったんだと思うの」

わたしの時みたいにね。そういう彼女はちょっと嬉しそうな悲しそうな顔をしていた。確かにティアは変わっているようだ。モンスターの私を助けてくれたし、手当をするようにこの少女に頼んでいた。わたしたちの世界では弱肉強食は当たり前だ。種族内では力を合わせるけれど、今回のように敵わないような相手の場合は危険を冒すことはしない。そんな中で異種族を助けるなんてことは誰もしなかった。

戦っているであろう先を見つめてみる。ここからではよく見えないが飛竜の姿が時々目に映る。とはいっても目が合うようなことはなく、翼の一部などが目に入る程度だ。ティアがこの場所について即座に安全な場所を確保したのだろう。時間がないから絶対安全ではないけれど、あの短時間で判断したのだとしたら彼女はリーダーなのだろうか?

「ねえ、ティアって子がこの中のリーダーなの?」

「ちがうよ~。さっき剣もってた人だよ」

「そうなんだ…」

わたしを助けてくれた勇者様はどうやらリーダーではないらしい。では、その剣を持っている人はどんな人なんだろう。彼女みたいな人だったらいいな。

「ところでエミリー?」

「ん、キルドどうしたの?」

「ちゃんと哨戒は続けてるだろうね。話しているのはいいけど、ここは敵地。他の個体が来ないとは限らないんだよ」

「あっ!」

「忘れてたみたいだね。こういう時にもし現れて向こうに行ったら大変だよ」

「気を付ける」

「まあ、今回はカークスも言ってたけど、周囲の警戒の仕方を見ながら意識するようにしてくれればいいよ」

「はい、注意します。じゃあ、え~と…」

少女が私に何か言いたそうだ。でも、何が言いたいのかよくわからないので何だと聞いてみる。

「あなたのお名前は?」

「わたし?わたしはカリン」

「カリンちゃんだね。わたしはエミリーだよ、よろしく~」

手を彼女は差し出してくる。しかし困った。わたしの手はかぎ爪状だ、さっきみたいに傷をつけてしまうかもしれない。そう思ってあわあわしていると頭を撫でられた。

「カリンちゃんはいい子だね~。傷つかないようにしてくれてるんだね。そうだ、さっき言いたかったことだけど、見張りをしなくちゃいけないからカリンちゃんも手伝ってくれる?」

「い、いいよ」

頭を撫でられながら返事をする。最近は村でもされたことなくてちょっと気持ちいい。ちょっと力を貸してあげようと思った。バサバサと軽く飛び上がって目を閉じ集中する。こうすることでより風の流れを感じ取ることができる。わたしでも1㎞以内であれば大きな乱れを感知することができる。これを使えば今あそこにいる飛竜以外の外敵がいるかどうか判別できるのだ。今日は飛ぶことに夢中で感じ取ることが十分ではなかったけど…。

「ん~。近くにはいないみたい」

「そんなことがわかるの?」

「わたし達は空の種族だからね。風の流れの異常とかは結構感じ取れるんだ」

「カリンちゃんはこう言ってるけど、どうなのキルド?」

「…確かに周囲に異常はない。だが、この見晴らしの悪さでは空からの接近にはどうしようもない。移動しようにも飛竜に見つかる危険は避けたい。あっちの3人は単独でも何とかできそうだけど、こっちは倒すことはできないからね。空に関しては彼女を信じることしかできないかな今は」

「キルドがいうならそうなんだね。カリンちゃんってすごいんだね」

「ふふんっ!」

わたし達からすると当たり前の力だけど、すごいと褒められたのがうれしくて胸を張る。思えば最近褒められたことなどあっただろうか。今日の事も村に帰れば大人たちから大激怒だろう。あれだけ無茶をするなと言われたのになんと聞き分けのない子かとまた言われるのだ。そうやって3人で話しながら警戒していると、その内大きな声が響いた。

「何だ!?」

「戦闘が終わったみたい、風の動きが変わった」

「どう、なったの…」

先ほどとはうって変ってエミリーがとても不安げに話しかけてくる。

「わからない。風は止んだけど飛竜が倒されたのかは」

「エミリー。みんなを信じるんだ。あっちはティアもいるんだ」

「そうだよね…」

祈るようにエミリーは3人が返ってくるのを待つ。しばらくして足音が聞こえてきた。

「ティア!!無事!?」

ティアの姿が確認できるや否やエミリーが走ってティアのもとへ駆けていく。
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