家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩

文字の大きさ
38 / 49
リバースストーリー

4

しおりを挟む
今日はいよいよパーティー当日だ。王都にいる貴族が一堂に会して私の快気祝いを行うこととなっている。最近は婚約者変更のうわさも流れている中でのことなので、そわそわしている貴族もいる。全く馬鹿な奴らだ。カノン以外に誰が私を支えてきてくれたと思っているのだ。

「宰相閣下、手配の方は任せました」

「はい、クレヒルト殿下。すでに近衛を人知れず配置させております。これで退路を絶てるでしょう」

「流石だ。ようやくこれで彼女も報われる」

「クレヒルトやけにうれしそうだな」

「兄上、ご無沙汰しております」

「何やら最近は忙しそうにしていたようだが大丈夫か?」

「はい。私にとっては初めてのパーティーですので、何分準備に忙しく…」

「そう気を張らなくとも大丈夫だ。いきなり何か言ってくるものなどいないさ」

「しかし、王族として最低限の振る舞いは必要です」

「確かにそうだな。立派な考えになってくれてうれしいよ」

「ありがとうございます兄上」

あまり、2人にばかり構っているのも良くないと思い、その場を離れる。カノンはまだ登城していないのか?

「ああ、クレヒルト殿下。この度は快復されたということで、大変めでたいですな。このアルターも心配しておったのですぞ」

「…そうか、それは大変心配をかけた。今後は心配をかけないように侯爵には配慮する」

「それと…婚約についてはどうですか?うちの娘やエディン子爵令嬢も推薦させてもらっているのですが…」

「それは知っているが、何年も前から大々的に発表こそされていないが、カノンが私の婚約者だろう?」

「何をおっしゃいます。彼女は王子の病気を治すための婚約者です。成果がないまま婚約者にするには値しませんよ」

「だが、その為の過程でもかなりの薬を作ったといわれているが?」

「それこそ誰か研究所の物を使って作らせただけでしょう。特に薬学研究所は個人にて発表をすることが少ないですからな。いくらでもでっちあげられるのです」

「ふむ、研究所の成果か。一度どのような報告書があるか見てみたいものだ」

「では、我が家でまとめたものをお渡ししますよ。領地でも独自に研究をしておりますから」

「それは助かる」

侯爵とも話はここまで、話している間はイラつきを抑えるのが精いっぱいだった。私に対して彼女の功績の成果を発言するとは。

「あら、クレヒルト殿下。ごきげんよう」

「ああ、先ほど君の御父上とは話をさせてもらったよ。それでは私はまだあいさつ回りが残っているので…」

「あっ、殿下…」

やれやれ、何が悲しくてアルター侯爵の娘と話をしなければならないのか。大体、彼女は遠縁の子爵家に行くはずだろう。戸惑った様子もなく本心から今回の新しい縁談に賛成しているのだろう。

「さて、侯爵令嬢が来るという事はそろそろか…」

会場入りする人間の姿を眺めていると、他の人よりも少し低い背の女性が見える。

「あれだね。周辺は頼む」

「はっ!」

今日のために父上から借りた影を動員して、カノンと会えるように人を動かす。こうすれば自然に私がカノンを探して見つけたという寸法だ。

「やあ、カノン。久しぶりだね。今日は一段ときれいだよ」

「そ、そんなクレヒルト殿下。いつ着てもドレスなど着なれないもので…」

「ふふっ、確かに私に会いに来るときも研究所の服だからね。だけど、その初々しさが良いんだよ。実際に私は君のドレス姿を見るのは初めてだしね」

本当にカノンと来たら、皆より少し小さいこともあるから一見かわいらしいが、よく見ると美人の片りんも見える。きっと数年後には美女になっているだろう。

「喜んでいただけてありがとうございます。リーナやアーニャに頑張ってもらった甲斐がありましたわ」

「使用人もこれだけいい素材を着飾れるのだ。力も入るというものだろう」

「そうだといいのですが…何分、研究ばかりでこのような場などなれないもので」

「それは私も同様だ。だが、今後は君と…」

「あら!クレヒルト様!!ようやく見つけましたわ!」

「…あっ、ああ」

何でかい声を王宮で出しているのだ。私の部屋に来るときは周りに人がいないからと思っていたが、どうやら違うらしい。こんなのを協力者に選ぶとはアルター侯爵も落ちたものだ。

「こちらの方は?」

「あなたがカノンですね!殿下の婚約者でありながら役に立たない薬ばかり作っているていう!」

「だ、誰がそんな…」

「知っていますの!私、殿下のご病気を治して差し上げたんですのよ!」

「あ、あれはみんなが…」

「ふんっ!なんですの?言い訳は結構ですわ!」

「うう…」

カノンは普段から親から高圧的に迫られているせいで、こういう手合いが大の苦手だ。いつもは仕方ないとあきらめている様だが、さすがに今回の『魔力病』治療薬は研究所の成果という事もあり必死に食いつこうとしている。

「落ち着くのだエディン嬢。そのようなことは噂程度のことだ。そもそも、このような場で大声で話すなどみっともない!」

「ク、クレヒルト殿下…。仕方ありません。しかし、今の言葉覚えておきなさい!」

づかづかと我が物顔で会場へと歩いていくエディン。

「こ、これはクレヒルト殿下。娘がとんだ失礼を」

「トールマン子爵だな。分かっているのならもっと早くに手を打っておけ。学園ではどうなのだ?」

「そ、それは…」

「いや、いい。これ以上何か起こさぬように見張っていろ」

「は、はっ」

全く、これ以上ストレスを与えないでくれ。それ以降は特に何もなく入場は済んでいった。

「それではこれよりクレヒルト殿下の快復を祝うパーティーを開催いたします。一同、礼!」

衛士が宣言すると、会場である広間の扉が開かれ父上が王妃を伴って入場する。そして、中央奥に設けられた座席に座る。

「一同、面を上げよ」

ザッ

父上の声を合図に貴族たちが顔を上げ、騎士たちは忠義の礼を取る。

「この度は我が息子クレヒルトの快復祝いによくぞ集まった。さすが、我が王国の貴族たちである。また、今日ここに来られぬものからも、祝いの品が届いておる。これまで、大病を患い政務に関わることのできなかった息子にこれだけの参加をしてくれようとは王国の未来は安泰だ。ぜひ、今日のパーティーを楽しんでくれ」

「はっ、ありがたき幸せです。我ら一同、変わりなく忠誠を誓います!」

宰相閣下がそういうと諸侯も頷き、場は和やかな雰囲気につつまれる。それを合図として、王国楽団が演奏を始め各々がパートナーと手を取り合いダンスを始めたり、食事を始めたりしている。最も、会場の中心でダンスを踊れるのは、今踊っている父上と母上だけだが。

「クレヒルト殿下、踊られないのですか?」

「カノン。さすがにまだ病み上がりの病人だからね。今日はこうして食事のみさ」

「そうですよね。申し訳ありません」

「いいや、それに初めてのダンスは君と踊りたいからね。君の知り合いに聞いたらダンスが踊れないんだって?」

「お恥ずかしながら、今まで薬ばかり作っていたもので」

「私も寝てばかりだったし、これから二人で練習を始めよう。それなら、問題ないだろう?」

「で、ですが、その殿下は…」

うん?何かカノンが言い淀んでいる様だ。そういえば、アーニャが何か悩みがあるらしいと言っていたな。ここはひとつ男を見せてみよう。

「おい!少し席を外す。誰も入って来させるな」

「はっ!」

バルコニーに行くと見せかけて、すっとその奥に入っていく。ここは会場から死角になりやすく簡単には見つからないだろう。

「さあ、悩みがあるんだろう?言ってみると言い」

「…で、殿下の新しい婚約者はどなたですの!」

しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...