1 / 56
本編
1
しおりを挟む
「お前にようやく婚約の話がまとまったぞ」
急に父から書斎に呼ばれたかと思えば開口一番そう宣言された。私の名前はティアナ=レーガン。レーガン子爵家の長女だ。趣味は剣術で王立学園に通っていて、そこでも剣術の授業を取っている。一部ではおてんば姫などと呼ばれているらしい。
「お父様、私はまだ16で学園に通う身です。婚約など早いのでは?」
そもそもそんな話が今までなかった訳だし、これを機に淑女教育という名目で学園生活に口を出さないかと思いけん制してみる。
「そうは言うがお前が懇意にしているカークス子爵の次女でさえ、12のころには婚約している。婚約していなくとも皆、話はあるのだ。それに比べてお前ときたら。読む本はほとんどが剣術書。出かけるといえば動きやすい服と剣術の稽古だ。いまだ婚約の話が来ていないのはお前ぐらいなものだぞ」
「私は今のままで十分満足してます。それにいったいどこからそんな話が舞い込んだのですか?」
さっきの父の話を聞く限り、私のうわさはもはや国中の貴族に知られているだろう。そんな中、わざわざ婚約話を持ち掛けてくる家があるとは思えないのだが…。
「確かにお前の言う通り男爵家以上の貴族から話はなかった。正直、私としてもその線はもう諦めておる」
諦めてたんだ、お父様ごめんなさい。そっと心の中で父に謝る。
「それに、お前の普段の生活から考えれば縁談を決めたところで結婚前に断られる可能性もある」
そこで父はコホンと軽く咳払いをする。何か名案が浮かんだのだろう。
「だからお前が相手に不満を抱かず、ある程度相手も納得できる縁談を持ち掛けたという訳だ」
なんとこっちからの縁談だった。それにしてもこっちからだって早晩断られたばかりではなかったか?
「不思議そうな顔をしているようだな。なぜ断られなかったかと。実はお前の相手というのはガーランド=レイノル騎士爵だ。普段は王宮警備隊に勤めている」
「ガーランド=レイノル様ですか?」
全く聞いたことのない名前だ。王都で開かれる貴族のお茶会でも聞いたこともない。王宮警備隊は主に王宮の外周部の見回りを行う騎士たちだ。王宮勤めの騎士としては下位の組織で、その上には第1騎士団、別名王宮騎士団が組織されている。警備隊員は非番の日を利用して、貴族のお茶会に警備員として出席し、日々の収入としているが日雇いのため名前を聞くこともないので全く分からなかった。
「名前に聞き覚えがなくて当然だが、あのカイラス殿のご友人らしい。以前、人となりを聞いところ実直だが話しやすいとのことだ」
父の言うカイラス様とは若干20にして4つの騎士団の内、主に王宮の警護を担当する第1騎士団の若手No.1との呼び声高い方だ。甘いマスクに流れるような剣さばきで令嬢にも人気なのだとか。そういえば、彼とよく一緒にいる騎士がいるって誰かが言ってたなあ。
「私も流石に会ったことのない方とはちょっと…」
いくら申し込みのない子爵家長女とはいえ顔も何もわからないのではと抵抗してみる。
「会ったことはあるぞ!この前、我が家で開いた夜会で他国の間者が紛れ込んでいただろう?あの間者を鮮やかな手さばきで捕らえた青年だ。あの後、しきりにその姿をお前が褒めるものでな、今朝方あの時の謝礼にと来てもらった時に縁談を申し込んだのだ」
「あ、あの時の方ですか!それを先に言ってくださいお父様」
伯爵以下の周辺地域の下位貴族が2か月に一度持ち回りで行う定例夜会。そこに侵入した他国の間者をとらえる瞬間を私は幸運にも見ることができた。少し涼みに入口近くにいるところだった。途中で帰ろうとした男に騎士が2、3話しかけると、すぐに男は飛び退き短刀を構えたが、たちまち一気に間合いを詰め無力化したのだ。
それまで私はずっと剣を振ってきたし、学園の剣術の授業でも騎士団長の次男の子に次ぐNo.2として君臨していた。そこはちょっと悔しいけれど、さすがは騎士団長の息子さん。私はわずかに及ばないにしろ剣には自信を持っていた。でも、あの夜会の騎士様はそれは見事な体さばきで、一瞬で相手を無効化してしまった。その姿に思わず見とれてそれ以降、父にもあれはどなたなのかとしつこく聞いていたのだった。
「これまで、剣ばかりで男など見向きもしなかったお前がようやく男性に興味を持ったのだ。寂しくはあるが全力で応援せねばと手を尽くしたのだぞ」
お父様よ、私は戦う姿がかっこよかったというのと、できたら稽古をつけて欲しいなーと思っていただけだったんです。ごめんなさい。
「ですが、そんな急な話をその…レイノル様は受けてくださったのですか?」
「無論だよ。腐っても私は親としてお前には幸せになって欲しいし、我が家は曲りなりにも子爵家だからね」
「それって…」
子爵家として権力行使したってことじゃないですかーーー。
婚約初日から嫌われてないかなと早々と意気消沈する私だった。
急に父から書斎に呼ばれたかと思えば開口一番そう宣言された。私の名前はティアナ=レーガン。レーガン子爵家の長女だ。趣味は剣術で王立学園に通っていて、そこでも剣術の授業を取っている。一部ではおてんば姫などと呼ばれているらしい。
「お父様、私はまだ16で学園に通う身です。婚約など早いのでは?」
そもそもそんな話が今までなかった訳だし、これを機に淑女教育という名目で学園生活に口を出さないかと思いけん制してみる。
「そうは言うがお前が懇意にしているカークス子爵の次女でさえ、12のころには婚約している。婚約していなくとも皆、話はあるのだ。それに比べてお前ときたら。読む本はほとんどが剣術書。出かけるといえば動きやすい服と剣術の稽古だ。いまだ婚約の話が来ていないのはお前ぐらいなものだぞ」
「私は今のままで十分満足してます。それにいったいどこからそんな話が舞い込んだのですか?」
さっきの父の話を聞く限り、私のうわさはもはや国中の貴族に知られているだろう。そんな中、わざわざ婚約話を持ち掛けてくる家があるとは思えないのだが…。
「確かにお前の言う通り男爵家以上の貴族から話はなかった。正直、私としてもその線はもう諦めておる」
諦めてたんだ、お父様ごめんなさい。そっと心の中で父に謝る。
「それに、お前の普段の生活から考えれば縁談を決めたところで結婚前に断られる可能性もある」
そこで父はコホンと軽く咳払いをする。何か名案が浮かんだのだろう。
「だからお前が相手に不満を抱かず、ある程度相手も納得できる縁談を持ち掛けたという訳だ」
なんとこっちからの縁談だった。それにしてもこっちからだって早晩断られたばかりではなかったか?
「不思議そうな顔をしているようだな。なぜ断られなかったかと。実はお前の相手というのはガーランド=レイノル騎士爵だ。普段は王宮警備隊に勤めている」
「ガーランド=レイノル様ですか?」
全く聞いたことのない名前だ。王都で開かれる貴族のお茶会でも聞いたこともない。王宮警備隊は主に王宮の外周部の見回りを行う騎士たちだ。王宮勤めの騎士としては下位の組織で、その上には第1騎士団、別名王宮騎士団が組織されている。警備隊員は非番の日を利用して、貴族のお茶会に警備員として出席し、日々の収入としているが日雇いのため名前を聞くこともないので全く分からなかった。
「名前に聞き覚えがなくて当然だが、あのカイラス殿のご友人らしい。以前、人となりを聞いところ実直だが話しやすいとのことだ」
父の言うカイラス様とは若干20にして4つの騎士団の内、主に王宮の警護を担当する第1騎士団の若手No.1との呼び声高い方だ。甘いマスクに流れるような剣さばきで令嬢にも人気なのだとか。そういえば、彼とよく一緒にいる騎士がいるって誰かが言ってたなあ。
「私も流石に会ったことのない方とはちょっと…」
いくら申し込みのない子爵家長女とはいえ顔も何もわからないのではと抵抗してみる。
「会ったことはあるぞ!この前、我が家で開いた夜会で他国の間者が紛れ込んでいただろう?あの間者を鮮やかな手さばきで捕らえた青年だ。あの後、しきりにその姿をお前が褒めるものでな、今朝方あの時の謝礼にと来てもらった時に縁談を申し込んだのだ」
「あ、あの時の方ですか!それを先に言ってくださいお父様」
伯爵以下の周辺地域の下位貴族が2か月に一度持ち回りで行う定例夜会。そこに侵入した他国の間者をとらえる瞬間を私は幸運にも見ることができた。少し涼みに入口近くにいるところだった。途中で帰ろうとした男に騎士が2、3話しかけると、すぐに男は飛び退き短刀を構えたが、たちまち一気に間合いを詰め無力化したのだ。
それまで私はずっと剣を振ってきたし、学園の剣術の授業でも騎士団長の次男の子に次ぐNo.2として君臨していた。そこはちょっと悔しいけれど、さすがは騎士団長の息子さん。私はわずかに及ばないにしろ剣には自信を持っていた。でも、あの夜会の騎士様はそれは見事な体さばきで、一瞬で相手を無効化してしまった。その姿に思わず見とれてそれ以降、父にもあれはどなたなのかとしつこく聞いていたのだった。
「これまで、剣ばかりで男など見向きもしなかったお前がようやく男性に興味を持ったのだ。寂しくはあるが全力で応援せねばと手を尽くしたのだぞ」
お父様よ、私は戦う姿がかっこよかったというのと、できたら稽古をつけて欲しいなーと思っていただけだったんです。ごめんなさい。
「ですが、そんな急な話をその…レイノル様は受けてくださったのですか?」
「無論だよ。腐っても私は親としてお前には幸せになって欲しいし、我が家は曲りなりにも子爵家だからね」
「それって…」
子爵家として権力行使したってことじゃないですかーーー。
婚約初日から嫌われてないかなと早々と意気消沈する私だった。
3
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
【完結】断りに行ったら、お見合い相手がドストライクだったので、やっぱり結婚します!
櫻野くるみ
恋愛
ソフィーは結婚しないと決めていた。
女だからって、家を守るとか冗談じゃないわ。
私は自立して、商会を立ち上げるんだから!!
しかし断りきれずに、仕方なく行ったお見合いで、好みど真ん中の男性が現れ・・・?
勢いで、「私と結婚して下さい!」と、逆プロポーズをしてしまったが、どうやらお相手も結婚しない主義らしい。
ソフィーも、この人と結婚はしたいけど、外で仕事をする夢も捨てきれない。
果たして悩める乙女は、いいとこ取りの人生を送ることは出来るのか。
完結しました。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる