騎士爵とおてんば令嬢【完結済】

弓立歩

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本編

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「お前にようやく婚約の話がまとまったぞ」

急に父から書斎に呼ばれたかと思えば開口一番そう宣言された。私の名前はティアナ=レーガン。レーガン子爵家の長女だ。趣味は剣術で王立学園に通っていて、そこでも剣術の授業を取っている。一部ではおてんば姫などと呼ばれているらしい。

「お父様、私はまだ16で学園に通う身です。婚約など早いのでは?」

そもそもそんな話が今までなかった訳だし、これを機に淑女教育という名目で学園生活に口を出さないかと思いけん制してみる。

「そうは言うがお前が懇意にしているカークス子爵の次女でさえ、12のころには婚約している。婚約していなくとも皆、話はあるのだ。それに比べてお前ときたら。読む本はほとんどが剣術書。出かけるといえば動きやすい服と剣術の稽古だ。いまだ婚約の話が来ていないのはお前ぐらいなものだぞ」

「私は今のままで十分満足してます。それにいったいどこからそんな話が舞い込んだのですか?」

さっきの父の話を聞く限り、私のうわさはもはや国中の貴族に知られているだろう。そんな中、わざわざ婚約話を持ち掛けてくる家があるとは思えないのだが…。

「確かにお前の言う通り男爵家以上の貴族から話はなかった。正直、私としてもその線はもう諦めておる」

諦めてたんだ、お父様ごめんなさい。そっと心の中で父に謝る。

「それに、お前の普段の生活から考えれば縁談を決めたところで結婚前に断られる可能性もある」

そこで父はコホンと軽く咳払いをする。何か名案が浮かんだのだろう。

「だからお前が相手に不満を抱かず、ある程度相手も納得できる縁談を持ち掛けたという訳だ」

なんとこっちからの縁談だった。それにしてもこっちからだって早晩断られたばかりではなかったか?

「不思議そうな顔をしているようだな。なぜ断られなかったかと。実はお前の相手というのはガーランド=レイノル騎士爵だ。普段は王宮警備隊に勤めている」

「ガーランド=レイノル様ですか?」

全く聞いたことのない名前だ。王都で開かれる貴族のお茶会でも聞いたこともない。王宮警備隊は主に王宮の外周部の見回りを行う騎士たちだ。王宮勤めの騎士としては下位の組織で、その上には第1騎士団、別名王宮騎士団が組織されている。警備隊員は非番の日を利用して、貴族のお茶会に警備員として出席し、日々の収入としているが日雇いのため名前を聞くこともないので全く分からなかった。

「名前に聞き覚えがなくて当然だが、あのカイラス殿のご友人らしい。以前、人となりを聞いところ実直だが話しやすいとのことだ」

父の言うカイラス様とは若干20にして4つの騎士団の内、主に王宮の警護を担当する第1騎士団の若手No.1との呼び声高い方だ。甘いマスクに流れるような剣さばきで令嬢にも人気なのだとか。そういえば、彼とよく一緒にいる騎士がいるって誰かが言ってたなあ。

「私も流石に会ったことのない方とはちょっと…」

いくら申し込みのない子爵家長女とはいえ顔も何もわからないのではと抵抗してみる。

「会ったことはあるぞ!この前、我が家で開いた夜会で他国の間者が紛れ込んでいただろう?あの間者を鮮やかな手さばきで捕らえた青年だ。あの後、しきりにその姿をお前が褒めるものでな、今朝方あの時の謝礼にと来てもらった時に縁談を申し込んだのだ」

「あ、あの時の方ですか!それを先に言ってくださいお父様」

伯爵以下の周辺地域の下位貴族が2か月に一度持ち回りで行う定例夜会。そこに侵入した他国の間者をとらえる瞬間を私は幸運にも見ることができた。少し涼みに入口近くにいるところだった。途中で帰ろうとした男に騎士が2、3話しかけると、すぐに男は飛び退き短刀を構えたが、たちまち一気に間合いを詰め無力化したのだ。

それまで私はずっと剣を振ってきたし、学園の剣術の授業でも騎士団長の次男の子に次ぐNo.2として君臨していた。そこはちょっと悔しいけれど、さすがは騎士団長の息子さん。私はわずかに及ばないにしろ剣には自信を持っていた。でも、あの夜会の騎士様はそれは見事な体さばきで、一瞬で相手を無効化してしまった。その姿に思わず見とれてそれ以降、父にもあれはどなたなのかとしつこく聞いていたのだった。

「これまで、剣ばかりで男など見向きもしなかったお前がようやく男性に興味を持ったのだ。寂しくはあるが全力で応援せねばと手を尽くしたのだぞ」

お父様よ、私は戦う姿がかっこよかったというのと、できたら稽古をつけて欲しいなーと思っていただけだったんです。ごめんなさい。

「ですが、そんな急な話をその…レイノル様は受けてくださったのですか?」

「無論だよ。腐っても私は親としてお前には幸せになって欲しいし、我が家は曲りなりにも子爵家だからね」

「それって…」

子爵家として権力行使したってことじゃないですかーーー。

婚約初日から嫌われてないかなと早々と意気消沈する私だった。

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