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本編
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ティアナを送った後、俺は王宮警備隊の詰所へと向かっていた。そこは王宮に何か所かある詰所の一つだ。特定の場所ではなく、所属部隊の集合場所は基本的に1週間ごとに変更される。
「今日はちょっと遅かったんじゃないかガーランド?」
「ああ、今日からティアナを送っていくことにしたからな、明日からもこんな時間だろう」
「おいおい、これまでは縁談に見向きもしなかったのに、たった数日でこれとはな」
言われてみれば不思議なものだ。子爵に縁談を進められた時も断りたい気持ちでいっぱいだったし、前日まで家族会議ではないが、ロイたちとどういう対応を取るか考えていた。最も当日呼び出しのせいで意味がなかったのだが。
「いつものように見回るか」
別の隊員に促され王宮の周辺に異常がないか見回りを続ける。ふと、城壁の上から影が見えた。一瞬、懐に手を伸ばしかけて…やめた。きっとあれは王家の使いだろう。あの動きは何度か見たことがあった。気にしないようにしながら巡回を続ける。
「そういえば聞いたか。また、騎士団戦だろ。今年は誰が当たっちまうかなぁ」
「全く、やめて欲しいよな。わざわざ俺らの方から優秀なのが王宮騎士団に行ってるってのに、両方から8人ずつ出すなんてな」
「まあ、他国の留学生を招くこともあるというし、貴族たちに騎士団の優秀さを印象付けるためだろう」
「とはいえ、毎回1回戦、行っても2回戦負けだぜ」
「そういえば隊長がなんか言ってたな。今年は投票で決めるとかなんとか」
「そうなのか?いつもは騎士団の方から適当に選ばれてただろう?」
意外だった。そもそも結果のわかっている騎士団戦にわざわざ投票などして何を考えているのだろう隊長は。
「まあ、枠が決まってるわけだから選ばれないことを祈るばかりだな」
ひとしきり見回りが終わると交代の人員と代わり、昼食を取りに食堂へ行く。食堂では騎士団も警備隊も関係なく同じ場所だ。そのためもめ事が起きることもあるが、俺としてはカイラスと遠慮なく食事を取れて助かっている。
「よう、ちょっと早かったなガーランド」
「ああ、お前もな…カレン?」
一瞬視界の端にカレンが映ったような気がしたが、気のせいだろう。
「うん、どうした?」
「いやなんでもない」
そしていつものように日替わり定食を頼み、席に着く。
「ああ、そういえばお前たちは代表どうするんだ?」
「騎士団戦か?隊長は投票制にしたいようだが、誰が選ばれるかはわからんな」
「おいおい、自分が選ばれるかもしれないのに余裕だな」
「それはないだろう。訓練中もそこそこの成績とくれば、モルツあたりが順当に選ばれて、俺までは回ってこないさ」
「そうか、それは残念だ」
カイラスは残念そうに食事に戻る。申し訳ないがこのままのんびり暮らしたいのだ。その時、俺は今年新人として入った団員の名前を忘れていたことを後悔した。
そのころ、隊員詰所では…。
「だから、隊長!絶対ガーランド様を出すべきですって、あの人ほんとに強いから」
「アルス、お前の言うことを疑うわけじゃないが、本当にカイラスと同じぐらいに強いのか?こういったら癪だがあいつは団長に次ぐほどといわれているんだぞ?」
「間違いないですって、士官学校時代から2人して隠れて森で打ち合ってるの見てたんですから」
「まあ、今回は騎士団の方からもこれまでと同じ選考方法では意味がないから、投票制で票が集まれば出られるが…」
「だからちょこっと集めるようにすればいいんですって。きっと、第3騎士団長ぐらいなら勝てますよ」
「こ、こら、あの人も俺たちじゃ相手にならないほど強いんだぞ」
「それはそうですけど…」
その時背後から声がかけられた。
「あの、そのお話よろしいですか?」
「おや、どこかのメイドですね。どういったご用向きで?」
王宮といえど、中に入ろうとしない限りは騎士爵の使用人たちでも付き添いをしてもらえば歩くことはできる。カレンはこれを利用して、主人のために動いていた。
「私はガーランド様のところのメイドのカレンと申します」
「ああ、それはどうもお忘れ物ですか?」
「ええ、カイラス様のですけれど。先日来ていただいた時に忘れ物をされてしまって…」
「そうだったんですか、先ほどのことはお忘れください…」
まさか、件のところで働く使用人に聞かれていたとはばつが悪く隊長は願い出る。
「いえいえ、アルス様の仰る通りです。旦那様は目立つのがお嫌いなようで使用人としてもやきもきしているのです」
「そうでしたか」
「ほらほら、隊長いいでしょう」
「ま、身近なものが言うならそれとなく周りには話してみるか。しかし、カレンさんでしたかなどうして急に?」
「知っての通り旦那様は先日婚約を果たしました。しかし、実績が乏しくお嬢様を実家に帰されぬようにです。お二人は仲もよく、このまま屋敷に居ていただきたいので」
カレンは子爵とは実際に会ってはいないので、むしろあれだけ気づかいのできる令嬢を実家が惜しんで返せという可能性があると踏んでいたからだった。実際は縁談の一つも作れてほっとしているなど貧乏とはいえ、男爵家出身のカレンには考えつかないことだった。
「主人思いの使用人だ。約束はできませんが微力を尽くしましょう」
「ありがとうございます。それでは私は怪しまれぬようこれで…」
これであとはやる気にさせるだけだと微笑みながらカレンは帰宅した。
「今日はちょっと遅かったんじゃないかガーランド?」
「ああ、今日からティアナを送っていくことにしたからな、明日からもこんな時間だろう」
「おいおい、これまでは縁談に見向きもしなかったのに、たった数日でこれとはな」
言われてみれば不思議なものだ。子爵に縁談を進められた時も断りたい気持ちでいっぱいだったし、前日まで家族会議ではないが、ロイたちとどういう対応を取るか考えていた。最も当日呼び出しのせいで意味がなかったのだが。
「いつものように見回るか」
別の隊員に促され王宮の周辺に異常がないか見回りを続ける。ふと、城壁の上から影が見えた。一瞬、懐に手を伸ばしかけて…やめた。きっとあれは王家の使いだろう。あの動きは何度か見たことがあった。気にしないようにしながら巡回を続ける。
「そういえば聞いたか。また、騎士団戦だろ。今年は誰が当たっちまうかなぁ」
「全く、やめて欲しいよな。わざわざ俺らの方から優秀なのが王宮騎士団に行ってるってのに、両方から8人ずつ出すなんてな」
「まあ、他国の留学生を招くこともあるというし、貴族たちに騎士団の優秀さを印象付けるためだろう」
「とはいえ、毎回1回戦、行っても2回戦負けだぜ」
「そういえば隊長がなんか言ってたな。今年は投票で決めるとかなんとか」
「そうなのか?いつもは騎士団の方から適当に選ばれてただろう?」
意外だった。そもそも結果のわかっている騎士団戦にわざわざ投票などして何を考えているのだろう隊長は。
「まあ、枠が決まってるわけだから選ばれないことを祈るばかりだな」
ひとしきり見回りが終わると交代の人員と代わり、昼食を取りに食堂へ行く。食堂では騎士団も警備隊も関係なく同じ場所だ。そのためもめ事が起きることもあるが、俺としてはカイラスと遠慮なく食事を取れて助かっている。
「よう、ちょっと早かったなガーランド」
「ああ、お前もな…カレン?」
一瞬視界の端にカレンが映ったような気がしたが、気のせいだろう。
「うん、どうした?」
「いやなんでもない」
そしていつものように日替わり定食を頼み、席に着く。
「ああ、そういえばお前たちは代表どうするんだ?」
「騎士団戦か?隊長は投票制にしたいようだが、誰が選ばれるかはわからんな」
「おいおい、自分が選ばれるかもしれないのに余裕だな」
「それはないだろう。訓練中もそこそこの成績とくれば、モルツあたりが順当に選ばれて、俺までは回ってこないさ」
「そうか、それは残念だ」
カイラスは残念そうに食事に戻る。申し訳ないがこのままのんびり暮らしたいのだ。その時、俺は今年新人として入った団員の名前を忘れていたことを後悔した。
そのころ、隊員詰所では…。
「だから、隊長!絶対ガーランド様を出すべきですって、あの人ほんとに強いから」
「アルス、お前の言うことを疑うわけじゃないが、本当にカイラスと同じぐらいに強いのか?こういったら癪だがあいつは団長に次ぐほどといわれているんだぞ?」
「間違いないですって、士官学校時代から2人して隠れて森で打ち合ってるの見てたんですから」
「まあ、今回は騎士団の方からもこれまでと同じ選考方法では意味がないから、投票制で票が集まれば出られるが…」
「だからちょこっと集めるようにすればいいんですって。きっと、第3騎士団長ぐらいなら勝てますよ」
「こ、こら、あの人も俺たちじゃ相手にならないほど強いんだぞ」
「それはそうですけど…」
その時背後から声がかけられた。
「あの、そのお話よろしいですか?」
「おや、どこかのメイドですね。どういったご用向きで?」
王宮といえど、中に入ろうとしない限りは騎士爵の使用人たちでも付き添いをしてもらえば歩くことはできる。カレンはこれを利用して、主人のために動いていた。
「私はガーランド様のところのメイドのカレンと申します」
「ああ、それはどうもお忘れ物ですか?」
「ええ、カイラス様のですけれど。先日来ていただいた時に忘れ物をされてしまって…」
「そうだったんですか、先ほどのことはお忘れください…」
まさか、件のところで働く使用人に聞かれていたとはばつが悪く隊長は願い出る。
「いえいえ、アルス様の仰る通りです。旦那様は目立つのがお嫌いなようで使用人としてもやきもきしているのです」
「そうでしたか」
「ほらほら、隊長いいでしょう」
「ま、身近なものが言うならそれとなく周りには話してみるか。しかし、カレンさんでしたかなどうして急に?」
「知っての通り旦那様は先日婚約を果たしました。しかし、実績が乏しくお嬢様を実家に帰されぬようにです。お二人は仲もよく、このまま屋敷に居ていただきたいので」
カレンは子爵とは実際に会ってはいないので、むしろあれだけ気づかいのできる令嬢を実家が惜しんで返せという可能性があると踏んでいたからだった。実際は縁談の一つも作れてほっとしているなど貧乏とはいえ、男爵家出身のカレンには考えつかないことだった。
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これであとはやる気にさせるだけだと微笑みながらカレンは帰宅した。
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