30 / 56
本編
30
しおりを挟む
「これは…」
口にいっぱいに広がるシナモンの味とそして鼻腔をくすぐる香り。普段は男どもの集まりのためこういうお菓子に縁のないガーランドだが、唯一、貴族の屋敷の警護などで報酬とは別に持たされたものがあった。そういうものでさえ自分には不釣り合いなほどおいしかったというのに、群を抜いておいしい。
「い、いかがですか?」
「あ、ああ、素晴らしいよ。こんなにおいしいお菓子を食べたのは初めてだ!」
「ほんとですか!うれしいですっ!!」
ずずいっとテーブルから身を乗り出してくるティアナに、びっくりしながらも別のものを食べる。ほかのお菓子もおいしい。それに、どことなく甘すぎず自分の味覚に合わせてあるような感じだ…。
「おいしいんだが、なんだか不思議なぐらい好みの味だな。何か人の味覚が分かる能力でもあるのか? 」
たしか、俺の方から彼女にどういった味が好きかということは話してはないはずだったと思うのだが。
「ふふっ、そんなわけないじゃないですかガーランド様ったら。ちゃんとロイさんやカレンさんに聞いたんですよ。これでも気づかれないようにこそこそ聞いて大変だったんですから」
いたずらっぽく言うティアナがとてもかわいくてじーっと見てしまう。何ですかという彼女にはいいやとだけ言っておく。
「それにしても、ティアナはすごいんだな。俺は剣しか使えないが、令嬢としての所作も身に着けているしお菓子も剣も長けている」
「私なんかどれもちょっと努力すればできる程度です。ガーランド様こそ、その剣の腕前は誰にもまねできません!」
ふんぞり返るようにティアナは胸を張って、言い切った。そこは俺が言うところなんだと思うのだが。
「しかし困ったな。これだけのものを用意されているが、俺は何も用意していない。この家でできることといったらささやかなことだが何かしてほしいことはないか?」
来てもらってから、ティアナには令嬢とは名ばかりのことでしてやれていることといえば朝夕の迎えぐらいだ。それに関しても、自分が言い出したことであるし、お互いのことを考えてのもので自分が何かしてやりたかった。
「そ、それでしたら一つだけ…」
「遠慮なく行ってくれ。なんでもしてやる、できることだったらな」
この時、俺は安易に言うべき言葉ではなかったとちょっと後悔することになった。
「ほんとですか!実は前々から一つお願いしたいことがあったのです」
いやに目を輝かせているが何だろうか?
「ガーランド様の戦うお姿を見てですね、お願いしたかったのですが…」
俺の戦う姿を見て?カイラスとの稽古の時か、警備隊の仕事を見たいとかか。などと俺は甘いことを考えていた。
「私を弟子にしていただけませんか!!」
「で、し?」
????今何と言ったのだろうティアナは?でし、弟子か…。道場など開いていないし、そもそも君は令嬢だと思ったのだが…。そして私は情けなくも一言のみしか発することができなかった。
「はい!あの後からずっと考えていたのですが、私は最近伸び悩んでおりましてライバルにも最近は負け越しているのです。ここにきてガーランド様の婚約者となったのはもはや運命と思いました。もちろん、お菓子を作ったのは食べていただきたかったからですけれど。ご褒美をいただけるということでしたらこれ以外はありませんわ」
スパッと言い切られてしまった。全く迷いがない。にしても彼女の腕をもってすればかなりの位置にいると思われるが、一体ライバルとは誰だろうか?
「た、確かに願いをかなえてやれんこともないが、そのライバルとは誰だ?」
騎士爵の中にもたまに父にあこがれて騎士を目指す女性もいるし、少ないが女性の護衛も必要なため需要がないでもないと考えていたのだが。
「グライム様です。騎士団長の子息の」
んん、聞き間違えか。グライム子息は現騎士団長の息子で王宮警備隊のものとも手合わせすることもあるはずだ、それに大体―――。
「剣術の授業は男女別ではないのか?」
男と女では体つきも違うし、王宮での警備に至っては警護場所も異なる。それぞれに合ったことを学ぶため合同での授業は少ないはずだが。
「ガーランド様は騎士学校でしたわね。貴族向けの学園では受講者が少ないため基本は合同です。というかほぼおりませんので…」
まあ、女性騎士とはあったことがあるが、ほとんどが平民もしくは貴族で食い扶持にも困るような貴族や騎士爵などの1代のみの貴族だと聞いたことがある。確かにそんな貴族のものがわざわざ高い授業料を払って学園に通うはずはない…。
「その、なんだ。彼とは仲がいいのか?」
「???まあ、話はしますがライバルですので。基本は踏み込みがどうとかばかりですね」
「ならいい。あまり時間を割けないかもしれないがいいか?」
「はい、前にもお話させていただきましたが、確約いただけると嬉しいです」
確かに最初に中庭で手合わせした時に言ったかもしれないな…。あれ以来手合わせもしていないから正直忘れていた。
口にいっぱいに広がるシナモンの味とそして鼻腔をくすぐる香り。普段は男どもの集まりのためこういうお菓子に縁のないガーランドだが、唯一、貴族の屋敷の警護などで報酬とは別に持たされたものがあった。そういうものでさえ自分には不釣り合いなほどおいしかったというのに、群を抜いておいしい。
「い、いかがですか?」
「あ、ああ、素晴らしいよ。こんなにおいしいお菓子を食べたのは初めてだ!」
「ほんとですか!うれしいですっ!!」
ずずいっとテーブルから身を乗り出してくるティアナに、びっくりしながらも別のものを食べる。ほかのお菓子もおいしい。それに、どことなく甘すぎず自分の味覚に合わせてあるような感じだ…。
「おいしいんだが、なんだか不思議なぐらい好みの味だな。何か人の味覚が分かる能力でもあるのか? 」
たしか、俺の方から彼女にどういった味が好きかということは話してはないはずだったと思うのだが。
「ふふっ、そんなわけないじゃないですかガーランド様ったら。ちゃんとロイさんやカレンさんに聞いたんですよ。これでも気づかれないようにこそこそ聞いて大変だったんですから」
いたずらっぽく言うティアナがとてもかわいくてじーっと見てしまう。何ですかという彼女にはいいやとだけ言っておく。
「それにしても、ティアナはすごいんだな。俺は剣しか使えないが、令嬢としての所作も身に着けているしお菓子も剣も長けている」
「私なんかどれもちょっと努力すればできる程度です。ガーランド様こそ、その剣の腕前は誰にもまねできません!」
ふんぞり返るようにティアナは胸を張って、言い切った。そこは俺が言うところなんだと思うのだが。
「しかし困ったな。これだけのものを用意されているが、俺は何も用意していない。この家でできることといったらささやかなことだが何かしてほしいことはないか?」
来てもらってから、ティアナには令嬢とは名ばかりのことでしてやれていることといえば朝夕の迎えぐらいだ。それに関しても、自分が言い出したことであるし、お互いのことを考えてのもので自分が何かしてやりたかった。
「そ、それでしたら一つだけ…」
「遠慮なく行ってくれ。なんでもしてやる、できることだったらな」
この時、俺は安易に言うべき言葉ではなかったとちょっと後悔することになった。
「ほんとですか!実は前々から一つお願いしたいことがあったのです」
いやに目を輝かせているが何だろうか?
「ガーランド様の戦うお姿を見てですね、お願いしたかったのですが…」
俺の戦う姿を見て?カイラスとの稽古の時か、警備隊の仕事を見たいとかか。などと俺は甘いことを考えていた。
「私を弟子にしていただけませんか!!」
「で、し?」
????今何と言ったのだろうティアナは?でし、弟子か…。道場など開いていないし、そもそも君は令嬢だと思ったのだが…。そして私は情けなくも一言のみしか発することができなかった。
「はい!あの後からずっと考えていたのですが、私は最近伸び悩んでおりましてライバルにも最近は負け越しているのです。ここにきてガーランド様の婚約者となったのはもはや運命と思いました。もちろん、お菓子を作ったのは食べていただきたかったからですけれど。ご褒美をいただけるということでしたらこれ以外はありませんわ」
スパッと言い切られてしまった。全く迷いがない。にしても彼女の腕をもってすればかなりの位置にいると思われるが、一体ライバルとは誰だろうか?
「た、確かに願いをかなえてやれんこともないが、そのライバルとは誰だ?」
騎士爵の中にもたまに父にあこがれて騎士を目指す女性もいるし、少ないが女性の護衛も必要なため需要がないでもないと考えていたのだが。
「グライム様です。騎士団長の子息の」
んん、聞き間違えか。グライム子息は現騎士団長の息子で王宮警備隊のものとも手合わせすることもあるはずだ、それに大体―――。
「剣術の授業は男女別ではないのか?」
男と女では体つきも違うし、王宮での警備に至っては警護場所も異なる。それぞれに合ったことを学ぶため合同での授業は少ないはずだが。
「ガーランド様は騎士学校でしたわね。貴族向けの学園では受講者が少ないため基本は合同です。というかほぼおりませんので…」
まあ、女性騎士とはあったことがあるが、ほとんどが平民もしくは貴族で食い扶持にも困るような貴族や騎士爵などの1代のみの貴族だと聞いたことがある。確かにそんな貴族のものがわざわざ高い授業料を払って学園に通うはずはない…。
「その、なんだ。彼とは仲がいいのか?」
「???まあ、話はしますがライバルですので。基本は踏み込みがどうとかばかりですね」
「ならいい。あまり時間を割けないかもしれないがいいか?」
「はい、前にもお話させていただきましたが、確約いただけると嬉しいです」
確かに最初に中庭で手合わせした時に言ったかもしれないな…。あれ以来手合わせもしていないから正直忘れていた。
0
あなたにおすすめの小説
離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様
しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。
会うのはパーティーに参加する時くらい。
そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。
悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。
お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。
目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。
旦那様は一体どうなってしまったの?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由
冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。
国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。
そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。
え? どうして?
獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。
ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。
※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。
時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。
婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された
みみぢあん
恋愛
結婚式がまじかに迫ったジュリーは、幼馴染の婚約者ジョナサンと妹が裏庭で抱き合う姿を目撃する。 それがきっかけで婚約は解消され、妹と元婚約者が結婚することとなった。 落ち込むジュリーのもとへ元婚約者の兄、ファゼリー伯爵エドガーが謝罪をしに訪れた。 もう1人の幼馴染と再会し、ジュリーは子供の頃の初恋を思い出す。
大人になった2人は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる