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本編

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ティアナが来てからというものずっと迎えに行っていたが今日はいいと言われてしまった。どうやら今日は以前話していた認定試験日らしく、もし負けてしまったらということらしい。そのため今日は早くに終わったものの、暇をしているので以前寄り道したお菓子の店に寄ってみた。

「すまない。お菓子作りの材料なのだが…」

「あら、ティアナと一緒にいた人ね」

「以前、一度来ただけなのに覚えていたのか」

「商売ですからと言いたいところですけど、ティアナにはこの店も世話になっているので…」

聞けば彼女の料理の発想は素朴ながらも、家庭的で見た目もそこまで悪くないのでこういう店にとってありがたいとのことだ。店は材料の見本としてお菓子を並べたりもするが、どれもなじみのあるものだったり、変わった材料を使ったものは使いどころが分からなくて困るのをうまく使ってくれるとのこと。

「あの子が来てからというもの、うちも右肩上がりで。結局、この前のシナモンもあの後持ってきてくれたお菓子とレシピですぐに売り切れてしまって」

あれが置かれる前は見向きもしなかったのにとやや怒り気味で店員さんが教えてくれる。

「そうか…。ああ、材料を適当に見繕ってくれ。この頃無理をさせてこちらにも来れないといっていたから材料も少なくなってきてな」

本来、休みの日といっていた稽古の時間を今だけ増やしたため、あれからお菓子もろくに作れず買い出しにも行けていないティアナに買って帰れば、負けたとしてもそれはそれでストレス発散になるだろう。

「あら、ティアナへのプレゼントなのね。うちとしては助かるけど色気のあるものもあげてね」

「そうする」

店員から商品を受けとりつつ返事をして店を出ようとする。

「そうそう、あの子結構無茶もするから、ちゃんと守ってあげてくださいね」

そういう店員さんの目は優しかった。

「無論。この剣にかけて」

俺はわきの剣をちらりと見せると店員にうなずいてから店を出た。店から家までは20分といったところだ。お菓子の材料でも粉類は多少重量を感じるが、野営の道具に比べればはるかに軽い。とはいえティアナに毎回持たせるわけにもいかないなと思いながら帰路につく。

「ただいま」

「お帰りなさいませ旦那様」

玄関にはカレンがいて出迎えてくれる。

「おや、今日はお買い物ですか?めずらしいですねっと。あら?お菓子の材料ですか?」

「ああ、最近稽古ばかりで作る時間も買い出しの時間もないと嘆いていただろう」

「さすがは旦那様ですね。ところで一緒にアクセサリーなどは?」

「店の人にも言われた。何か探しておく」

「はあぁ~これだから剣術バカは。ちゃんとこういう時はさりげなく渡すものですよ。このぐらいの時期が色々着飾るのに最もいい時期なんです。今ならかわいい系からちょっとキレイ系。背伸びをしたキレイ系などなどたくさんのティアナ様を見ることができるのですよ。それを逃したら…きっときれいなティアナ様しか見ることができなくなりますよ。まあ、それでも大変すばらしいですけども…」

まだカレンは言い足りないようだったが、お菓子の材料もそのままにしておけなかったらしく、袋を開けててきぱきと分けてキッチンへ保管しに行く。残念ながら俺は材料がどこにあるかもわからないので、立ち入っても分からないのだ。

「そういえばティアナは帰ってきたのか?」

「ええ、今日はそのまま帰ってきましたので」

「そうか。結果はどうだった?」

勝ったなら師としてはうれしいことだし、負けたなら慰めてやらねばと思ったのだが―。

「はあぁ~」

また大きくため息をつかれた。

「いいですか旦那様。ティアナ様がどのような結果だったかを、使用人に聞いてそれから会いに行って、さも今知りましたなんて演技ができますか?できないでしょう。そんな、浅はかな考えはお捨てください。どんな結果にせよ本人に面と向かって正面から向き合うのが婚約者の務めです。そんな風に育てた覚えはありませんよ」

そんな風に育てられた覚えもない。と言い返したかったが、この状態のカレンに言っても無駄だろうと逃げるようにティアナの部屋へと向かう。言ってることだけは間違っていないのだから。

コンコン

「ティアナ居るか?」

ドアをノックして確かめる。そういえばティアナの部屋をノックするのは初めてかもしれない。今までは彼女の方から会いに来てくれたし、こっちから会う時もカレンに呼んできてもらったりリビングで会ったりしていた。いずれ夫婦になるのなら無用な気遣いになるのだし、今後はこちらからも会いに行こう。

「はい」

「今日の結果が知りたくてな。入ってもいいか?」

「………大丈夫です」

ガサゴソバンバンと何やら音がしたが、すぐに了解が取れた。


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