騎士爵とおてんば令嬢【完結済】

弓立歩

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本編

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「それでは決勝戦の前に互いのこれまでの戦績を見ていきましょう…」

そういいながら解説役の人間が会場に入り、これまでの戦いを解説していく。今は俺の紹介中だがそんなことは頭に微塵も入ってこない。ただ頭にあるのはこれからの決勝のことだけだ。

「声援に応えてやったらどうだね?」

「いえ、一介の警備隊員には過分のことかと」

ギルバート殿からの提案もそこそこに集中力を高める。ここまで来たからには勝って帰らねばあの二人に何を言われるか。おっと余計なことを考えないようにしないと、そう思い会場から客席をふと見る。

「ガーランド様~」

正面から少し外れたところにティアナとその友人たちの姿が見える。応援してくれるティアナにもだが、ここに連れてきてくれた彼女たちにも感謝だ。事前に聞いてはいたがこのトーナメント戦自体、貴族の娯楽として人気らしく前の方の席は取るのが非常に難しいらしい。思わず手を振りそうになったが、あまり目立った行動はせず、まずは決勝に意識を向けようと改めて気を引き締める。

「先ほどから君を応援しているのが婚約者かね?」

「ええそうです」

「ならばあとで伺わないとな。このような新たな好敵手と出会うきっかけをくれたのだから」

「本人も喜ぶと思います。あれでなかなかの腕なので」

「そうかそうか。ではこの勝負が終わればだな」

その言葉を最後に体に緊張が走る。どうやらギルバート殿の方も今からは戦いに向けてという事らしい。ほとんど解説者の言葉を聞いていないが、向こうも観客に向けたアピールだろうし問題ないだろう。その5分後ようやく説明が終わり、両側の控室から1人づつ出てくる。椅子を片付け決勝の準備をするらしい。

「では、お互いの健闘を誓い儀式を!」

決勝ではこれまでの戦いにも加えてさらに素晴らしい戦いをするとお互い剣を掲げて誓い合う。実際に名勝負といわれるほとんどの試合はこの決勝で生まれている。儀式を済ませるといよいよギルバート殿と対峙する。

「今日の良き日に…」

「いざ尋常に」

「「勝負!」」

誰かが開始といった気がする。しかし、そんなことはもはやお互いに関係ない。ただ相手がいて己が武を示すのみ。

「「はあぁ!」」

ギィィン

剣を振り合いつばぜりの音が響く。決して音は途切れることがなく、会場の右へ左へと動きながら続いていく。

「ふっ」

お互いの剣のタイミングが微妙にずれた一瞬を狙い剣を薙ぐ。

キン

甲高い音ともに弾かれ突きが繰り出される。

「くっ」

半身を反らし避け、その剣に剣ではなく拳で一撃を入れる。

「むっ?」

これで手が一瞬しびれたはず。すかさず切りかかるが、反対方向に避けられる。すぐに持ち直され間合いを取られる。カイラスとの戦いでも確認したが、ギルバート殿は剣が少し長い割には間合いは狭いようだ。だが、一撃の重みはこれまで打ち合った中で明らかにカイラスより重い。下手に間合いに入って戦うのも不利だ。

「来ぬのか?」

「…」

一瞬の間が開くとともにギルバートの構えが変わる。わずかに剣先が下がり剣自体は開く。これは―間合いが変わる。

「では、行くぞ!」

水平にそして袈裟懸けにギルバートの剣が襲い掛かる。対応することで俺は手一杯だ。まさか、複数の間合いを持つとは。さすがは戦場での経験も豊富な相手という事だ。ならば――。

カン キィン

相手の重い一撃には軸をずらし、それ以外は真っ向から防ぐ。お互いの力量・力を比べれば不利なことは変わりないがここで倒れるわけにはいかない。無理にでも互角の状態から隙を見出す。

「ぬ、王国流か…」

試合開始から帝国流で戦ってきていたが、こうも距離を一気に詰めてくる戦い方には向かないので一時的に王国流に切り替える。これならば距離に関係なく強い一撃に対抗できる。帝国流の距離を詰めて敵を反撃の前に倒すのでは分が悪いと判断したためだ。しかし、王国流では勝てないためどこかでまた戻さねばならない。

「タイミングを間違わないように…」

激しく打ち合いながら会場を縦横無尽に駆け回る。しかし、徐々に押し込まれ後退しながら動くようになってきた。だが、これは動く主導権がこちらに回ってきたともいえる。どこかきっかけを…。

「そこか!」

ふいに突きが繰り出される。

「チッ」

完璧な回避だった。しかし、実際には左肩をかすめていた。このまま王国流を使うこと自体が危険なようだ。ほぼ見切られているといってもいいだろう。だが、今の一撃を受けたことによって不自然な空間ができる。

「ここだ!」

その空間に飛び込み構えを変える。その構えは王国流ではなくかといっても帝国流でもない。だが、やや帝国流の流れが見受けられるというものだった。

「ここにきて苦し紛れか?」

「そう思うなら受けられるといい」

そう言い突きを繰り出す。

「むぅ、これは…」

この構えは突きを出す点において有利な構え。常に突きを出せるように重心が取られている。難点といえばやや攻撃に寄っているため防御に不安があることだろう。そこからは向こうが攻撃に入る前にそれを防ぐように一撃を入れて止める。

「ふっ、はっ、せいっ」

「ぬぐぅ」

先ほどまでと違いギルバートが少しずつ下がっている。だが、この状態のままでは勝てないと思った。相手が今下がっているのはこちらの手数が多いのと、構えが独特な為に様子見があるという事。手数が多いという事は体力の消耗も大きくすぐに逆転するため、有利とはいえない。必死に考えを巡らせる。この難敵を討ち果たす手を…。

自分がガイザル殿に放った突きは…だめだ、初見ならともかく見せた以上は対策されるだろう。ならばカイラスの放った突きは?これも同じだ…どうするガーランド何か手は…。

「ぐっ、まだまだ!」

キィィィン

ひときわ大きい音とともにお互いの剣が大きく弾かれる。のんびり考える時間はない、ならば―――。

下がってすぐに構える。観客も決着が近づいてきたのが分かるのだろう。静寂に包まれている。

「旦那様っ!」

一瞬聞こえた声には答えず、その光景を頭で補完する。そして目の前の相手に答えを返す。この数日間彼女とともに練習をしたその時に思い描いた技を。


----
「ねえ、ガーランド様。私は突きが得意ですけど、ガーランド様は突きより斬撃の方が得意ですよね?」

「確かにそうだが、苦手ではないぞ?」

確かに斬撃の方が得意だが突きを苦手としている訳でもないので、婚約者の言葉にちょっと強く出る。ティアナはそれを聞いてちょっと考える仕草を見せた後にこう語った。

「じゃあ、いつか私の突きとガーランド様の斬撃どちらも超えるような技ができるといいですね」

可愛く微笑む婚約者にその場ではそんな便利な技はないと言おうとしたが、うれしそうな顔を見ると言えなかった。


「あの時は思わず笑おうとしたが、こうまで追い詰められてはそれにすがってでもだな」

「いい覚悟だ」

お互い次の言葉は発さない。間合いなどもはや関係ない。ただ隙を見せず倒すのみ。次の打ち合いの後が最後だ。

ギィーーーン

ひときわ大きな音を立てた気がした。

「ここだ!」

「行くぞ!!」

一瞬でお互いの間合いに入る。呼吸を合わせることもない、相手の出を待つことも。それはただ勝つだめだけに―――。

技を放った瞬間、ギルバートが剣を振り上げるのが見えた。カイラスとの戦いで見せたものと同じような構え。しかし、威力も早さもより洗練されていると感じた。どの道、お互いに回避は不可能。後はどちらかの技に優劣があり結果が残るのみ。


----
こんな燃える戦いがあっただろうか…。戦場では生きるために、騎士団内でも同じ技を打ち合えるものもなく気づけば優勝の杯のみが手にはあった。それが数回続き飽き始めたころ変化があった。ガイザルが現れお互いの腕を称え、この騎士団戦が楽しみになった。しかし、数度と戦うとこの男と自分との差が明らかになった。

「彼は倒すため、戦に勝つために剣を磨いている…」

手を合わせる度に分かる。ガイザルは敵の兵を倒す、戦に勝つための剣。自身の勝利に重きを置かない。だが、自分の剣は紛れもなく己が勝つための剣。自身を高みに連れていくもの、極みへと昇るためのもの。己が戦場で剣を振るえば敵を屠る。彼が戦場で剣を振るえば1人が倒れ2人が負傷し、軍が有利になる。戦果は同じに見えても過程での差があった。それに気づいてからはまた孤独になった。己の場にたどり着こうとする者はいないのかと。それがどうだ。目の前の男こそ己と同じだ。しかも、これまではその狂気に近い意志を眠らせてきた男だ。その全力が自分に向けられてくる。それ自体がギルバートの喜びだった。

「はああぁぁぁぁ!」

「せえぇぇぇぇいっ!!」

キン

一瞬甲高い音が鳴る。ギルバートは勝利を確信した。彼の剣こそ剣を断つ剣、剣士として相手を打ち負かすものだ。突きでも振り下ろしだろうと相手ではなくその武器を破壊する。必殺ではないが2撃目を封じる一撃。繰り出すときに見えたガーランドの上段からの突き降ろしでは持たないはずだった。

クルクルクルクル

とさりと剣が落ちる。見覚えのある剣だ。そうこれは―――。

「な、に――」

驚愕とともに右ひざに痛みが走る。久しく味わうことがないがこれは紛れもなく剣による裂傷の痛み。切ったと思った剣は逆に切られていた。しかし、相手の剣を見ると片側がボロボロになっている。


「剣が!」

自分の剣を見て驚く。確かにギルバートの剣も良い剣だろうが俺の剣も家に伝わる家宝、まさか剣を折った代償として片刃がボロボロになるとは…。だが、運よく折れた剣は俺には当たらずに相手には手傷を負わせることができた。この剣もいつまで持つかはわからないけれど、動きとリーチで優位に立てたことは重要だ。

「ギルバート殿…」

「むぅ、此度は運がなかったという事か…」

一瞬の剣戟においては結果がすべてだ。先ほどの折れた剣も飛んだ先がどこかで運命が分かれただろう。この剣もこの先どこまで持つか判りはしない。だが、足を怪我している以上続行しても剣に当てることも難しいことはギルバート殿も分かっているだろう。

「ふぅ」

一息吐いてギルバート殿が折れた剣を鞘に納める。

「流石にこの状態で体術を使って勝てるとは思わんよ」

「俺も手一杯ですがね」

「だが、動けと言われたら動けるだろう?」

「ご命令とあらば」

ふっとお互い戦いの緊張感が抜ける。そしてどちらからともなく礼を交わす。そしてギルバート殿は一歩下がる。
静まりかえっていた観客席に音が戻る。みな、目の前の出来事にあっけにとられていた。送られるはずの歓声も落胆も何の声もいまだに出ない。そしてしばらく後に審判がようやく我に返る。

「はっ…しょ、勝負あり、勝者ガーランド!!」

わぁぁぁぁぁぁ!!!

大歓声が巻き起こる。長年、2人の強者によって争われていた戦いに新たな世代が加わった瞬間だった。だが、多くの観客とともに騎士団員たちはまるで何か幻を見ているようでもあった。自分たちの団長が、訓練でさえ勝てない相手が負けたことにまだ実感がわかないようだ。

「衛生兵!ギルバート殿の手当てを」

審判が伝えて控えていた衛生兵によって手当がなされる。本格的な手当てをするために一時彼は控室へと下がっていった。

「それではこれより表彰式に移りたいと思いますが、負傷者の手当ての為、今しばらくお待ちください」

俺もギルバート殿の傷が気になり控室へと向かった。


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