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1 邂逅
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「ここは?」
「ウルス様、お気づきになられましたよ!」
「そうか…」
私は一体…。確か城が落ちそうになってお兄様を逃がして…。
「うっ!」
「無理をするな。まだ、休んでおけ…」
「はい」
誰かわからないけど、心配させてはいけないし私はその言葉通り休んだ。
「ふわぁ~、よく寝た~」
キョロキョロとあたりを見廻すと、外は薄暗かった。
「ええっ!みんな起こしてくれなかったの?」
「お気づきになられましたか?」
声をかけられたのでそちらを見ると見慣れないメイドが立っていた。
「あなたは?それにここは別荘かどこかかしら?」
「まだ、混乱されておられるようですね。ここは、ディスタ帝国の帝都にあるマグナス子爵邸です」
「ディスタ帝国…。どうして敵国に?そういえば私…」
だんだんと、目が覚める前のことを思い出す。あの玉座の炎の中で私は気を失ってしまったのだ。
「でも、どうして…私は敵国の姫なのに」
それにあのままだと国はすでに滅んでしまっただろう。そんな国の王女になんて価値はない。
「それに関しては当主であるウルス様より説明されますので、ご準備させていただきますがよろしいですか?」
「…はい。それと私はもはや姫ではありません。呼び捨てで結構ですよ」
「お嬢様は今はウルス様のお客様ですので…」
それだけ言うとメイドは私を着替えさせる。子爵家といっていたけど、かなり訓練されたメイドのようだ。我が国の子爵家でも彼女ほどできたメイドは多くないだろう。
「それではお腹も減っておられるでしょうし、食堂へ向かいましょう」
私は差し出された手を取り、ついて行く。
「ようこそ、クレイディア=エレノア王女。この邸では狭いでしょうがゆっくり静養を」
「こちらこそ本来、処断されるところをご助命頂きました様で…」
「まあ、先に食事にしましょう。あなたは気づいていませんが、あの日よりすでに3日経っています」
「3日も!では先に、その間のことを聞かせてください」
「よろしいのですか?あなたにとって楽しい話ではありませんが?」
「余計に先に聞いておきます。最後の務めです。それと私はもはや王女ではありません。そのように扱ってください」
今こうして生かされているけれど、この先どのような処分が待っているのか分からないのだ。覚悟しなければ…。
「では話す。まずは国王と王妃だが、あの後我が帝国により身柄を拘束され先日、戦争責任を追及し処刑された」
「お父様とお母様が…」
主戦派だったお父様は兎も角、お母様まで…。しかし、王妃ともなれば仕方なかったのだろう。ぎゅっと胸の前で手を握り必死に涙を抑える。
「…気丈だな。あなたの家族については上の兄と2人の姉は戦死。第2王子のみ行方知れずとなっている」
「私が行き先を知っていると?」
「その様なことは帝国として思っていない。国王にも問いただしたが、側近すら合流に関しては話もしておらぬという事だった。そもそも、あの場で王子は足止めをしていたのだと我が隊も証言せざるを得なかったのでな」
「我が隊?」
「あなたが戦った部隊だ。…言い忘れていたな。私はウルス=マグナス。帝国の第2騎士団で団長を務めている」
「帝国第2騎士団…」
貴族の優秀な騎士と平民の優秀な騎士の混合部隊で、帝国の騎士団の戦力としてはかなり有力な部隊だ。あそこまで鮮やかに侵入してきたとは思ったけど、そんな精鋭部隊を投入してきたなんて…。
「はっ!その節は大切な部下を…」
「構わぬ。あなたが身を守り、時間稼ぎをしようとした結果だろう。部下も子どもと見て全力で向かわなかった落ち度だ。それに、あなたこそ優秀な部下を何人も失ったはずだ憎くはないのか?」
「…確かにそれはそうです。ですが、戦争です。私があなたの部下を切ったように、私の部下もあなたの部下を切っているでしょう。そのことを忘れて、ただ相手を憎んでばかりでは、それではいつまでも戦火が絶えません」
「あの好戦派の国王の娘とは思えないな…いや、失礼」
「いいえ。実際、兄たちは何とか講和をといつも話しておりました。お父様は聞き入れてくださいませんでしたが…」
「なるほど、6歳と聞いたがそのような会話も聞いているとは、聡明だという噂は本当だったのだな」
「私など、どこにでもいる少女です」
「だが、玉座の間でのことは誰でもできることではない。もう少し自分をほめても良いと思う」
「ありがとうございます。それで私の処遇は?」
ここまでで一番気になったことを聞く。私はこれからどうされるのだろうか?それによっては心苦しいけれど、子爵に迷惑をかけるかもしれない。王族として恥をかくわけにはいかないのだ。
「あなたの処遇についてだが、第2王子が行方不明の為、しばらくはこの邸で監視させてもらう。もしかしたら接触してくるかもしれんからな。その後は3年ほど経過を見て、問題ないようであれば平民となる」
「…平民、ですか?」
なんだか少し違和感がある。確かに、もはや王族としての価値はないが、それでも我が国の王族には剣鬼とまで呼ばれた方を何人も輩出している。お母様は魔導に長けた家柄で、きっとどこかの研究所に送られると思っていたのに…。
「王女として生きた身としては不本意だろうが…」
「あっ、いえ、そのような寛大な処置を頂けるとは思っておりませんでしたので…」
「寛大とは思わぬが…」
「いいえ。きっとお父様であれば臣下が諫めようとも処断したはずです。それを考えれば寛大ですわ」
「ふむ。だが、王女であったものをわずか9歳で街に放り出すのも気が引ける。今後のあなたの行動次第だがこの邸に住むことも考えておいてくれ」
「…承知しました」
なるほど、子爵は誠実に見えるけど先ほどから奥様の姿も見えないし、皇帝陛下もそのように思って私をこの邸に呼んだのね。しかし、確かに9歳の私が何かをできるとも思えないし、今は言う通りにしましょう。
「それでは遅くなってしまったが、食事にしよう」
運ばれてきた食事は私のことを思って、滋養に良いものばかりだった。このような待遇を受けるとはやはりそうなのだろう。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう。昨日で私の状況は理解いたしました。もはや、客人の身分でもありません。そのようなことは不要です」
「昨日はウルス様よりご説明を受けられたのでは?」
「はい。私を後継ぎを作るために引き取ると…」
「なっ!本当ですか?」
「恐らくそうだと思います。監視を終えれば引き取るともおっしゃられてましたし」
それ以外に今の私に価値があるとも思えない。
「め、メイド長!!!」
「サラ!はしたないですよ。あなたほどのメイドがどうしたのです?」
「ウルス様が…旦那様が…」
「な、なんですって!奥様をなくしてからそのような話はありませんでしたが、まさか!ああっ…」
「メイド長!しっかりなさってください!」
「どうした?朝からやかましいぞ!」
「ウルス様!本当なのですか!クレイディア様を後妻として引き取ると…」
いえ、後妻というよりはただ子供を作るだけの存在だと思いますが…。
「誰だ!そのようなおかしな話をしたのは!」
「はっ!まさか…もとよりそのようなご趣味が…」
「ええい、話をややこしくするな!話の出どころはどこだ?」
「クレイディア様からですが…」
「何?」
ウルス子爵と目線がバッチリ合う。でも、昨日の話をまとめると他に何かあるのだろうか?平民行きの娘を引き取るなんて他に思い付かない。
「あなたは昨日何を聞いていたのだ?」
「ですから、平民になる娘の引き取りでしょう?私に今あるものといったら剣鬼と呼ばれた血筋と、魔導の大家であるお母様の家の血筋だけですから」
「…あなたは聡明だと思っていたのだが、少し違うようだな…」
それだけ言うと子爵は私の頭を撫でてくれた。そんなことをしてもらったのは久しぶりだったので、私はしばらくなすがままにされていたのだった。
「ウルス様、お気づきになられましたよ!」
「そうか…」
私は一体…。確か城が落ちそうになってお兄様を逃がして…。
「うっ!」
「無理をするな。まだ、休んでおけ…」
「はい」
誰かわからないけど、心配させてはいけないし私はその言葉通り休んだ。
「ふわぁ~、よく寝た~」
キョロキョロとあたりを見廻すと、外は薄暗かった。
「ええっ!みんな起こしてくれなかったの?」
「お気づきになられましたか?」
声をかけられたのでそちらを見ると見慣れないメイドが立っていた。
「あなたは?それにここは別荘かどこかかしら?」
「まだ、混乱されておられるようですね。ここは、ディスタ帝国の帝都にあるマグナス子爵邸です」
「ディスタ帝国…。どうして敵国に?そういえば私…」
だんだんと、目が覚める前のことを思い出す。あの玉座の炎の中で私は気を失ってしまったのだ。
「でも、どうして…私は敵国の姫なのに」
それにあのままだと国はすでに滅んでしまっただろう。そんな国の王女になんて価値はない。
「それに関しては当主であるウルス様より説明されますので、ご準備させていただきますがよろしいですか?」
「…はい。それと私はもはや姫ではありません。呼び捨てで結構ですよ」
「お嬢様は今はウルス様のお客様ですので…」
それだけ言うとメイドは私を着替えさせる。子爵家といっていたけど、かなり訓練されたメイドのようだ。我が国の子爵家でも彼女ほどできたメイドは多くないだろう。
「それではお腹も減っておられるでしょうし、食堂へ向かいましょう」
私は差し出された手を取り、ついて行く。
「ようこそ、クレイディア=エレノア王女。この邸では狭いでしょうがゆっくり静養を」
「こちらこそ本来、処断されるところをご助命頂きました様で…」
「まあ、先に食事にしましょう。あなたは気づいていませんが、あの日よりすでに3日経っています」
「3日も!では先に、その間のことを聞かせてください」
「よろしいのですか?あなたにとって楽しい話ではありませんが?」
「余計に先に聞いておきます。最後の務めです。それと私はもはや王女ではありません。そのように扱ってください」
今こうして生かされているけれど、この先どのような処分が待っているのか分からないのだ。覚悟しなければ…。
「では話す。まずは国王と王妃だが、あの後我が帝国により身柄を拘束され先日、戦争責任を追及し処刑された」
「お父様とお母様が…」
主戦派だったお父様は兎も角、お母様まで…。しかし、王妃ともなれば仕方なかったのだろう。ぎゅっと胸の前で手を握り必死に涙を抑える。
「…気丈だな。あなたの家族については上の兄と2人の姉は戦死。第2王子のみ行方知れずとなっている」
「私が行き先を知っていると?」
「その様なことは帝国として思っていない。国王にも問いただしたが、側近すら合流に関しては話もしておらぬという事だった。そもそも、あの場で王子は足止めをしていたのだと我が隊も証言せざるを得なかったのでな」
「我が隊?」
「あなたが戦った部隊だ。…言い忘れていたな。私はウルス=マグナス。帝国の第2騎士団で団長を務めている」
「帝国第2騎士団…」
貴族の優秀な騎士と平民の優秀な騎士の混合部隊で、帝国の騎士団の戦力としてはかなり有力な部隊だ。あそこまで鮮やかに侵入してきたとは思ったけど、そんな精鋭部隊を投入してきたなんて…。
「はっ!その節は大切な部下を…」
「構わぬ。あなたが身を守り、時間稼ぎをしようとした結果だろう。部下も子どもと見て全力で向かわなかった落ち度だ。それに、あなたこそ優秀な部下を何人も失ったはずだ憎くはないのか?」
「…確かにそれはそうです。ですが、戦争です。私があなたの部下を切ったように、私の部下もあなたの部下を切っているでしょう。そのことを忘れて、ただ相手を憎んでばかりでは、それではいつまでも戦火が絶えません」
「あの好戦派の国王の娘とは思えないな…いや、失礼」
「いいえ。実際、兄たちは何とか講和をといつも話しておりました。お父様は聞き入れてくださいませんでしたが…」
「なるほど、6歳と聞いたがそのような会話も聞いているとは、聡明だという噂は本当だったのだな」
「私など、どこにでもいる少女です」
「だが、玉座の間でのことは誰でもできることではない。もう少し自分をほめても良いと思う」
「ありがとうございます。それで私の処遇は?」
ここまでで一番気になったことを聞く。私はこれからどうされるのだろうか?それによっては心苦しいけれど、子爵に迷惑をかけるかもしれない。王族として恥をかくわけにはいかないのだ。
「あなたの処遇についてだが、第2王子が行方不明の為、しばらくはこの邸で監視させてもらう。もしかしたら接触してくるかもしれんからな。その後は3年ほど経過を見て、問題ないようであれば平民となる」
「…平民、ですか?」
なんだか少し違和感がある。確かに、もはや王族としての価値はないが、それでも我が国の王族には剣鬼とまで呼ばれた方を何人も輩出している。お母様は魔導に長けた家柄で、きっとどこかの研究所に送られると思っていたのに…。
「王女として生きた身としては不本意だろうが…」
「あっ、いえ、そのような寛大な処置を頂けるとは思っておりませんでしたので…」
「寛大とは思わぬが…」
「いいえ。きっとお父様であれば臣下が諫めようとも処断したはずです。それを考えれば寛大ですわ」
「ふむ。だが、王女であったものをわずか9歳で街に放り出すのも気が引ける。今後のあなたの行動次第だがこの邸に住むことも考えておいてくれ」
「…承知しました」
なるほど、子爵は誠実に見えるけど先ほどから奥様の姿も見えないし、皇帝陛下もそのように思って私をこの邸に呼んだのね。しかし、確かに9歳の私が何かをできるとも思えないし、今は言う通りにしましょう。
「それでは遅くなってしまったが、食事にしよう」
運ばれてきた食事は私のことを思って、滋養に良いものばかりだった。このような待遇を受けるとはやはりそうなのだろう。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう。昨日で私の状況は理解いたしました。もはや、客人の身分でもありません。そのようなことは不要です」
「昨日はウルス様よりご説明を受けられたのでは?」
「はい。私を後継ぎを作るために引き取ると…」
「なっ!本当ですか?」
「恐らくそうだと思います。監視を終えれば引き取るともおっしゃられてましたし」
それ以外に今の私に価値があるとも思えない。
「め、メイド長!!!」
「サラ!はしたないですよ。あなたほどのメイドがどうしたのです?」
「ウルス様が…旦那様が…」
「な、なんですって!奥様をなくしてからそのような話はありませんでしたが、まさか!ああっ…」
「メイド長!しっかりなさってください!」
「どうした?朝からやかましいぞ!」
「ウルス様!本当なのですか!クレイディア様を後妻として引き取ると…」
いえ、後妻というよりはただ子供を作るだけの存在だと思いますが…。
「誰だ!そのようなおかしな話をしたのは!」
「はっ!まさか…もとよりそのようなご趣味が…」
「ええい、話をややこしくするな!話の出どころはどこだ?」
「クレイディア様からですが…」
「何?」
ウルス子爵と目線がバッチリ合う。でも、昨日の話をまとめると他に何かあるのだろうか?平民行きの娘を引き取るなんて他に思い付かない。
「あなたは昨日何を聞いていたのだ?」
「ですから、平民になる娘の引き取りでしょう?私に今あるものといったら剣鬼と呼ばれた血筋と、魔導の大家であるお母様の家の血筋だけですから」
「…あなたは聡明だと思っていたのだが、少し違うようだな…」
それだけ言うと子爵は私の頭を撫でてくれた。そんなことをしてもらったのは久しぶりだったので、私はしばらくなすがままにされていたのだった。
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