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第20話_縁鎖の鼓動、再び
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静かな夜だった。特務艦〈ミラージュ〉の甲板には、海と空の境が曖昧に溶け合うような、深い群青の帳が降りていた。だが、その静けさの奥で、確かに何かが動き出していた。
葵翔はひとり、甲板の中央に立ち尽くしていた。手には、まだ形になっていない“何か”の予感だけを宿した金属塊。鉄ではない、銀でもない。これは“縁”そのものが凝縮された鍛造素材《ユリンク鉱》。リンクフォージの力で海上に散った仲間たちの想いを集め、これから形にするための核だ。
「……次の一手を、決めなきゃな」
呟きと同時に、艦室の扉が開いた。咲耶が手帳を片手に現れ、その後ろから琴音、知也、洋平、志保、ブライセン、クリスティーナが順に顔を出す。
「みんな……そろったの?」
「あんたが夜風に当たってるって聞いたら、そりゃ気になるでしょ?」と琴音が笑う。「それに、決めなきゃいけないんでしょ? 次に、どこへ行くのかって」
翔は、軽く頷いた。
「〈虚無教団〉の本拠地、どうやらリブラグノの東方諸国に分散してるみたい。アルカセルの遺跡に残ってた情報、咲耶が読み解いてくれた」
「五つの方角に広がる、異なる刻印様式の記録。つまり――教団は、各地で別々の“刻印の系統”を壊そうとしているってことか」咲耶が手帳を広げて示す。「それらが最終的に集約される“結節点”……そこが彼らの狙い」
「だが同時に動くわけにもいかんだろう?」ブライセンが腕を組む。「我らの戦力では限界がある」
「だから、優先順位を絞り込む」と咲耶。「古文書にあった〈蒼き港町シェリダン〉――そこが次の鍵」
地図が広げられ、灯がともる。
「そしてその判断を支える道具を、俺が作る」
翔はゆっくりと素材を持ち上げた。仲間たちの目が一斉に集まる。手の中に宿るのは、今この瞬間の“縁”だ。それぞれの記憶、心、決意。それらが幾重にも織り重なって、あたかも脈動する心臓のように熱を帯びていた。
翔は槌を取った。
「名をつける。……“連環の羅針盤”」
「羅針盤……進むべき道を指すためのものか」知也が静かに言う。
「でもそれは、ただの地図じゃないわ」志保が続ける。「“誰と”進むかも、示してくれる――そんな気がする」
「おもしれぇじゃねぇか!」洋平が身を乗り出す。「だったら俺たちの縁、もう一度叩き上げようぜ、翔!」
「なら、船上ライブ鍛造ってわけね!」琴音が両手をあげて場を盛り上げる。
「うるさい」クリスティーナが小さく呟いたが、声色はどこか和らいでいた。
翔は深く息を吸い込んだ。金床の中央に羅針盤の核を置き、鍛造を始める。槌が振り下ろされるたび、甲板に響く音が仲間たちの心と共鳴する。
ガン――ッ。
ブライセンの信念、貫く刃のようにまっすぐな光が核を貫く。
ギン――ッ。
琴音の明るさ、まるで星空のように周囲を照らす光が輪郭を形作る。
ドン――ッ。
志保の優しさ、柔らかくも決して折れない意志が芯に届く。
それは、単なる道具ではなかった。翔が打つごとに、仲間たちの思考が光になり、音になり、空間に波動として広がっていく。
最後の一撃を翔が振り下ろすと、甲板全体が白い光に包まれた。風が静かに吹き抜け、音が消え、そして……そこには新たな“縁”が象られた宝具があった。
――“連環の羅針盤”。
指針は螺旋を描きながら回転していた。だが、それは単に方角を示すものではない。
「これは……翔。人と人の“縁の張力”が示されてる?」咲耶が目を見開く。
「近いほど針は重なり、離れると脈動が鈍る。情報だけじゃない。“絆の密度”が地図になるんだ」翔は静かに答えた。
目の前に浮かび上がる半透明の立体地図。刻印の交差点が網目のように繋がり、各地でうごめく教団の影が、うっすらと浮かび上がる。羅針盤は、次なる“縁の軸”を指し示していた。
「シェリダン……いや、そのさらに東。“五侯国境界”で、縁が震えてる」翔は針の先に視線を向ける。「そこが次の交点――いや、“震源地”だ」
咲耶が深く頷く。
「準備はできてる。補給と通信手段も確保済み。あとは出航の許可を取れば……」
「問題ねぇ!」ブライセンが片腕を振る。「ミラージュは海軍の特務艦だ。俺が船長代理として責任取る」
「待って、それって勝手に出航するってことよね?」琴音が眉をひそめる。
「“正式に”勝手に、な」ブライセンがウィンクする。
志保がくすりと笑い、「じゃあ、私たちも準備するわ。後方支援も必要よね」と言って下がろうとする。その背中に、クリスティーナが小さく言葉を投げかけた。
「……翔」
「ん?」
「その羅針盤。あたしの“縁”も……入ってる?」
翔は一瞬だけ槌を止め、クリスティーナの方を見た。
「もちろんだ。君は、ここにいる。……それで充分だろ?」
クリスティーナの表情は変わらない。だが、わずかに睫毛が揺れた。
「……なら、いい」
仲間たちはそれぞれ持ち場へ散っていく。が、その背に一つ、共通する“鼓動”があった。目には見えない。だが確かにそこにある――“縁鎖の鼓動”。
葵翔は、新たな縁を胸に刻む。そして、ただ一人その場に残り、羅針盤の指針を見つめる。
その先にあるのは、誰かの運命。
誰かの、絶望。
そしてきっと、誰かの希望。
翔は、再び槌を構えた。
「――次は、“繋げる”番だ」
その夜、外洋特務艦〈ミラージュ〉は静かに波を割り、遥か東の海へと進路を取った。
再び、縁の鼓動が世界を震わせる。
葵翔はひとり、甲板の中央に立ち尽くしていた。手には、まだ形になっていない“何か”の予感だけを宿した金属塊。鉄ではない、銀でもない。これは“縁”そのものが凝縮された鍛造素材《ユリンク鉱》。リンクフォージの力で海上に散った仲間たちの想いを集め、これから形にするための核だ。
「……次の一手を、決めなきゃな」
呟きと同時に、艦室の扉が開いた。咲耶が手帳を片手に現れ、その後ろから琴音、知也、洋平、志保、ブライセン、クリスティーナが順に顔を出す。
「みんな……そろったの?」
「あんたが夜風に当たってるって聞いたら、そりゃ気になるでしょ?」と琴音が笑う。「それに、決めなきゃいけないんでしょ? 次に、どこへ行くのかって」
翔は、軽く頷いた。
「〈虚無教団〉の本拠地、どうやらリブラグノの東方諸国に分散してるみたい。アルカセルの遺跡に残ってた情報、咲耶が読み解いてくれた」
「五つの方角に広がる、異なる刻印様式の記録。つまり――教団は、各地で別々の“刻印の系統”を壊そうとしているってことか」咲耶が手帳を広げて示す。「それらが最終的に集約される“結節点”……そこが彼らの狙い」
「だが同時に動くわけにもいかんだろう?」ブライセンが腕を組む。「我らの戦力では限界がある」
「だから、優先順位を絞り込む」と咲耶。「古文書にあった〈蒼き港町シェリダン〉――そこが次の鍵」
地図が広げられ、灯がともる。
「そしてその判断を支える道具を、俺が作る」
翔はゆっくりと素材を持ち上げた。仲間たちの目が一斉に集まる。手の中に宿るのは、今この瞬間の“縁”だ。それぞれの記憶、心、決意。それらが幾重にも織り重なって、あたかも脈動する心臓のように熱を帯びていた。
翔は槌を取った。
「名をつける。……“連環の羅針盤”」
「羅針盤……進むべき道を指すためのものか」知也が静かに言う。
「でもそれは、ただの地図じゃないわ」志保が続ける。「“誰と”進むかも、示してくれる――そんな気がする」
「おもしれぇじゃねぇか!」洋平が身を乗り出す。「だったら俺たちの縁、もう一度叩き上げようぜ、翔!」
「なら、船上ライブ鍛造ってわけね!」琴音が両手をあげて場を盛り上げる。
「うるさい」クリスティーナが小さく呟いたが、声色はどこか和らいでいた。
翔は深く息を吸い込んだ。金床の中央に羅針盤の核を置き、鍛造を始める。槌が振り下ろされるたび、甲板に響く音が仲間たちの心と共鳴する。
ガン――ッ。
ブライセンの信念、貫く刃のようにまっすぐな光が核を貫く。
ギン――ッ。
琴音の明るさ、まるで星空のように周囲を照らす光が輪郭を形作る。
ドン――ッ。
志保の優しさ、柔らかくも決して折れない意志が芯に届く。
それは、単なる道具ではなかった。翔が打つごとに、仲間たちの思考が光になり、音になり、空間に波動として広がっていく。
最後の一撃を翔が振り下ろすと、甲板全体が白い光に包まれた。風が静かに吹き抜け、音が消え、そして……そこには新たな“縁”が象られた宝具があった。
――“連環の羅針盤”。
指針は螺旋を描きながら回転していた。だが、それは単に方角を示すものではない。
「これは……翔。人と人の“縁の張力”が示されてる?」咲耶が目を見開く。
「近いほど針は重なり、離れると脈動が鈍る。情報だけじゃない。“絆の密度”が地図になるんだ」翔は静かに答えた。
目の前に浮かび上がる半透明の立体地図。刻印の交差点が網目のように繋がり、各地でうごめく教団の影が、うっすらと浮かび上がる。羅針盤は、次なる“縁の軸”を指し示していた。
「シェリダン……いや、そのさらに東。“五侯国境界”で、縁が震えてる」翔は針の先に視線を向ける。「そこが次の交点――いや、“震源地”だ」
咲耶が深く頷く。
「準備はできてる。補給と通信手段も確保済み。あとは出航の許可を取れば……」
「問題ねぇ!」ブライセンが片腕を振る。「ミラージュは海軍の特務艦だ。俺が船長代理として責任取る」
「待って、それって勝手に出航するってことよね?」琴音が眉をひそめる。
「“正式に”勝手に、な」ブライセンがウィンクする。
志保がくすりと笑い、「じゃあ、私たちも準備するわ。後方支援も必要よね」と言って下がろうとする。その背中に、クリスティーナが小さく言葉を投げかけた。
「……翔」
「ん?」
「その羅針盤。あたしの“縁”も……入ってる?」
翔は一瞬だけ槌を止め、クリスティーナの方を見た。
「もちろんだ。君は、ここにいる。……それで充分だろ?」
クリスティーナの表情は変わらない。だが、わずかに睫毛が揺れた。
「……なら、いい」
仲間たちはそれぞれ持ち場へ散っていく。が、その背に一つ、共通する“鼓動”があった。目には見えない。だが確かにそこにある――“縁鎖の鼓動”。
葵翔は、新たな縁を胸に刻む。そして、ただ一人その場に残り、羅針盤の指針を見つめる。
その先にあるのは、誰かの運命。
誰かの、絶望。
そしてきっと、誰かの希望。
翔は、再び槌を構えた。
「――次は、“繋げる”番だ」
その夜、外洋特務艦〈ミラージュ〉は静かに波を割り、遥か東の海へと進路を取った。
再び、縁の鼓動が世界を震わせる。
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