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第3章: 記憶の部屋
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暗闇に包まれた空間に、有美と渉は足を踏み入れた。新たに現れた扉の先には、冷たく湿った空気が漂い、遠くから低い風の音が微かに響いている。二人は無言で進みながら、その場の異様な雰囲気を全身で感じ取っていた。
「ここ…どこなんだろう?」有美が不安げに呟く。
彼女の声はすぐに闇に飲み込まれ、広がりを持たずに消えていく。辺りは静寂に包まれ、何かが潜んでいるような気配が肌にまとわりついていた。足元には硬い石の感触があり、二人が進むたびに靴音が反響する。
前方に淡い光が見えた。それは巨大な鏡だった。高さは人の背丈を軽く超え、その表面は不自然に揺らめいている。まるで湖面が立ち上がったように見え、鏡であるにも関わらず、自分たちの姿は一切映っていなかった。
「なんだこれ…ただの鏡じゃなさそうだな」
渉が警戒しながら言う。彼の声には、自分を落ち着けようとする意図が含まれているようだった。
有美は無意識に一歩前に出た。その瞬間、鏡の表面に波紋が広がり、金色の文字が浮かび上がった。
「記憶を映せ。真実を見よ」
「記憶…?」有美は小さく呟いた。
鏡の文字が再び消え、その表面が静かに揺らめいた。そして次の瞬間、有美の幼い頃の光景が浮かび上がった。小さな庭で祖母と手をつなぎ、秋桜が風に揺れる中で笑い合う二人の姿だった。
「おばあちゃん…」
有美は思わず声を漏らした。心の奥底にしまい込んでいた記憶が、こんなにも鮮やかに再現されることに驚きと懐かしさが混じった涙が浮かぶ。祖母の笑顔は温かく、柔らかい声が耳元に蘇ったようだった。
「有美、これが君の記憶?」
渉が静かに問いかけたが、有美は答えなかった。ただ、鏡の中の光景を見つめていた。だがその場面は次第に暗くなり、別の光景へと変わっていった。
祖母の姿は病室に変わり、彼女の体が細く弱々しくなっていく様子が映し出される。有美はその場面が変わってほしいと願ったが、映像は止まらない。祖母が最後に語った言葉が、鏡を通じてもう一度耳に届いた。
「この森には近づいてはいけない」
祖母の声には、抑えきれない恐怖と警告が込められているように感じられた。その言葉を思い返すたびに、有美は幼い頃から森の噂を聞いていた記憶を思い出す。
「おばあちゃん…何を知っていたの…?」
有美の呟きに答えるように、鏡の映像はさらに深まった。森で彷徨う人々、指輪を拾う者たち、そしてどこかで見たような古びた儀式の風景――その全てが、彼女の胸に不安を植え付ける。
渉は一歩後ろに下がり、鏡の変化を見つめていた。彼もまた、何かを感じ取っているようだったが、その表情には言葉にできない困惑が浮かんでいる。
「有美…これ、俺たちに見せるためのものだろうか?」
渉の声が静かに響いた。しかしその答えを出す間もなく、鏡が再び動き出した。
今度は、全く見知らぬ人々の姿が映し出された。彼らは森の中で道に迷い、何かに怯えているように見えた。中には恐怖で動けなくなり、その場に崩れ落ちる者もいた。
「何これ…?」
その場面は、まるで監視カメラが記録したようにリアルでありながら、どこか非現実的だった。有美は目を背けたくなったが、鏡がその視線を許さなかった。
「ここに映っているのは…私たち?」
彼女が呟くと、鏡の中に再び浮かび上がった文字が彼女の問いに答えるように輝いた。
「お前たちの未来を映す。過去を受け入れるか否かで、道は変わる」
その瞬間、鏡が激しく揺れた。まるで嵐の中の海のように波打ち、鏡の中から黒い影が滲み出してきた。それは触手のように床を這い、ゆっくりと有美の方へと伸びていく。
「逃げろ!」渉が叫ぶが、有美はその場から動けない。鏡の中の自分が彼女を見つめ、黒い影が彼女を絡め取ろうとしているように見えた。
「逃げちゃダメだ…」
有美は心の奥でそう囁く声を聞いた。その声に従うように、彼女は鏡の中の自分を見つめ返した。
「これは私の記憶…そして私の未来でもある。受け入れるしかない…」
彼女の言葉が鏡の中に響いた瞬間、黒い影が霧のように消えた。鏡の表面は静かになり、映し出される光景は再び穏やかな庭の秋桜の中で微笑む祖母の姿に戻っていた。
「有美、大丈夫か?」
渉が駆け寄り、彼女の肩を支える。鏡は静まり返り、その表面には何も映らなくなっていた。
「うん…なんとか。鏡が何を言いたかったのかは分からないけど、あれは私たちの試練だったんだと思う」
有美が答えると、鏡の前に新たな扉が現れた。その扉には次の文字が刻まれている。
「進む勇気を持て。真実はさらに奥にある」
二人はしばらくその言葉を見つめた後、再び手を取り合って扉へ向かった。森の謎はさらに深まり、二人を飲み込もうとしているかのようだった。
続く
「ここ…どこなんだろう?」有美が不安げに呟く。
彼女の声はすぐに闇に飲み込まれ、広がりを持たずに消えていく。辺りは静寂に包まれ、何かが潜んでいるような気配が肌にまとわりついていた。足元には硬い石の感触があり、二人が進むたびに靴音が反響する。
前方に淡い光が見えた。それは巨大な鏡だった。高さは人の背丈を軽く超え、その表面は不自然に揺らめいている。まるで湖面が立ち上がったように見え、鏡であるにも関わらず、自分たちの姿は一切映っていなかった。
「なんだこれ…ただの鏡じゃなさそうだな」
渉が警戒しながら言う。彼の声には、自分を落ち着けようとする意図が含まれているようだった。
有美は無意識に一歩前に出た。その瞬間、鏡の表面に波紋が広がり、金色の文字が浮かび上がった。
「記憶を映せ。真実を見よ」
「記憶…?」有美は小さく呟いた。
鏡の文字が再び消え、その表面が静かに揺らめいた。そして次の瞬間、有美の幼い頃の光景が浮かび上がった。小さな庭で祖母と手をつなぎ、秋桜が風に揺れる中で笑い合う二人の姿だった。
「おばあちゃん…」
有美は思わず声を漏らした。心の奥底にしまい込んでいた記憶が、こんなにも鮮やかに再現されることに驚きと懐かしさが混じった涙が浮かぶ。祖母の笑顔は温かく、柔らかい声が耳元に蘇ったようだった。
「有美、これが君の記憶?」
渉が静かに問いかけたが、有美は答えなかった。ただ、鏡の中の光景を見つめていた。だがその場面は次第に暗くなり、別の光景へと変わっていった。
祖母の姿は病室に変わり、彼女の体が細く弱々しくなっていく様子が映し出される。有美はその場面が変わってほしいと願ったが、映像は止まらない。祖母が最後に語った言葉が、鏡を通じてもう一度耳に届いた。
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その瞬間、鏡が激しく揺れた。まるで嵐の中の海のように波打ち、鏡の中から黒い影が滲み出してきた。それは触手のように床を這い、ゆっくりと有美の方へと伸びていく。
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