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第14話 25冊の連絡帳
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夏休み準備週の午後。廊下を行き交う生徒たちの声をかき分けるように、ユキチカは両腕いっぱいに小さなノートを抱えて歩いていた。全部で25冊。どれも表紙に色違いの付箋が貼られ、「○組代表へ」と書かれている。
「これ、全部手書き……? 大変じゃない?」通りがかった演劇部の後輩が声をかける。
ユキチカはにやりと笑った。
「大事なのはデジタルで流れない人にも届くこと。だからこそ、紙の連絡帳なんだ」
彼女の役割は、各クラス代表にアニバーサリー計画の「25の役割」を渡すこと。電子メールや掲示だけでは、情報が漏れる。だから直接届け、顔を見て渡すのが狙いだった。
しかし、廊下は思った以上に人の流れが複雑だ。誰に先に渡せば効率的か考える間もなく、ユキチカは「そういえば」と口にして、すれ違った新聞部員を呼び止めた。
「ねえ、1年A組の代表、今図書室にいるよね?」
「うん、たしかに」
その返事を聞くや否や、ユキチカは方向を変え、図書室へ駆け込んだ。偶然にして必然のように、そこに代表がいた。
一冊目が渡る。
次は理科準備室前で偶然鉢合わせたバスケ部主将。体育館に向かう途中だった彼に二冊目を渡す。
「助かる! ちょうど全員に声をかけるところだったんだ」
三冊目、四冊目……不思議と渡すべき相手が次々と目の前に現れる。まるで廊下がユキチカを導いているかのようだった。
やがて25冊すべてが配り終わった頃には、夕陽が差し込む廊下が黄金色に染まっていた。
「おお、終わった……」ユキチカは息をつき、窓辺に腰かけた。手元に残るのは、自分用に控えていた一冊だけ。
そこに留理加が現れ、連絡帳を手に取ってめくった。
「チェックリスト形式……なるほど、これなら抜けもれが出にくいわね」
ユキチカは得意げに笑った。
「でしょ? 偶然を味方にすれば、時間も最短で済むんだ」
遠くでチャイムが鳴る。25冊の小さなノートが、確かに校内全体を結ぶ糸となって広がり始めていた。
「これ、全部手書き……? 大変じゃない?」通りがかった演劇部の後輩が声をかける。
ユキチカはにやりと笑った。
「大事なのはデジタルで流れない人にも届くこと。だからこそ、紙の連絡帳なんだ」
彼女の役割は、各クラス代表にアニバーサリー計画の「25の役割」を渡すこと。電子メールや掲示だけでは、情報が漏れる。だから直接届け、顔を見て渡すのが狙いだった。
しかし、廊下は思った以上に人の流れが複雑だ。誰に先に渡せば効率的か考える間もなく、ユキチカは「そういえば」と口にして、すれ違った新聞部員を呼び止めた。
「ねえ、1年A組の代表、今図書室にいるよね?」
「うん、たしかに」
その返事を聞くや否や、ユキチカは方向を変え、図書室へ駆け込んだ。偶然にして必然のように、そこに代表がいた。
一冊目が渡る。
次は理科準備室前で偶然鉢合わせたバスケ部主将。体育館に向かう途中だった彼に二冊目を渡す。
「助かる! ちょうど全員に声をかけるところだったんだ」
三冊目、四冊目……不思議と渡すべき相手が次々と目の前に現れる。まるで廊下がユキチカを導いているかのようだった。
やがて25冊すべてが配り終わった頃には、夕陽が差し込む廊下が黄金色に染まっていた。
「おお、終わった……」ユキチカは息をつき、窓辺に腰かけた。手元に残るのは、自分用に控えていた一冊だけ。
そこに留理加が現れ、連絡帳を手に取ってめくった。
「チェックリスト形式……なるほど、これなら抜けもれが出にくいわね」
ユキチカは得意げに笑った。
「でしょ? 偶然を味方にすれば、時間も最短で済むんだ」
遠くでチャイムが鳴る。25冊の小さなノートが、確かに校内全体を結ぶ糸となって広がり始めていた。
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