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第16話 陽苑開放の日をめぐって
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朝の事務室には、紙の擦れる音と、薄い茶の香りだけが漂っていた。
棚に並ぶ帳簿の山は、今日も変わらず背表紙をこちらに向けている。けれど、その一列の中で、ひときわ新しい色の背表紙が目を引いた。
「……色を変えたんですか?」
みうがそっと尋ねると、机の向こうで筆を動かしていた敏貴が顔を上げた。
「気づいた?」
「はい。いつもの茶色じゃなくて、少し明るい色で」
薄い藍色の背には、『陽苑 余剰分の使い道』と小さく書かれている。
「王宮全体の帳簿とは別に、陽苑だけでどれだけ工夫して支出を抑えられたかをまとめたものだよ」
敏貴は、眼鏡を指で押し上げた。
「十年計画の紙を作ったときから、少しずつね。洗剤の使い方を見直したり、菜園の保存食を増やしたり。小さな積み重ねだけど、数字で見ると、ちゃんと形になってきた」
「へえ……」
みうは、思わず身を乗り出す。
「それだけ節約できたら、王宮に返すんですか?」
「それもひとつの選び方だけれど」
敏貴は、藍色の帳簿を軽く叩いた。
「陽苑で生まれた余裕を、陽苑らしい形で使うこともできるはずだと思ってね」
「陽苑らしい形……」
「身体をあたためることと、誰かの一日を少し楽にすること。その二つをいっぺんにできる使い方」
みうが首をかしげていると、事務室の戸が軽く叩かれた。
「入っていい?」
顔を覗かせたのは、景衣だった。朝の読み合わせを終えたところらしく、手には数枚の紙束がある。
「お邪魔かしら」
「むしろ、ちょうどいいところです」
敏貴は立ち上がり、筆を置いた。
「景衣さまにも見ていただきたい案がありまして」
◇
湯気の少ない静かな茶が三人に行き渡ったところで、敏貴は藍色の帳簿を開いた。
「これが、ここ数年の陽苑の支出と収入の記録です」
「先日の監査のときに見せていたものとは別なんですね」
「はい。あれは王宮全体に出すためのもの。こっちは、陽苑の中でだけ回覧するつもりでまとめました」
ページには、細かな数字と共に、ところどころ余白に小さな文字が書き込まれている。
『洗剤の希釈率を見直し、皮膚への負担が増えない範囲で使用量を調整』
『保存食の仕込みを増やし、急な雨の日の買い出しを減らす』
「こうして見てみると、皆さんの工夫のおかげで、実はそれなりの余裕が生まれている」
敏貴は、指先である行を示した。
「特に、去年からは陽苑だけで見ると、毎年小さな黒字が続いている」
「黒字……」
みうは、どきりとする言葉に思わず身を固くした。
「その言い方、何か怖いです」
「怖がらなくていい。むしろ誇っていいところだよ」
敏貴は、柔らかく笑った。
「そこで考えたんです。この余裕を、陽苑の外の誰かのためにも使えないかと」
「外?」
景衣が、ゆっくりと問い返した。その目には、どこか慎重な色が混じる。
「王宮の外、王都の……」
「孤児院と、療養所です」
敏貴は、ためらいなく答えた。
「王都の外れにある『朝露の家』と、川沿いの小高い丘にある療養所。どちらも、人手もお金も決して豊かとは言えない場所です」
みうの脳裏に、宿の常連客が話していた噂がよぎる。咳の止まらない子どもたち。窓から空だけを見ている子。街角で、古いパンを分け合っていた小さな背中たち。
「王宮にいると、『向こう側』の子どもたちの顔はなかなか見えなくなる。でも、陽苑でいったん立ち止まって考えてみたら、ここにも余裕がある」
敏貴は、ペンを別の紙に走らせた。
「季節に一度でいい。孤児院や療養所の子どもたちを少しだけ陽苑に招いて、温かいご飯を食べてもらう日を作る」
「……」
「名付けて、『陽苑開放の日』」
みうの胸が、どくんと大きく鳴った。
「陽苑に、外から子どもたちを?」
「もちろん、後宮の内規や警備の都合もある。だから、最初からあちこち歩き回ってもらうつもりはない」
敏貴は、紙に簡単な図を描いた。陽苑への通路と、中庭に面した広間、厨房の位置。
「王宮の門から陽苑の広間まで、決められた道を歩いてもらう。その間、警備は愛祈たちが付き添う。陽苑では、中庭に面した広間だけを使う」
「広間だけ……」
「外の景色を見ながらご飯を食べるには、十分な場所だよ」
敏貴は、図の中に小さく丸を描いた。
「菜園の野菜で作った汁物と、柔らかいご飯。それに、少しだけ甘いもの。陽苑の十年計画の中で、充分まかなえる範囲だ」
みうの目の奥に、小さな光が灯る。
「……素敵です」
思わず、口をついて出た。
「宿にいた頃、お金のない旅人がいても、母はまかないの鍋から少しだけ多めにすくってました。『たまたま余ったから』って言いながら」
その姿を思い出すと、鼻の奥が少しツンとした。
「陽苑にも、たまたま生まれた余裕があるなら。誰かの一日に『余った湯気』を分けてあげられたら……」
「みう」
景衣の声が、そっと挟まった。その表情は厳しくも見えるが、瞳の底には迷いが揺れている。
「気持ちはわかります。けれど、後宮はもともと、外からの出入りを厳しく制限している場所です」
「はい」
「身分の違う子どもたちを中に招き入れるとなれば、当然反対も出るでしょう。『知らぬ者を入れれば、后妃さまの身に危険が及ぶ』と」
実際に、その声を口にする顔がいくつも思い浮かぶ。白い衣をぴしりと着こなした年長の尚宮たち。規則と体面を何より重んじる人たち。
「……でも」
みうは思わず口を開いた。
「もし、その『危険』を減らす方法を一緒に考えられたら、どうでしょう」
「方法?」
「愛祈さんたちに道を整えてもらって、奈津海さんたちに布や衣を備えてもらって。陽苑の皆で、子どもたちを迎える準備をすれば」
景衣は、黙ってみうを見つめた。やがて、小さく息を吐く。
「私ひとりの判断で決められることではありません」
「ええ」
「でも、何も言わなければ、何も変わらない」
景衣は、自分自身に言い聞かせるように続けた。
「……わかりました。この案、まずは后妃さまのお耳に入れる前に、宮中の年長の方々に説明しましょう」
「それは助かります」
敏貴が、深く頭を下げた。
「反対されるのをわかっていて、あえて向かうのは得意ではないので」
「そこは、私の仕事です」
景衣は立ち上がり、紙束を整えた。
「言葉を選び、礼を尽くすこと。甘いものを少しだけ混ぜることも、考えてみます」
その横顔に、みうは小さく拳を握った。
(陽苑が外に向かって扉を開ける日が、本当に来るかもしれない)
◇
数日後。
後宮の一室に、年長の尚宮たちが集まっていた。壁には古い刺繍の掛け物が下がり、空気にはわずかな香の匂いが漂っている。
「――というわけで、『陽苑開放の日』という案が、陽苑の事務から上がってきております」
景衣は、部屋の中央で静かに頭を下げた。その手には、丁寧な字で書かれた一枚の文がある。
「陽苑で生まれた余裕を、王都の子どもたちに分けたい、と?」
白い眉をわずかに上げたのは、最年長の尚宮・綾篠だった。長年王妃さまに仕えてきたというその声には、重みがある。
「気持ちはわからなくはないが……」
別の尚宮が、扇を口元に当てた。
「後宮は、王の内側。外の者をむやみに入れるなど、聞いたことがありません」
「子どもと言えど、どんな病を運んでくるかわからない。療養所などから来られては」
「身分をどう扱うつもりです。王妃さまの庭に、出自の知れぬ子どもたちを?」
予想していた言葉が、次々と飛んでくる。みうは部屋の隅で湯を準備しながら、胸がきゅっと縮むのを感じていた。
(やっぱり、むずかしいのかな)
湯気の向こうで、景衣が一人ひとりの言葉を受け止めている。
「ご懸念はもっともです」
景衣は、深く頭を下げた。
「後宮の安全と秩序を守ることが、私たちの務めですから」
「ならば、この話はここまでに――」
「ですが」
景衣の声が、少しだけ強くなった。
「王妃さまご自身が、王都の外れの孤児院にこっそり寄付をしておられることは、ご存じでしょうか」
尚宮たちの間に、微妙な沈黙が走る。
「王妃さまは、宮中に上がられる前、ご実家の邸でよく孤児院の子どもたちを招き、庭で遊ばせておられたそうです」
景衣は、静かに続けた。
「ここ後宮の中で同じことを、とまでは申しません。ただ、『陽苑』という限られた場所で、ごく短い時間だけ扉を開くことができないかと」
「しかし……」
「病のことについては、医務室と相談し、診立ての済んだ子どものみとするつもりです」
敏貴が用意した紙から、景衣は一行を読み上げた。
「身分についても、『客』として迎え、后妃さまのお姿が見える範囲には決して近づけません」
尚宮たちが視線を交わし合う。
「道は、陽苑と王宮の門を一本だけ使います。警備は、先日『事故を減らす案』が採用された陽苑担当の隊が責任を持って付き添います」
「……あの愛祈という者か」
綾篠が、興味深そうに眉を上げた。
「はい。陽苑での巡回方法を工夫し、事故を減らした隊員です」
「聞いている。王宮の会議で名が挙がっていたな」
扇の陰の目が、少しだけ和らぐ。
「そして、陽苑の女官たちは、洗濯場も配膳も、他のどこよりも協力的です」
景衣の声には、迷いがなかった。
「彼女たちの手があれば、子どもたちの衣も床も、きれいに保てるでしょう」
「きれいに、ね」
綾篠は、湯飲みを手に取った。
「あなたは、後宮の中に外の土を持ち込むことを、どう思っていますか」
「土そのものは、持ち込めないでしょう」
景衣は、正面から視線を受け止めた。
「けれど、陽苑の窓から見える空と風くらいは、子どもたちに見せてあげたいと思います」
短い沈黙のあと、綾篠は小さく笑った。
「……言い回しが巧みになったわね、景衣」
「ありがとうございます」
「後宮が固く閉ざされていた頃なら、間違いなく却下していたところでしょう」
綾篠は、文を指先でとんとんと叩いた。
「だが、王妃さまが宮中に風を入れようとしておられる今ならば、一度くらい試みても罰は当たらぬかもしれない」
他の尚宮たちが、驚いたように目を見開く。
「その代わり」
綾篠の声が、少しだけ厳しくなる。
「何かあれば、陽苑が責任を負うことになります」
「覚悟のうえです」
景衣は迷いなく頭を下げた。
「後宮の顔は、私たちの顔でもありますから」
「よろしい」
綾篠は、扇を閉じた。
「では、『試み』として一度だけ許しましょう。様子を見て、続けるかどうかを決める」
「ありがとうございます」
景衣の胸の奥で、固く結んでいた息がほどけた。
部屋の隅で、お茶を運んでいたみうは、湯気の向こうでそっと拳を握った。
(本当に、『陽苑開放の日』が来るんだ)
◇
準備の日々は、あっという間に過ぎていった。
「当日の道筋は、ここからここまで。荷車と洗濯籠の通行時間と重ならないように、動線をずらす」
廊下に広げられた紙の上で、愛祈が指を動かす。赤い線が、門から陽苑の広間までを結んでいた。
「途中に滑りやすい石畳があるから、その前に布を敷こう。奈津海、洗濯場から一枚借りられるか」
「濡れてない布ならどうにかなるわ」
腕を組んだ奈津海が、地図を覗き込む。
「でも、子どもって言ったって、何歳くらいなのよ」
「孤児院からは七つから十くらいまで。療養所からは、少し身体の弱い子が数人来る予定だそうです」
みうが、文を手に説明する。
「走り回る年頃と、すぐに疲れてしまう年頃が混ざるのね」
奈津海の眉が、いつも通り不安そうに寄る。
「誰かが走って転んで、誰かが疲れて座り込んで、誰かが器をひっくり返して……」
「奈津海」
みうが、そっと声をかけた。
「『倒れる前に椅子を持っていく』んですよね?」
「……前にも言ったわね、そんなこと」
奈津海は、自分の言葉を思い出したように目を瞬いた。
「じゃあ、きょうは余分に腰掛けを用意しておくわ。転びそうな子には先に座ってもらう」
「ありがとうございます」
愛祈は、紙の端に小さく印をつけた。
「広間の中は?」
「机は低めにして、足をぶつけにくく。器は、割れにくいものを」
晴矢が、厨房から持ってきた器を並べていく。
「菜園の野菜で作るのは、柔らかく煮込んだ粥と、根菜のすりつぶし。それに、あまり歯に負担のかからない甘いものを少し」
「甘いもの!」
みうの目が輝いた。
「どんなものにしますか?」
「景衣さまにも召し上がっていただけるように、こっそり考えておきます」
晴矢は、冗談めかして笑った。
陽苑全体が、少しずつ落ち着かない空気に包まれていく。けれど、そのざわめきは、不安だけではなく、どこか楽しげでもあった。
◇
「陽苑開放の日」の朝は、雲一つない青空だった。
門の前に立った愛祈は、胸の前で手を組み、深く息を吸った。遠くから、子どもたちの話し声が近づいてくる。
「列を崩さないように。手を離さないで」
孤児院の院長と療養所の医師が、子どもたちの先頭と最後尾に立っている。小さな手が、帯や袖をしっかりと掴んでいた。
「陽苑までの道のりは、少し長いけれど」
愛祈は、子どもたちの目線に合わせて腰を落とした。
「途中で何か困ったことがあったら、すぐに声を出してくれ。大きな声で『助けて』と言えれば、それだけで立派なことだ」
子どもたちの目が、一斉に丸くなる。
「怖くなったら?」
「怖くなったら、隣の人の袖を掴め。掴む袖がなければ、俺の袖を掴め」
「あなたの袖、濡れてたりしない?」
一人の少年が恐る恐る聞くと、愛祈は笑った。
「きょうは乾いている」
笑いが、小さな波紋のように広がった。
陽苑の門をくぐると、廊下には滑り止めの布が何枚も敷かれている。窓から差し込む光が、床に柔らかな模様を描いていた。
広間の戸が開くと、温かな湯気が一気にあふれ出す。
「わあ……」
子どもたちの口から、自然と声が漏れた。
机には、粥と野菜の煮込みが並んでいる。器はどれも手に持ちやすい大きさで、湯気の向こうに、菜園で見たことのある葉の形が浮かんでいた。
「ようこそ、陽苑へ」
みうが、広間の中央で頭を下げた。背筋は、景衣に教わった通りに伸びている。
「きょうは、みんなにゆっくりご飯を食べてもらう日です。急がなくていいので、温かいうちに、少しずつ口に運んでくださいね」
子どもたちの間を、奈津海が慎重に歩いていく。手には布と、予備の腰掛け。
(誰かが器をひっくり返して、誰かが床で滑って、誰かが粥をこぼして泣いて)
最初に頭をよぎるのは、やっぱり最悪の光景だった。
(そのとき私は、どう動けばいいんだろう)
考えすぎて、一瞬足が止まりかけた。そのとき。
「あの……」
袖口に、小さな重さが伝わった。
見下ろすと、細い腕の子どもが奈津海のエプロンの裾をぎゅっと掴んでいる。顔色は少し青白く、息も浅い。療養所から来た子だろう。
「どうしたの」
「……椅子、座ってていいですか」
周りの子どもたちは、粥の湯気に目を輝かせながら、椀を手にしている。この子だけは、まだ椀に手を伸ばせずにいた。
「足が、ちょっと、ふらふらして」
奈津海の頭の中で、最悪の文字が一瞬真っ赤に光った。
(この子がここで倒れたら。頭を打ったら。熱がぶり返したら)
いつものように、悪い想像が一気に膨らむ。
けれど、子どもの手は、ただエプロンを掴んでいるだけだった。引き止めてもいないし、乱暴に引っ張ってもいない。ただ、「ここにいていいですか」と尋ねている。
奈津海は、深く息を吸った。
「いいわよ」
自分でも驚くほど、自然に声が出た。
「椅子、二つ持ってくるから」
近くの壁際から腰掛けを二つ抱えて戻ると、一つを子どもの背中の後ろにそっと置き、もう一つには自分が腰を下ろした。
「ほら。転びそうになったら、すぐに座れるでしょう」
子どもが、ぱちぱちと瞬きをした。
「一緒に、座るんですか」
「ええ。立って見張ってると怖いかしらと思って」
奈津海は、自分でも信じられないくらい柔らかく笑った。
「……ありがとう、ございます」
か細い声が、胸の奥まで届く。
「お粥、少し冷めてからにする?」
「はい。熱いと、咳が出るから」
「じゃあ、わたしが少し混ぜてあげる」
椀の縁をそっと指で押し、湯気を逃がしながら、奈津海はふっと思う。
(最悪を想像するのは、きっとやめられない)
けれど。
(その前に、椅子を二つ持ってくればいい)
目の前の子どもが真っ直ぐにこちらを見上げている。奈津海は、その視線から目をそらさずに、もう一度笑ってみせた。
◇
「陽苑開放の日」が終わる頃、広間には小さな紙片がいくつも残されていた。
『ごはん、おいしかったです』
『また、そらをみたいです』
『あったかかった』
字の形はまちまちで、ところどころ間違いだらけ。でも、そのどれもが、陽苑の一日を指さしていた。
「これ、どうしますか」
みうが紙片を集めながら尋ねると、敏貴は少し考えてから答えた。
「事務室の帳簿の棚の、藍色の背表紙の隣に挟んでおこう」
「帳簿と一緒に?」
「うん。『陽苑で生まれた余裕が、どこへ行ったか』を忘れないために」
みうは、胸がいっぱいになってうなずいた。
その夜、「ありがとうの練習帳」の新しいページには、いつもより文字が小さくぎっしりと並んだ。
『陽苑まで来てくれた子どもたちへ。空とご飯の味を一緒に分けてくれてありがとう』
『反対しながらも、一度だけ試してみることを許してくれた尚宮さま方へ。扉を開ける勇気を貸してくださってありがとう』
『椅子を二つ持ってきてくれた奈津海さんへ。最悪の前に座らせてくれてありがとう』
陽苑の夜空は、いつもより少しだけ高く見えた。
開いた扉から入ってきた小さな足跡と笑い声は、床の水拭きが終わったあとも、しばらくの間、陽苑の空気の中に残り続けるのだった。
棚に並ぶ帳簿の山は、今日も変わらず背表紙をこちらに向けている。けれど、その一列の中で、ひときわ新しい色の背表紙が目を引いた。
「……色を変えたんですか?」
みうがそっと尋ねると、机の向こうで筆を動かしていた敏貴が顔を上げた。
「気づいた?」
「はい。いつもの茶色じゃなくて、少し明るい色で」
薄い藍色の背には、『陽苑 余剰分の使い道』と小さく書かれている。
「王宮全体の帳簿とは別に、陽苑だけでどれだけ工夫して支出を抑えられたかをまとめたものだよ」
敏貴は、眼鏡を指で押し上げた。
「十年計画の紙を作ったときから、少しずつね。洗剤の使い方を見直したり、菜園の保存食を増やしたり。小さな積み重ねだけど、数字で見ると、ちゃんと形になってきた」
「へえ……」
みうは、思わず身を乗り出す。
「それだけ節約できたら、王宮に返すんですか?」
「それもひとつの選び方だけれど」
敏貴は、藍色の帳簿を軽く叩いた。
「陽苑で生まれた余裕を、陽苑らしい形で使うこともできるはずだと思ってね」
「陽苑らしい形……」
「身体をあたためることと、誰かの一日を少し楽にすること。その二つをいっぺんにできる使い方」
みうが首をかしげていると、事務室の戸が軽く叩かれた。
「入っていい?」
顔を覗かせたのは、景衣だった。朝の読み合わせを終えたところらしく、手には数枚の紙束がある。
「お邪魔かしら」
「むしろ、ちょうどいいところです」
敏貴は立ち上がり、筆を置いた。
「景衣さまにも見ていただきたい案がありまして」
◇
湯気の少ない静かな茶が三人に行き渡ったところで、敏貴は藍色の帳簿を開いた。
「これが、ここ数年の陽苑の支出と収入の記録です」
「先日の監査のときに見せていたものとは別なんですね」
「はい。あれは王宮全体に出すためのもの。こっちは、陽苑の中でだけ回覧するつもりでまとめました」
ページには、細かな数字と共に、ところどころ余白に小さな文字が書き込まれている。
『洗剤の希釈率を見直し、皮膚への負担が増えない範囲で使用量を調整』
『保存食の仕込みを増やし、急な雨の日の買い出しを減らす』
「こうして見てみると、皆さんの工夫のおかげで、実はそれなりの余裕が生まれている」
敏貴は、指先である行を示した。
「特に、去年からは陽苑だけで見ると、毎年小さな黒字が続いている」
「黒字……」
みうは、どきりとする言葉に思わず身を固くした。
「その言い方、何か怖いです」
「怖がらなくていい。むしろ誇っていいところだよ」
敏貴は、柔らかく笑った。
「そこで考えたんです。この余裕を、陽苑の外の誰かのためにも使えないかと」
「外?」
景衣が、ゆっくりと問い返した。その目には、どこか慎重な色が混じる。
「王宮の外、王都の……」
「孤児院と、療養所です」
敏貴は、ためらいなく答えた。
「王都の外れにある『朝露の家』と、川沿いの小高い丘にある療養所。どちらも、人手もお金も決して豊かとは言えない場所です」
みうの脳裏に、宿の常連客が話していた噂がよぎる。咳の止まらない子どもたち。窓から空だけを見ている子。街角で、古いパンを分け合っていた小さな背中たち。
「王宮にいると、『向こう側』の子どもたちの顔はなかなか見えなくなる。でも、陽苑でいったん立ち止まって考えてみたら、ここにも余裕がある」
敏貴は、ペンを別の紙に走らせた。
「季節に一度でいい。孤児院や療養所の子どもたちを少しだけ陽苑に招いて、温かいご飯を食べてもらう日を作る」
「……」
「名付けて、『陽苑開放の日』」
みうの胸が、どくんと大きく鳴った。
「陽苑に、外から子どもたちを?」
「もちろん、後宮の内規や警備の都合もある。だから、最初からあちこち歩き回ってもらうつもりはない」
敏貴は、紙に簡単な図を描いた。陽苑への通路と、中庭に面した広間、厨房の位置。
「王宮の門から陽苑の広間まで、決められた道を歩いてもらう。その間、警備は愛祈たちが付き添う。陽苑では、中庭に面した広間だけを使う」
「広間だけ……」
「外の景色を見ながらご飯を食べるには、十分な場所だよ」
敏貴は、図の中に小さく丸を描いた。
「菜園の野菜で作った汁物と、柔らかいご飯。それに、少しだけ甘いもの。陽苑の十年計画の中で、充分まかなえる範囲だ」
みうの目の奥に、小さな光が灯る。
「……素敵です」
思わず、口をついて出た。
「宿にいた頃、お金のない旅人がいても、母はまかないの鍋から少しだけ多めにすくってました。『たまたま余ったから』って言いながら」
その姿を思い出すと、鼻の奥が少しツンとした。
「陽苑にも、たまたま生まれた余裕があるなら。誰かの一日に『余った湯気』を分けてあげられたら……」
「みう」
景衣の声が、そっと挟まった。その表情は厳しくも見えるが、瞳の底には迷いが揺れている。
「気持ちはわかります。けれど、後宮はもともと、外からの出入りを厳しく制限している場所です」
「はい」
「身分の違う子どもたちを中に招き入れるとなれば、当然反対も出るでしょう。『知らぬ者を入れれば、后妃さまの身に危険が及ぶ』と」
実際に、その声を口にする顔がいくつも思い浮かぶ。白い衣をぴしりと着こなした年長の尚宮たち。規則と体面を何より重んじる人たち。
「……でも」
みうは思わず口を開いた。
「もし、その『危険』を減らす方法を一緒に考えられたら、どうでしょう」
「方法?」
「愛祈さんたちに道を整えてもらって、奈津海さんたちに布や衣を備えてもらって。陽苑の皆で、子どもたちを迎える準備をすれば」
景衣は、黙ってみうを見つめた。やがて、小さく息を吐く。
「私ひとりの判断で決められることではありません」
「ええ」
「でも、何も言わなければ、何も変わらない」
景衣は、自分自身に言い聞かせるように続けた。
「……わかりました。この案、まずは后妃さまのお耳に入れる前に、宮中の年長の方々に説明しましょう」
「それは助かります」
敏貴が、深く頭を下げた。
「反対されるのをわかっていて、あえて向かうのは得意ではないので」
「そこは、私の仕事です」
景衣は立ち上がり、紙束を整えた。
「言葉を選び、礼を尽くすこと。甘いものを少しだけ混ぜることも、考えてみます」
その横顔に、みうは小さく拳を握った。
(陽苑が外に向かって扉を開ける日が、本当に来るかもしれない)
◇
数日後。
後宮の一室に、年長の尚宮たちが集まっていた。壁には古い刺繍の掛け物が下がり、空気にはわずかな香の匂いが漂っている。
「――というわけで、『陽苑開放の日』という案が、陽苑の事務から上がってきております」
景衣は、部屋の中央で静かに頭を下げた。その手には、丁寧な字で書かれた一枚の文がある。
「陽苑で生まれた余裕を、王都の子どもたちに分けたい、と?」
白い眉をわずかに上げたのは、最年長の尚宮・綾篠だった。長年王妃さまに仕えてきたというその声には、重みがある。
「気持ちはわからなくはないが……」
別の尚宮が、扇を口元に当てた。
「後宮は、王の内側。外の者をむやみに入れるなど、聞いたことがありません」
「子どもと言えど、どんな病を運んでくるかわからない。療養所などから来られては」
「身分をどう扱うつもりです。王妃さまの庭に、出自の知れぬ子どもたちを?」
予想していた言葉が、次々と飛んでくる。みうは部屋の隅で湯を準備しながら、胸がきゅっと縮むのを感じていた。
(やっぱり、むずかしいのかな)
湯気の向こうで、景衣が一人ひとりの言葉を受け止めている。
「ご懸念はもっともです」
景衣は、深く頭を下げた。
「後宮の安全と秩序を守ることが、私たちの務めですから」
「ならば、この話はここまでに――」
「ですが」
景衣の声が、少しだけ強くなった。
「王妃さまご自身が、王都の外れの孤児院にこっそり寄付をしておられることは、ご存じでしょうか」
尚宮たちの間に、微妙な沈黙が走る。
「王妃さまは、宮中に上がられる前、ご実家の邸でよく孤児院の子どもたちを招き、庭で遊ばせておられたそうです」
景衣は、静かに続けた。
「ここ後宮の中で同じことを、とまでは申しません。ただ、『陽苑』という限られた場所で、ごく短い時間だけ扉を開くことができないかと」
「しかし……」
「病のことについては、医務室と相談し、診立ての済んだ子どものみとするつもりです」
敏貴が用意した紙から、景衣は一行を読み上げた。
「身分についても、『客』として迎え、后妃さまのお姿が見える範囲には決して近づけません」
尚宮たちが視線を交わし合う。
「道は、陽苑と王宮の門を一本だけ使います。警備は、先日『事故を減らす案』が採用された陽苑担当の隊が責任を持って付き添います」
「……あの愛祈という者か」
綾篠が、興味深そうに眉を上げた。
「はい。陽苑での巡回方法を工夫し、事故を減らした隊員です」
「聞いている。王宮の会議で名が挙がっていたな」
扇の陰の目が、少しだけ和らぐ。
「そして、陽苑の女官たちは、洗濯場も配膳も、他のどこよりも協力的です」
景衣の声には、迷いがなかった。
「彼女たちの手があれば、子どもたちの衣も床も、きれいに保てるでしょう」
「きれいに、ね」
綾篠は、湯飲みを手に取った。
「あなたは、後宮の中に外の土を持ち込むことを、どう思っていますか」
「土そのものは、持ち込めないでしょう」
景衣は、正面から視線を受け止めた。
「けれど、陽苑の窓から見える空と風くらいは、子どもたちに見せてあげたいと思います」
短い沈黙のあと、綾篠は小さく笑った。
「……言い回しが巧みになったわね、景衣」
「ありがとうございます」
「後宮が固く閉ざされていた頃なら、間違いなく却下していたところでしょう」
綾篠は、文を指先でとんとんと叩いた。
「だが、王妃さまが宮中に風を入れようとしておられる今ならば、一度くらい試みても罰は当たらぬかもしれない」
他の尚宮たちが、驚いたように目を見開く。
「その代わり」
綾篠の声が、少しだけ厳しくなる。
「何かあれば、陽苑が責任を負うことになります」
「覚悟のうえです」
景衣は迷いなく頭を下げた。
「後宮の顔は、私たちの顔でもありますから」
「よろしい」
綾篠は、扇を閉じた。
「では、『試み』として一度だけ許しましょう。様子を見て、続けるかどうかを決める」
「ありがとうございます」
景衣の胸の奥で、固く結んでいた息がほどけた。
部屋の隅で、お茶を運んでいたみうは、湯気の向こうでそっと拳を握った。
(本当に、『陽苑開放の日』が来るんだ)
◇
準備の日々は、あっという間に過ぎていった。
「当日の道筋は、ここからここまで。荷車と洗濯籠の通行時間と重ならないように、動線をずらす」
廊下に広げられた紙の上で、愛祈が指を動かす。赤い線が、門から陽苑の広間までを結んでいた。
「途中に滑りやすい石畳があるから、その前に布を敷こう。奈津海、洗濯場から一枚借りられるか」
「濡れてない布ならどうにかなるわ」
腕を組んだ奈津海が、地図を覗き込む。
「でも、子どもって言ったって、何歳くらいなのよ」
「孤児院からは七つから十くらいまで。療養所からは、少し身体の弱い子が数人来る予定だそうです」
みうが、文を手に説明する。
「走り回る年頃と、すぐに疲れてしまう年頃が混ざるのね」
奈津海の眉が、いつも通り不安そうに寄る。
「誰かが走って転んで、誰かが疲れて座り込んで、誰かが器をひっくり返して……」
「奈津海」
みうが、そっと声をかけた。
「『倒れる前に椅子を持っていく』んですよね?」
「……前にも言ったわね、そんなこと」
奈津海は、自分の言葉を思い出したように目を瞬いた。
「じゃあ、きょうは余分に腰掛けを用意しておくわ。転びそうな子には先に座ってもらう」
「ありがとうございます」
愛祈は、紙の端に小さく印をつけた。
「広間の中は?」
「机は低めにして、足をぶつけにくく。器は、割れにくいものを」
晴矢が、厨房から持ってきた器を並べていく。
「菜園の野菜で作るのは、柔らかく煮込んだ粥と、根菜のすりつぶし。それに、あまり歯に負担のかからない甘いものを少し」
「甘いもの!」
みうの目が輝いた。
「どんなものにしますか?」
「景衣さまにも召し上がっていただけるように、こっそり考えておきます」
晴矢は、冗談めかして笑った。
陽苑全体が、少しずつ落ち着かない空気に包まれていく。けれど、そのざわめきは、不安だけではなく、どこか楽しげでもあった。
◇
「陽苑開放の日」の朝は、雲一つない青空だった。
門の前に立った愛祈は、胸の前で手を組み、深く息を吸った。遠くから、子どもたちの話し声が近づいてくる。
「列を崩さないように。手を離さないで」
孤児院の院長と療養所の医師が、子どもたちの先頭と最後尾に立っている。小さな手が、帯や袖をしっかりと掴んでいた。
「陽苑までの道のりは、少し長いけれど」
愛祈は、子どもたちの目線に合わせて腰を落とした。
「途中で何か困ったことがあったら、すぐに声を出してくれ。大きな声で『助けて』と言えれば、それだけで立派なことだ」
子どもたちの目が、一斉に丸くなる。
「怖くなったら?」
「怖くなったら、隣の人の袖を掴め。掴む袖がなければ、俺の袖を掴め」
「あなたの袖、濡れてたりしない?」
一人の少年が恐る恐る聞くと、愛祈は笑った。
「きょうは乾いている」
笑いが、小さな波紋のように広がった。
陽苑の門をくぐると、廊下には滑り止めの布が何枚も敷かれている。窓から差し込む光が、床に柔らかな模様を描いていた。
広間の戸が開くと、温かな湯気が一気にあふれ出す。
「わあ……」
子どもたちの口から、自然と声が漏れた。
机には、粥と野菜の煮込みが並んでいる。器はどれも手に持ちやすい大きさで、湯気の向こうに、菜園で見たことのある葉の形が浮かんでいた。
「ようこそ、陽苑へ」
みうが、広間の中央で頭を下げた。背筋は、景衣に教わった通りに伸びている。
「きょうは、みんなにゆっくりご飯を食べてもらう日です。急がなくていいので、温かいうちに、少しずつ口に運んでくださいね」
子どもたちの間を、奈津海が慎重に歩いていく。手には布と、予備の腰掛け。
(誰かが器をひっくり返して、誰かが床で滑って、誰かが粥をこぼして泣いて)
最初に頭をよぎるのは、やっぱり最悪の光景だった。
(そのとき私は、どう動けばいいんだろう)
考えすぎて、一瞬足が止まりかけた。そのとき。
「あの……」
袖口に、小さな重さが伝わった。
見下ろすと、細い腕の子どもが奈津海のエプロンの裾をぎゅっと掴んでいる。顔色は少し青白く、息も浅い。療養所から来た子だろう。
「どうしたの」
「……椅子、座ってていいですか」
周りの子どもたちは、粥の湯気に目を輝かせながら、椀を手にしている。この子だけは、まだ椀に手を伸ばせずにいた。
「足が、ちょっと、ふらふらして」
奈津海の頭の中で、最悪の文字が一瞬真っ赤に光った。
(この子がここで倒れたら。頭を打ったら。熱がぶり返したら)
いつものように、悪い想像が一気に膨らむ。
けれど、子どもの手は、ただエプロンを掴んでいるだけだった。引き止めてもいないし、乱暴に引っ張ってもいない。ただ、「ここにいていいですか」と尋ねている。
奈津海は、深く息を吸った。
「いいわよ」
自分でも驚くほど、自然に声が出た。
「椅子、二つ持ってくるから」
近くの壁際から腰掛けを二つ抱えて戻ると、一つを子どもの背中の後ろにそっと置き、もう一つには自分が腰を下ろした。
「ほら。転びそうになったら、すぐに座れるでしょう」
子どもが、ぱちぱちと瞬きをした。
「一緒に、座るんですか」
「ええ。立って見張ってると怖いかしらと思って」
奈津海は、自分でも信じられないくらい柔らかく笑った。
「……ありがとう、ございます」
か細い声が、胸の奥まで届く。
「お粥、少し冷めてからにする?」
「はい。熱いと、咳が出るから」
「じゃあ、わたしが少し混ぜてあげる」
椀の縁をそっと指で押し、湯気を逃がしながら、奈津海はふっと思う。
(最悪を想像するのは、きっとやめられない)
けれど。
(その前に、椅子を二つ持ってくればいい)
目の前の子どもが真っ直ぐにこちらを見上げている。奈津海は、その視線から目をそらさずに、もう一度笑ってみせた。
◇
「陽苑開放の日」が終わる頃、広間には小さな紙片がいくつも残されていた。
『ごはん、おいしかったです』
『また、そらをみたいです』
『あったかかった』
字の形はまちまちで、ところどころ間違いだらけ。でも、そのどれもが、陽苑の一日を指さしていた。
「これ、どうしますか」
みうが紙片を集めながら尋ねると、敏貴は少し考えてから答えた。
「事務室の帳簿の棚の、藍色の背表紙の隣に挟んでおこう」
「帳簿と一緒に?」
「うん。『陽苑で生まれた余裕が、どこへ行ったか』を忘れないために」
みうは、胸がいっぱいになってうなずいた。
その夜、「ありがとうの練習帳」の新しいページには、いつもより文字が小さくぎっしりと並んだ。
『陽苑まで来てくれた子どもたちへ。空とご飯の味を一緒に分けてくれてありがとう』
『反対しながらも、一度だけ試してみることを許してくれた尚宮さま方へ。扉を開ける勇気を貸してくださってありがとう』
『椅子を二つ持ってきてくれた奈津海さんへ。最悪の前に座らせてくれてありがとう』
陽苑の夜空は、いつもより少しだけ高く見えた。
開いた扉から入ってきた小さな足跡と笑い声は、床の水拭きが終わったあとも、しばらくの間、陽苑の空気の中に残り続けるのだった。
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