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第9話「鉄扉の先へ」
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8月3日、午前9時10分。
景子の遺体を仮布で覆い、涙と沈黙の時間を経たあと――駈たちは島の中央部に位置する崩落した坑道の入口に立っていた。
「地図のこのポイント、“A-7”……景子が灯台で見つけた記録と同じ」
乙葉が静かに地図を指差した。「この坑道の奥に、旧軍の研究施設がある可能性が高い」
「これ、崩れてるように見えるけど……人工的に埋められた跡だな」
悠が崩落面の岩肌に触れた。「見て、これ。鋼鉄製の扉。鍵が……かかってる」
駈が懐中電灯を掲げて確認する。
土砂の間から、厚さ15センチ以上はある鋼鉄の扉が顔を覗かせていた。中心にはひしゃげた南京錠。無理にこじ開けようとした痕跡があり、周囲には古い焼け跡も残っている。
「これ、誰かが外側から爆破を試みてる……」
瑛美がしゃがみ込み、指で焦げ痕をなぞる。「でも開かなかった。ってことは、中には“何か”があったってことだよね」
「どうやって入る?」一平が腰を落とし、土をいじる。
「掘り返すのは時間がかかる。ルートはもう一つ探すべきだ」
乙葉が冷静に周囲を見回す。「……あった。こっち」
指差したのは、坑道に沿って続く斜面の上。崩れた土砂の横に、半ば埋もれた換気口のようなものがあった。
「もしこれが旧研究区画の通気管なら……」
「入れるかも」駈が頷く。「誰か、ついてきてくれ」
「私行く」瑛美が即答した。
「僕も」悠が言う。
「じゃあ、残りはここで見張りと待機だ」乙葉が指示を出す。「ガスマスクとライトは持って。酸素量に注意して、20分で戻る」
*
通気口は、人一人が這って通れるかどうかの狭さだった。
3人は顔を伏せるようにして這い進む。土の匂いと金属の錆の混じった空気が、鼻をついた。
「……この先、少し広くなってる」
駈が声を潜めた。
通気口の先にあったのは、地下へとつながるコンクリート階段。壁面にはかつて蛍光灯が設置されていたらしき器具と、すでに読めない注意標識。
「まじで“施設”だったんだ……」
瑛美が肩越しに囁いた。「ねぇ、音、聞こえない?」
全員が黙る。確かに、かすかに――金属の擦れるような、機械的な“軋み”が聞こえる。
「動いてるわけじゃない……“残響”だ。地下の構造が広くて、音を反射してる」
悠が囁いた。
3人は階段を降りた。地下1階。そこには、封鎖された鋼鉄の扉が一枚――だが、その横の通用口はすでに開かれていた。内部には埃と腐食臭、そして……
「……映写機?」
駈が息を呑む。
中央に置かれた、旧型の映写装置。台座には“1945年8月5日”と書かれた札。そして、その隣には手書きの札が貼られていた。
《実験記録:K-藤 進化観察用》
「再生する……?」瑛美がスイッチに手をかけた。
駈はうなずく。「覚悟があるなら。見るのは、島の“真実”だ」
景子の遺体を仮布で覆い、涙と沈黙の時間を経たあと――駈たちは島の中央部に位置する崩落した坑道の入口に立っていた。
「地図のこのポイント、“A-7”……景子が灯台で見つけた記録と同じ」
乙葉が静かに地図を指差した。「この坑道の奥に、旧軍の研究施設がある可能性が高い」
「これ、崩れてるように見えるけど……人工的に埋められた跡だな」
悠が崩落面の岩肌に触れた。「見て、これ。鋼鉄製の扉。鍵が……かかってる」
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「どうやって入る?」一平が腰を落とし、土をいじる。
「掘り返すのは時間がかかる。ルートはもう一つ探すべきだ」
乙葉が冷静に周囲を見回す。「……あった。こっち」
指差したのは、坑道に沿って続く斜面の上。崩れた土砂の横に、半ば埋もれた換気口のようなものがあった。
「もしこれが旧研究区画の通気管なら……」
「入れるかも」駈が頷く。「誰か、ついてきてくれ」
「私行く」瑛美が即答した。
「僕も」悠が言う。
「じゃあ、残りはここで見張りと待機だ」乙葉が指示を出す。「ガスマスクとライトは持って。酸素量に注意して、20分で戻る」
*
通気口は、人一人が這って通れるかどうかの狭さだった。
3人は顔を伏せるようにして這い進む。土の匂いと金属の錆の混じった空気が、鼻をついた。
「……この先、少し広くなってる」
駈が声を潜めた。
通気口の先にあったのは、地下へとつながるコンクリート階段。壁面にはかつて蛍光灯が設置されていたらしき器具と、すでに読めない注意標識。
「まじで“施設”だったんだ……」
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全員が黙る。確かに、かすかに――金属の擦れるような、機械的な“軋み”が聞こえる。
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「……映写機?」
駈が息を呑む。
中央に置かれた、旧型の映写装置。台座には“1945年8月5日”と書かれた札。そして、その隣には手書きの札が貼られていた。
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