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第10話「実験棟A-7」
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8月3日、午前11時30分。
地下の通気口から侵入した3人――駈、瑛美、悠は、旧研究施設の「実験棟A-7」に足を踏み入れていた。
暗がりの中で、埃まみれの映写装置が、異様な存在感を放っていた。
機械のそばに置かれたラベルには、鉛筆書きでこう記されている。
《1945年8月5日撮影/寄生植物“K-藤”/感染進行経過記録》
「再生、するよ」
瑛美がスイッチを押すと、プロジェクターの内部がガチャンと音を立てて回転を始めた。スクリーン代わりに、コンクリート壁に光が滲む。
そして――始まった。
*
映像は、白黒で、ブレが激しかった。だが、その“記録”は否応なく、三人の脳裏に焼きついた。
画面の中では、白衣の男が誰かにインタビューされている。
【実験主任:宮崎進。感染段階は三期。K-藤、宿主依存型。中枢寄生、確認】
彼の背後には、鉄格子の中に収容された男――いや、“元・人間”がいた。
全身に蔓のようなものが巻きつき、目は虚ろ、皮膚の半分は変色している。それでも、彼は喉から何かを絞り出そうとしていた。
「……たすけて……」
「やめて!!」
瑛美が思わず叫び、映像を止めようとした。だが、手は途中で止まる。駈がその手を掴んでいた。
「……最後まで、見る」
次の場面では、感染の経過がグラフとともに示されていた。
感染経路は、傷口または吸引。胞子は体内に入ると血管を通じて中枢神経に侵入、最終的には“宿主の意識”を保ったまま共生フェーズに至る。
つまり――
「……思考は残る。体は乗っ取られても、心は消えない」
悠が震えた声で呟いた。
映像は、突然終わった。
最後のフレームには、赤いマジックでこう書きなぐられていた。
《これを見た者は、島を封鎖せよ。生かして帰すな》
*
「……あり得ない」
施設を出るなり、一平が叫んだ。
「それ、嘘だろ!? 作り物だって言ってくれよ! そんなの、生きたまま“取り込まれる”って……」
瑛美は何も言わず、目を伏せた。
「なぁ駈、お前は、あれが現実だって本気で信じてんのかよ!?」
駈は静かにうなずいた。「あれがフィクションなら、誠人の体に“あんな変化”は起きない」
乙葉が冷静に口を開いた。「じゃあ、質問を変える。“私たちは、感染していない”って証明できる?」
誰も、答えられなかった。
「……ここからは、行動を分けるわけにはいかない」
悠が提案した。「情報の共有と、監視体制の強化。誠人の容体も含めて、これからは“自分たち自身”を疑う必要がある」
「つまり、仲間の中に、もう……」
一平の言葉は最後まで続かなかった。
そのとき。
遠くで「パーンッ!」と、乾いた破裂音が響いた。
「今の、爆発音……!?」
駈は反射的に振り向いた。「……南側だ。誰かが、弾薬庫を使った?」
「行かなきゃ」乙葉が即座に走り出す。
もう一つの“崩壊”が、始まりかけていた。
地下の通気口から侵入した3人――駈、瑛美、悠は、旧研究施設の「実験棟A-7」に足を踏み入れていた。
暗がりの中で、埃まみれの映写装置が、異様な存在感を放っていた。
機械のそばに置かれたラベルには、鉛筆書きでこう記されている。
《1945年8月5日撮影/寄生植物“K-藤”/感染進行経過記録》
「再生、するよ」
瑛美がスイッチを押すと、プロジェクターの内部がガチャンと音を立てて回転を始めた。スクリーン代わりに、コンクリート壁に光が滲む。
そして――始まった。
*
映像は、白黒で、ブレが激しかった。だが、その“記録”は否応なく、三人の脳裏に焼きついた。
画面の中では、白衣の男が誰かにインタビューされている。
【実験主任:宮崎進。感染段階は三期。K-藤、宿主依存型。中枢寄生、確認】
彼の背後には、鉄格子の中に収容された男――いや、“元・人間”がいた。
全身に蔓のようなものが巻きつき、目は虚ろ、皮膚の半分は変色している。それでも、彼は喉から何かを絞り出そうとしていた。
「……たすけて……」
「やめて!!」
瑛美が思わず叫び、映像を止めようとした。だが、手は途中で止まる。駈がその手を掴んでいた。
「……最後まで、見る」
次の場面では、感染の経過がグラフとともに示されていた。
感染経路は、傷口または吸引。胞子は体内に入ると血管を通じて中枢神経に侵入、最終的には“宿主の意識”を保ったまま共生フェーズに至る。
つまり――
「……思考は残る。体は乗っ取られても、心は消えない」
悠が震えた声で呟いた。
映像は、突然終わった。
最後のフレームには、赤いマジックでこう書きなぐられていた。
《これを見た者は、島を封鎖せよ。生かして帰すな》
*
「……あり得ない」
施設を出るなり、一平が叫んだ。
「それ、嘘だろ!? 作り物だって言ってくれよ! そんなの、生きたまま“取り込まれる”って……」
瑛美は何も言わず、目を伏せた。
「なぁ駈、お前は、あれが現実だって本気で信じてんのかよ!?」
駈は静かにうなずいた。「あれがフィクションなら、誠人の体に“あんな変化”は起きない」
乙葉が冷静に口を開いた。「じゃあ、質問を変える。“私たちは、感染していない”って証明できる?」
誰も、答えられなかった。
「……ここからは、行動を分けるわけにはいかない」
悠が提案した。「情報の共有と、監視体制の強化。誠人の容体も含めて、これからは“自分たち自身”を疑う必要がある」
「つまり、仲間の中に、もう……」
一平の言葉は最後まで続かなかった。
そのとき。
遠くで「パーンッ!」と、乾いた破裂音が響いた。
「今の、爆発音……!?」
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「行かなきゃ」乙葉が即座に走り出す。
もう一つの“崩壊”が、始まりかけていた。
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