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第18話「研究炉臨界」
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8月4日、午後2時10分。
朽網島地下――旧軍施設の最深部、研究炉室。
薄暗い空間に、警告灯の赤が滲むように点滅していた。コンクリートの壁はひび割れ、天井には寄生蔓がじわじわと染み込んでいる。
「進行してる……」
乙葉がモニターの数値を読み上げた。「冷却水温度、78度。炉心圧力、異常。……やっぱり、寄生蔓が“内部に侵入”してる」
「制御不能、ってことか?」駈が尋ねる。
「正確に言えば、“制御システムが機能していない”。寄生が、回路系を物理的に破壊してる。自動シャットダウンも無効。……このままじゃ、暴走する」
「……つまり、“爆発”する?」
乙葉は頷いた。
「ただし、ここは“実験用小型炉”。核爆発のような規模にはならない。だけど、蔓が広がっている今、爆心地になれば“焼き尽くす”ことはできる」
「……“島ごと封じる”手段になる」
瑛美がぽつりとつぶやいた。
炉室の中心にある巨大な金属の塊――研究炉。
その周囲を取り囲むように、蔓がまるで“心臓に絡む血管”のように縛りついていた。
「自爆トリガーは……ある。制御棒を“引き抜く”ことで、炉を臨界に追い込める」
乙葉が慎重に説明する。「でも、手動操作しかできない。安全距離に退避するまでに、時間が足りない可能性もある」
「タイマーは使えないのか?」駈が問う。
「物理タイマーをセットすれば、遅延は可能。でも、問題はもう一つある」
乙葉は炉の隙間から伸びていた“太い蔓”を指さした。
「この蔓、炉の“冷却水系統”に侵入してる。切り離さなければ、逆に“蔓が炉心に適応して、暴走を耐える”可能性もある」
「つまり……奴らは、“炉の熱”すら栄養にして生き延びようとしてる……」
悠が呆然と呟いた。
「一度は“焼いた”はずなのに、学習してるってことかよ……」一平の拳が震えていた。
「なら、やるしかない」
駈が静かに言う。「蔓を切って、トリガーを引いて、ここを焼く。それが、“終わらせる”手段だ」
「わたしがやる」
乙葉が言った。
「え――」
「解析と、装置の操作、物理トリガーの構造、全部理解してるのは私だけ。外からでは、切り離しも含めて正確に操作できない」
「でも……間に合わないかもしれないんだぞ」
「それでも、今、ここに“決断”しなければ、蔓は島を越えて拡がる。次は、“街”だよ」
駈が目を伏せた。
「……乙葉、お前が一番冷静なのはわかってる。でも、俺は……お前を置いてはいけない気がする」
「なら、最善のタイミングを見極めて。制御棒を抜いた瞬間から、カウントダウンが始まる。外に退避して、脱出準備を整えて」
乙葉の目は真っ直ぐで、澄んでいた。
誰よりも“現実”を直視していた。
そのとき――蔓の奥から、音がした。
ギチギチと、金属を軋ませるような音。
蔓が“炉心そのもの”を取り込もうとしている。
「もう、時間がない」
乙葉は決意をこめて、研究炉の操作盤に向かう。
駈は最後に、彼女の手を握った。
「約束しよう。絶対、迎えに来る」
「わかった。……わたし、もう迷わないよ」
そして乙葉は、制御棒のレバーを両手で掴み――
ゆっくりと、引き抜いた。
「――臨界モード、開始」
研究炉が赤く脈動し始める。
蔓が暴れ、天井から破片が落ち、施設全体がうねり始める。
“島の心臓”が、ついに鼓動を早めた。
朽網島地下――旧軍施設の最深部、研究炉室。
薄暗い空間に、警告灯の赤が滲むように点滅していた。コンクリートの壁はひび割れ、天井には寄生蔓がじわじわと染み込んでいる。
「進行してる……」
乙葉がモニターの数値を読み上げた。「冷却水温度、78度。炉心圧力、異常。……やっぱり、寄生蔓が“内部に侵入”してる」
「制御不能、ってことか?」駈が尋ねる。
「正確に言えば、“制御システムが機能していない”。寄生が、回路系を物理的に破壊してる。自動シャットダウンも無効。……このままじゃ、暴走する」
「……つまり、“爆発”する?」
乙葉は頷いた。
「ただし、ここは“実験用小型炉”。核爆発のような規模にはならない。だけど、蔓が広がっている今、爆心地になれば“焼き尽くす”ことはできる」
「……“島ごと封じる”手段になる」
瑛美がぽつりとつぶやいた。
炉室の中心にある巨大な金属の塊――研究炉。
その周囲を取り囲むように、蔓がまるで“心臓に絡む血管”のように縛りついていた。
「自爆トリガーは……ある。制御棒を“引き抜く”ことで、炉を臨界に追い込める」
乙葉が慎重に説明する。「でも、手動操作しかできない。安全距離に退避するまでに、時間が足りない可能性もある」
「タイマーは使えないのか?」駈が問う。
「物理タイマーをセットすれば、遅延は可能。でも、問題はもう一つある」
乙葉は炉の隙間から伸びていた“太い蔓”を指さした。
「この蔓、炉の“冷却水系統”に侵入してる。切り離さなければ、逆に“蔓が炉心に適応して、暴走を耐える”可能性もある」
「つまり……奴らは、“炉の熱”すら栄養にして生き延びようとしてる……」
悠が呆然と呟いた。
「一度は“焼いた”はずなのに、学習してるってことかよ……」一平の拳が震えていた。
「なら、やるしかない」
駈が静かに言う。「蔓を切って、トリガーを引いて、ここを焼く。それが、“終わらせる”手段だ」
「わたしがやる」
乙葉が言った。
「え――」
「解析と、装置の操作、物理トリガーの構造、全部理解してるのは私だけ。外からでは、切り離しも含めて正確に操作できない」
「でも……間に合わないかもしれないんだぞ」
「それでも、今、ここに“決断”しなければ、蔓は島を越えて拡がる。次は、“街”だよ」
駈が目を伏せた。
「……乙葉、お前が一番冷静なのはわかってる。でも、俺は……お前を置いてはいけない気がする」
「なら、最善のタイミングを見極めて。制御棒を抜いた瞬間から、カウントダウンが始まる。外に退避して、脱出準備を整えて」
乙葉の目は真っ直ぐで、澄んでいた。
誰よりも“現実”を直視していた。
そのとき――蔓の奥から、音がした。
ギチギチと、金属を軋ませるような音。
蔓が“炉心そのもの”を取り込もうとしている。
「もう、時間がない」
乙葉は決意をこめて、研究炉の操作盤に向かう。
駈は最後に、彼女の手を握った。
「約束しよう。絶対、迎えに来る」
「わかった。……わたし、もう迷わないよ」
そして乙葉は、制御棒のレバーを両手で掴み――
ゆっくりと、引き抜いた。
「――臨界モード、開始」
研究炉が赤く脈動し始める。
蔓が暴れ、天井から破片が落ち、施設全体がうねり始める。
“島の心臓”が、ついに鼓動を早めた。
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