19 / 26
第19話「孤独な観測者」
しおりを挟む
8月4日 午後4時00分。
瀬戸内海南西海域――観測船「あけぼの」艦橋。
海面にきらめく太陽の光が、やがて朱色へと変わりつつあった。
艦橋に設置された複数のモニターが、島の方角を指すと、そこには小さなシルエット。木々と山影が、水平線に黒く浮かんでいた。
「艦長、熱源センサー、再確認を」
副官の声に、初老の艦長・狩谷は手元のディスプレイを見つめた。
「……信じられん。島全体が……燃えている」
赤外線画像には、島の中心部から広がる明瞭な高熱域。その波形はまるで、脈動する“心臓”のようだった。
「自然発火ではありえないレベルの熱放射です。内部にエネルギー源があるとしか……」
「旧軍の実験施設があったという噂はあったが……」
そのとき、無線オペレーターが立ち上がった。
「微弱電波を傍受! 周波数は災害時緊急チャンネル! 音声、翻訳中!」
スピーカーから、ざらついた少女の声が流れた。
「……This is Kutsunami Island……We request immediate area closure……We are contaminated……Repeat, do not approach……」
「翻訳完了――“ここは朽網島です。即時の周辺封鎖を要求します。感染の可能性あり。接近を禁じます。繰り返します……”」
艦橋が静まり返る。
「子ども……だと?」狩谷が目を細めた。
無線は、途切れがちに続いていた。雑音混じりのその向こうから、再び声が届く。
「お願いです。私たちは、焼くことを選びました。だから、これ以上誰にも――届かないように、してください」
「島を、封鎖して……」
――春花の声だった。
かすれ、震え、それでも確かな決意を宿した言葉。
狩谷はしばし口をつぐみ、遠く島の方角へ視線を向けた。
「艦長、どうされますか?」
副官の問いに、狩谷は静かに答えた。
「船を迂回させろ。朽網島周辺には近づかない。災害管理庁に暗号文を打て。内容は、“局地的熱源異常、感染リスク高。自衛隊の即応待ち”。――いいな?」
「了解しました!」
命令が走り、艦橋の空気が動き出す。
ただ、狩谷だけはモニターに映る熱源の赤を、じっと見つめ続けていた。
「……島で何が起きている?」
その問いに、誰も答える者はいなかった。
そして、無線は静かに、完全に沈黙した。
瀬戸内海南西海域――観測船「あけぼの」艦橋。
海面にきらめく太陽の光が、やがて朱色へと変わりつつあった。
艦橋に設置された複数のモニターが、島の方角を指すと、そこには小さなシルエット。木々と山影が、水平線に黒く浮かんでいた。
「艦長、熱源センサー、再確認を」
副官の声に、初老の艦長・狩谷は手元のディスプレイを見つめた。
「……信じられん。島全体が……燃えている」
赤外線画像には、島の中心部から広がる明瞭な高熱域。その波形はまるで、脈動する“心臓”のようだった。
「自然発火ではありえないレベルの熱放射です。内部にエネルギー源があるとしか……」
「旧軍の実験施設があったという噂はあったが……」
そのとき、無線オペレーターが立ち上がった。
「微弱電波を傍受! 周波数は災害時緊急チャンネル! 音声、翻訳中!」
スピーカーから、ざらついた少女の声が流れた。
「……This is Kutsunami Island……We request immediate area closure……We are contaminated……Repeat, do not approach……」
「翻訳完了――“ここは朽網島です。即時の周辺封鎖を要求します。感染の可能性あり。接近を禁じます。繰り返します……”」
艦橋が静まり返る。
「子ども……だと?」狩谷が目を細めた。
無線は、途切れがちに続いていた。雑音混じりのその向こうから、再び声が届く。
「お願いです。私たちは、焼くことを選びました。だから、これ以上誰にも――届かないように、してください」
「島を、封鎖して……」
――春花の声だった。
かすれ、震え、それでも確かな決意を宿した言葉。
狩谷はしばし口をつぐみ、遠く島の方角へ視線を向けた。
「艦長、どうされますか?」
副官の問いに、狩谷は静かに答えた。
「船を迂回させろ。朽網島周辺には近づかない。災害管理庁に暗号文を打て。内容は、“局地的熱源異常、感染リスク高。自衛隊の即応待ち”。――いいな?」
「了解しました!」
命令が走り、艦橋の空気が動き出す。
ただ、狩谷だけはモニターに映る熱源の赤を、じっと見つめ続けていた。
「……島で何が起きている?」
その問いに、誰も答える者はいなかった。
そして、無線は静かに、完全に沈黙した。
0
あなたにおすすめの小説
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
未来スコープ ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―
米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」
平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。
好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。
旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。
見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。
未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。
誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。
藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。
この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。
感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。
読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。
しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。
そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。
そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる