朽網島サバイバル:高校生8人、寄生植物に侵された孤島からの脱出劇

乾為天女

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第19話「孤独な観測者」

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 8月4日 午後4時00分。
  瀬戸内海南西海域――観測船「あけぼの」艦橋。
 海面にきらめく太陽の光が、やがて朱色へと変わりつつあった。
  艦橋に設置された複数のモニターが、島の方角を指すと、そこには小さなシルエット。木々と山影が、水平線に黒く浮かんでいた。
 「艦長、熱源センサー、再確認を」
 副官の声に、初老の艦長・狩谷は手元のディスプレイを見つめた。
 「……信じられん。島全体が……燃えている」
 赤外線画像には、島の中心部から広がる明瞭な高熱域。その波形はまるで、脈動する“心臓”のようだった。
 「自然発火ではありえないレベルの熱放射です。内部にエネルギー源があるとしか……」
 「旧軍の実験施設があったという噂はあったが……」
 そのとき、無線オペレーターが立ち上がった。
 「微弱電波を傍受! 周波数は災害時緊急チャンネル! 音声、翻訳中!」
 スピーカーから、ざらついた少女の声が流れた。
 「……This is Kutsunami Island……We request immediate area closure……We are contaminated……Repeat, do not approach……」
 「翻訳完了――“ここは朽網島です。即時の周辺封鎖を要求します。感染の可能性あり。接近を禁じます。繰り返します……”」
 艦橋が静まり返る。
 「子ども……だと?」狩谷が目を細めた。
 無線は、途切れがちに続いていた。雑音混じりのその向こうから、再び声が届く。
 「お願いです。私たちは、焼くことを選びました。だから、これ以上誰にも――届かないように、してください」
 「島を、封鎖して……」
 ――春花の声だった。
 かすれ、震え、それでも確かな決意を宿した言葉。
  狩谷はしばし口をつぐみ、遠く島の方角へ視線を向けた。
 「艦長、どうされますか?」
 副官の問いに、狩谷は静かに答えた。
 「船を迂回させろ。朽網島周辺には近づかない。災害管理庁に暗号文を打て。内容は、“局地的熱源異常、感染リスク高。自衛隊の即応待ち”。――いいな?」
 「了解しました!」
 命令が走り、艦橋の空気が動き出す。
 ただ、狩谷だけはモニターに映る熱源の赤を、じっと見つめ続けていた。
 「……島で何が起きている?」
 その問いに、誰も答える者はいなかった。
  そして、無線は静かに、完全に沈黙した。
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