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第25話「蒼白の夜明け」
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8月5日 午前4時30分。
瀬戸内海・公海上。水平線からわずかに顔を出し始めた朝日が、雲を金色に染めていた。
――島は、遠ざかっていく。
駈たちの乗ったフェリーは、朽網島の北西6km地点を航行中だった。船体には、焼け焦げた痕跡と、錆びた古いラジオ機器、そして生存者5人の息遣いだけが残されていた。
「見えた……観測船だ!」
悠が叫ぶ。
沖合に、灰色の塗装を施した観測船「あけぼの」の艦影がゆらめいていた。
数分後、甲板に立った乗組員たちが、こちらへ手を振るのが見えた。
「本当に……助かったんだ」
春花の声が涙まじりにこぼれる。
フェリーが並走され、縄梯子が降ろされると、全員が交互に船へ移された。
甲板に上がった瞬間、強い消毒液の匂いが鼻を突いた。
「消毒エリアへ。全員、防疫処置を行います」
防護服を着た職員が淡々と指示する。
「その前に……これを見せられています」
別の職員が差し出したのは――“同意書”だった。
《本島における事象は未確認領域に属するため、国家の機密保持義務に則り、口外を禁ずる》
「なんだこれ……!」
駈が目を見開いた。
「今、ここで話すべきじゃない」
乙葉が静かに言った。「この船内では、私たちは“異物”扱いされてる。何を言っても記録に残されない」
「……くっそ……!」
駈は拳を握り締めたまま、紙を睨みつけた。
「……とりあえず、この場では“サインしたふり”をして、内部の安全な場所に移ろう」
悠が低く囁いた。
春花が紙とペンを震える手で取り、名前を書こうとしたが――止まった。
「……これ、ほんとに……いいのかな」
その声が、甲板の風に消えていく。
職員は何も言わない。が、その“沈黙”が、すべてを物語っていた。
――外の世界に戻れたとしても、彼らがいた場所は“なかったこと”にされるのだ。
フェリーの船首が海を割り、朝日に向かって進んでいく。
だが、その光は――どこか蒼白く、冷たかった。
瀬戸内海・公海上。水平線からわずかに顔を出し始めた朝日が、雲を金色に染めていた。
――島は、遠ざかっていく。
駈たちの乗ったフェリーは、朽網島の北西6km地点を航行中だった。船体には、焼け焦げた痕跡と、錆びた古いラジオ機器、そして生存者5人の息遣いだけが残されていた。
「見えた……観測船だ!」
悠が叫ぶ。
沖合に、灰色の塗装を施した観測船「あけぼの」の艦影がゆらめいていた。
数分後、甲板に立った乗組員たちが、こちらへ手を振るのが見えた。
「本当に……助かったんだ」
春花の声が涙まじりにこぼれる。
フェリーが並走され、縄梯子が降ろされると、全員が交互に船へ移された。
甲板に上がった瞬間、強い消毒液の匂いが鼻を突いた。
「消毒エリアへ。全員、防疫処置を行います」
防護服を着た職員が淡々と指示する。
「その前に……これを見せられています」
別の職員が差し出したのは――“同意書”だった。
《本島における事象は未確認領域に属するため、国家の機密保持義務に則り、口外を禁ずる》
「なんだこれ……!」
駈が目を見開いた。
「今、ここで話すべきじゃない」
乙葉が静かに言った。「この船内では、私たちは“異物”扱いされてる。何を言っても記録に残されない」
「……くっそ……!」
駈は拳を握り締めたまま、紙を睨みつけた。
「……とりあえず、この場では“サインしたふり”をして、内部の安全な場所に移ろう」
悠が低く囁いた。
春花が紙とペンを震える手で取り、名前を書こうとしたが――止まった。
「……これ、ほんとに……いいのかな」
その声が、甲板の風に消えていく。
職員は何も言わない。が、その“沈黙”が、すべてを物語っていた。
――外の世界に戻れたとしても、彼らがいた場所は“なかったこと”にされるのだ。
フェリーの船首が海を割り、朝日に向かって進んでいく。
だが、その光は――どこか蒼白く、冷たかった。
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