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◇美人の隠し味◇
※(過去に働いていた会社の同僚の体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
【大・好・物】
過去、いくつかの会社に勤務していたとき、同僚のひとりで、かなりの「めんくい」がいました。今で言うところの「ルッキズム」です。
とにかく、「顔が可愛い、美人、スタイルがいい」が付き合う基準で、見た目重視、性格はアクセサリー程度でいいと。
過去、付き合っていた女性たちも、見栄えの良い人ばかりでしたが、とうとう、結婚を決意するお相手と出会ったのです。
ケーキやマフィン、クッキーなど、お菓子を作るのが得意な、家柄の良い娘さんで、今まで付き合ってきた人の中で、すべてにおいて、同僚の理想どおりなのだそう。
皆が祝福し、新婚の二人は南の島でハネムーンを満喫して、仕事に戻るまでの数日、食事はデリバリーを使って過ごしていました。
会社へ再び出勤の日となり、同僚は、ふと、新妻に新居で初めての手料理をリクエストすることにしたのです。
『俺、クラムチャウダーが好きなんだけど、作れる?』
『うーん、作ったことはないけど、ネットで材料を調べてやってみる』
同僚は実家で母親に食事を作ってもらっていましたが、会社勤めになってからはファストフードかコンビニ弁当が定番で、自分で作ったことがありません。
もちろん、自宅マンションのキッチンで、一度も立った試しもない。
しかし、これからは奥さんが、美味しい手料理を作ってくれると大喜びしていたのです。
『今夜、家に帰ったら、クラムチャウダーなんだよなあ』
『おお! 奥さんの手作りなんだ。うらやましい』
『これで、ようやく、コンビニ弁当卒業じゃないですか~!』
食堂でのろける同僚は、新婚らしく浮かれていました。
社員食堂は、お弁当の持ち込みもできましたが、何より、安くて美味しかったので、昼食は利用する社員がほとんどでした。
『デートに行ったとき、差し入れで貰ったチョコチップクッキーが絶品でさ。いや、本当、胃袋つかまれたって感じ?』
『お菓子作り得意なんですねぇ』
『そういえば、ウェディングケーキも奥さんが作ったって本当ですか?』
披露宴で出されるものは、大抵一部しか食べられない、九割発泡スチロールにクリームを塗りたくった、張りぼてウェディングケーキがほとんどです。
※(全部食べられるケーキや、来賓へ渡す用のケーキもあります)
しかし、奥さんは「来た人に食べてもらいたい」と、温度管理をしっかりして、手作りのウェディングケーキでケーキカットをしていました。
容姿端麗で性格も良い、気が利く理想の女性。
そんな、絵に描いたような奥さんと、この先の人生を歩んでいけるのですから、部署でも注目の的でした。
※※※※※
外食でしか食べたことがないクラムチャウダーを心待ちにしながら、帰宅して玄関ドアを開け、靴を脱ぐ動きを止めます。
部屋の中に、嗅いだことのない異臭が充満していたのです。
最初、ガス漏れだと思い、慌てて室内へ入りましたが、
『…あ……ただいま』
『おかえりなさい』
焦げた臭いと生臭さが混ざった空間で、奥さんは鼻が利いていないのか、まったく気にしていない様子でした。
“慣れてないものを作ったので失敗しちゃったのか”
好物が食べられるとウキウキしていた気持ちが、一気にしぼんでいきます。
ですが、自分の好きな女性が頑張ってくれたのです。もしかしたら、臭いとは別で、味は美味しいかもしれません。
空腹だったのもあり、同僚は手を洗ってからキッチンへ向かい、ホウロウ鍋の中をかき混ぜている奥さんに声をかけました。
『忙しいのに、リクエストだなんて、無理言っちゃったかな?』
『そんなことないよ! ちゃんとネットで調べて煮込み時間もしっかり守ったから』
シチュー皿へよそわれたクラムチャウダーは、とても美味しそうに見えます。
ですが、そこから立ちのぼる湯気からは、初夏の水路のような饐えた臭いが漂ってくるので、自然と息を止めてしまう自分がいるのです。
ちゃんと味見をしたのだろうか……。
いや、平気だよな。作った本人は大丈夫そうだし。
テーブルに着くと、キツネ色のガーリックトーストが皿の横へ置かれます。
トーストからは焼けたパンの香りしかしなかったので、少しだけホッとしました。
『どうぞ、召し上がれ』
『ありがとう。いただきます』
ガラスピッチャーに入っている水を、グラスに注いで飲んでから、ガーリックトーストを口に入れました。バケットで作られているそれは、オリーブオイルと香ばしいニンニクの風味がよく合っています。
『うん、すごく美味しいよ!』
『よかった! ガーリックトーストはよく作って食べてたからネットで調べなくても作れちゃう』
完食しそうな勢いで頬張っている夫の姿を、新妻は嬉しそうに見ています。
この後、メインディッシュが待っているのですから、同僚の心中は穏やかと言えません。
いよいよ観念して、スプーンを手に取り皿の中を改めて眺めました。
見た目は完璧。何の支障もなく、むしろ料理本の見本のようなのです。
問題はその臭い。ベーコンや貝類が入っているとはいえ、こんな臭いを経験したことがありません。もしかしたら、材料が腐っているのか。そう思えるほどの異臭レベルなのです。
『いただきま、す』
覚悟を決めて、スプーンでクラムチャウダーをすくって口へ運びました。途端に口いっぱいに生臭い、例えようもないものが潰れて、上顎と舌を染めていきます。
見た目とは違う味に、頭の中がバグり、体が拒絶で固まります。
同僚は呻いて、唇を閉じましたが反射的に吐き出しそうになり、理性で、自分が作ってくれと頼んだものを、食卓の上へ戻すなどあってはならない。最悪の記憶になる。と、何とか口内で留めています。
両目に涙がにじんできましたが、咀嚼することなく飲み込みました。
喉を通過する「異物」は凄まじい臭さ。
拷問されているかのような苦痛で、とうとう、トイレに駆け込みます。
『どうしたの!? 熱かった? 猫舌だっけ?』
奥さんは、すぐにトイレのドアの前まできて心配そうに訊ねます。
同僚の方はそれどころではなく、今、食べたものを吐き出そうと洋式便器にしがみついていました。体がショック状態に陥っているのか、手足が痺れて冷や汗と震えが止まらないのです。何とか吐き戻し、20分ほど便座に座って落ち着いてからトイレから出ました。
『これ、味見した?』
『してない。だって、私、貝類苦手だから、クラムチャウダー食べたことない』
『この貝、腐ってないか?』
『腐ってなんかないよ。スーパーに並んでたのを使ったから』
次の言葉が出てこないまま、床を見るしかないのですが、これ以上、「Death・クラムチャウダー」を食べることはできません。
『ちゃんと、レシピどおりに作ったんだよ』
奥さんが泣きそうになっているのを見て、泣きたいのはこっちの方だと思っていました。何が原因なのか今は考える余裕もなく、呆然としていると、急に内臓をひっかきまわすような腹痛に襲われます。
慌ててトイレに戻って、そこからが、本当の地獄だったのです。
嘔吐と下痢、滝のような汗が流れて顔面蒼白、手足の硬直で立ち上がれず、夫の様子が激変したため、奥さんは救急車を呼びました。
※※※※※
同僚が緊急入院したのを知ったのは、翌日でした。
何があったのかを本人から聞かされるまで、少し時間がかかりました。
そして、復帰した彼が語った内容に、驚愕するしかなかったのです。
食事の後で体調が変化したため、奥さんは何を食べさせたのか、病院関係者に聞き取りをされていました。
ガーリックトーストとクラムチャウダー。
材料に何を使ったのか、調理方法、加熱は十分だったのか、食べ合わせ、夫にアレルギーはあるのか……。
細かく聞かれて、奥さんはきちんと答えを返し、原因を突き止めた結果。
奥さんは、クラムチャウダーの【出汁】をネットで調べ、魚介類を煮出した汁であると理解し、家に置かれていた淡水魚が泳ぐ水槽の水を【出汁】として使用していたのです。
「元から魚が入っているし、これなら良い【出汁】になる」
悪意はありません。本気でそう思っていたのです。
お菓子を作れるから、料理も作れる。もちろん、そういった人はいるでしょう。
しかし、「お菓子は作れても、料理が苦手で知識がなく、調理をしたことがない」人もいるのです。
同僚は奥さんとの同棲期間はなく、「手料理」を食べたことがなかった。
奥さんが唯一作れるものは、お菓子とガーリックトーストだったのです。
【出汁】に対する知識がなかった奥さんは、「料理教室へ通う」と言いましたが、クラムチャウダーの一件がトラウマとなり、
「顔も性格も大好きだけど、一緒に生活できない」
きっぱりそう言い渡して離婚しました。
その後、食事関係すべてが苦手となり、ストレスが溜まったり、体が冷えたりすると、酷い腹痛を起こすようになったそうです。
理想の女性を手に入れて、お菓子で胃袋を掴まれ、料理で腸を破壊された。
美人の隠し味を満喫した者の、本当にあった体験談です。
______________________________________
【あとがきのようなもの】
同僚からこの話を聞いたとき、
「そんな馬鹿なことをする人がいるはずがない」そう思っていました。
水槽の水を料理の「出汁」として使うという発想自体、
普段、料理をしている人からすれば、まったく思いつかないのではないでしょうか。
大昔、お菓子を作れるのは「理系」、料理が作れるのは「文系」など、
得意なものがどちらかで、その人物が思考が「左脳系」「右脳系」であるのかわかると言われていました。
そもそも、どちらもしない人もいるわけですから、
「お菓子」「料理」だけでは判断できることでもありません。
それでも、正確にグラム単位できちんと軽量しないと、
失敗してしまうお菓子作りは、数式で答えの出る「科学」と言えなくもないです。
反対に、途中で水を加えたり、調味料で修正できてしまう料理は、
柔軟性や多角的な視点が必要なので、情緒や深み「奥行」の部分が出ているのかもしれません。
同僚の奥さんは、料理以外は本当に「いいひと」で、
夫のために、作ったこともないクラムチャウダーを一生懸命作ったのだと思います。
しかし……。
水槽の水は、魚の糞、細菌、バクテリア、寄生虫、魚が食べた餌の残りなど、
口に入れてはいけないものばかりです。
奥さんは、「貝類が苦手なので味見をしなかった」と、言ったそうなのですが、
気が利くと評判だった彼女が、この結末を想像できなかったのが、疑問でもあります。
夫婦がお互いを支える【生活スキル】を持っていたのなら、この破局は避けられたかもしれません。
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
【大・好・物】
過去、いくつかの会社に勤務していたとき、同僚のひとりで、かなりの「めんくい」がいました。今で言うところの「ルッキズム」です。
とにかく、「顔が可愛い、美人、スタイルがいい」が付き合う基準で、見た目重視、性格はアクセサリー程度でいいと。
過去、付き合っていた女性たちも、見栄えの良い人ばかりでしたが、とうとう、結婚を決意するお相手と出会ったのです。
ケーキやマフィン、クッキーなど、お菓子を作るのが得意な、家柄の良い娘さんで、今まで付き合ってきた人の中で、すべてにおいて、同僚の理想どおりなのだそう。
皆が祝福し、新婚の二人は南の島でハネムーンを満喫して、仕事に戻るまでの数日、食事はデリバリーを使って過ごしていました。
会社へ再び出勤の日となり、同僚は、ふと、新妻に新居で初めての手料理をリクエストすることにしたのです。
『俺、クラムチャウダーが好きなんだけど、作れる?』
『うーん、作ったことはないけど、ネットで材料を調べてやってみる』
同僚は実家で母親に食事を作ってもらっていましたが、会社勤めになってからはファストフードかコンビニ弁当が定番で、自分で作ったことがありません。
もちろん、自宅マンションのキッチンで、一度も立った試しもない。
しかし、これからは奥さんが、美味しい手料理を作ってくれると大喜びしていたのです。
『今夜、家に帰ったら、クラムチャウダーなんだよなあ』
『おお! 奥さんの手作りなんだ。うらやましい』
『これで、ようやく、コンビニ弁当卒業じゃないですか~!』
食堂でのろける同僚は、新婚らしく浮かれていました。
社員食堂は、お弁当の持ち込みもできましたが、何より、安くて美味しかったので、昼食は利用する社員がほとんどでした。
『デートに行ったとき、差し入れで貰ったチョコチップクッキーが絶品でさ。いや、本当、胃袋つかまれたって感じ?』
『お菓子作り得意なんですねぇ』
『そういえば、ウェディングケーキも奥さんが作ったって本当ですか?』
披露宴で出されるものは、大抵一部しか食べられない、九割発泡スチロールにクリームを塗りたくった、張りぼてウェディングケーキがほとんどです。
※(全部食べられるケーキや、来賓へ渡す用のケーキもあります)
しかし、奥さんは「来た人に食べてもらいたい」と、温度管理をしっかりして、手作りのウェディングケーキでケーキカットをしていました。
容姿端麗で性格も良い、気が利く理想の女性。
そんな、絵に描いたような奥さんと、この先の人生を歩んでいけるのですから、部署でも注目の的でした。
※※※※※
外食でしか食べたことがないクラムチャウダーを心待ちにしながら、帰宅して玄関ドアを開け、靴を脱ぐ動きを止めます。
部屋の中に、嗅いだことのない異臭が充満していたのです。
最初、ガス漏れだと思い、慌てて室内へ入りましたが、
『…あ……ただいま』
『おかえりなさい』
焦げた臭いと生臭さが混ざった空間で、奥さんは鼻が利いていないのか、まったく気にしていない様子でした。
“慣れてないものを作ったので失敗しちゃったのか”
好物が食べられるとウキウキしていた気持ちが、一気にしぼんでいきます。
ですが、自分の好きな女性が頑張ってくれたのです。もしかしたら、臭いとは別で、味は美味しいかもしれません。
空腹だったのもあり、同僚は手を洗ってからキッチンへ向かい、ホウロウ鍋の中をかき混ぜている奥さんに声をかけました。
『忙しいのに、リクエストだなんて、無理言っちゃったかな?』
『そんなことないよ! ちゃんとネットで調べて煮込み時間もしっかり守ったから』
シチュー皿へよそわれたクラムチャウダーは、とても美味しそうに見えます。
ですが、そこから立ちのぼる湯気からは、初夏の水路のような饐えた臭いが漂ってくるので、自然と息を止めてしまう自分がいるのです。
ちゃんと味見をしたのだろうか……。
いや、平気だよな。作った本人は大丈夫そうだし。
テーブルに着くと、キツネ色のガーリックトーストが皿の横へ置かれます。
トーストからは焼けたパンの香りしかしなかったので、少しだけホッとしました。
『どうぞ、召し上がれ』
『ありがとう。いただきます』
ガラスピッチャーに入っている水を、グラスに注いで飲んでから、ガーリックトーストを口に入れました。バケットで作られているそれは、オリーブオイルと香ばしいニンニクの風味がよく合っています。
『うん、すごく美味しいよ!』
『よかった! ガーリックトーストはよく作って食べてたからネットで調べなくても作れちゃう』
完食しそうな勢いで頬張っている夫の姿を、新妻は嬉しそうに見ています。
この後、メインディッシュが待っているのですから、同僚の心中は穏やかと言えません。
いよいよ観念して、スプーンを手に取り皿の中を改めて眺めました。
見た目は完璧。何の支障もなく、むしろ料理本の見本のようなのです。
問題はその臭い。ベーコンや貝類が入っているとはいえ、こんな臭いを経験したことがありません。もしかしたら、材料が腐っているのか。そう思えるほどの異臭レベルなのです。
『いただきま、す』
覚悟を決めて、スプーンでクラムチャウダーをすくって口へ運びました。途端に口いっぱいに生臭い、例えようもないものが潰れて、上顎と舌を染めていきます。
見た目とは違う味に、頭の中がバグり、体が拒絶で固まります。
同僚は呻いて、唇を閉じましたが反射的に吐き出しそうになり、理性で、自分が作ってくれと頼んだものを、食卓の上へ戻すなどあってはならない。最悪の記憶になる。と、何とか口内で留めています。
両目に涙がにじんできましたが、咀嚼することなく飲み込みました。
喉を通過する「異物」は凄まじい臭さ。
拷問されているかのような苦痛で、とうとう、トイレに駆け込みます。
『どうしたの!? 熱かった? 猫舌だっけ?』
奥さんは、すぐにトイレのドアの前まできて心配そうに訊ねます。
同僚の方はそれどころではなく、今、食べたものを吐き出そうと洋式便器にしがみついていました。体がショック状態に陥っているのか、手足が痺れて冷や汗と震えが止まらないのです。何とか吐き戻し、20分ほど便座に座って落ち着いてからトイレから出ました。
『これ、味見した?』
『してない。だって、私、貝類苦手だから、クラムチャウダー食べたことない』
『この貝、腐ってないか?』
『腐ってなんかないよ。スーパーに並んでたのを使ったから』
次の言葉が出てこないまま、床を見るしかないのですが、これ以上、「Death・クラムチャウダー」を食べることはできません。
『ちゃんと、レシピどおりに作ったんだよ』
奥さんが泣きそうになっているのを見て、泣きたいのはこっちの方だと思っていました。何が原因なのか今は考える余裕もなく、呆然としていると、急に内臓をひっかきまわすような腹痛に襲われます。
慌ててトイレに戻って、そこからが、本当の地獄だったのです。
嘔吐と下痢、滝のような汗が流れて顔面蒼白、手足の硬直で立ち上がれず、夫の様子が激変したため、奥さんは救急車を呼びました。
※※※※※
同僚が緊急入院したのを知ったのは、翌日でした。
何があったのかを本人から聞かされるまで、少し時間がかかりました。
そして、復帰した彼が語った内容に、驚愕するしかなかったのです。
食事の後で体調が変化したため、奥さんは何を食べさせたのか、病院関係者に聞き取りをされていました。
ガーリックトーストとクラムチャウダー。
材料に何を使ったのか、調理方法、加熱は十分だったのか、食べ合わせ、夫にアレルギーはあるのか……。
細かく聞かれて、奥さんはきちんと答えを返し、原因を突き止めた結果。
奥さんは、クラムチャウダーの【出汁】をネットで調べ、魚介類を煮出した汁であると理解し、家に置かれていた淡水魚が泳ぐ水槽の水を【出汁】として使用していたのです。
「元から魚が入っているし、これなら良い【出汁】になる」
悪意はありません。本気でそう思っていたのです。
お菓子を作れるから、料理も作れる。もちろん、そういった人はいるでしょう。
しかし、「お菓子は作れても、料理が苦手で知識がなく、調理をしたことがない」人もいるのです。
同僚は奥さんとの同棲期間はなく、「手料理」を食べたことがなかった。
奥さんが唯一作れるものは、お菓子とガーリックトーストだったのです。
【出汁】に対する知識がなかった奥さんは、「料理教室へ通う」と言いましたが、クラムチャウダーの一件がトラウマとなり、
「顔も性格も大好きだけど、一緒に生活できない」
きっぱりそう言い渡して離婚しました。
その後、食事関係すべてが苦手となり、ストレスが溜まったり、体が冷えたりすると、酷い腹痛を起こすようになったそうです。
理想の女性を手に入れて、お菓子で胃袋を掴まれ、料理で腸を破壊された。
美人の隠し味を満喫した者の、本当にあった体験談です。
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【あとがきのようなもの】
同僚からこの話を聞いたとき、
「そんな馬鹿なことをする人がいるはずがない」そう思っていました。
水槽の水を料理の「出汁」として使うという発想自体、
普段、料理をしている人からすれば、まったく思いつかないのではないでしょうか。
大昔、お菓子を作れるのは「理系」、料理が作れるのは「文系」など、
得意なものがどちらかで、その人物が思考が「左脳系」「右脳系」であるのかわかると言われていました。
そもそも、どちらもしない人もいるわけですから、
「お菓子」「料理」だけでは判断できることでもありません。
それでも、正確にグラム単位できちんと軽量しないと、
失敗してしまうお菓子作りは、数式で答えの出る「科学」と言えなくもないです。
反対に、途中で水を加えたり、調味料で修正できてしまう料理は、
柔軟性や多角的な視点が必要なので、情緒や深み「奥行」の部分が出ているのかもしれません。
同僚の奥さんは、料理以外は本当に「いいひと」で、
夫のために、作ったこともないクラムチャウダーを一生懸命作ったのだと思います。
しかし……。
水槽の水は、魚の糞、細菌、バクテリア、寄生虫、魚が食べた餌の残りなど、
口に入れてはいけないものばかりです。
奥さんは、「貝類が苦手なので味見をしなかった」と、言ったそうなのですが、
気が利くと評判だった彼女が、この結末を想像できなかったのが、疑問でもあります。
夫婦がお互いを支える【生活スキル】を持っていたのなら、この破局は避けられたかもしれません。
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